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1993/03/14 毎日新聞朝刊
<新時代の国連>/3 竹下派分裂の自民 国際貢献論議に変化
 
 竹下派分裂による自民党内の権力構造の変化は、国連中心主義、国際貢献論議にもある種の変化をもたらした。
 党内には、かつて首相官邸に乗り込んで、掃海艇派遣やカンボジアへの自衛隊派遣などのレールを敷いた小沢一郎元幹事長のような強力な「国際貢献推進パワー」が存在しなくなった半面、党内論議の幅は広がったとも言える。
 
 「栗原先生、調査会をどう進めるつもりですか」
 「改憲を前提にした議論なら私は降りる。政局がらみも駄目だ。じっくりまじめに議論したい」
 自民党内が三塚博政調会長らの改憲発言であふれた一月中旬、河野洋平官房長官は何回か憲法論議でキーパーソンとなる栗原祐幸自民党憲法調査会長に電話を入れ、同氏とこんなやりとりを繰り返した。官房長官には首相の意思と反して、調査会が改憲で突っ走らないかという不安があったからだ。
 栗原氏はその後、自分の考え方をまとめた非公開の「栗原メモ」を作る。内容は「何らかの目的を持った改正論議を展開させることや、最初に改正ありきの姿勢は危険だ」というのがポイントだ。
 改憲論議に慎重な宮沢喜一首相は、このメモの内容を知り「議論することはいいことでしょう」と憲法調査会の一年二カ月ぶりの再開にゴーサインを出した。
 この経緯を副幹事長の一人は、「改憲を前提にしない調査会は、論議の場を提供することで改憲派の顔も立つし、護憲派にも安心感を与える。宮沢―梶山(静六幹事長)ラインで党内をうまくまとめたと思う」と説明する。
 調査会は二月五日からこれまで五回行われた。マスコミ論説関係者を講師に招いた論議の主題は、「国連の下でいかに国際貢献を行うか。そのために憲法をどうするか」。湾岸危機以降の議論と似ているが、決定的に違うのは「解釈」でなく「改憲」で問題を解決しようというスタンスだ。憲法の枠内で、解釈による貢献の道を模索した二月三日の「小沢調査会」の答申は、小沢氏の党内地位の低下とともに、完全に棚上げ状態。
 これまでタブーだった改憲について党内実力者の口が滑らかになったのも、首相がそれに抵抗する姿勢を見せるのも、ともに竹下派の重しがとれたのが要因の一つだ。
 一方、現在問われているモザンビークの国連平和維持活動(PKO)参加問題には、自民党の関心は意外に薄い。
 今月二日の総務会で板垣正参院議員が「ガリ国連事務総長の要請があるのに、なぜ人を出さないんだ」と政府を批判。山崎拓前建設相が同調したが、中山太郎前外相が「マラリアなどの風土病に対応できない」と慎重論を展開し、カンボジアPKOで見られた党が首相を突き上げるという空気にはならなかった。
 もちろん自民党の主流の考え方は、国連の下で自衛隊を中心にした積極的な貢献を図り、安保理常任理事国入りを目指すというもの。
 しかし、「平和執行部隊などガリ国連事務総長提案は、日本からみて突出している。本当に国連がすべてに正しい神の手なのかを考えるべきだ」(宮沢派中堅議員)といった声もくすぶり出した。
 こんな自民党の状況をある防衛庁幹部がこう評す。「カンボジアPKOに自衛隊を出し、とりあえず貢献の最低ラインはクリアした。今は執行猶予中。次のステップをじっくり考えているんでしょう」。自民党は、「金丸逮捕」の衝撃の中で、国際貢献をわきに置かずに、どこまで真正面に見据えることができるのだろうか。
(政治部・小菅洋人)=つづく
【国連職員】
 国連本部(ニューヨーク)に約4800人。本部以外も合わせると約1万4000人の事務局職員がいる。うち約5000人が専門職員。日本人専門職員は1992年6月現在で89人と米国(387人)、旧ソ連(157人)、ドイツ(125人)、フランス(111人)に次ぐ。高級職員は明石康・UNTAC特別代表、緒方貞子・国連難民高等弁務官、久山純弘・国連人間居住委員会事務局長の3人。
 
 
 
 
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