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勧告
12.1 序説
12.1.1 当委員会の勧告についての背景
 スカンディナビィアン スター号海難についての調査委員会は、その海難で、本船の船体と乗組員に多くの欠陥や不備があることが暴露された、と記述することでその報告書を書き出した。これらの欠陥や不備の幾つかは、その海難の結果に重要な意味合いを持っていたか、持っていた可能性があったと考えることができる。その他の欠陥や不備は、多分、事件発展の過程で重要な意味合いを持っていなかったが、別の状況下であったなら、異なった形で事件に影響を与えたであろう。その調査委員会は、会社側、船体及び乗組員に、人的誤謬、欠陥あるいは不備を見つけ出した。その一方、事件と直接関係を持たない多くの不備や欠陥が存在することも見つけ出したのである。
 同じ評価は、MSス号の海難事件の総括でも明示することができる。この二件の海難は、事件の始まり、発展模様や事件の大きさで本質的に違いがあるけれども、両艇の使命が海上の旅客輸送であり、そこには、人命の安全に重大な責任を負わされている組織があり、それを誰もが承知していることが、いかに重要であるかを、それぞれの海難は教えている。それに、この二つの事例とも、海難自体には、将来の安全運航を確立させることとなる心の持ち方に変化をもたらせただけで、十分にその意義があるものと考えてはいけない、ことを示している。安全は、規範を設けて要望を示すことや、その要求の遂行模様を追跡調査することで達せられるのだ。
 安全は、委員会が、この先、同種事件の再発防止を目的として、提案したとるべき正しい行為に従うことで成立するのである。この章では、当委員会は、その意見の中で高速艇による重大事件発生の危険性を減少させるのに役立つ手段について記述する。
 高速艇による旅客輸送では、貨物がなく軽貨状態にあって、また、常に変化する気象状況の中にあって約35ノットの速力で、昼夜共に損傷を受けやすい舟艇を運航する危険に対処するための特別な制約を受けている。
 海難を防止したり、もしも海難が実際に発生してしまった際に損傷を最少に抑えたりする作業にあっては、海難防止策が広く現場に行き渡る必要がある。一例として、当委員会は、最新式航海計器類を積極的に取り入れることを申し述べたい。この考えは、海難事件の発生を防ぐに違いない。しかしながら、複雑な高性能機器類は、個人の注意深さでは完全に解消できない別の問題を引き起こす。そのため、誤謬が発生する度合いを減少させることができる、訓練、演習、それに、安全管理制度を進んで活用する必要性が増大するのである。損傷を減少させることができると考えられる具体策の一例として、当委員会は、損傷発生後の救命筏の浮力を改善するとの観点から、形式の改造を提案したい。勧告について言及するこの章の多くの部分は、前記の討議で分割した標題と同じ分割順となっている。討議内容を理解するため、この章にある勧告案は、上記した別章にある結論、評価と並べて読み進めてほしい、と考える。
 
