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[平成15年度 ヒューマンファクター調査研究委員会検討作業部会議事要旨]
(第1回〜3回)
ヒューマンファクター調査研究委員会 第1回検討作業部会
(議事要旨)
1. 日時 平成15年6月3日(火) 午後2時30分から同5時
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 全部会メンバー
加藤委員長、堀野委員、黒田委員、小林委員、冨久尾委員、峰委員、増田委員、吉田委員、厚味委員、石橋委員
4. 議題
(1)(議事テーマ)船舶操縦におけるヒューマンファクターと事故予防対策
5. 資料
(1)議事次第
(2)座席表
(3)講演用レジュメ
6. 議事概要
6.1 講演 「船舶操縦におけるヒューマンファクターと事故予防対策」
 講演者 小林弘明委員 東京商船大学教授
 講演目次 安全運航の条件
安全運航の実現
海技者の運航能力
船舶運航技術の学習過程
海技者の技能
海技者の能力と環境条件
必要技能と実現技能
船舶操縦性能の変化と海技者の能力
船舶操縦におけるヒューマン・ファクター
航路航行操船におけるヒューマン・ファクター
回頭停止に使われた舵角
操船者による最大横偏移量
船舶の操縦性能と操船限界
海難事故と再発防止対策
運航技術の高度化の対策
BTMに求められる技能
BTM訓練の必要性
安全運航の確保のために
(1)主な講演内容
・安全な船舶運航を実現するために関連する要因として、ヒューマンファクター以外の関連要因は、すべて、環境条件によって決定される要因である。
・環境条件による安全運航への関わり方を説明する図が「The probability of ship-handling difficulty」である。
・ヒューマンファクターについて同じような形で書いたものが
「The probability of the degree of human ability」である。
・横軸で示す人間の能力を決定する要因は、海技者のライセンスのランク、海上における経験が挙げられる。同じ人間でもそのときの疲労状態や精神状態で、それよりも高い能力を示すこともあれば低い能力を示すこともある。
・1人の個人の持っている能力が上下する原因について、大脳生理学的には、脳の活性度は5段階にレベル化できる。
 Phase 0は寝ているようで全く処理ができない状態。Phase Iはドランカー(飲酒状態)、Phase II、Phase IIIが通常のわれわれの状態で、Phase IIは比較的リラックスした状態、Phase IIIになると非常に活発な情報処理をする。さらにその活発さが無秩序になってくると、前後関係がばらばらになってしまってパニック状態である。
・問題になるのはIIとIIIである。IIIの状態が長く持続できれば人間の高い能力を期待できるが、それ以上維持すると脳が非常に疲労、あるいはパニック状態のほうに動く。人間の防衛反応で、5分から10分すると自然にPhase IIの段階に戻り、そしてまた周期的にPhase IIIになるという繰り返しで現状は対処している。
・操船者が船舶を運航するとき、自分の乗っている船をある環境の中にもってくる。そして環境が要求する運航技能と、それに対して人間が発揮できる運航技能、このバランスが、結局は安全性に関係してくるのではないかと考える。
・安全運航の実現のためには、環境の要求する技能と海技者が実現できる技能のバランスにより安全性が決定するのではないかと考えられる。
 従って、安全運航実現のためには、諸条件により決まる環境条件に対応できる運航能力が必要であると考えられる。大事なことは、ヒューマンファクターを正しく把握することが船舶運航の安全性を議論する上で非常に重要なファクターになるということである。
・さまざまな場面に遭遇したとき、対面する環境条件によって操船者はいろいろな技能を発揮する。船舶運航に必要とされる基本的な技能は、大きく分けて次の9つに整理される。
 まず第1がプランニング。2番目がポジショニング、船位測定。3番目がルックアウト。4番目がマヌバリング。計画をどのくらい実現できるかどうかという技能を、ここではマヌバリングという。5番目が交通法規に関するルール。6番目が情報伝達。7番目が航海機器等の操作の能力。8番目がエマージェンシー・トリートメント。9番目がマネジメントである。
・海技者の技能は教育・訓練により向上するが、海技者の個々により技能は異なる。
 海技者の平均的技能を基準として安全性を議論する必要がある。
・海技者の能力と環境条件として、船舶運航の安全性は、環境条件より決まる必要技能を海技者が満たせるか否かにより推定できる。
 平均的な海技者の能力では、満たせないほどの必要技能を要求する環境条件となる場合もある。
 OAT(Operator Action Tree)概念により、海技者の能力を推定できる。
・環境が要求する技能と操船者が実現できる技能という2つの対応で見た場合、OAT概念により機能達成に必要な時間が長いタスクは、必要な時間が短いタスクよりも困難であると考える。
