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資料8
CHIRP公益信託
(The CHIRP Charitable Trust)
CHIRP――危険インシデント秘密報告制度
(The Confidential Hazardous Incident Reporting Programme)
 
<目的>
 安全は海事関連業務に携わる全ての人々のためのものである。
 CHIRPは、以下の2点によって、海事部門の従事者等のために、安全性の向上を目指す。
・他では取得不可能な安全性に関する報告の取得、公開、分析
・報告者の秘匿性を常に確保
 
<背景>
 CHIRPは海事業界に従事する人々、および同業界に積極的に関る人々を対象とした独立した秘密報告制度である。CHIRPの主な目的は、報告者の身元を明かすことなく、関連諸機関に安全に関する問題を示すことである。CHIRPは「告発」を目的とした制度ではない。
 CHIRPは1982年に民間航空業界で発足され、現在にいたる。安全文化を向上させる上での画期的な推進策として、海事部門の新たな安全の一要素として導入された。
 海事部門におけるCHIRPは、運輸省から資金拠出を受けている。報告された問題の対処にいかなる組織が関わろうとも、CHIRPは公益信託として報告の取扱いに中立の立場を守る。
 
<報告>
 報告書の書式が不明な場合は、専用の報告用紙に記入できる。報告書の提出は郵送、ファクス、Eメールで受付ける。電話による報告も受付けるが、その際補足として文書でも詳細を提示するようお願いしている。用紙の入手や送付先に関する詳しい情報はパンフレットの裏に記載した。
 報告書の受付が済んだ段階でCHIRPが報告者に間違いなく受領した旨を連絡する。その際、CHIRPおよび関係者が事件をできるだけ詳しく把握できるよう、より詳しい情報提供をお願いする。
 CHIRPが第三機関に問題を公開する場合は、措置をとることが適当である場合には、事前に、報告者との間で予想されるその措置についての話し合い、および合意がなされる。問題の対処にあたる第三機関に情報を提供する場合は、まず秘匿性が確保される。
 本プログラムでは、いかなる人であろうとも、報告をする個人の身元を保護すること、つまり「秘匿性」の確保を最も重要と考える。
 匿名の報告は正当性を十分に立証できないことから、受付けていない。
 
<匿名ではなく秘密にこだわる理由>
・報告者が必要に応じてインシデントの詳細を提供できる
・報告者が提案された措置について相談を受けられる
・報告者は講じた措置についてフィードバックを受けられる
・報告書が措置の効果を確認できる
 
<誰が報告できるか>
 海事業務に携わる人々、海事業務の利害者、および監察者であれば誰でもCHIRPに機密報告を提出できる。
 
<報告書の処理>
 報告をもとに一般化したデータは、ファーンボロの本部にて、セキュリティーが保護されたデータベースに統合される。個々の報告に関連する連絡や文書も全て同じファイルに統合される。CHIRPのスタッフだけがこの情報に直接アクセスできる。個人情報は一連の取扱いが完了した段階で、報告者に返還され、記録として保持されることはない。
 評議会はCHIRPに対する最終的な責任を有し、業界の専門家が構成するMaritime Advisory Board(海事諮問委員会)の支援を受ける。評議会は本制度の成果について、受託者に専門的なアドバイスやフィードバックを提供する目的で結成された。委員会は年4回会合を設け、機密報告を検討し、個々のケースに応じた措置案についてディレクター(海事部門)にアドバイスを行う。
 
<報告内容>
 危険インシデント=自分自身、他の人々、所属組織、および自分が関わる組織に傷害、危険、損害が実際に生じた、または生じる可能性があった出来事
 インシデントや出来事の例としては、エラー、個人の行動、操作・保守管理・サポート手順、規制面、不安全な行為が挙げられる。
 
<どのような場合に報告するか>
・個人情報の秘匿を希望する場合(匿名の報告は受け付けないことに注意)
・重要な「教訓」を他の人々に活用してもらいたいとき
・他の報告手続きが不適切、または利用が不可能であるとき
・企業や他の報告制度を利用したが、満足のいく結果が得られなかった場合
 
 
MARITIME INCIDENT REPORT
(拡大画面:130KB)
関連ホームページ:www.chirp.co.uk
 
III 英国航海学会(the Nautical Institute)における海難調査
 英国が、世界の海運界において指導的役割を維持するためには、社会の発展に相応した英国商船船長・航海士の高度な知識と専門的な技能が世界的に認知され続けなければならなかった。
 一方、同国では、過去永年にわたり、海運界における商船船長・航海士の海技資格は、社会的には、それを取得することによって海上の安全が確保されるという法的要請に基いてきたものであったが、他方、商船船長・航海士にとっては、それがある種のステイタス シンボルでもあった。
 その海技資格の必要性は、海上の安全という観点から現代においても変わるところがないが、船員労働の性格、形態が徐々に変化してくるにつれて、船長・航海士は、学究的素養(Academic Background)を有するとともに、更に広範囲な技術的知識(Extensive Technical Knowledge)を兼ね備えるべきであるとされ、海技資格もそれに相応しいものとしてあるべきだとされるようになった。
 加えて、1966年の船員ストライキに端を発した英国籍船舶の急激な衰退と、海上従業者の減少及びその高い離職率、あるいは、船舶のFlagging Out導入に伴う船員モラルの低下等が、航海学者や船長、航海士等の航海関係者に対して英国海運界の先行きに強い危機感を醸成した。
 一方、近年、海技専門学校等における航海士に対する教育や訓練に、幾多の改善、改革がなされてきたが、時代の変化に対応した決定的な方向性(Definite Pattern)は打ち出されず、専門職として社会に受け入れられる必要条件や、海技資格試験或いは航海訓練の基準を定めることのできる機関が存在しないのが実情であった。
 そこで、このことを憂慮した航海関係の先達は、議会関係者との折衝や、国内各地の関係者との打合わせ、或いは、フランスやオランダ等の海外の関係者との連絡を図り、船長・航海士の資格や能力、知識の高水準化を促進することによって、航海学を向上・発展させ、かつ、これを整理・集約することを目的とした組織の構築を進めた。
 そして、1969年12月10日に航海学会(The Nautical Institute)設立の覚書(Memorandum)が起草され、その後、1972年1月1日に暫定会議(Provisional Council)が立ち上げられ、更に、翌年の1973年4月27日にCaptain Sir George Barnardを初代会長とした航海学会が、正式に発足したのである。
 現在、航海学会は、航海科学に関する情報や知識を交換したり、或いは、これらに関する出版物を刊行したりするのを援助し、また、専門家としての規範を確立し、これを維持することに努めている。
 また、航海学会は、航海科学の訓練や実践の向上を図るために、資格に関する政府の関係当局、あるいは、教育に関する協会や関係機関との協力を推進している。
 
 航海学会は、本部をロンドンに置き、世界に40の支部を有し、70ケ国以上の国に7,000人以上の会員を有している。
 今のところ、日本には支部はないが、それは、現在、日本に25名の会員が在籍しているものの、理事会のガイドラインでは、支部の設立には最低50名の会員が必要となっているからである。
 支部は、独立性(Autonomous)が保証されているものの、全くのボランティア制で、最近、日本でも支部設立の動きが垣間見られる。また、世界各国からの会員も漸増しているという。
 本部には、会長Captain RB Middleton、FNI(Fellow of Nautical Institute 特別会員)を始め、副会長6名(全員がFellow)、スタッフ7名(3名がFellow、1名がMember 普通会員、1名がcompanion コンパニオン)の計14名が在勤している。
 因みに、会員は、国籍を問わず全員に対して資格に相応した称号が与えられていて、外航船船長免許受有者や1級海技士免許受有の水先人等はFull Membership(MNI)、また、外航船当直免許受有者はAssociate Membership(AMNI)、沿岸船当直免状受有者はAssociate、免状は受有していないが協会の活動に興味、関心を持っている者はCompanionと呼称されている。
 なお、Fellowは、協会に対して特に功績のあった人に対して与えられ、日本人にも該当者(FNI)が散見される。
 会員は、後述の海難情報(MARSレポート)が掲載されている月刊会誌「SEAWAYS」の配布を無料で受けることができるほか、各種出版物を割安で購入できることになっている。
 ただし、Memberで、加入費が20ポンド(約4,000円)、年会費が98ポンド(約18,000円)必要である。
 
 航海学会は、海事関係者の資格や能力、知識の高度化を図ることによって航海学を世界的に高揚し、かつ、それを統括して航海学に関する国際知識センターとしての地位を維持することに努めるとしている。
 そのため、航海学会は、航海学に関する情報や知識を交換したり、これらに関する出版物を刊行したりするのを支援する一方、航海専門職としての基準を確立し、これを維持、向上することに努めている。
 具体的には、下記の事項を掲示している。
(1)海洋航行船の操船者に対する資格、技能、知識の高水準化の奨励及びその向上
(2)航海科学に関する調査の奨励、並びに調査結果を発表するための情報及び知識の交換と刊行機会の提供
(3)会員に相応しい教育及び職業上の地位の確立とその維持
(4)法律上及び非法律上の資格に係わる政府機関及び非政府機関との協力
(5)航海科学の実践や訓練を推進する大学その他の教育機関との協力
(6)英国内外における支部或いは職業グループの形成の推進
 航海学会は、「船橋当直における更に高度な基準の設定」という海運界の要請にこたえて、「Bridge Team Management」及び「Bridge Watchkeeping」についてのガイドラインを作成し、これを最近の業績の一端として誇示している。
 このガイドラインは、「人はエラーを犯すものであり、それゆえに、エラーは管理する必要がある」、ということを念頭において、Checking、Monitoring、Controlling及びRecordingといった作業目標を取り纏めたものである。







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