12.1.2 本勧告案の施行に対する障害物
 上記3.2で説明したように、高速艇に向けた法律や規則は、主に国際的な性格のものであって、IMO分化会が後押しして発展させた、HSC規則に合わせて制定されたものである。国際会議での作業方式では、その討議の場で改正を決定するのには年月がかかる。それにも増して、その同意事項は、安全水準のより厳しい要求に対し、一つあるいは幾つかの理由で興味を示さない便宜置籍国の意向に支配されることとなり、そのうちに、全同意事項は、凍結されてしまうのである。
 ノルウェー王国の海運当局が、国際的な安全規則の改正を提起することは、海運が国際的な産業である点からして、原則的に、重要で、正当なことである。それにも関わらず、新たな安全規則への必要性が明るみに出ると、ノルウェー王国の海運当局は、その必要性がどの程度のものであって、特別な、国家的要請にかなうものとして提示するべきか、国際会議の場で承認を得るまで、考慮を続けなければならない。
 伝統的に、ノルウェー王国の権威筋は、必要とあれば、特別な国家的要請を独断で実施する自由を持っていた。現在、EEA協約が、この点に関しての障害となってしまった。この件に関しては、上記3.2.3を参照されたい。最も重要な立場にある国際安全対策会議は、EF指令書に従ったEEA法によって、旅客船向けの安全基準指令書と各種船舶向けに設備基準指令書とを設定してきた。この両指令書により、独立したEEA協約締結国は、独自の安全会議が、その後に、HSC規定を取り入れて発表した安全基準よりも低い厳格さで、安全基準を採用するかもしれないのである。もしも、国の権威筋が、特別の要望を提示することを望むならば、ある種の要件が満たされなければならないし、規定された方針に従わなければならない。
 下記に記された勧告案の多くのものは、HSC規定を第一に考慮した現行の法律や規則に沿って、変更されることが前提である。当委員会は、EEA協約によって障害が発生したことで、この勧告案総てが、直ちに施行される可能性は薄いと感じている。この勧告案総てを提示した場合、海運当局が会議を変革して提示案を通過させることが望ましい。その変革が表れるまで、海運当局は、特別な国家の要請が承認されることが現実的であるかどうかを考える必要がある。
 
12.1.3 勧告案が関係する舟艇について
 下記の全勧告案は、沿岸あるいは国際航海に従事する、高速旅客艇に関係するものである。しかしながら、勧告案の多くは、救命施設や退船方法、船会社の安全管理体制についての部分など、より一般的なものにも関係している。
 
12.1.4 民間機関の資金要望
 この勧告案中の幾つかは、海運当局を筆頭として、民間の管理組織に多額の資金を必要とするものとなるであろう。当委員会は、海運当局や他の民間機関が当委員会の勧告案を評価し、可能な範囲で同案を施行するために必要とする資金を準備することの重要性を強調するものである。
 
12.2 高速艇に関する規則の適用範囲
 HSC規則の適用範囲に関する当委員会の説明は、上記3.2.4.1で行われている。そこで指摘したように、その範囲は、高速艇がノルウェー王国の沿岸に就航するのか、他のEEA国沿岸に就航するのか、あるいは、国際航海に就航するのかで異なってくる。ノルウェー王国の沿岸に就航する旅客船は、船長が24メートルか、それ以上であることが要求されている。この法令による要求は、他の二つの部類には当てはめられない。この部類に属する舟艇については、旅客船指令書の基準に従えば十分である。
 舟艇であるか、そうでないかは、HSC規則によるのである。そしてHSC規定は、その規則と共に、舟艇の安全基準に関しては非常に大事な規定である。これらの規則は、国際航海に就航する舟艇と、たとえ船長24メートル以下であっても、他のEEA国間で就航する舟艇とに適用されるので、これらの舟艇は、ノルウェー王国の海域に航行する同種舟艇よりも、より厳格な安全基準が適用されるのである。
 当委員会は、HSC規則が前示三つの部類の舟艇に対し、異なった制限を持つことの、理由をどこにも見出すことができないでいる。考えられる危険度は、舟艇が国際航海に就航していようが、別のEEA国間に就航していようが、ノルウェー王国沿岸海域に就航していようが、どれも同じだからである。
 旅客船指令書によれば、高速旅客艇の基準は、舟艇の就航海域、排水量そして速力とによって決まる。もしも、舟艇が外海で運航されるなら、大きさや速力に関係なく旅客船であり、そして、もしも、SOLASの基準による高速艇か、旅客定員が12人以上であるなら旅客船となる。外海から遮蔽された海域で運行され、最大速力が20ノット以下、且つ、排水量が500立方メートル以下の舟艇は、この指令書の基準から外れたものである。
 当委員会では、海運当局は、旅客船指令書にある基準が、ノルウェー王国沿岸海域で運航されている舟艇にも及ぶよう、HSC規則の改正を考慮すべきであるとの意見である。同規則が船長24メートル以下の舟艇には適用されないとする現行の制度は、知恵者によって自由に解釈され、巧く潜り抜けられて舟艇が建造される事態を招くように思える。
 この背後事情に対抗するため、当委員会は、旅客指令書にある高速艇の基準がノルウェー王国沿岸で運航される舟艇にも適用されるべきである、と勧告する。
 
