日本財団 図書館


12.9 海上のより高度な基盤整備
12.9.1 海図の新刊及びより高度な航路標識
 当委員会は、高速艇の航路における航路標識の設置、また、新刊の基礎海図の作成等、民間学識経験者によって提示された、海上の基盤整備についての説明を行った。
 狭水道、そして/または、容易に測量のできない海域での高速度運航は、常に、相当の危険を含んでいる。適切な航路標識と優れた海図は、結果的に、危険減少に貢献する資産である。
 これを基に、当委員会は、水路部がENC式、及び、新紙質製のような近代的新海図刊行作業のために、十分な予算を与えられるのが如何に重要であるかを強調したい。この作業を現水準の政府予算金で、おおよそ2016年までに完了させることは、不可能であろう。この作業を2016年までに、完成させるのが不可能であるとの結論は、海上の安全に関わる施設の必要性を考慮すると、認容しがたい事態である。
 当委員会は、ノルウェー王国沿岸の新海図作成作業を数年以内に完了させるために、早急に、適切な予算割当てが重要であること、を強調したい。
 それとともに、当委員会は、高速艇の航路に特別の標識を設置する作業を早めることの必要性と、この作業に適切な予算割当ての重要性を強調したい。
 
12.9.2 波浪注意報
 総ての高速艇は、有義波高によってのみの運航制限を受けている。しかしながら、現在では、波高を正確に示す波浪浮標は、極めて少数である。そのため、航海士達は、自らの視覚による判断に頼らざるを得ない。波高の正確な測定は、特に、船内からの測定は、難しい作業である。
 この理由から、当委員会は、多数の高速艇が航行する海域で、外海に向いた沿岸地点に波浪警報装置を設置すること、を勧告する。
 
12.10 救助活動に対する勧告
12.10.1 救助ヘリコプターの出動時間
 現在では、救助ヘリコプターの出動に1時間を要している。別の言い方で、この時間は、ヘリコプター乗員が通知を受け、離陸するまでのことを意味している。しかしながら、実際の出動時間は、しばしばこれより短いことがある。MSス号海難事件の場合では、38分間であった。
 NOU報告書1997年第3号救助ヘリコプター出動業務に関して、では、出動時間を15分まで短縮すべきである、と提案された。この提案は、現在、司法省で検討されている。
 出動時間15分がス号海難事件の拡大を防止できたか、について、はっきりと言明することは不可能である。しかし、ヘリコプターがソラ基地を約23分早く離陸できたであろうことは、確かである。
 事件発生後、救助隊の到着までに相当の時間が経過してしまい、この時間が損害拡大に決定的原因となったところからして、短縮された出動時間が海難事件にあっては、いかなる状況下でも、極めて重要な意味合いがあるのは確かである。
 それであるから、当委員会は、NOU報告書1997年第3号救助ヘリコプター出動業務に関して、で提案された出動時間の短縮が採択されるべきである、と考える。
 この理由から、当委員会は、救助ヘリコプターの出動時間15分の要望に関しての規則の設定を、勧告する。
 
12.10.2 統合救助対策本部の緊急無線への連絡
 MSス号の海難事件発生時に、統合救助対策本部は、VHF緊急チャンネルでの通話連絡及び同チャンネルの聴取が許されていなかった。それによって、本艇とのVHFによる情報連絡は、沿岸ラジオ局を通して行わざるを得なかった。
 当委員会は、統合救助対策本部が緊急チャンネルを通して、直接、状況を聴取したり、情報を交換したりすることの許可を受けるため、長時間に渡って交渉していることを、知らされている。それで、ある試験的“共同聴取”組織が2000年夏に発足した。
 当委員会は、“共同聴取”組織が将来、かなり有益なものになると考えている。この組織が、ラヂオ局を余分なものとして疎んじることなく、被害集団と沿岸ラジオ局、あるいは、統合救助対策本部間の相互情報連絡に、より容易で、より効果的な役割を果たすように発展してもらいたい。
 この理由から、当委員会は、統合救助対策本部がVHFの緊急チャンネルの聴取や、直接、これらのチャンネルを通しての情報連絡を取れる許可を与えられること、を勧告する。
 
12.10.3 海難事件に対しての模型案の改定
 海難事件に対しての模型案は、事件が発生した場合の連絡体制について細かな指示内容を示すものである。
 ス号の海難事件から得た経験を基に、救助団体、または、地区救助班を設置する場合には、分離している各班に情報を通知する現行の指示規定の改定を考慮すべきである。情報が通知されたかの確認保証方式は、詳細部分に渡り、より明瞭に記載されるべきであろう。(注8)
 この理由から、当委員会は、救助活動が数個所の地区救助班で実施される場合には、分離している各班が通知を受け取ったかを確認する必要があるとの観点から、海難事件に対しての模型案を改定すること、を勧告する。
 
