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12.6 高速艇乗組員に対する要望
12.6.1 訓練についての要望
 当委員会は、MSス号の乗組員が受けていた訓練は不適切であったことに気付いた。航海士達は、設置されている航海計器の使用について、十分な指導を受けていなかった。事務部乗組員は、義務付けられている安全訓練が不足していた。最新退船設備の使用訓練が、明らかに欠けていた。当委員会は、航海士達が義務付けられている手順どおり、航行しなかったと結論した。
 安全訓練の欠落について関心を払って調査するうち、当委員会は、外部からの監視体制に問題があることを知った。現存の規則では乗組員は、総合的な安全訓練を受けることを規定している。当委員会の意見では、これは基本的に、規則の求めに従っていることを保証しようとする問題であり、実態に合った訓練が行われていることを保証しようとしている問題に過ぎない、と言うことである。本海難事件では、緊急事態に対処するための訓練が、重要であることを明かにした。ここで、当委員会は、このことについて言及したが、それにより、乗組員がこの訓練を習得していなかったことが明白であったこと、を明示する。
 今日、訓練についての広範な要望があり、また、特に、他の旅客船の航海士達と比較して、高速艇の航海士達が広範な訓練を受けているかの技量調査をすべきである、とする要望がある。もしも、乗組員が、規則に合致した訓練を受け、そして、特殊な船艇に乗組んで指定された航路を運航するための技量調査を受けたならば、彼等が、実務に適した立派な知識を持っていなかった筈はない。
 別の観点から、当委員会は、問題となる高速艇航海士達の技量を現状程度で良いとする要望には、根拠がないとの印象を持っている。しかし、現在、課せられている技量についての要望が正当であるか、追跡調査をしなかったことに、むしろ、責任があるとの印象を持っている。
 当委員会の意見では、会社は、乗組員が規則で求められている技量を所有しているのを確かめる適切な作業を行わなかった。そればかりか、海運当局は、これを促すこともしてこなかった、と言うことである。しかし、当委員会は、当局がその事実を知る術すら持っていなかったに気付いている。
 これを言明した以上、当委員会は、高速艇航海士達に対する訓練の改善が必要なことは間違いないことである、と考える。現在の訓練は、シミュレーターの使用を含んでいない。当委員会は、シミュレーターの使用が、本質的に、航海士達の能力改善に役立つと、自信を持っている。部分的には、シミュレーターは、必要とされる極限の状況を現出することが可能であるから、舟艇内での訓練の重要な補助手段となるからである。そして、部分的には、多分、もっと重要なことだが、シミュレーターを予想できなかった状況での緊張感を制御する方法を習得するのに使うことができるからである。
 これを基に、当委員会は、シミュレーター訓練では高速艇の航海士達に対する必須訓練の一部としたり、また、ある期間を経てから継続する訓練の一部としたりして利用すること、を勧告する。危機的状況の制圧を、安全訓練の中心部分とすべきである。
 シミュレーター訓練の拡大に対し、特別の助言を加えるのは、困難であるが、少なくとも、訓練科目の追加はなされるべきであろう。海運当局は、これに関係する団体と協力してこの作業を続けるべきである。
 本艇が海難発生に向って進んでいる間、船長と一等航海士の間には、定型化した情報交換作業が行われていなかった。(注7)当委員会の意見では、航海士間の明瞭な情報の交換を伴った、高度な通常操舵室内作業は、それが人為的、または、技量的錯誤を防止する安全上の防護柵となるから、高速艇の安全運航にあっては重要な要素である、と言うことである。もしも、そのような通常作業が、機能的に実行されていたとすると、事前に、錯誤を発見する可能性がずーと高くなり、海難に向う状況が悪化する前に、不吉な事態の連鎖が断ち切られ、難を逃れることになるのである。
 そうであるから、当委員会は、個々の企業が航行中の操舵室内作業についてどうやって互いに行動を取り合うかを十分に理解し、そして、平常事態のとき、あるいは危機的事態のときに、互いがどんな作業に従事するか理解するまで、航海士達を可能な限り、最大範囲の訓練に参加させるべきであると、考察する。
 この分野では、航空業界が、相当に前に進んでいるとの事実は知られたところである。であるから、当委員会は、航空業界の訓練成就過程に協力することが利益になると、考える。
 これを基に、当委員会は、高速艇の航海士に対する必須訓練では、特に、良好な通常操舵室内作業に焦点を当てて実施すべきであると、勧告する。
 これに加えて、当委員会は、海運当局が各船社に対し、航海士達が定型的な通常操舵室内作業の訓練を受けることを確約する旨要請すること、を勧告する。
 