12.3 高速艇の計画段階での要望
12.3.1 事件発生後の不沈船体化への要望
 運航目的の達成を可能とするために、高速艇は、軽量であることが必要である。このことは、衝突や乗揚時の強力な外的圧迫があった場合の抵抗力に限界が存在してしまうことを意味している。一方において、事件後に損傷部の広がりが大きくても、小さくても、それに対する浮力を維持できるように計画することが、可能であることを意味している。前記の規則を基にした、不沈船体化への要望を、当委員会で議論した。
 当委員会は、現在の不沈船体化への要望が不適切であると考え、だからこそ、より厳しい規則を制定すべきであると考える。ス号の損傷は、35ノットにも達する速力で乗り揚げた結果であることが明らかである。現在の要望範囲では、舟艇は、どんなかたちであれ、衝突ないし乗揚後には、急速に浮力を失うであろう。
 不沈船体化について規制するHSC規定は、現在改定されつつある。この件に関しての説明は、上記4.2.4.2後半部を参照されたい。Aの範疇では、不沈船体化が非常に低くなることから、不沈船体化は、舟艇がAかBの範疇に入るかどうかにかかってくることに鑑み、当委員会は、4.2.4.3後半部で、現在の提案について幾つかの重要な論評をしている。
 4.2.4.3後半部で表明した見解を基に、当委員会は、高速艇は浮力を失うことなしに、損傷に対抗する能力を持つべきであるとの損傷理論として提案された“船首損傷”の序論部を支持する。しかしながら、当委員会は、二つの範疇とも損傷の可能性は同じであるから、HSC規定のAの範疇に入るか、Bの範疇に入るかに関係なく、損傷に対する拡大解釈される要望は、同等であるべきだと考える。これ以上に、もしも、舟艇に十分な長さがあるなら、舟艇は、100%の確度で、船首損傷に対抗できる能力を持つべきである。
 海運当局は、2000年5月に開催された、第72期海事安全会議の席上で、IMOに向けて同見解を提示した。
 
12.3.2 緊急時用発電機の構成部分の設置位置
 当委員会は、生死を決定するような重要なスイッチ盤1Lに対し、中継緊急時発電機と整流器とが、一部は損傷のあった喫水線の下方と機関室の前方空間部にあるが、どうして、左舷pontoon(catamaran船の却部の浮体)に設置されたかについて記述した。この位置は、どの規則にも合致していない。しかしながら、緊急時用発電機が、pontoon(catamaran船の却部の浮体)のかなり前方に設置していたら、その位置は、許可されなかったであろう。
 当委員会の見解では、緊急時用発電機の一部がpontoonに設置されたのは、望ましいことではない。もしも、その一部が相当に低い位置に設置されていたら、この乗揚事件でその部分は、必要以上に早く水没したであろう。この発電機の構成部分は、主たる使用者がいる、操舵室装備からかなり離れ過ぎた所に設置されることになろう。
 SOLAS第II章-1規則42、1.2に従って、SOLAS船では、中継緊急時用発電機を含めて、緊急時用発電機は、最上段の全通甲板より上部で、暴露甲板から近づける所に設置されなければならない。この位置は、HSC規定のこれに該当する規則に比べ、より安全であるのは疑いのないところである。この点に関し、海上での安全度がSOLASより低い、現行のHSC規定で運航されていることに、当委員会は、いかなる正当な理由を見出すことができないのである。
 これらの状況を基に、当委員会は、海運当局がIMOにおいて、緊急時用発電機の一部の設置位置に関する、HSC規定を改正するように運動すること、を勧告するものである。そうすれば、これについての規定は、SOLASと合致することになる。これが成功するまで、海運当局は、SOLASと合致する我が国の特別な要望の提示を考えるべきである。
 