12.10.4 国境線外の健康管理機関への詳細な通知
 多くの関連から、国境線は、各国の民間権威機関にとっては、単に自然の境界線を意味するだけである。しかしながら、事件は、地理的境界線に関係なく、そこここで発生する。ス号の海難事件は、ロガランドとホーダランド両州の境界線の間で発生した。
 ストード市の救難医療情報本部は、本件の情報を通常の方式では受取っていなかった。それだけでなく、スベイオ市の市民健康奉仕機関は、本件についての情報をホーグサンド市の救難医療機関からの通報で知ったのである。振り返って見るとこの状況は望ましいものではなく、また、形式的な情報の伝達の失敗があったにも関わらず、総ての利用可能で必要な情報は伝達されたし、適切な方法で活用されていたのである。
 しかしながら、地理学上の国境線が救助活動とか損傷の封じ込めに望ましくない影響を及ぼさないことは確かであるから、今回、実際に出現した通報の不在が、緊急時の救助活動を各自の救助計画と通報連絡表に従って、実行すべきであることを、明確に示している。
 これらを基に、当委員会は、地理学上の国境線が効果的な救助活動を妨げないことが確かであるから、緊急時の救助活動は各自の救助計画と情報連絡表に従って、実行されること、を勧告する。
 
12.10.5 訓練及び体験情報の交換
 上記7.7において、当委員会は、本件救助活動が規則と適格な手段とによって遂行されたと結論した。その一方で、将来の緊急事態に対して、できる限り今回と同じ対応が可能となる準備をしておくこととか、あるいは、体験や、情報の交換を系統的に書き置くとか、救助奉仕活動の全参加者の意見を総括しておくこととかが必要である。同様に、大規模で現実に即した訓練も重要である。
 当委員会は、南ノルウェー統合救助対策本部の主導によって実施された、救助活動演習及び各地方規模の救助班活動演習の後で、体験情報の組織的な交換を伴った試験訓練を行った旨の報告を受けている。
 各規則は、各責任担当地区内で、毎年、地方救難対策班が訓練を実施することを規定している。
 これを基に、当委員会は、組織的な統括及び重大海難事件のあとの体験的反省が示された、適切な参考資料を収集すること、を勧告する。これに加えて、当委員会は、定期的に実施される大規模で実情に即した訓練のために、適切な予算を配布することが重要である点を強調したい。
 
12.11 勧告の方針
 上記の勧告を実施するためには、どれから先に実施するか、投入資金量/効果を評価した上での優先順が、常に、問題となる。当委員会は、個々の勧告に関しての優先度が本報告書で明らかにされている、と信じている。一方、当委員会は、優越度を考える際の大前提が、悲劇に結びつくかもしれないし、望ましくない海難事件発生の可能性を取り去ることにある点を、強調するものである。とともに、海上では、常に、ある程度の危険が存在していることを認識するのも重要である。海難事件による悲劇を抑えるためにも、結果を考慮した防衛策を確立させる必要がある。即ち、望ましくない海難事件を悲惨な事態まで発展させないための方策である。
 であるから、当委員会の勧告についての重要な方針は、次のようになるだろう:
1. 海難事件発生防止には、積極的な行動をとること。海難防止上で、重要な要件は、:
−最新型航海計器の開発。
−シミュレーションによる訓練を含めた、航海計器取扱いについての訓練。更に、特に、航海士間の連携を含めた、高度な操舵室内の通常作業の励行。
2 もしも、乗揚事件、あるいは、他の海難が実際に発生した場合は、舟艇が浮力を十分に保持できる船型。
3 もしも、舟艇の残存可能性が、十分でないとき、あるいは、MSス号が直面したような状況下におかれた場合には、水に濡れない状態で退船できる救命設備を保有すべきである。乗組員は、退船する状況下での、あるいは、別の緊急事態下での対処方法を習得できるような訓練を受けるべきである。
4 もしも、救命設備が役に立たないとき、あるいは、人員が落水してしまった場合には、十分な浮力と、耐寒装置のついた、個人用救命設備を使用すべきである。
 

注8.当委員会は、南ノルウェーの統合救助対策本部が同じ観点を基に、模型案を既に、改定したとの通知を受けている。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION