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第7回ヒューマンファクター調査研究委員会
(議事概要)
1. 日時 平成16年3月8日(月) 午前11時から午後0時15分
2. 場所 日本海運倶楽部 3階303号室
3. 出席者 伊東委員、久保田委員、羽山委員を除く各委員
4. 議題
(1)ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究最終報告書(案)について
(2)その他
5. 配布資料
(1)座席表
(2)「ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研 最終報告書(案)」
6. 議事概要
(1)ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究最終報告書(案)について
 事務局から資料「最終報告書(案)」に基づき説明した。
これに対して次の質疑応答、意見があった。
◎A3版のまとめ図は非常に分かりやすい。特にハインリッヒの法則を真ん中に置き、上の30件は左側、下の300件は右側にして、しかも下に海難審判法の精神である「再発防止」と「予防安全」が赤い枠で分かりやすい。
◎海難の防止というのは、現場において海難が防止されることが必要である。この報告書のようにおおもとの形はしっかりできたが、今度はそれを一般の人たちのところにどうやって持っていき、どうやって広げていって実際に海難の防止ができる姿にするかということが非常に問題である。
○まとめの図では、左下に「現場へのアプローチヘの方策の検討」としている。報告書の中では、具体的な例として、海難審判協会は、海難審判庁で行う各種の講習会などに一緒に行き、そこで現場の方に説明し、あるいはそちらからも情報を得るということもやっていくとしている。海難審判庁のいろいろな分析集について、委員会の中では「一方的に投げているだけではないか」というご指摘もあった。いずれにせよ、特効薬といったものはなく、そういったことを1つずつ積み重ねていくことが必要と考える。
○各地方海難審判庁では、地元の海事関係団体に審判説明会を1カ所当たり年間2回ないし3回行っており、審判行政はこういう形でやっていると説明する場がある。また、審判協会のホームページを見てもらう方法もある。いずれにせよ、周知広報の具体的な手段、それをいかに浸透させていくかということは、非常に重要なことだと考えている。
○この報告書は、一般への普及ということでは、大学に所属している人間としてはありがたい資料が1つ増えたと認識している。当然、出典を明確にしたうえでだが、大学の講義でこれは使えると思う。交通事故の一環として、船も法体系は違うけれどもスピリットは同じだということで説明できる。大変いい成果を挙げたと感謝する。研究機関や教育機関の方たちにも使いやすい形と思う。例えば松岡委員の関係する日本学術会議の安全工学シンポジウムなど普及する場がたくさんあり、これらを通して、いい意味でどんどんPRしていき、実際にこれに基づいて事故を解析したとか、あるいは予防できたという実績をどんどん挙げていけば、世の中の人に分かってもらえよう。もう1つは、ホームページもいいが、もっと積極的にマスコミの方に情報を流し、どんどん取材してもらうような動きも、是非検討してもらいたい。
◎勧告制度のところで、「〜規定されている勧告制度を有効、かつ直ちに活用する必要がある」とある。委員会では外地の例も含めていろいろ勉強してきたが、海難審判庁はどの程度まで覚悟をして勧告するのか、例えば、他の省庁に対してでもそういうことをちゃんと言うつもりがあるのかどうか。
○海難審判庁自身、勧告の重要性は十分に理解している。ただ、実績が少ないという話がある。今後に繋がる話として、既に外国人船長に対する勧告が出ている。具体的に他の組織までどこまで言えるかについては難しい問題もあるが、海難の防止の目的からは、やっていく方向であろうと考える。
 勧告するについては、指定海難関係人に指定して審判に参加してもらう必要があり、指定の問題も絡んでくる。指定海難関係人の指定をしないで、いきなり勧告するということはできない。勧告は、例えばよその行政機関についても、指定海難関係人に指定して、審判に参加してもらって審判廷でやり取りをやったうえで、必要であれば勧告をするという形になる。
 例えば海技免状の問題に関して、どうしてこういう人がこんな免状を持っているのだろうということも現実にある。免状制度のあり方や問題点もあり、今後は、そういったことも視野に入れていかなければならないと考える。会社については、代表権のある者がいる組織であれば、その者を組織の代表として指定することができるが、会社の中のある担当部門だけを部分的に指定することもある。いずれにせよ、指定の問題も絡み、どこまでやるかということは非常に難しい問題であるが、今後はそうしたことも念頭において、徐々にでも改善していくべきと考える。
 もう1つは、いろいろな裁決を積み重ねてきて、それを分析することによって、ある業界団体に対して分析集のうえで勧告というよりも提言していく方向は、割とやりやすいのではないかという感じがする。
○今後、責任追求型、個人の懲戒型から再発防止対策という方向に進むということであり、会社社長といえども臆する必要は全然ないわけで、組織が悪ければ組織を追求すればよいと思う。今のような方向を、徐々にではあっても是非、拡大し推進していってもらいたい。
