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2001/01/25 毎日新聞朝刊
[負の明細書]国連の裏側/6止 組織肥大、管理甘く−−改革へ問われる日本の役割
◇緒方貞子氏「財政難と官僚主義で硬直化」
 「私の就任した10年前、職員数は現在(5000人)の半分だった。だが組織が大きくなり、近代化を図る中で難題が続出した」
 昨年12月、ジュネーブの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)。同年末の任期終了を控え、緒方貞子弁務官が話した。
 「例えば採用。それまで人脈を使って採用していたのに代え、面接など客観的な評価をもとに採用するシステムを作った。だがその分、手続きが煩雑になり、緊急時の人の配置に手間取った」
 環境汚染や途上国の貧困化、難民。国際問題の多様化を受け、1970年代以降、UNHCRなど国連の各専門機関の規模は増大し、新たな機関も創設された。その過程で組織運営の難しさが浮かび上がった。
 
 国連人間居住センター(HABITAT、本部ナイロビ)。ホームレスの人々への住宅供給や都市環境の改善を目指し、78年に設立された専門機関だ。だが90年代半ば、予算拠出国の強い批判が出始め、デンマークなど4カ国が調査に乗り出す一方、国連の内部査察室(OIOS)も動いた。
 「組織が機能していない」という各国の批判は的を射ていた。種々の浪費が判明したのである。
 例えば「すべての人に適切な居住」を合言葉に、171カ国が参加した第2回国連人間居住会議(イスタンブール、96年)。この準備事務局は、コンサルタント会社と「各国から22億円の拠出金を集める」という約束で約4000万円の契約を結んだ。だが、結局、この会社が集めたのは300万円だけだった。また、準備事務局は国連内規に反する形で、経営コンサルタント9人を長期間「幹部顧問」として雇用した。その効果が疑問視されながら、計1億2000万円の給与を払った。これを含めコンサルタント料は約3億円に達した。
 一方、「3000万円の赤字」を示す会議の決算書を調べると、同センターにある他の基金の資金を流用するなど粉飾の可能性が出た。このため、査察室が再度計算を求めた結果、赤字額は「2億円」に跳ね上がった。だがこれも「信ぴょう性がない」と退けられ、再報告を迫られている。
 センター本体も過去二十数年間の活動記録に欠けるなど、管理体制の不備が多数見つかった。また、契約内容が不明りょうなままコンサルタントを過剰に雇い、その料金は2年間で予算の12%、約13億円に達していた。
 「指導部の能力が全くない」。デンマークなど4カ国が97年に出した警告は、同じ時期のOIOS調査の結論と軌を一にしていた。同様の問題は、他の新しい組織でも指摘されている。
 72年創設の国連環境計画(UNEP)の場合、90年代後半の査察で、「職員が組織の目的を理解していない」と欠点を指摘された。ここでもあいまいな契約で多くのコンサルタントを雇い、必要以上の高給を払うことになり、その費用は94〜95年で7億円を超えた。
 組織が膨張したUNHCRも、非政府組織(NGO)への拠出金の管理が不適当だったり、本部への報告なしに、現場が多額の資材を購入するなど、組織のちぐはぐぶりが指摘されている。
 
 「報告書の内容はショックだった」。ジュネーブの国連人間居住センター欧州事務所。ルードビクセン所長が話した。「センターの活動は急速に膨張した。だが、管理体制がそれに追いつかなかった」
 組織設立直後からの職員である所長によると、77〜79年の3年間のセンターの予算は約22億円。それが90年代に活動が増大し、98年の年間予算は約100億円に達した。UNEPも同様で、当初約6億円の予算が、99年には100億円を突破している。
 「以前にも不透明な経理などを指摘されたが、だれも真剣に受け止めなかった。今は査察勧告に従い、改善計画を立てている」
 
 「日本人は国連を、世界政治のひのき舞台と考えている」。緒方氏が話すように、日本にとって国連は長い間、批判の対象ではなかった。だが一方で、国連が他の組織同様、ずさんな体質を引きずってきたのは事実でもある。
 このため現在、「歴史上最も革新的」(アナン事務総長)という国連改革が続いている。「財政難と官僚主義で、国連は硬直化している」(緒方氏)という状況の中、創設55年を過ぎた巨大機構のよどみを一掃できるかどうか。第2の予算拠出国・日本の役割が問われている。
【福原直樹】=おわり
 
 
 
 
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