1993/03/26 毎日新聞朝刊
<新時代の国連>/14 「小切手外交」は限界 日本の役割増大
国際社会が直面する課題で、数カ国単位で解決できることはもはや存在しないに等しい。だが、そこに国連がある。地球のほぼ全域をカバーする唯一の国際機関が――。
その国連自体と国連活動をより民主的かつ実効あるものとするためには「それぞれの国ができる範囲でより積極的に参加することであり、とりわけ大国の責務は大きい」とガリ国連事務総長は訪日直前に語った。
国連創立から間もなく半世紀。加盟国の国力の変動などに国連機構が十分に対応していないとの問題点はある。しかし、「すべての主要諸国が適切な責務を果たさなければ、国連は成り立たない。自分の役割は何なのかを日本自身が決めねばならない」とジョー・シスル国連スポークスマンはニューヨーク・タイムズ紙への「国連でのより大きな役割」と題した投書(三月八日付)を結んでいる。
国連がどの方向に進んでいるのかという問いに、クリントン大統領の選挙で国連外交アドバイザーだったリチャード・ガードナー・コロンビア大法学部教授はこう言う。
「スーパーパワー(超大国)は米国だけになった。だが、米国は単独で世界の警察官であり続けることは欲していないし、できない。国連がその役目を担うことになる」
この現実を、ガリ総長自身が認識している。「これからの国連平和活動は維持活動(PKO)から執行活動(PEO)に移行するだろう」と。
国際安全保障の維持・創造という国連憲章(第七章)の実現は、安保理決議に基づく武力行使権限を有した国連部隊を抜きには現実には考えられないのである。
「日本は確かに多額の貢献をしているが、それでは足りないのだ。国連(安保理)承認の活動で、加盟国国民が血を流しているとき、小切手を切っているだけでは主要国の責務を果たしているとは言えない」とガードナー教授。
この一月、自、社、公、連四党の衆参初当選議員七人を国連に招いた米国連協会のラルフ・シュワマン副会長は「半世紀が過ぎて国連自体も変質している。日独などの常任理事国入り問題もその一部だ。日本は、国連による武力行使と国家間武力紛争の根本的違いを、国民感情レベルで認識すべきだ」と言った。
「今、我々は二重国籍意識を持たねばならない。一つは米国人なり日本人としての国籍。もう一つは地球人としての国籍だ。この意識がなければ、大国としての責務、役割を担うことはできない。経済大国の日本について言えば、アジアもアフリカも東欧も同じ重要性のある地域という認識を持つことだ」
こう指摘するガードナー教授と、日本の若手政治家に期待するシュワマン副会長は安保理常任理事国(P5)高官らと歓談する中で「日本の常任理事国入りと敵国条項(国連憲章一〇七条)の削除にP5は原則賛成している。問題は時期と条件だが日本自身の準備が整っていない」と指摘する。
財政面での日本の貢献は評価が高い。しかし、常任理事国問題で問われているのは、関税貿易一般協定(ガット)交渉や政府開発援助(ODA)など日本の外交・経済政策、さらには国内世論も含めた「トータルとしての日本の姿勢」(シュワマン副会長)である。
(ニューヨーク・田原護立、おわり)
◇メモ
【国連職員の募集・採用】
一般職は現地採用、専門職は国際的に公募される。後者はポストの新設や欠員が外務省国際機関人事センター発行の「インターナショナル・リクルートメント・ニュース」に掲載される。所定用紙で応募、書類審査、面接、身体検査の後に採用が内定する。このほか邦人対象の国連職員採用競争試験(3月26日まで応募受け付け)などもある。英語またはフランス語の能力が必要。詳細は同センターへ。
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