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1993/03/15 毎日新聞朝刊
<新時代の国連>/4 安保で悩む社会党 理想と現実のはざまで
 
 「国連安保理決議は、援助実施の緊急性、その人道的性格から見て、やむを得ない緊急かつ例外的措置と理解します」
 社会党は昨年十二月の中央委員会で、何ら議論されることもなくソマリア支援を含む「当面の活動方針」を了承した。国連安全保障理事会は同十二月三日、ソマリアへの米軍を中心とする多国籍軍の派遣を承認する決議を採択。社会党が実際の国連の武力行使を容認したのは「初めてのこと」(社会党国際局)だった。
 一方、宮本顕治共産党議長は、一月一日付の党機関紙「赤旗」の新春インタビューで「人道的援助に限定する、やむを得ざる武力行使もあり得る」と述べ、ソマリアへの多国籍軍派遣に理解を示した。
 共産党は、これまで「反米」を声高に叫んできたが、「米軍が動いたからといって、そのすべてを帝国主義的な侵略行動とみて反対するという立場に立つことも、正確な見地ではない」(不破哲三委員長)というまでになった。
 ソマリアへの多国籍軍派遣は、従来の国連平和維持活動(PKO)の枠を一歩踏み出したものである。ガリ国連事務総長が実現をめざす「国連軍」につながる冷戦崩壊後の新しい国連活動の試みといえるが、平和的手段による紛争解決を第一に掲げてきた社共両党が国連の武力行使を認める事態が起こるほど、世界は大きく変化している。
 そもそも社会党は左右が統一した一九五五年十月の党大会政策大綱では、理想的な「国連中心主義」による安全保障体制をうたっていた。そこには「一つの国連と世界的軍縮実現後の国連警察部隊」創設を支持するなど、国連への強い期待がにじみ出ていた。
 しかし、その一方で冷戦時代に社会党は「平和と軍縮」をスローガンに掲げた。ベトナム戦争反対の運動が象徴するように、「反安保・反自衛隊」が優先され、その視野には「国連」が抜け落ちていた。上原康助シャドーキャビネット安全保障委員長は「自民党も国連というものを意識してやってきたとは思わない。まして政権から遠く離れていた社会党が国連を遠い存在と受け止めてきたことは否定できない」という。
 その背景には、「PKOを議論すれば、すぐ軍事的問題に火がつく」(社会党幹部)という党内事情があったことも事実だ。
 湾岸紛争をきっかけに、政府・自民党は「国連中心主義」による国際貢献を掲げ、公明、民社両党の協力でPKO協力法を成立させ、自衛隊のカンボジア派遣を実現した。これに対して、社会党の「国連中心主義」は、自衛隊の海外派遣と憲法論議から始めざるを得ず、「国連警察部隊」実現への道筋を描き切れない。
 ガリ事務総長が二月に来日した際、山花貞夫委員長は会談を申し入れた。日程の都合を理由に断られたため、筒井信隆企画調査局長らが迎賓館にガレカーン政治担当特別顧問を訪ね、山花委員長名の書簡を渡した。
 「平和執行部隊の創設や紛争防止のための予防展開など、国連憲章の根本にかかわっており、加盟国内で十分な議論が行われるよう要請する。国連の軍事的活動がなし崩しに拡大していけば、国際的調整機関としての国連の信頼を損なう」
 山花委員長のこのメッセージに対し、ガレカーン特別顧問は「国連憲章が想定しない事態が次々と起こっている。さまざまな軍事行動は安保理の決定に従って事務総長が実施するのでご理解いただきたい」と答えるにとどまった。
 新たな安全保障体制の構築が急務となっているが、野党第一党は「平和主義」と「国連中心主義」のはざまでいま苦悩している。
(政治部・山田道子)=つづく
◇メモ◇
【安全保障理事会】
 拒否権を持つ常任理事国(米英仏露中の5カ国)と、総会で地域配分に基づき選出する非常任理事国10カ国(1993年は日本、スペイン、ハンガリー、ブラジルなど)で構成。後者は任期2年。国際紛争の実態調査、解決方法の勧告、制裁措置の決議などを行うほか、国連軍の派遣を決定することができる。また新加盟国や事務総長人事を総会に勧告する。安保理決議は加盟国に対する拘束力を持つ。
 
 
 
 
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