 必要技能を、機能達成に必要な時間の長さにより定量化することができる。
 実現できる技能を、機能達成に必要な時間で同じく定量化することができる。
 実現できる技能は海技資格により異なる。
・船の操縦性能が極めて悪くなると安全運航が難しくなる。
 船舶の操縦性能と操船限界から見ると、船舶の操縦性能の変化に対応して、操船者は操船目的達成のために制御特性を変化する適応制御を行う。しかしその適応制御には限界がある。人間が制御可能な範囲の操縦性能が必要である。人間の行う、あるいは行える平均的行動で安全が確保できる環境条件が必要である。
・海難事故と再発防止対策について、ヒューマンエラーはどこで起きるのかをたどっていくと、エラーを起しているのは一般社会である。一般社会が起したエラーが原因でありながら、事故が起きたときには、現場がいちばん責められる。現場で起きているわけではない。もっとバックのほうが原因でありながら、結果としてエラーという形で事故原因を追究することがままあるのではないかと思われる。
・環境条件と運航条件にかかわる事故分析例として、第拾雄洋丸とパシフィックアレス号が中ノ瀬の出口で衝突した事故と同じ状態をシミュレーターで再現し、実際のVLCCを操船しているキャプテンに操船してもらったが、結果として、雄洋丸のキャプテンが取ったのと非常に似ている操船をした。人間が期待される行動を行っても事故が起きる例である。
・事故の再発防止のためには人間が期待される平均的行動を行った場合には、事故が発生しない環境条件の改善が必要となる。
・航海環境の整備のために、整備すべきレベルをどこにおかなければいけないかを検討することが必要である。整備すべき環境のレベルは、海技者の技能レベルに依存している。
・船は、海技者の技能レベルでは対抗できないような操船環境に直面することがある。その場合、チームを組んで船を運航しようという発想があり、これがブリッジチーム・マネジメントの必要性につながる。
・ブリッジチーム・マネジメントの重要なファクターとして基本的運航技能に加え、情報交換技能及び協調的行動技能が挙げられる。
・さらにチームリーダーには、全体を統括し、チーム構成員の能力を有効活用するリーダーシップが要求される。
・経験の違いは意識の違いで、技能の差を生じる。例えば混乗船においては、外国人船員は、技能の差や物事に対する価値観に対して多様性を持っており、黙っていても共通の意識でチームが同じ目的で動くという体制が実現できなくなってきている。
 意識的にチームを同一の意識レベルに持ち上げるために、マネジメントという形でチームを結びつける必要がある。
・安全運航の確保のためには、航海環境が要求する技能と海技者が実現できる技能のバランスが重要である。航海環境が要求する技能は各種条件により決定するものであり、これらを正しく反映し、航海環境が要求する技能を推定する必要がある。海技者が実現する技能は多種多様であり、これを正確に評価するとともに、海技者に期待する技能には一定の範囲を設定する必要がある。期待される平均的能力を前提とする環境づくりが必要である。
・海難事故にかかわるヒューマンファクターを議論するとき、次の点を考慮する必要があると思われる。
 事故時に期待された人間の機能は何だったのか。ある事故が起きたときに人間に何を期待していたのかを知る必要がある。これは環境条件によって決まってくるファクターである。
 その人間にその機能を期待すること自身が妥当なのか妥当ではないのか、無理なことを期待しているのではないか。これは海技者の平均的技能との釣り合いで決まってくる。
 期待された機能は実行されたのか否かということの判別が必要である。もし期待された機能が実行されなかった場合には、実行されなかった原因は何なのかを知る必要がある。
・ヒューマンファクターを議論するときには、船舶運航技術を正確に理解し、環境が要求する技術と海技者により達成できる技術を評価することが重要である。
(2)講演に対する質疑応答、意見
◎最後のBTMは、アビエーション・インダストリーで行われているCRMと同じと理解する。飛行機のほうは結構実行されていると聞いているが、船のほうの実態はどうか。
○BRMは国際的にもうすでにほとんどの船会社で実行しており、4、5年ぐらい経つ。
◎説明図中、横軸にナビゲーショナル・ディフィカルティ、縦軸に確率をとって、Y=Axのxの線の上下で安全、不安全を非常に見事にモデル化したものがある。そこでは分布を正規分布と仮定しているが、実際にそれは測ってみると正規分布しているかどうか、また、そのあたりの研究はあるか。
○正規分布はあくまでもモデル化のために書いたものである。他船の認知の実際上の出現状態は示したようにベルシェープとは違う形をとる。また、他のものも同様である。
◎そういう研究は進められているのか。
○現在やっている。







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