1993/12/31 毎日新聞朝刊
国連安保理改革の底流・加盟国の意見書から/下 背景に厳しい財政事情
◇南北問題も絡み綱引き
「世界経済のパイに占める我々(米国)の割合は昔のように大きくない」。クリントン米大統領は九月の国連総会演説で、弱音とも取られかねないほど、米国の国連への負担が重荷になっていることを訴えた。冷戦が終わり、地域紛争が複雑化する中、平和維持活動(PKO)を含め、国連の屋台骨を米国だけで支え切れなくなった事情を印象付けた。
同大統領の考えは、各国が国連事務局に提出した安保理改革についての意見書の「日独の常任理事国入りを支持する」という結論に結実している。経済的に強力な二国を常任理事国に加えることは、国連の財政的生き残りにも欠かせない。意見書の中で新常任理事国候補として日独を挙げているのはオランダ、ヨルダンなど。オーストラリアは日本だけを指名している。
また「安保理には第二次世界大戦の敗北側で、世界経済にますます重要な役割を果たし始めた国々も含ませるべきだ」(インドネシア)というように、事実上、日独を有力候補にした国は十カ国近い。
だが日本がPKOに参加して国際貢献をアピールしたカンボジアは、インドの常任理事国入り支持を示唆し、日本には何ら触れていない。アジアの国々では、韓国を含め日本の常任理事国入り支持の明言はない。これは日本への警戒感を示すとともに、当の日本自身が公然と名乗りを上げていないことも反映していよう。
対照的にドイツは「常任理事国の責任を果たす用意がある」と、立候補宣言をした。ドイツには欧州共同体(EC)の統合が進めば、ECから輪番で常任理事国を出せばいいという考え方があったが、EC統合よりも安保理改革のテンポが早まり、立候補に踏み切ったのだ。これに対抗するようにイタリアも常任理事国の資格ありと主張している。
だが安保理改革には、国連における「北」の先進国支配に対する「南」の途上国の挑戦の意味がある。ドイツが英仏に次いで常任理事国になれば、西欧支配が逆に強化されてしまう。アフリカや南米には常任理事国がなく、「先進国から二カ国、それ以外の各主要地域から一カ国」(コスタリカ)といった地域バランス重視の声は根強い。
途上国約百カ国で構成する非同盟諸国会議参加国は、常任理事国としてインド、ブラジル、ナイジェリアなどを念頭に置いた意見が多い。インド自身も新常任理事国の基準として人口を挙げ、間接的に立候補に意欲を示している。
現常任理事国の英国は、「議論を歓迎」と述べるにとどまり、フランスは常任理事国拡大の基準に「経済発展レベルだけでなくPKOへの参加」を挙げ、憲法上、海外派兵に制約を抱える日独を暗にけん制している。改革に慎重姿勢の中国、ロシアは安保理拡大では具体的言及を避けた。こうした中で米国は、意見書で現常任理事国の地位は維持すべきだと、英仏を改革に巻き込もうとしている。
非常任理事国を含む安保理議席数についても、ナイジェリアの三十一、日本の約二十、インドの常任十―十一、非常任十二―十四など、さまざま。新常任理事国に拒否権を付与するかどうか、拒否権自体を再検討すべきか――などの問題も絡み、一月からの作業部会での議論は難航しそうだ。
(外信部・国連問題取材班)
【メモ】
国連予算は2年ごとに編成され、1992―93年予算の歳出総額は23億8900万ドル。現在の加盟国の分担率(%)上位10位は(1)米国25(2)日本12.45(3)ドイツ8.93(4)ロシア6.71(5)フランス6(6)英国5.02(7)イタリア4.29(8)カナダ3.11(9)スペイン1.98(10)ウクライナ1.87。
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