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資料1
Safety Massage
人身事故――救命艇訓練での事故
 
 救命艇訓練はある程度の危険が伴う業務である。残念ながらその救命艇訓練で事故が発生している。人体損傷に関する1989〜2001年の報告によると、国内およびに国際貿易に携わるノルウェー船では、人身事故発生件数(漁業、石油関連をのぞく)の1.6パーセントが救命艇訓練によるものである。190件の人身事故のうち、労働不能に至った事故は65件で、上記期間および分野で労働不能に至った人身事故発生件数全体の1.43パーセントに上る。1989〜2001年は全体的に、ノルウェー籍船で救命艇訓練での死亡事故が5件報告されており、同期間の死亡事故総数の2パーセント強を占めている。
 救命艇訓練の事故の主な原因は、不十分または誤った保守整備にあると考えられる。これは、複雑なシステムや離脱装置の不慣れが原因となっていることが多い。さらに重要な要因としては、保守整備と機能テストを救命艇訓練以前に完了せず、訓練と同時に行っていることがある。また、通常業務ではリスク評価と目的別安全対策が義務付けられているが、救命艇訓練はこうした業務とは異なる特別な業務と考えられていることが多いのも事実だ。
 
措置
1. 救命艇訓練は業務の一環として捉えるべきであり、他の業務と同様に、船内の労働環境および労働安全衛生に関する2000年8月4日の施行規則に従ってリスク評価を行うべきである。リスク評価は訓練の全体を対象とし、リスク要因の特定と必要な安全保護措置の実施が必要である。こうしたリスク評価(「作業安全分析」)は、企業および船長の責任であり、リスク評価は文書で作成しなければならない。
2. 保護管理者は、作業手順と作業明細の作成およびリスク評価に参加すること、必要な措置の実施を監督すること、そして必要に応じて新たな保護措置を提案することができる。また、the protection and environment committee(保護・労働環境委員会)は、リスクを伴う作業の特定と状況説明、リスク評価の見直しを行い、リスク評価が作業に伴う危険性の特定に妥当であるかどうか、適切な安全対策がとられているかどうかを評価する。保護・労働環境委員会は、船内での人体損傷およびニアアクシデントに関する報告を検討し、再発防止のために適切な対策が講じられるようにする。
3. 企業および船長は、船内の作業が全て安全に計画、編成、遂行されるよう責任をもつ。有効な定期業務を設け、救命艇および進水装置の検査、保守整備を体系的に確立することが重要になる。さらに、複雑なシステムを十分に把握した有能な人物が保守整備を行うようにすることが肝心である。
4. 船長および企業は、救命艇訓練においても他の作業においても、船内で作業の指示・統制を担当する人物が問題となる作業のリスク要因について必要な資格と知識を有するよう、責任をもって管理する。さらに、全ての作業員に対し、業務を安全かつ適切に行うために必要な訓練を施さなければならない。訓練は定期的に実施し、文書で記録しなければならない。
5. 人身事故を防ぐためには、落ち着いて救命艇訓練を行うことが重要になる。訓練を安全に実施するためには十分な時間を確保しなければならない。退船時の必要事項と、救命艇訓練時の必要事項とが同じであると誤解しないようにする。これに対し企業と船長は、十分な時間を確保して訓練の安全な遂行に臨んだ旨を記録できるようにする。
6. 救命艇および救命艇システムの保守整備は、救命艇訓練とは切り離して行う。保守整備が終わった段階で、必要な機能テストを行い、そのうえで救命艇訓練を開始するようにする。
7. いかなる安全装置の保守整備も訓練開始前に完了すること。注油のために救命艇の揚降が必要な場合は、訓練中ではなく、通常の保守整備作業の中で行うようにする。
8. 保守整備では、リスク評価に基づいた必要な安全措置を講じなければならない。フックやウィンチなど進水装置の部品を整備する場合は救命艇の緩やかな降下が必要となるので、「吊り索」など専用の装置を用いて固定する。
9. 格納場所から乗船位置まで救命艇を降下および揚収する場合は、できるだけ救命艇に人を乗せずに行う。
10. 救命艇は進水に先立ち、一度空の状態で水面に下げてから改めて乗船位置まで巻き上げるのが望ましい。これは常にフックと進水装置の保守整備を完了したうえで行うようにする。
 
人身事故――船内作業と切傷
 
 労働災害の中でも最もよく見られるのが切傷であり、中でも指や手の切傷が最も多い。こうした外傷の例が数多く報告されていることから、安全通達の発行を通じて対処することが有効であろう。
 人体損傷の報告では、機器を用いた場合に切傷を負うことが多いことがわかっている。作業員が打撃を受けたり身体の一部を圧挫したりした場合も切傷につながることが多い。過去の統計によると、こうした外傷が海運および漁業部門で頻繁に発生している。事故が指の切断などの重傷につながることも多く、労働不能、または辞職を余儀なくされることもある。
 
漁業部門
 人体損傷に関する統計によると、漁業部門の事故総数の30パーセント以上で手指の切傷および開放創、裂傷が発生している。これらは道具や機器の使用による圧挫、打撃、および損傷が原因となっている。漁業部門では、事故の45パーセント以上が漁業用具の使用を伴うものである。
 
海運部門
 全体的に海運部門の事故の30パーセントが切傷および開放創、裂傷である。うち25パーセントが手指の損傷である。一般的な保守整備が行われている船内労働環境においては、通常物体の落下、圧挫、道具の使用による事故が発生している。
 
措置
1. 切傷を防ぐためには、どのような作業も性急に行わないことが最も重要になる。船員が素早く作業を行うことが要求される状況やストレスは無益であることが多く、必要以上に負傷のリスクを高めるだけである。ここでは作業員の保護を重視した労働環境を創出し、作業が船員の健康を脅かす場合にそなえて作業指示書を作成することが重要になる。企業および船長は、船内の労働環境および労働安全衛生に関する2000年8月4日の施行規則に従って、船内作業がしっかりと計画されたうえで、実施されるよう責任をもつ。安全管理システム(国際安全管理規則に基づき)が求められる場合は、その枠組みを通じて上記規則の条件に従うようにする。労働者の安全衛生は、船内および職場、非番などあらゆる状況において確保されなければならない。このことから、負傷の危険性が高い状況では、定期的なリスク評価を通じて労働災害の危険性を特定しなければならない。
2. 船内の保護・労働環境委員会は、上記規則の3-2項で規定されるリスク管理の見直しなど、事故や健康被害のリスクを伴う職場および労働条件の記録をとることを任務とし、作業に伴う危険性を特定するためにその評価が適当であるかどうかを考察する。保護・労働環境委員会は、作業計画の一環に保護を取り入れるように積極的に努め、新規労働者がそのような保護に関する正しい指導と訓練を受け、各作業に関連するリスクを把握できるようにしなければならない。
3. 保護・労働環境委員会は、職場における健康被害、事故、ニアアクシデントに関する全ての報告を考察し、再発を防ぐための措置が講じられるようにしなければならない。委員会は検査報告も考察しなければならない。
4. 保護装置の使用がふさわしい場合は、常に保護装置を使用しなければならない。保護装置はCEマークを取得したもの、または同等の規格に準拠したものでなければならない。
 
 リスク評価、個人用保護具の使用、作業機器、安全装置など、予防的な保護・労働環境対策の策定を対象とした規定は、船内における労働環境および労働安全衛生に関する2000年8月4日の施行規則に、また客船、貨物船、艀に対する安全対策等に関する1987年6月15日の施行規則に盛り込まれている。







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