12.3.3 操船室区画の設計
 操船室区画の設計は、安全にとって最重要課題であることは明白である。それであるから、最良の結果を見つけ出せるように、十分な注意を払うべきである。
 当委員会が見る限りでは、操舵室配置設計の標準的細目を事前に決めて置く現今の建造方法は、止めたほうが良い。大規模に連続建造されるのは極めてわずかな例であり、従って、対象となる特定の舟艇には、個々の操舵室設計を採用しなければならない。
 このことは、設計技師と船会社が、一般的に受け入れられている、人間第一主義を基準として設計した場合に、良好で機能的な分離操舵室を完成させるよう、積極的に活動することが、いかに大事であるかを強く訴えている。
 この状況を基に、当委員会は、海運当局が高速艇に提案されている操舵室の分離が、HSC規定による機能上の要求を満たすかどうか評価すること、を勧告する。
 
12.3.4 床面の滑り止めに対しての要望
 多数の旅客が、上甲板の水濡れで、そこが極めて滑りやすくなり、サンデッキへの移動に非常な困難を感じたと述べている。その当時、本艇は、急峻な船首トリムとなっていた。
 この状況は、艇が傾斜しても、甲板が水濡れしても歩行に容易さを保てるように、床面に滑り止め工作を施す必要があることを示している、と当委員会は考える。どの程度までの傾斜が許されるのかを特に述べるのは難しいが、損傷後に均衡を保つための最大容認傾斜角度として、当委員会では大きくても20度程度までと考える。
 この状況を基に、当委員会は、海運当局が水濡れした床面に適切な滑り止め工作を要望すること、を勧告する。そうすれば、旅客が、相当に傾斜した甲板を横切って移動することが可能となる。
 
12.4 救命器具と退船配備について
12.4.1 旅客に対する設備についての要望
 海運当局は、ス号の海難事件の結果に鑑み、既に、救命胴衣の規格についてのより厳しい要望を取り入れるための活動を始めている。救命胴衣は、かくあるべし、とする項目は、次に記す:
−身につけるのが容易であり、紐穴あるいはそれに類したものに通す必要のない固縛紐を持っていること。そして固縛紐は手で結ぶ必要のないもの。
−ふたまた状の固縛紐を持っていること。または、これと同じ効果を有する固縛紐を持っていること。
−耐寒性があること。
 
 EEA協定によって、これらの要望は、海運当局に直ちに影響を与えることはできない。提案事項は、先ず、EEAにおいて提示手続きを通す必要がある。本勧告案についての、この手続きは、まだ、終っていない。2000年10月5日の通達書により、海運当局は、この新しい提案事項は、多分、新造舟艇には2001年1月1日から、在来舟艇には3月31日以降に受検する最初の一年定検のときから、それぞれ効力を発するようになるだろうと、述べている。同じ通達書で、エキスプレス サミナ号の海難事件の反省から、所有船会社は、直ちに、救命胴衣の交換作業を実行することを強制された。
 当委員会の意見では、規則の改正は、時宜を得たものであるし、疑いなく海上の安全に貢献するであろう、ということである。耐寒性の救命胴衣は、冷水中での生存の可能性を高めるであろう。冷水中では、浮力と同じ程度に、耐寒性は、必須のものである。
 しかしながら、当委員会は、耐寒性の救命胴衣だけで十分であるか、疑問に感じている。即ち、旅客は、水濡れ状態を続けるし、少なくても冬季には極めて短時間で、低体温症に陥ってしまうであろう、からである。
 旅客用の生存シャツは、現在でも利用可能である。このシャツは薄手で、水密性があり、靴下と、絶対に離れない手袋とが付いていて、頭巾は別になっている。シャツの他の部分は、離れてしまうことはない。今日の価格は、一着当たり600NOKである。このシャツ一式は、座席の下に救命胴衣と一緒に、容易に収納できる。
 在来型の救命胴衣と共に使用すれば−−特に、耐寒性の救命胴衣と共に−−このシャツは、旅客を水濡れから守るので、低体温症からの防衛に相当に役立つであろう。当委員会は、最近、幾つかのノルウェー王国の会社が、旅客定員に合わせた数のこのシャツを購入したとの情報を受け取っている。ス号の海難事件に照らすと、このようなシャツが、旅客に対し、より大きな安全をもたらせるであろうことは、疑いもない。
 この状況を基に、当委員会は、海運当局が国際会議場で、寒冷水域で運航される旅客船に、旅客用生存シャツを導入することを要望するための働きかけを先頭に立って行うべきである、と勧告する。これが成立するまでの間に、海運当局は、このようなシャツを設置するための国家による特別な要望を加えることを考慮すべきである。
 当委員会は、救命胴衣に関わる活動について、これ以上の提言を発表する理由を見つけられない。耐寒性についてのこれ以上の要望と別に、海運当局が要望を修正した後に、要望に対する、より厳格な試験の要求が、先ずもって決着させるべきとなろう。
 
