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資料7
 
調査報告書
Rema 沈没事故
1998年4月25日
 
海難調査調査局(MAIB)
 
概要
 
 1998年4月25日土曜日、世界協定時刻(UTC)4時22分、英国海難調査局(MAIB)はハンバー沿岸警備隊より、貨物船レマ号がヨークシャー沖20マイルの北海上で沈没したらしいという知らせを受けた。
 レマ号はベリーズ籍船だが、公海上で沈没し乗組員4名が死亡した。死亡した乗組員は全員イギリス人であった。その日に審理が始まり、1998年6月8日、MAIBはベリーズ当局に代わって調査を実施することに合意した。6月16日、イギリスの調査が始まり、本件はInspector's Inquiry(検査官審理)に格上げされた。A・ラシュトン氏と統括検査官に指名されたJ・S・ウィティントン主任検査官が調査にあたった。
 レマ号は748トンの鋼製貨物船で、1976年にオランダで造られた。宿泊設備と機関室は船尾にあり、船倉は一つで、マクレガー社製のシングルプル式ハッチカバーが取り付けられている。ディーゼル駆動で固定ピッチプロペラを装備している。
 船は1998年4月22日、空荷でバーウィック・アポン・ツイードに到着した。4月23日には貨物としてレッドストーンの砕石を積載し、4月24日金曜日の12時30分ごろ、オランダ、テルヌーゼンに向けて出港した。出港時の天候は良好で、風は南西3〜4m、波は小〜中程度、4名の乗組員が乗船していた。
 4月25日土曜日3時21分、レマ号は超短波(VHF)無線16チャンネルでメーデーを発し、ウィトビーの北東約22マイルの位置にいることを知らせた。これに対してハンバー沿岸警備隊は、地元のRNLI救命艇とRAFヘリコプター、商船数隻を出動させた。レマ号の姿はなく、残骸が見つかったことから、レマ号は北緯54度41.95分、西経00度08.86分の地点において沈没したことが確認された。
 1998年6月24〜27日、難破船の海中調査が行われた。船は直立した状態で無傷だったが、海底にぶつかったときの衝撃から船首に損傷の跡が少しみられた。船が沈む際、貨物が前方に移動し、前部ハッチを抜けて海底に飛び出した。ハッチカバー、船首楼甲板、操舵室に内破による損傷がみつかった。プロペラ羽根には接触による損傷がみられた。船首の損傷から、船が海底に向けて頭から垂直に沈み、やがて水平になり、最終的に直立したことが立証できる。
 調査により、レマ号はバーウィック・アポン・ツイードを貨物満載で、かつバラストタンクが空の状態で出港した。安定性に関する諸条件を計算した結果、レマ号は水769トンが船倉に入れば浸水して沈むことがわかった。
 沈没は、船倉に水が入ったが、誰もそれに気が付かなかったために起こった。やがて浮力が失われ、レマ号は沈んだ。この時点で、船があまりにも急激に沈没したため、乗組員は避難できなかったと思われる。
 得られた証拠を綿密に調査し、海底調査の映像解析も試みたが、水が船体に浸入した状況は結果的に特定できなかった。観察された損傷からは浸水が説明できなかった。レマ号が沈没したときの状況は確定したが、調査ではその理由を説明できていない。
 
結論
 
3.1 調査結果
 
3.1.1 レマ号はバーウィック・アポン・ツイードを出港する際、有効な免許を保持し、喫水は3.3mと報告されており、航海に適した状態であった。
3.1.2 ROV調査では、船は海底に対し直立位置で沈んでおり、船首には海底との接触からとみられる損傷がある程度あることがわかった。さらに船首楼甲板、ハッチカバー、船首、操舵室には内破による損傷が認められている。
3.1.3 1997年の6月、7月にプロペラの損傷が見つかっているが、1998年6月に難破船で見られた損傷とは比較にならない程度であった。
3.1.4 ROV調査で見られた船首材および船首の損傷は、他の船や物との衝突によるものではなかった。
3.1.5 沈没し海底に沈むまでの間、貨物の砕石がハッチカバーの前端を抜けて船倉から飛び出し、レマ号が最終的に沈んだ地点とその周辺に落ちていった。
3.1.6 救命いかだの水圧離脱器は両方とも作動した。左舷側の救命いかだは浮上し、右舷側は離脱後、甲板装具とガードレールの下に引っかかった。
3.1.7 沈没した付近の海上の水温を考慮すると、生存時間は最長で3時間と推定される。
3.1.8 ハッチカバーの位置から、船が転覆したわけではないことがわかる。
3.1.9 EPIRB(非常用位置指示無線標識)は浮上せず、船に装着されたまま見つかった。EPIRBの不作動は、事故の結果に影響を与えるものではない。このEPIRBはイギリスではレマ号のものとして登録されていなかった。
3.1.10 事故が発生した1998年4月25日早朝の天候は、南西3〜4mの風、波は穏やかで視界も良好だが、月光はなかったと考えられる(4月26日は新月であったため)。
3.1.11 操舵室はドアを二つとも閉めて密閉された状態にあり、異常の兆候は見られなかった。その状態で船内に通常の雑音レベルまたはその程度の変化が生じても、中にいる当直は気付かなかったと思われる。
3.1.12 乗組員が状況に気付かないままレマ号が浸水したことから、浸水はゆっくりと生じたことがわかる。乗組員は船首が沈み始めるまで、あるいは当直が船の反応が遅いことに気付くまで、浸水に気が付かなかった。
3.1.13 砕石を積載し、バラストタンクを満載した状態でも運んでいれば、レマ号の沈没はなかった。
3.1.14 計算の結果、砕石を積載し、バラストタンクは空の状態でも、船倉に769トンの水が浸入していれば、レマ号は浸水して沈没することがわかっている。
3.1.15 激しい腐食、および船倉のメッキとメッキ溶接部分の亀裂が疑われる場所について映像解析を行ったが、亀裂や船体の腐食の形跡は認められなかった。
3.1.16 操舵室の配置と状況から、当直が事態の悪化に気付いていなかった可能性が高い。
3.1.17 船が4月24日の15時30分ごろにファーン諸島沖の入り江にいたことから、レマ号は航路を維持していた可能性が高い。
3.1.18 貨物の荷揚げは、1998年4月19〜21日のバッキーにおける麦芽の荷揚げを含め、清潔に行われており、船長は、船倉とハッチカバーを良好かつ清潔に保ち、水密性を維持していたことがわかる。
3.1.19 トレント川での衝突による損傷は、一部修理済みで、船体は水密性を確保していた。
3.1.20 セレブリティ号が砕石を載せてバーウィック・アポン・ツイードを出港した後、船倉が浸水したのは、ストーンバース埠頭から受けた損傷が原因ではなかった。レマ号が出港し、セレブリティ号が到着するまでの間に、ストーンバース埠頭では6籍の船が積荷を行ったが、いずれの船からも損傷は報告されていない。
3.1.21 レマ号が今回の航海で座礁したという証拠はない。
 
