1994/09/27 毎日新聞朝刊
[特集]国連常任理事国 米国の立場・ドイツの立場
◇米国の立場−−日本の経済貢献、求める声も
昨年夏、ロス、コンラッド両上院議員とクリントン大統領の間で日本の常任理事国入りをめぐる書簡のやりとりがあった。
「日独が海外での武力行使を禁じた憲法上の制約を解決しない限り、常任理入りを促進する動きはやめるべきだ」と迫った両議員に、大統領は九月九日付の返書で「安保理の構成は新たな経済・政治・安保面の現実を反映する必要がある」と強調。「日独は常任理事国として地球規模の平和と安保により積極的な役割を果たさなければならない。日本はカンボジアやモザンビークでそうした活動を行っている」と述べ、議会の主張する軍事的貢献には必ずしもこだわらない姿勢を示した。
日本の常任理入りについての米議会とクリントン政権のスタンスの違いは、ここに端的に表れている。ブッシュ前政権で東アジア・太平洋担当の国務次官補だったクラーク戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長は「議会の声は米世論のバランスをとるため大事だが、軍事貢献は必要条件ではない。その代わり経済面で一層の貢献を求められることは覚悟すべきだろう」と話している。
だが、クリントン大統領が非軍事面中心の貢献でよしとする考えを打ち出しているのは、米にとっての当面の国益がからんでいるためという見方が強い。クリントン政権の思想的バックボーンである民主党の中道系シンクタンク「進歩的政策研究所」(PPI)は、日本の常任理入り支持を政治的影響力の道具としてうまく活用し、市場開放など貿易面で責任を果たさせるよう求めている。
ある米政府筋は「ここ一、二年は常任理入り実現の見通しがない以上、支持表明はタダで日本に貸しをつくる贈り物のようなもの」と語り、常任理入りを後押しすることで対日経済圧力を強める際の免罪符としたい短期的戦略があることを示唆する。
米政府は、日本が米国の意に反する投票行動をとる公算はまずない、とみており、日本の常任理入り支持は米にとって「失うもののない」外交戦略上の格好の武器といえる。
(ワシントン・小松浩)
◇ドイツの立場−−「普通の国」にこだわる首相
「政府・与党は常任理事国のイスに座ることばかりに熱心で、国内の大量失業者のことをないがしろにしている」
今月二十一日のドイツ連邦議会で最大野党の社会民主党(SPD)のラフォンテーヌ副党首は演壇から閣僚席のコール首相をにらみつけた。
しかし、SPDとてドイツの常任理入りに反対しているわけではない。ドイツを統一に導いたことばかりを強調し、国民の生活や福祉に手が回らなくなったコール政権の弱点を突いているだけである。
SPDの防衛問題責任者のフォイグト連邦議会議員は「ドイツが常任理入りすることはSPDも賛成だ。しかし、常任理事国になったからといって湾岸戦争のような派兵には反対する。ドイツは医療や食糧援助など非軍事部門で責任を果たす常任理事国になるべきだ。それが国連改革につながる」という。
ドイツは旧西独時代の一九五〇年代に、再軍備や北大西洋条約機構(NATO)加盟にともなう憲法論争を終え、徴兵制も軍事同盟加盟も基本法(憲法)で認めている。日本と違って常任理入りに伴う憲法上の障害はない。しかし、軍事貢献については、ナチスの過去の問題が絡んで慎重な意見が多いことも事実だ。
それでもコール首相が湾岸戦争型派兵にこだわる理由は、統一ドイツを敗戦国の負い目から解放させて「普通の国」にしたいからだ。他のNATO諸国並みの軍事貢献のできる国にしたい。常任理事国である英国やフランスと同じ扱いをうけたい。だから、拒否権なしの常任理事国では不満なのである。
ドイツ政府は九五年からの非常任理事国(任期二年)に立候補する。そしてそのまま安保理に居座って、常任理のイスにつく算段だ。
キンケル外相は雑誌とのインタビューで「ドイツは大国の地位を得たいとは思わないが、統一後の国力を持て余すこともしたくない。自然体で心静かにそのイス(常任理事国)を求めたい」と語った。黙っていてもイスは用意される、という「大国」としての自信に満ちている。
(ボン・岸本卓也)
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