12.4.2 乗組員に対する人命救助設備の要望
 現在、規則は、高速艇の乗組員全員に潜水着の支給を定めている。当委員会は、これは積極的な規則であると考えるが、同時に、艇を脱出する際に、乗組員が義務付けられた行動を遂行するのを妨害する形式の潜水着であってはならない。
 MSス号で、絶対に離れない手袋をつけた潜水着を着用したことが、VHFを操作するとき、あるいは、扉をあけるとき等々で、乗組員にとって問題であることが明かになった。乗組員達は、潜水着を着用するにも、困難さ−−大き過ぎるのである−−を感じたのである。
 この潜水着の試着を行った後で、当委員会は、この潜水着を着て退船作業を行うのは可能であるかを判断することができなかったし、この潜水着を着て確実さを求められる、他のどんな作業も遂行するのは可能であるかを判断することもできなかった。
 当委員会の意見では、前示の状況で使用するには、潜水着には、取り外し可能な手袋をつけておくべきであるし、また、艇内には誰もが選ぶことのできる、いろいろな寸法のものを揃えておくべきである、ということである。
 潜水着は、これを着用した者が、“船体放棄を伴った通常業務の遂行”が可能なように仕立てられているべきである。“船体放棄を伴った通常業務の遂行”が何を意味するのか、明らかではない。であるから、このことは、もっと正確に定義されるべきである。一方、“難・離脱服(anti-exposure suits)”と呼ばれるものは、これを着用した者が、“船体放棄を伴った全業務の遂行、他の者の手助け、そして救命艇を操作する作業”をそれぞれ可能とするものである。別の言葉で言えば、潜水着は、乗組員によって遂行されるべき退船作業に関係する業務を行うのに、ずーと機能的であること、ということである。しかし、要求された防寒着は、通常潜水着よりも、むしろ、数が少ないのである。
 HSC規定の第8.3.7章によると、潜水着は、救命艇(MOB艇)要員に指名された者全員に配布される、となっている。退船に関連した作業に就いた者とは別の乗組員は、潜水着またはanti-exposure suitsを配布される、となっている。救命艇に艇員を乗り込ませることが目的の一つであり、その目的のためにanti-exposure suitsが開発された筈であることを考えると、救命艇要員に指名された乗組員が、何故、anti-exposure suitsを着用しなくていいのか、理解に苦しむところである。そこで、当委員会は、この観点からして、HSC規定の改正がなされるべきであると考える。
 anti-exposure suitsへの機能上の要望は、退船作業に関連する乗組員によって遂行されるべき必要作業のために提示された要望と一致しているように見えるし、また、anti-exposure suitsについては、正しく定義されている。同時に潜水着の耐寒性についての要望内容は、沿岸を航行する舟艇にふさわしいと思える。当委員会の意見では、これは、沿岸航路に従事している高速艇には、潜水着でなく、anti-exposure suitsを備えるべきであることを示している、と言うことである。
 この状況を基に、当委員会は、潜水着については水密性の高い口元が付いていて取り外し可能な手袋が装着されているものと、海運当局がIMOに対し提言すること、を勧告する。そのことよりも、この潜水着を着用して遂行できる作業の範囲が、より、明白に提示されるべきである。(注2)
 当委員会は、anti-exposure suitsと潜水着については、HSC規定の第8.3.7章で、それぞれ、同等に明示されるべきと、海運当局がIMOに対し提言すること、を勧告する。
 当委員会は、海運当局が沿岸航行に従事する高速艇にある、潜水着でなくanti-exposure suitsについての説明書の刊行を考慮すべきである、と勧告する。
 それ以上に、当委員会の意見は、海運当局は、小柄な者にも合う潜水着を見つけ出せるように、種々の寸法の潜水着と、同時にanti-exposure suitsを船内に準備する旨の要望を提案することを考慮すべきである、ということである。
 
