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ヒューマンファクター調査研究委員会第2回検討作業部会
(議事概要)
1. 日時 平成15年6月27日(金) 午後2時00分から同4時50分
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 全部会メンバー
加藤委員長、堀野委員、黒田委員、小林委員、峰委員、増田委員、吉田委員、石橋委員
4. 議題
(1)漁船における安全対策のあり方:漁船の現状について
5. 資料
(1)議事次第
(2)座席表
(3)講演用レジュメ
6. 議事概要
6.1 講演 漁船における安全対策のあり方「漁船の現状について」
 講演者 小坂 智規委員 大日本水産会常務理事
 講演目次 (1)近年の漁船の歩み
(2)わが国漁船の概要
(3)漁船の種類と操業上の区分
(4)大日本水産会と漁業の中央団体
(5)沿岸、沖合漁業と漁村の役割
(6)漁業就業者の推移
(7)漁船の海難
(8)安全確保に向けて
(1)主な講演内容
・漁業をやっている者すべてを漁船員と見ていると思うが、それは大きく違う。船員法上は、総トン数5トン未満の船舶、湖・川または港内を航行する船舶、政令の定める総トン数30トン未満の漁船に乗る人は船員とは言わない。
・大型漁船は非常に少なくて、小さい船が大半である。
・平成13年「水産白書」のデータによると、漁船の数が約21万隻あり、その中で内水面(沼、湖など)で動いているのが5000隻ほどある。内水面ではないところで動く船が20万4289隻あり、それらの船が総生産量612万7000トンの魚を捕っている。
 漁業就業者は25万2320人、沿岸漁業就業者が21万4480人、沖合・遠洋漁業就業者が3万7840人となっている。
・我が国の「漁業の種類とその操業上の区分」は、遠洋漁業、沖合漁業、沿岸漁業に区分できる。
・「沿岸、沖合漁業と漁村の役割」の一つとして、漁業は常に同じような時期に同じような場所で操業しているので、いくら漁船の真似をしていても、変なところに変な時期にいる漁船はまともな船ではないことから、漁業関係者からの通報で、密輸や密航を防ぐ成果をかなりあげていると自負している。
・漁業は沖へ向かって仕事をし、海運関係の船は港から港へ向かって動いていく。したがって、近海であれ、沿岸であれ、海運関係の船と漁船が競合する部分がある。
・「漁業就労者の推移」では、25万2000人が漁業就労者である。
 なお、その中で男子は21万人であり、その構成比率は、65歳以上と40から59歳が非常に多く、その下はほとんどいない。水産界も後継者不足に悩んでいる。
・「漁船の海難」に関し、無動力や船外機付の船が10万隻近くいる。動力船計として約12万隻とあるが、1トン未満から20トンまでの間に大半の船が入っている。
・「漁業就労者の推移」関連で、新聞記事(読売・2003年6月6日付)「77歳15日間漂流 水10リットルで耐える」とあり、救助の報道であるが、現実として「0.6トン」という小さな船に「高齢者が1人で乗り組んでいた」という現状が、記事から読み取れる。
・水産関係団体である海洋水産システム協会の会長が、「何とかして1人乗りの漁船をなくしたい。」と言っている。確かに1人より2人のほうが安全は保てると思うが、採算にのるかどうかということが目の前に大きくあり、現状はそのようになっていない。
・救命胴衣の着用運動について、漁業協同組合、その上部の団体である全国漁業協同組合連合会は一生懸命に取り組んでいる。
 6月1日から法制化されたが、その中で、救命胴衣着用の対象の範囲として「船外に転落した際に短時間で救助されるため、適切な連絡手段を確保せずに航行中の小型漁船に1人で乗船して漁労に従事している場合」は着けなければいけないことになった。このぐらいやらないと身の安全を守れないと認識している。
・平成13年の漁船海難は856隻あり、その中で20トン未満を合計すると700隻を超える。
 漁船の事故で最近いちばん目立ったのは、この間、函館で海難審判が終わった第五龍寶丸であり、160トン、18名乗りの船が網を揚げているとき転覆し、たくさんの人が死亡した。
