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1993/03/25 毎日新聞朝刊
<新時代の国連>/13 ドイツの域外派兵 根強い世論の反対
 
 「政府は議論をやめて軍に明確な命令を与える時がきた」――ドイツ連邦軍のクラウス・ナウマン総監が最近もらした言葉は、国連平和維持活動(PKO)への参加の形態をめぐる与野党間の「果てしない論争」(ドイツ有力紙)に対する軍部のいらだちをのぞかせた。東西ドイツの統一から二年半。冷戦後の世界で果たすべきドイツの国際的役割をめぐって、与野党の主張には依然大きな隔たりがある。
 統一ドイツとしての主権を回復した立場を踏まえて、コール政権はその経済力にふさわしい国際的責任を果たす意向を表明してきた。国連の指揮下で連邦軍を北大西洋条約機構(NATO)域外に派遣し、停戦監視など純然たる平和維持活動のほか、湾岸戦争型の地域紛争にも参加するため、基本法(憲法)改正をめざしている。
 政権を支える連立与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)は(1)戦闘参加を含めてPKOに全面協力する。ただし議会の過半数の支持を必要とする(2)国連の委託を受けない、西欧同盟(WEU)、NATO指揮下の戦闘にも参加するが、事前に議会の三分の二の支持が必要――とする改憲案を一月にまとめて連邦議会(下院)に提出した。
 ドイツはすでにカンボジアに衛生兵を送っているほか、ユーゴスラビア、ソマリアに救援物資運搬用の輸送機と乗員を派遣。新ユーゴ経済封鎖に協力するため駆逐艦と哨戒機をアドリア海に出動させている。またボスニア・ヘルツェゴビナの飛行禁止空域に空中警戒管制機(AWACS)の乗員を提供するなどPKO参加への布石を着々と打ってきた。これらの実績を踏まえて、コール政権は年内にも基本法を改正し、連邦軍千―二千人を国連平和維持軍(PKF)に参加させたい意向だ。
 コール政権が改憲による域外派兵を打ち出した背景には、統一により欧州最大国家にのしあがったいま、国際的責任を回避できないとの判断がある。同時に、同盟国からの圧力も働いている。一九九一年の湾岸戦争で基本法を盾に派兵を見送り、資金協力にとどめたドイツは同盟国から「貢献不足」を批判され、米国とともにソマリアに派兵したフランスからもソマリア派兵を促された。そしてこの一月、ドイツを訪れたガリ国連事務総長は「ドイツ抜きで国連はその目標を実現できない。国連のあらゆる活動に参加してほしい」と、全面協力を求めた。
 しかし、最大野党の社会民主党(SPD)は与党の改憲案を「砲艦外交の復活」と酷評。国連協力は人道的援助、停戦監視など「平和維持」に限定すべきだとして戦闘参加を認めていない。昨年秋の臨時党大会では「戦闘参加の是非は国連の改革が行われたあと判断する」との決議を採択して態度決定を先送りした。
 社民党の強い姿勢の背後には世論がある。最近の世論調査では域内派兵限定論と域外派兵支持が四〇%前後でほぼ均衡、戦闘参加容認はわずか一五%にとどまった。
 国内世論を考慮して政府は安保理常任理事国問題にも慎重だ。昨年秋の国連総会でキンケル外相は常任理事国就任を公式に表明したものの、コール首相は「すぐなれといわれても義務を果たせない」と消極的。国際的役割を求める外圧と国内世論の間で、コール政権の苦悩は続きそうだ。
(ボン・五島昭)=つづく
◇メモ
【現在展開中の国連平和維持活動(設立年順)】
 国連休戦監視機構(ヨルダンなど)▽国連インド・パキスタン軍事監視団▽国連キプロス平和維持軍▽国連兵力引き離し監視軍(シリア)▽国連レバノン暫定軍▽国連イラク・クウェート監視団▽第2次国連アンゴラ監視団▽国連エルサルバドル監視団▽西サハラ住民投票監視団▽国連防護軍(旧ユーゴ)▽国連カンボジア暫定統治機構▽国連ソマリア活動▽国連モザンビーク活動
 
 
 
 
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