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1993/03/24 毎日新聞朝刊
<新時代の国連>/12 ロシアと中国の思惑 政治力低下恐れる
 
 冷戦の終結は、国連の中の力関係をすっかり変えてしまった。最大の変化は言うまでもなく旧ソ連の地位を継承したロシアである。
 昨年秋の国連総会で、ガリ事務総長が国連の機能強化・改革論を打ち出した時のことだ。ロシアのコズイレフ外相は、米国のブッシュ大統領(当時)がガリ構想に歓迎の意を示したのを受け、「ブルーヘルメット(PKF)は、撃たれたら反撃すべきである」と述べ、ブッシュ氏に積極的に同調する姿勢を示した。ロシアの対米追随外交は、いまや国連内部で定着した感もある。
 ただ、この姿勢は、ロシア国内で批判を浴びている。現在、モスクワで起きている権力闘争は、そのままロシアの国連対応に結び付く。エリツィン大統領、コズイレフ外相の対米協調路線は、変更を余儀なくされている。
 こうした動きは、一月のイラク爆撃や、現在のユーゴ問題にも表れている。イラク爆撃の際、ロシアは参加しなかっただけでなく、近くにいたロシア艦艇も、作戦には全く無関係だとの外務省声明まで出した。ボスニア情勢では、セルビア制裁に加わっているものの、セルビアに心情的支援を送る保守派への気遣いからか、今一つちゅうちょしているのが実情だ。
 ロシア外務省はこのほど外交基本理念をまとめたが、その基調となっているのは国益中心主義。早い話がロシアを具体的行動で支援してくれる国との関係をまず重視するというものだ。対米協調をベースに国連への協力を進めようとしても、エリツィン政権の下でスムーズにいっているとは言えない。
 ロシアと同様に、最後の社会主義大国・中国の国連外交も複雑である。
 湾岸戦争の際、中国はイラクのクウェート侵攻を批判しながらも、直接の国連軍でない「多国籍軍」がイラクに対して武力行使をすることには反対の立場をとり、結局は安保理で棄権に回った。この背景には台湾問題があったとみられている。
 中国は、台湾統一は内政上の問題だとし「台湾が独立に踏み切った場合は武力行使する」と宣言している建前から言っても、地域紛争に第三国が武力介入するシステムに反対せざるを得ないのだ。それでも明確な反対票を投じず、棄権という玉虫色の態度表明になったのは、米国から人権問題で最恵国待遇取り消しの圧力を受けており、対米カードとして使ったためとみられる。
 中国はいま、正面から西側の「覇権主義、強権政治」と対立し、国際的に孤立することは得策ではないと考え始めている。最高実力者のトウ小平氏が選択したのは「国連中心主義」だ。
 安保理常任理事国である中国にとって国連とは、「覇権主義、強権政治」と対等な発言権を持てる有利な戦場である。だが「国家間の対立や抗争は、国連憲章と国際法により、平和的に話し合いで解決されなければならない」(江沢民総書記の党大会演説)という中国の国連中心主義は、「平和的話し合いの場として機能する国連」という意味である。従ってガリ総長の目指す国連自身の武力を背景にした地域紛争への介入は、中国の理想から懸け離れたものだ。
 国連が中国にとって「覇権主義、強権政治」の防波堤になるかどうか、新冷戦の影を恐れる中国が最も注目しているところだ。
 ロシアも中国も、国連との関係にはそれぞれに独特の思い入れと戦略があるが、一つ共通しているのは日独両国の安保理常任理事国入りに消極的な姿勢を示していることだ。政治力の相対的な低下を危ぐしているためとみられる。安保理常任理事国はまさにモザイク模様である。
(モスクワ・三瓶良一、北京・金子秀敏)=つづく
 
 
 
 
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