・今年の7月中旬から海難防止強調運動が始まるが、大日本水産会としては、機関誌『水産界』に掲載したり、1週間に1回ファックスで出しているニュースレターの中で広報を行い、気をつけてもらうように努力しているが、なかなか効果的な姿にならないのが実態である。
・水産経済新聞(2003年6月12日付)の中に「北海道周辺海域での漁船海難事故は〜略〜生命と財産の尊さが漁業者に浸透してきた表れだと思う。今後も漁協など通して海難防止を積極的に呼び掛けていくが、最近、プレジャーボートなどの遊漁船が増えており、事故も発生しているので、道内の市町村を通して事故防止に努めたい。」とある。
・漁業者も当然のことながら、事故を起こしたら元も子もないということは気持ちでは分かっている。ただ現実には、魚を捕ることが第一義の仕事だと思っているところがある。
・1人、もしくは数人という非常に少ない人数で船に乗っていて、イカ釣り漁業は夜中じゅうライトを点けて働いている。朝になると何をするかというと、普通の人たちが動く頃は居眠りをしていて、港に帰るときはみんなくたびれている。機械がよくなったので、自動操舵でそのまま走っている。
 漁船海難のほとんどが見張り不十分であり、「見張りはしていません。ぶつかったら気がつきました。」と言うものが多く、気がついたら正面でぶつかっていて、弱かった方が轟沈したという話になっていくのが実態である。
・魚捕ったり船を動かしていくうえで「KKD」という言葉がある。
「KKD」は、「勘と経験と度胸」の頭文字である。これは経験則を大事にするということでまだいいが、もっとひどいのは、「勘と気合いと度胸」気合いがなかったら何ができるかというものもある。全部が全部そんなことでやっているわけではないが、そう言われている。
・事故を起こしたら元も子もないことは分かっていても、魚を獲ることに一生懸命になればなるほど、事故防止のための方に注意がいかない、注意がいきにくいことがある。
・一般の商船とはかなり異なる部分が漁船にある。いろいろなインシデントを含めて、少しでも海難が減るように努力をしていきたい。
 
6.2 講演 漁船における安全対策のあり方「遠洋まぐろ漁船の実績と安全対策」
 講演者 佐藤 安男氏 日本鰹鮪漁業組合連合会常務理事
 講演目次 1. 遠洋まぐろ漁船の勢力現状
2. 刺身まぐろ類供給量
3. 日本船の乗組員
4. 安全対策
5. 海事事例
(1)主な講演内容
・冷凍の刺し身まぐろを捕る船が世界中に1500隻ほどいる。うち日本船は500隻である。日本で食べる刺し身まぐろの6割は外国のまぐろ船が捕ったものである。外国のまぐろ船の1,000隻近くがすべて日本にまぐろを送るために操業している。
・日本の500隻のまぐろ船が1000隻の外国船と経済競争をやっているが、残念ながら日本の相対的に厳しい規制のために、規制コストが非常に高い。漁業規制はコストにはね返る。船舶安全法や船舶職員法もコストに入る。船舶職員法ももちろん18条が適用されて配乗基準があって、20条の特例で緩和している。
・遠洋まぐろ漁船は日本に2年に1回あるいは3年に1回帰ってくるかどうかということで、ほとんどが世界中の港を利用している。
・長さ50メートル、500トン未満の船に20数人が乗って1年以上も暮らす特殊な世界である。そこで通用するルールがあり、そこで通用する言葉がある。
・活躍の場は北緯60度近く、南緯50度近くまで広範囲であり、公海、あるいは外国の200海里、あるいは外国の港になる。
・そこで、ペルーの軍艦との衝突事件、アイルランド沖の事故、宇和島水産高校の実習船えひめ丸事故等、大きな事故も経験している。
・歴史的にはどんどんどんどん沖へ沖へと行ったので、かつては船の構造上の欠陥による事故があったが、今は非常に堅牢な耐航性の高いハードになっており、昔のような沈没事故や嵐にあって転覆ということは全くない。
・事故のほとんどが港近辺での座礁や衝突であり、多くはヒューマンファクターにかかわるところの事故と思われる。
・遠洋船の日本人の乗組員は、数では漁船員全体の中でマイナーなほうである。平均年齢50歳、免状持ちは当然50歳以上、乗船歴は30数年である。
 ほとんどが好きで乗っているわけではない。決して、給料がいいわけではなく、30数年間、給料が変わっていないとよくいわれる。