○1つ付け加えると、ISMコードに基づくと、乗組員の責任で事故を起こしたとしても、管理会社の責任追求ができるようなシステムになりつつあり、そのへんのことも十分考えている。
◎勧告については、その前段に要望というものがある。そうすると、今の話からは、できるだけ要望事項で処理をするというような実務的な処理になりかねない。以前から、限りなく勧告に近い要望というものがあってもいいのではないか、つまり、勧告と要望の間みたいなものがあったほうが実務的に処理しやすいのではないか考えている。今の話は、要望の拡大ということで現状の勧告制度をカバーするということになるのか。
○勧告というためには、やはり指定海難関係人に指定したうえで裁決によって勧告することになる。その他に、裁決の中で広く要望事項を入れることはできるようになっており、いわゆる勧告とは違って要望という形で書くことはできる。ただし、それをやるにも、例えば参考人として審判廷に来てもらい、意見を聞いてやるなどの手続きが必要であろう。勧告までは至らないが、こうしたことを要望したいということは、場合によってはできると考える。
◎当委員会で議論になったのは、今まで要望という形が出ていたが、要望というところで言い換えれば責任を回避していたのではないかという、厳しい指摘があった。それで勧告を大いに活用すべし、勧告を活用するためには指定しなければいけない、考え方としてはその方向でいってほしい。ただ、やり方とすれば、そこまでいくか、あるいは1つ下げて要望にするか、それは具体的なケースになると思われる。再発防止という観点から勧告は必要である。そういう点では、要望でお茶を濁すようでは困るといった意見であったと理解する。
 指定の問題もあり、基本的には勧告ということでいけるかどうか、いく必要があるかどうかということを調査の最初に判断しておかないといけないので、そういうところで一歩踏み切る必要があろう。そうすればもう少しインパクトを与えるのではないか。そういう点では、高等海難審判庁で1つの決断をして、それで主旨徹底をするということをしないと、地方任せでは大変ではないかと思う。
○海難審判庁としても、すべての事件について勧告するのも大変である。やはり事件の内容を見て、いろいろなことを考えてメリハリをつけて、これはやるべしとなればその方向でやるというスタンスでは動き出している。どれだけうまく具体化できるのかにかかっているが、今、基本的にはそういう感覚を全員が持っていると思う。
◎やがて変わっていかなくてはいけないと思うのは、海難審判庁のやっている仕事は本当に広がっていかなくてはいけない。例えば同じフロアに航空鉄道事故調査委員会がある。同委員会は8条機関であるにもかかわらず、その報告書の中に勧告と建議が大臣宛に出せるようになっている。しかも大臣はそれに回答しなければいけないと規定されている。ところが海難審判庁は3条機関であり、外局という機関は、国土交通大臣と同じ位置にあるわけである。とすると、そのフィードバックの状態に非常に大きな差がある感じがする。本来ならば総理大臣宛に勧告を出せることができ、法律に規定されている。他の行政法のいろいろな問題の中にアンバランスが起こってきているという感じがする。今回の問題ではないが、そういうことも念頭に置いておいておく必要があろう。
○3条機関、8条機関というのは念頭にはあるが、裁決で行政処分をやるとなると、海難審判法の範囲からはずれることができず、そのへんは航空鉄道事故調査委員会のやり方とはどうしても合わないところがあり、現状は仕方ないのかなという気はする。
○船の場合は飛行機や鉄道と違って現場に原因を求める場合が比較的多いから、この方法が効率的なのですよ、一緒に懲戒をしたほうがエコノミーですよという話で、そんなものかなという感じもする。勧告の話はまさに海難審判法の原点に戻る話である。海難原因は、船舶職員だけではなく、会社、その背景にある港湾整備、水路、情報提供、気象庁も海上保安庁もあるかもしれない等々いわゆる広がりがある原因をもっときちんと究明しなさい、原点に戻れという指摘であると理解する。
 そのために具体的にどうすればできるかというと、法制度を改正するかどうかは別にして、今、基本的には地方の審判官が独任官としてできるようなシステムになっている。けれども、大きい話を処理する場合、勧告制度で実際にこういう制度に変えていいのではないのかという場合も、政策を決めるのは地方審判庁だけで決めるわけではなくて、中央の部分も関与しなければできない。片方で、言われたほうとしてみれば、審判官はそんなにプロなのか、他の行政をどれだけ知っているのかという議論がある。したがって審判官も理事官も、いろいろな意味で幅広い勉強をしなければいけないし、行政施策についても幅広く知らなければいけないだろうという命題だと思う。それをカバーするためには、参審員という制度もある。
◎この委員会は、高等海難審判庁の15階の会議室で開催されてきた。いつも後ろに審判庁の職員の方などがたくさんいて、高等海難審判庁長官も後ろに座ることもあり、職員の熱心な参加意欲を肌で感じていた。
◎勧告に関連して1つ気づいたのは、指定海難関係人制度を生かそうと思うと高等海難審判庁レベルではもう遅く、地方審のときに指定しておかないと駄目だという話である。
