1993/12/29 毎日新聞朝刊
国連安保理改革の底流・加盟国の意見書から/上 先鋭化する南北対立
◇大幅拡大 積極的VS消極的
国連の安全保障理事会改革論議がいよいよ熱を帯びてきた。国連は今月初め安保理改革を協議する作業部会を設置し、来年一月から本格審議に入る。この問題について約七十の加盟国が国連事務局に提出した意見書には、理事会の構成や機能をめぐる各国の思惑が渦巻いている。今後の論戦のタタキ台となる各国意見書から安保理改革の焦点を探る。
(外信部・国連問題取材班)
安保理改革問題の最大議題は現在の常任五、非常任十、計十五の理事国数の見直しだ。一九四五年の国連発足当時五十一カ国だった加盟国は増える一方。六三年に非常任理事国を六から十に増やしたが、この時点からでも参加国は六割も増えて現在は百八十四。参加国増大と冷戦後の世界平和に果たす国連への期待が膨らんだことが理事会改組の理由となっている。
各国は意見書の中で安保理拡大におおむね賛成している。ただし、発展途上国は拡大に「積極的賛成」だが、先進国は「消極的賛成」というおおまかな図式が描ける。今後、国連改革をめぐり南北対立は先鋭化しよう。
「重要な決定がほんの一握りの国によってなされている」(ベネズエラ)「アフリカは五十四カ国も国連に加盟しているのに常任理事国が一つもないのはおかしい」(ナイジェリア)と、中南米やアフリカの国々は理事国の地域配分が不公平であることを訴える。
これに対して米、英、仏、露、中の現常任理事国や西欧諸国は発展途上国の地域配分に基づくポスト要求に一定の理解を示しながらも、大幅な増員には難色を示す。その理由として、理事国増大によって安保理の実行力が損なわれることを挙げる。
「ドイツと日本は常任理事国として可能」(米国)とする意見もあるが、「経済的発展による重さだけでなく国際平和に果たす責任などに着目すべきである」(フランス)と資格に厳しい枠をはめて、日独を暗にけん制する意見もある。
安保理改革は「機が熟したときに適切な方法ですべきであり、このプロセスは長くなる」(中国)と第三世界の代表を自任する常任理事国でさえ慎重で、「安保理の未来に関する議論が政治的摩擦の源になってはならない」(ロシア)は及び腰とも受け取れる。
常任理事国でない先進国も「重要な決定権を持つ拒否権付きの常任理事国の拡大はすべきでない」(デンマーク)や「常任理事国は増やしても二カ国程度に抑えるべきである」(ベルギー)という具合に大幅な拡大には懸念を示す。
こうした「北」と「南」の対立に加えて自国や自国の属する地域特有の利益を安保理改革に反映させる動きが複雑に絡む。
「欧州共同体(EC)が統合に向かっていることを考慮して安保理改革を考えたい」(ルクセンブルク)や「統合したECの安保理における代表権が問題となる」(ポルトガル)など、西欧内部の中小国はECと安保理を結び付けて国益を計ろうとしている。
冷戦後の政治と経済の改革に苦労している東欧諸国は安保理改革が自国にもっと光の当たるようなものにしようと考える。「安保理改革は中規模国の利益に沿うものであってほしい」(ポーランド)という要望。
さらに「安保理協議に国連平和維持活動(PKO)の受け入れ国も参加させて十分に意見を聴くべきである」(クロアチア)は、自国に展開する国連軍を管理できない不満である。「大国は自らの利益のために安保理を利用してはならず、拒否権は廃止すべきだ」(セルビアとモンテネグロで構成する新ユーゴスラビア)は安保理から経済制裁を受けている国の怒りだ。
「北」と「南」、そして各国固有の利害をどうまとめるのか。作業部会は来秋までに中間報告をまとめ、早ければ来年の総会で一定の方向が出る見込みだが、激論になりそうだ。(つづく)
【メモ】
安保理は国連の中で加盟国を拘束する権限を持つ唯一の機関。常任理事国(5カ国)の1カ国でも反対があれば決議できない。これを拒否権の行使という。非常任理事国(10カ国)は任期2年。地理的配分に従ってアジア2、アフリカ3、東欧1、中南米2、西欧その他2の割合で国連総会で選出する。
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