・漁船はたいがいそうであるが、外国往来船であっても、漁労長がトップの責任者である。どういう気象海象の状況であろうと、船をどう運航するかという実際の決定権は船頭といっている漁労長1人にある。当然、何かあれば船長が問われるが、漁労長が無茶な判断をして操業したと問われることはほとんどなくなった。
・やはり漁船における船長は、いったん何かあったときに非常に気の毒だという感じを持っている。
・遠洋船で問題となるのは、まず海技資格制度である。漁船、漁業界の悲願として、歴史的には商船と同一免状でやってきたが、実態上はやはり漁労船とその他の船との海技免状は分けるべきである。
・外国往来船ということで船舶職員法上は非常にハイレベルで、日本の制度はすべて国際基準を上回る基準を設けるとしている。
・陸地から非常に離れて仕事があるわけではなくて、陸岸からせいぜい1,000マイルぐらいのところで操業をやっている。
 従って、基地操業特例で基地から1500マイル以内でやっているのだから、いうなれば乙区域の適用をしてくださいということでやっているが、今なお外国の船籍の規制コストと比べると規制が重く、コストにはね返っている状況がある。
・世界中の海で操業を行い、魚を捕ることが仕事である。魚を捕ることの技術が最高の技術であり、運航の技術はまぐろ船にとっては二義的な問題になる。
・そういう意味で、船の運航の特殊性から考えて、やはり海技資格は漁船独特のものがあっていいのではないかと考える。
・ベテラン乗組員の多くは、海員学校、水産高校を出ていながら免状を取らなかった人達であり、どうしても残るためには海技免状を取ってもらわなければいけないが、このベテラン達は筆記試験が苦手である。
・何でこの試験が取れないか、何で落ちるのか、信じられない思いである。特に英語の試験があると途端に駄目である。
 講習会を受けよと勧めている。講習会を我慢すれば絶対に取れるからと言って受講するが、講師が当てると、答えられない。
・こんな簡単な講習や試験を通らない人達をいくら「鮪鰹連」でも無理というのが国土交通省の言い分であるが、実力は何といっても30数年やってきているし、いろいろなことを経験していて、事故の経験も豊富である。こうしたベテランに対して経歴尊重型の資格アップの制度を是非取り入れていただきたい。
・海難審判制度は非常に優れた制度だと思う。その中でも海事補佐人制度は是非とも必要である。遠洋船に限っていうと、2段階の補佐人が必要である。それは言葉の問題でもある。言葉というのは外国語という問題と方言である。
・補佐人制度はよいが、日本で審判をやっても言葉の問題、表現の問題があるのに、たいがい外国で事故が起きるから、外国でやられたときのハンディが非常にある。
・新聞に載るような事故は当然、帰ってきて保安庁から事情聴取されるが、一方の当事者は別に何があるわけではないから、おそらく型通りの事情聴取しか行われないと思われる。
・海難審判法の目的であるところの海難の原因追究ということであれば、外国で行われる裁判を必ず傍聴できるような制度がないと、いくら日本に遠洋漁船が帰ってきて事情聴取をやっても、相手方のヒアリングはないわけだから自分に都合のいいようにしか言わないだろうと考える。
・日本船のうち半分以上は外国人であり、その90数%はインドネシア船員である。インドネシア船員なくして遠洋まぐろ船は動かなくなっている。一般船員は職長クラスまで外国人になっている。
・この15年近く、まぐろの混乗が進んでおり、インドネシア語や英語をしゃべらなくてもまぐろ船の混乗はかなりスムーズにいって、今は5,000〜6,000人が乗っている。
・安全対策としては、現地にトレーニングセンターを設けて、安全衛生教育と日本語教育を毎日やっている。
・トレーニングセンターで機関構造や航海の云々を教えるが、実際はあまり役に立っていないので、乗船後の実践で教えている。実践では、日本語、食習慣、自分の安全と船の安全ということだけを教える。とにかく安全で健康で日本語が通じれば船で何とかするという乱暴な状況である。







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