 委員会において共有した雰囲気、やらなければならないとか、もうあとがないなという感じで危機感を持ってやってきた。それを是非、全国的に伝えてほしいと思う。どういう方法で伝えるのか、いろいろ考えているかと思うが、全員が同じ気持ちで一体感を持ってやらないと、数年後には消えてしまうかもしれないという不安も全然ないわけではない。絵に描いたモチになるとまずいと思うので、是非フォローアップをお願いしたい。
◎この委員会は2年間、ヒューマンファクターということでやってきたが、前回の委員会でも発言したが、実態は、海難審判制度そのものをある意味では問う委員会だったと自覚している。そういう意味で、やはり根幹になるのは、今ずっと話題になっている勧告制度だと思う。基本的な考え方は、すぐやるといっても法律上の問題もあるし、確かに難しいことがあるのはよく分かる。なにも明日から全部勧告を出しなさいということを言っているわけではない。ただ、姿勢として、そういうものを保っていただきたい。それから、やはり海難審判庁は是非プロであってもらいたい。船乗りがかなりいるわけで、その道のプロでないとやはり存在理由はなくなると思う。プロ意識を持ち、船の技術的な問題だけではなくて社会的な問題も含めて勉強して、きちんとした勧告を出せるような体質と、このような制度を持った機関になることを希望する。
◎当報告書をホームページで出すという話があった。多面的な側面からどういうことを考えなくてはいけないかということについて非常にいい資料として揃っているので、この報告書を広い範囲に配付することも必要であるし、もう1つ、例えばダイジェストで、こんなことを考えていて、こういう方向で進める予定であるということを海難審判協会の冊子などに載せるとか、あるいはどこかに投稿して幅広く紹介するという形でやったほうがいいと思う。せっかくこれだけいい資料が揃っているので、是非お願いしたい。
◎今までいろいろな形で出ていますが、海難審判、インシデントについての海外調査を含めてここまでの報告書が出たのは、おそらくはじめてだと思う。そういう点ではこれを大いに利用しない手はないわけであり、大いに利用してもらう方法をどんどん考えていただきたい。
◎審判庁に国際を担当する国際業務室があるということであり、全ページは大変だろうけれども、要点だけでもいいから英語でまとめてほしい旨を発言したが、それは一応、動く方向で検討中と理解してよいか。
○検討を続けている。
◎海難は特にインターナショナル、ワールドワイドなところがある。国際化の問題も報告書には書いてあり、ギブアンドテイクであり、調査に行ったところには、成果物を提供してもらいたい。
 貴重な意見がいろいろあったが、一言でいえば、もっとやらなければいけないということである。どんどんやっていっても、けして海難審判庁の権限を侵してはいない。それを自ら狭くしてきてしまっているのではないか。その結果、海事関係者、海事社会から、「何をやっているか」と言われている。海難についてこれだけの組織と金と人間を持っている機関は、わが国では海難審判庁をおいて他にないという自覚をもって、やるべきことはどんどんやっていくということが、委員全員の注文である。それがひいてはわが国の、あるいは世界の海難を予防していくことに役立つであろうという確信を持ってもらいたい。
◎報告書は、本日案で了解いただきたいと思うが、よろしいか。
○異議なし。
◎報告書案を了承する。
 ヒューマンファクター調査研究委員会を終了する。
 2年間にわたって大変貴重な意見、貴重な調査をいただいた。また部会においても、いろいろな研究、勉強会をいただき厚く御礼申し上げる。
 
小西委員長
 海難審判協会を代表いたしまして、一言ご挨拶申し上げます。
 当ヒューマンファクター調査研究委員会は、過去2年にわたり、委員の皆様方の活発なご意見・ご討議をいただきまして、本日、滞りなく最終報告書を作成することができました。このような立派な成果を挙げることができましたことは、加藤委員長をはじめとする委員の皆様方の多大なご支援・ご協力の賜物と厚く御礼申し上げます。
 ご案内の通り、IMOにあっては、海上交通の安全および海洋環境の保全は、海難および海上インシデントの事実および原因を究明することによって促進されるといたしまして、ヒューマンファクター概念に基づいた海難調査あるいは海上インシデント情報の活用化を奨励し、そのための指針を採択しています。各国ともこの指針に則った調査を行うべく、努力をしているようでございますが、海上におけるヒューマンファクターに基づく海難調査はまだまだ揺藍期にあるゆえ、海難そのものが多種多様性・複雑性を有していることから、いまだに適切な処方箋を見いだせずに試行錯誤の状態が続いているところが現状かと思われます。
 このような状況の下で、当委員会が有意義な提言をまとめられたことは、これからの海難審判協会の運営に1つの指針・指標を与えてくださったものと感謝申し上げる次第でございます。また、各国の事情を見てもこれからは勧告の時代と思われることから、海難審判庁にとりましても非常に意義のある報告書ではないかと存じます。
 当協会はこの成果を生かすために、先ほど加藤委員長からもご指摘がありましたが、海難審判庁とタイアップしながら、地方において報告書の趣旨に則った説明会を開催し、広く海難防止を呼びかけるとともに、私自身も地方に赴くなどして関係者からインシデント情報の入手に努め、その成果の実践に努めてまいりたいと思います。
 そしてその結果を皆様方にご報告できる場を持つべく、努めてまいりたいと存じております。







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