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2001/01/30 毎日新聞朝刊
[記者の目]国連、この無駄遣い 批判と監視怠るな
福原直樹(ジュネーブ支局)
◇予算は加盟国民の血税だ
 ジュネーブで国連を担当して、丸6年になる。この間、常に感じてきたのは、この巨大組織のちぐはぐぶりだった。命を賭し(とし)て仕事をする人がいるかと思えば、「給料泥棒」としか思えない人がいる。幹部が「倹約」を叫ぶ一方で、まだ使える電子機器が倉庫に放置されてもいる。「何か変だ」。そんな疑問から取材を始め、そこで分かった種々のずさん管理や無駄遣いを、朝刊3面の連載企画「負の明細書――国連の裏側」で報告した。そして今、感じるのは、各国の血税で賄われる予算の「ありがたみ」を忘れてしまった、国連と日本など加盟国への憤り、である。
 まず、取材で判明した二つの事実を述べたい。最初は、一通の国連報告書である。
 「多くの国連職員は、いい仕事をすることより、国連内部に人脈やコネを作る方が、自分の出世のために重要だと考えている」
 「語学研修を除いては、国連には職員訓練のシステムが、全くできていない」
 「国連は近代化に向けて、危機的状況にあるのでは」と問うこの報告は決して最近のものではない。国連の人事や採用、職員教育について、30年前の1971年に、国連の合同査察局が出した文書だ。
 これを読んで、国連は30年間、何をやってきたのかと感じるのは、私だけではないと思う。連載記事でも報告したが、コネによる不当人事が現在も国連で横行するのは、国連行政裁判所の訴訟記録に明らかだし、最近の無駄遣いやずさん管理の大きな原因は、職員の能力不足であることは、火を見るよりも明らかなのだ。
 もう一つは、ある国連の研修、である。
 90年代半ば、米国。組織管理の向上のために、世界から50歳前後の最高幹部クラスが集まった。そして、その研修項目には「チームワーク向上」を目的にした、「ムカデ競走」と「飛行機作り」があった。前者は幹部を数人ずつの班に分け、スキー板に足をくくりつけ競走するもの。後者は、各班が設計、製作、実際に飛ばす・・・などの担当者を決め、紙ヒコーキを作り、飛行距離を競うものだった。
 「いいかげんにしろ、と担当者に怒鳴った」。研修に参加したある幹部が述べる。「私だけで、航空費などで20万円以上使った。こんな研修を行い、一体何が得られるのか」。幹部によると、200人近くが参加したとされ、研修で国連は、数千万円を費やした、とみられる。
 この二つの事実は、国連を象徴しているような気がするのだ。問題があるからそれを是正しようとする。だがその方法は、その場限りで、抜本的なものではないのだ。そして、再び繰り返される不祥事。「不要な物品購入」「納入業者との癒着」「出張費の水増し」・・・。国連平和維持活動(PKO)や、各国連機関で最近指摘される問題は、軌を一にしている。
 ここで思うのは、日本のことだ。例えば、日本の役所で、規律違反や膨大な無駄遣いが発見された、とする。当然大問題になるし、担当者や幹部のクビが飛ぶことだってあるだろう。当局も、再発防止に躍起になるはずだ。役所は「国民の血税」で賄われており、常に国民が批判の目を向けている、という現実がそこにはある。
 だが、過去の国連活動に対して、このような見方があっただろうか。
 日本の国連拠出金はPKO予算や、通常予算だけで、年間400億円以上(99年)だ。だが、米に続き第2の予算拠出国の日本で、国連は長い間、批判の対象ではなかった。いわば「税金」を払う対象の国連に対し、我々は厳しい目を向けてこなかった、と思うのだ。
 さらに国連側も、予算が各国の「血税」で賄われている重大性に気づいていないフシもあった。だからこそ、無駄遣いを際限なく放置し、「いい仕事をするより、人脈やコネ作りが重要」などと考えてきたのではないか。
 無論、私は国連の存在を否定しているわけではない。45年の創設以降、国連は国際平和などに大きく貢献してきた。私の取材経験からいっても、北大西洋条約機構(NATO)軍がユーゴスラビアを空爆した時や、ソマリア内戦の時、命を賭して働いていた多くの国連職員を見た。
 アナン国連事務総長は、毎日新聞の国連への批判報道に対し、「問題だけを見て、国連が果たす大きな役割を忘れないでほしい」と発言した。その気持ちも十分理解できる。
 だが、あえて言いたい。
 「ファイアー・ファイティング・レメディ」。その場しのぎの対処法、とでも訳すべきだろうか。最近、国連の内部査察室(OIOS)が、ある国連機関の「改革」を批判した言葉だ。
 「史上最も革新的」(アナン氏)という国連改革が続くが、それが場当たり的な改革ならば、問題は決して解決しない。
 真の国連改革は、国連予算が各国民の「血税」で賄われる重要さに気づくことから始まる、と思うのだ。
 
 
 
 
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