12.4.3 救命施設に対しての試験実施の要望
 本件海難事件が発生した際、MSス号にあっては、救命胴衣は、全く、効果がなかった。多くの者は、救命胴衣が所定の場所に格納されていないことを知ったのである。
 当委員会は、イタリア船級協会RINAが造船所のために行った試験結果と、SINTEFがベルゲンス ティデンデと海運当局のために行った試験結果とに大差があることを指摘した。
 当委員会は、このことは現在では、IMOの試験基準が十分に規格化されていないことを示していると見ている。
 当委員会の意見では、試験実施の要望は、違った解釈をする余地を与えないよう、その基準を十分に規格化すべきである、ということである。一つの正解を求めている時に、試験に人間を使用することは、下向きで浮いている者を上向かせる性能の救命胴衣に、違った性能があるような感じを抱かせるおそれがあるように思える。そのときの気分によって変わってしまう人間の行動が、多分、これに対する説明となるであろう。即ち、もしも、人間が、救命胴衣を着た自分を反転させようとするなら、たとえ小さな動作であっても、その動きで、意図的に反転させてしまうであろう、ということである。これは、この試験には、人間でなく、人形を使うべきであったことを示している。
 一般的に、試験は、繰返しが可能であるべきである。即ち、試験の手順や納得の行くまで続行するとの要望は、曖昧でなく、極めて詳細に記されていなければならないものであるから、信任を得た、且つ、正式に認められた、総ての試験施設は、最後には、同じ試験結果にたどり着く筈である。
 この状況を基に、当委員会は、結果が、試験の実施場所によって変わることのないよう、海運当局が曖昧でなく、また、客観的な試験を実施し、救命装置の是認された要望に従った試験の遂行を実現する活動をすること、を勧告する。
 
12.4.4 救命筏に対する要望
 MSス号の救命筏のうち、ただ一個だけが膨張し、それも上、下が反転して底部が上を向く状況であった。乗客二人だけが、かろうじて、これに這い上がり、何とかそれに踏みとどまっていた。
 この筏は、正しく直立して浮くように設計されたものではなかった。それで、着水のときには、簡単に反転してしまうのである。現在、高速艇には自己直立装置のある救命筏の設置は、義務付けられていない。
 しかしながら、自己直立装置のある救命筏は、1998年以降ローロー型旅客船(RO-RO Passenger Ship)には装備が義務付けられている。この件に関しては、SOLAS第III章、規則26/2.4の1996年補足を参照されたい。現在、この型の救命筏は、MSス号に装置された形を含め、全寸法にわたって入手可能である。ス号海難事件の検証では、この型の救命筏は、海上での安全の改善に役立つに違いないと感じられる。
 これを基に、当委員会は、海運当局が高速艇に自己直立装置のある救命筏を設備することの要望を提起する根拠があるかどうか、及びこれを国際会議の場において提案することが可能かどうかについて考慮すること、を勧告する。
 

注2.海運当局は、2000年2月40日にIMOの舟艇の計画と設備についての分化会において、同じ見解を提示した。







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