12.6.2 高速艇航海士達の健康に関する要望
 当委員会による、高速艇航海士達の健康に関する要望についての説明は、別途示してある。それによると、海運当局が、今までに、その航海士達に対しての健康上の要望を、特に、定型化していないのを知ることができるであろう。
 当委員会は、高速艇航海士達に対する健康上の要望は他の航海士達に対するよりも厳しくあるべきだとの意見は重要であると、考える。これと関連して、当委員会は、NOU1994年第9号ノルウェー王国高速艇産業において重要な意味を持つ安全性と環境について、の評価を支持するものである。そして、当委員会は、近い将来において、海運当局が高速艇航海士達の健康に関しての要望を完成させるための作業を終結させるであろうと、想定している。
 当委員会は、海運当局が、できる限り早期に、高速艇航海士達の健康に関しての特別な要望の作成作業を完成させること、を勧告する。
 
12.7 船社の安全管理体制に対する要望
 当委員会は、HSDの安全管理体制に数点の欠陥があることを提示した。
 安全管理体制が関連する点について、当委員会は、問題は規則が要望する内容になく、船社が要望に沿った体制をとるかにあるとの、印象を持っている。
 であるから、別々になっている各社がその安全管理体制を強固に連結させることが極めて重要である。安全管理体制によって、操舵室内の当直航海士が真剣に行うべき注意を幾分か外した結果に発生する、想ってもない海難事件を防止するための防波堤を作り上げることが可能であると考えるのが、特に、重要である。これに関連する、重要な要素は、舟艇の運航の責任を、常に、航海士一人のみが受け持つことを完全に明確化させ、そして、二人の航海士が操舵室に居た場合は、常に、他の一人が何をしているか、また、次に何をしようとしているかを確実に理解するよう、操舵室内における通常作業の定型化を完成させることである。
 更に、船社は、前記した操舵室内の定型化した作業方式に合致して作業が行なわれているかを点検するための基準を作ることである。例えば、通常の航海中に経験豊富な検査員、あるいは、指導者が操舵室内で、一定期間を置いて、“試験航海”を行う、などである。
 これらを基にして、当委員会は、ノルウェー王国内の高速艇を運航する船社にあっては、想ってもない海難事件を防止するための適切な安全防護策が存在するか、もしも、海難事件が発生してしまったら、その損傷の拡大を防ぐための対応策が考えられているか、を判断することに特別な関心を払うことで、安全管理体制の再点検を行うこと、を勧告する。各船社は、操舵室内における通常作業の定型化を導入し、この作業の遂行が確実であるかを確認する体制を作り上げることが、望ましい。
 
12.8 学識経験者による監察
 当委員会の批判を受けた幾つかの状況にあっては、学識経験者による監察で、より効果的な管理体制への転換が見つけ出されている。これを改善するには、より潤沢な予算状況が必要になる。他の欠陥は、既に行われている監察で見つけ出されていても良かった類の形態のものであった。より良好な監察の実施が求められる。
 次の項目で、当委員会は、監察者が特に注目すべき幾つかの分野を示し、注意を促すこととする。ここでの勧告は、海運当局の指導の下で、当委員会が実際に行った監察についての報告書と併せ読み進めて戴きたい。
 