3.2 沈没の原因
 
 レマ号沈没の原因は、769トンの水がゆっくりと船倉に浸入したことである。調査では浸水がいつ、どこで、どのように生じたかを特定できなかった。
 
3.2.1 浸水の原因としては以下の8点が検討されたが、いずれも可能性が低い、証拠が足りないなどの理由で却下されている。
 
1. バーウィック・アポン・ツイードのストーンバース埠頭に停泊中、バースから突き出たボルトが船体に突き刺さった。
 バーウィック・アポン・ツイードのバースについて調査を行った結果、却下。突き出たボルトや、その他の原因を示す証拠はみつからなかった。
2. バーウィック・アポン・ツイードのストーンバース埠頭に停泊中、船体底のメッキに穴が開いた。
 レマ号出港の前後、船体底には損傷が記録されていなかったことから却下。
3. バッキーからバーウィック・アポン・ツイードへの航路で、バラストと満載喫水線の間に生じた船体の新しい亀裂。
 浸水速度は遅く、3時22分の沈没は不可能であり、出港時にレマ号の操船や喫水に関するコメントもなかったため却下。
4. バラストタンクが全て破裂・浸水し、船倉が直接浸水した。
 二重底タンクが全て対称的に、または非対称的に同時に破裂・浸水する可能性は低いため却下。
5. ディープタンクが破裂・浸水し、ディープタンク後部の隔壁の穴から船倉に水が浸入した。
 積荷前に船倉が検査されており、可能性が低いため却下。
6. 二重底タンクの破裂とタンクの同時破裂、および(または)タンク上部の腐食。
 可能性が低いため却下。
7. 開いた船底弁とビルジラインから船倉に水が逆流して浸水した。
 船倉ビルジはしばらく使われておらず、船底弁が開いていた、またはビルジラインの逆止め弁に欠陥があったという証拠はないため却下。
8. 故意に穴を開けて沈没させた。
 証拠がないため却下。
 
3.2.2 浸水の原因としてほかに2点が検討され、可能性を認められたが、直接証拠となるものは何もない。
 
1. 船体側面のメッキに亀裂
2. 二重底タンクの破裂と、エアーパイプまたは船倉のパイプの破損または腐食
 
勧告
 
4.1 The International Merchant Marine Registry of Belize、IMMARBE(ベリーズ国際商船登記所)に対し、以下のように勧告する。
 
1. 船倉が一つしかない船全てに対し、IMOを通じてビルジ警報装置の設置を推奨する。
 審理では、海上安全の向上を目的として、レマ号の運航状況の一部を基に勧告が出されている。
2. ベリーズの旗国当局とベリーズ籍船の調査を担当する船級協会の関係について、正式監査手続きを導入し、さらなる理解と監視の強化を図る。
3. 船舶所有者に対し、STCW条約第6章VI/I規則「すべての船員に対する習熟・基本安全訓練及び始動のための最小限の要件」の順守義務を改めて強調する。
4. IMO内で、1000億トン以上のすべての船舶に対し、航海データ記録装置の導入を推奨する。これにより、海上安全を向上し船員を保護するうえで的確な勧告を行えるよう、海難事故調査における不確定要素の除去に努める。
 
4.2 海上保安庁(MCA:The Maritime and Coastguard Agency)に対し、以下のように勧告する。
 
5. 船倉が一つしかない船全てに対し、IMOを通じて船倉ビルジ警報装置の設置を推奨する。
 MAIBは、IMMARBEより、同庁が勧告の重要性を完全に理解し、上記の勧告および主席検査官の概要(セクション6)で示される勧告に応じる意志があるとの報告を受けた。







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