図8 漁海況情報システムの通信概略図 (提供:高知県水産試験場)
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一方,東京都水産試験場をはじめとする一都三県(静岡県,神奈川県,千葉県)では伊豆諸島を結ぶ定期船航路等を利用して,表面水温情報を収集し,毎日漁海況速報を配信している。9月2日および1月22日に東京都水産試験場を訪問し,今後水温等の海洋情報を活用した黒潮沿岸域における海況変動の予測技術を確立するための連携・協力を依頼した。また,上記伊豆諸島海域の定期船航路における水温情報を今後の研究につなげるため,データベースとして整備することについて協議した。
次に,10月24日には黒潮源流域である東シナ海を研究対象海域とする西海区水産研究所を訪問した。西海区水産研究所が所管する定期船航路の海洋情報と本システムで得られる水温情報を総合的に解析し,連携して黒潮水域一帯の海況変動特性の実態把握を行いたいと考えている。
さらに,10月31日には愛媛大学沿岸環境科学研究センター(略称,CMES)を訪問した。CMESでは愛媛県水産試験場と連携し,愛媛県宇和海(豊後水道東側)の養殖生け簀等に水温自動計測ブイを設置し(図9),複数定点でリアルタイム水温モニタリングを行い(図10),ホームページを自動運用して情報公開している。今年度はこのシステムを視察させていただき,我々の今後のシステム改良の参考とさせていただくこととした。
図9 養殖生け簀に設置された水温自動計測ブイ・システム (提供:愛媛大学)
図10 愛媛県宇和海に展開された水温自動計測ブイ (提供:愛媛大学)
水温測点位置
(4)地域研究集会
2003年5月23日(金),愛媛県宇和島市において,愛媛県水産試験場と共同で沿岸漁業者と研究者との交流の場として,地域研究集会「豊後水道外域を中心とした黒潮内側域の海況と浮魚漁況」を開催した。(講演要旨集別添)
地元愛媛県の漁業者・研究者を中心に,北は東京都から南は鹿児島県まで約90名の参加者があり,盛況な研究集会を催すことができた。また,海洋変動と水産資源変動との関係に関連した現場漁業者の生の体験や知見をうかがうことができ,貴重な情報交換の場となった。
2003年度日本財団助成事業「沖合海洋情報流通システムの開発」の成果をまとめると,以下の通りである。
(1)商船フェリーからの水温情報を有効利用し,広範囲にわたる日本南岸黒潮水域の海洋変動の特性を把握するための沖合海洋情報流通システムを構築し,試験運用版の試作品を作成した(図11)。
図11 沖合海洋情報流通システム(試行版)
この中では,東京−沖縄間を航行する商船フェリー(ROROしゅり,近海郵船物流(株))で取得した表面航走水温データを公開している。また,航走水温の時系列解析図も掲載している。さらに,沿岸漁業者等への情報発信手段として,携帯電話による航走水温情報の提供も行っている。これらの詳細については,別添資料II「沖合海洋情報流通システムの試作品」を 参照のこと。
(2)上記の沖合海洋情報流通システムで得られた海洋情報を整備し,黒潮沿岸域における海況変動の実態把握のための解析を目的としたデータベースの編集を行った。この詳細については,別添資料III「沖合海洋情報データベースの編集」を 参照のこと。
(3)後水道を航行する商船フェリーを活用した表面航走水温連続観測結果を簡易に整理することのできるデータ解析システムを作成した。今後は,このシステムを大分県海洋水産研究センターのパソコンにインストールし,データベースの編集を推進する。この詳細については,別添資料IV「豊後水道海洋情報データベースの編集」を参照のこと。
(4)地域研究集会については,その講演要旨集を別添資料Vに掲載した。
日本南岸の黒潮水域における海洋環境を,広範囲に,頻繁に,かつ継続的にモニターすることは,科学技術が発達した現在においても非常に困難を要することである。特に,リアルタイム海況モニタリングとなると,少数の調査研究機関や個々の地方自治体では高額の資金投資が必要となり,机上の空論となりかねない。しかしながら,沿岸漁船漁業を中心にした漁業従事者等からは,沖合域の水温情報等をいち早く把握することのできるサービスの向上が求められている。
今回,独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所では,商船フェリー等を活用した黒潮水域全域にわたる海洋環境のリアルタイム・モニタリング・システムの開発とデータ流通システムの構築に取り組むことにした。
幸いにして,2003年度日本財団助成事業に採択されることとなりました。今後も鋭意努力し,本格的に事業展開を図っていきたいと考えております。本事業を実施するに当たり,助成をしていただいた日本財団と同財団の皆様,また本事業の推進にご尽力,ご指導いただいた皆様にこの場をおかりして深く感謝申し上げます。
また,中央ブロック都県の水産業試験研究機関の皆様には今後とも密に連携させていただき,それぞれ独自に整備して来られた「海況情報収集システム」に関する一連の調査・研究基盤を基に,黒潮水域における海況変動の予測技術の開発を推進していきたいと考えております。本事業へのご理解,ご協力の程,よろしくお願い申し上げます。
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