12.8.1 設備面での監察
 当委員会の調査から、学識経験者が、ス号での中核となる二つの欠陥を見落としたことが明かである。即ち、救命筏の静水力学的−離脱装置の不設備と、中継緊急時用発電機及び1Lスイッチ盤付きの整流器の一部が、損傷部水線の下方となる機関室に隣接した空間に設置されていた事実とを見落としたことである。この欠陥の双方が、海難が発生したときに重大な結果を招いたのである。これは、総ての主要設備が正しい場所に、正しく設置されていることが確認されるように、設計の段階、建造の段階でより厳格な監察を行うことの重要さを示している。当委員会が、下記で強調するように、本件海難にあっても、舟艇の運航に対し、より厳格な監察の必要性を示している。しかしながら、より厳格な運航上の監察は、舟艇の設備面の検査費用とは別会計で行われるように、強く主張することが大事である。
 設備面の審査において、法律や規則によって委任された監督、あるいは、検査機関が、設計図の承認やその後の検査の両方に対し、心して、その影響力を行使することが最も重要である、と当委員会は考える。これらの機関は、そこで監督され、検査される案件に対し、提示される結果が規則に従ったものであるかどうかについての決定が、広範で自由な判断を下す経験をもつ、監督者、あるいは、検査員によって行われるよう、積極的態度を取らなければならない。
 これらのことを基に、当委員会は、運航開始前か運航中に、監督あるいは検査機関が舟艇に対する、より厳格な設備面の検査を施行すること、を勧告する。これらの機関は、積極的態度を取り、また、疑問を感じた場合には、提示される結果が規則に従っているかどうかについての決定では、規則の根本的理念に合うようにすること、が勧告されている。
 
12.8.2 資格管理及び訓練に関しての乗組員管理
 当委員会は、形式的な乗組員資格では不適切であることを指摘した。航海計器を用いた訓練や、特に、安全装置を用いた訓練では明かに不足が認められる。数人の事務部若手は、必須の安全課程を受けていなかった。
 学識経験者による、より高度な監察で、このことが明白となった。当委員会の意見では、本件海難では、乗組員の民間による資格及び訓練の管理は、特に重要である、としている。舟艇が運航を始める前に、海運当局は、単に、舟艇の耐航性を調査するだけでなく、乗組員が特殊な航路を航行する、特殊な舟艇に乗船中に、それぞれの作業を遂行するのに必要な技量を有しているかについても調査しなければならない。これは、例えば、乗組む舟艇を運航するための訓練を受けたかを示す、点検表の作成を要求することで済むことであろう。
 当委員会は、これに加えて、船社の訓練計画がHSC規則と規定の要望に適切に対応していないことを指摘した。海運当局は、船社の訓練計画が、規則や規定の要望を満たすものとなり、その成果が上がるよう、監視する手段を考えるべきである。
 これを基に、当委員会は、海運当局が彼または彼女が乗組む特殊な舟艇上で作業を遂行するための、十分な技量を個々の乗組員が有しているかを確かめる手段を導入すべきである、と勧告する。更に加えて、海運当局は、船社の訓練計画が法律や規則に沿ったものであるか、確認する手段を考えること、を勧告されている。
 
12.8.3 運航制限に対応しているかの確認管理
 当委員会は、海運当局がMSス号とMSドロゥプナー号が有義波高1メートル以下の制限の下で運航されていたことの確認管理を行った可能性がないことについて言及した。ところで、この制限値は、退船施設の試験を荒天下で実施せざるを得なくなるように、人為的に低く設定されたものであった。
 本件海難は、舟艇の常時運航にとって、当局による運航制限が支障となる場合、特に、直接的な支障となる場合には、船社がこの制限を受け入れないことは当然であると、海運当局が考えていたこと、を示している。
 そのため、当委員会は、海運当局が舟艇の常時運航にとって、差し障りの出る制限を安易に設けないように気をつけること、を指摘したいと考える。そのような場合には、運航制限指令を拒否することが、正当なものとなってしまうであろう。
 それ以上に、本件海難は、海運当局が船社及び乗組員が運航制限に対応しているかを確かめるよう、積極的に追跡調査しなければならないこと、を示している。
 これらを基に、当委員会は、海運当局が舟艇の常時運航に差し障りのある運航上の制限を課さないこと、を勧告する。それ以上に、当委員会は、海運当局が船社及び乗組員に課せられた運航制限に合致した運航に従事しているかを確認する積極的な追跡調査をすること、を勧告する。







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