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◎提言といいつつどこに向かって言っているかということがはっきりしない。この報告書は、委員会で討議した結果を書いて世の中に出しているわけで、海難審判庁ができることとできないことを分けて書くのでは決してない。委員会としては、海難審判庁が今できるものからすぐやってもらいたい。
 ヒューマンファクターの概念に基づく海難調査手法の開発といいながら、2年間かけてこの国の海難審判制度の矛盾をある程度探ろうとした。どこに問題があるのか、その切り口がたまたまヒューマンファクターという概念であり、その結果いろいろな矛盾が分かってきた。事故を減らしていくためにはこういうことをやらなければいけないし、インシデント問題にしても、やはりそれを突き詰めていかないと事故は減らないだろう。けれどもそれを今、海難審判庁にやってくださいといっても、今の法律がある以上、すぐはできない。
 報告書はそこを分けて、これは海難審判庁が今やるべきことだ、インシデント問題については、今後社会や行政が解決すべきことをきちんと整理して書いておけばいいのではないかと思う。
 前回、「この委員会はこれで終わらないで検討していただきたい」と提言したものが79ページの7.2(1)の「望ましい」という形になったのかと思う。ここは「望ましい」ではなくて、問題があるのだから、すぐに解決はできないかもしれないが再度検討したほうがいいという形で次につなげていく。それをやってもらいたいと発言したつもりである。そのように整理すれば、今までいろいろ議論したようなことは自ずと解決がつくと思う。
◎ここで議論したことがどれだけ実現されるかというフォローアップを置いておかないと、具体化しない。
 インシデントについては、懲戒権を持っている以上は無理だから、それ以外の第三者機関に頼るしかないと言うか、あるいは懲戒権を持っていても、第三者的な機関をかませればできるのか、そのところはどうか。おそらく海難審判庁からすれば両方でやりたいけれども、理事官がやれば懲戒権の問題が出てくるので無理ではないか。つまり基本的に、懲戒権を行使する判断をしなければいけないわけで、そういうところでインシデントについてやるというのは、理事官なりにどういうものを要求するかという話になる。
○理念上はやるべきであろう。理事官や審判官は基本的に個々の事件の裁決をするために配置されている組織であり、裁決をするということと切り離して、その業務を理事官や審判官が行うのは限界がある。サブサイドのような形での業務として位置づけないとなかなか難しいと思われるが、そのときに十分にインシデントを活用できるかということに関しては、どこまでできるのか分からない。
 今の法令上は、インシデントということで、安全阻害、運航阻害事件としてぶつからなくても裁決という形でできる。裁決として取り上げてもいいのではないかという議論はあるが、今はどちらかというとそうではなくて、集めるために懲戒とは切り離してやるべきではないかという議論である。理念上はやるべきであるが、量的な問題として限界はあろう。
 議論されている第三者機関を置くというのは、もう少しシステマティックに集めたほうがいいという発想と思う。民間会社や地方の漁協や組合がシステマティックに集めて、統計的に処理をして考えていくというイメージだろうと思う。そこまで今の理事官という組織の中でできるかどうかというのは、現実問題として疑問はあります。ただ、海難審判庁の組織や理事官という組織だけでなくて、今、新しく海難分析の組織もつくっています。そういうところで受け皿としてやるということは、便法としてはあるかもしれない。
 それでもやはり審判業務という形でいえば、基本的には裁決で原因を究明して再発防止をする、その裁決を集めて大量観察をするという、いわゆる懲戒とは切っても切れない部分がやはりある。そこに付随した業務という形でやれることはやれると思うが、海難審判庁だけでやるには一定の限界があろう。そのためにやはり民間の団体の力や、今回、会議を設定した海難審判協会の力に期待をしてやってもらうのが、現実的にはうまくいくのではないかと思う。
◎IMOの場合は、一括して海難、海上、インシデントの調査となっている。言い換えれば、IMOもインシデントのほうにいっているのだからそれを取り込んでいこうということになれば、懲戒はやらなければいけない1つの仕事であり、インシデントも1つの重要な仕事というように、将来的に組み換えていくかどうかであろう。
 インシデントは予防にとっては非常に重要な問題だということになれば、むしろそういう機能のほうにシフトしなければいけない。そうすると、懲戒はある意味では全体からすればごくわずかな事件であり、かなり重大な問題だけが懲戒の対象になるという姿になるのかという感じがする。
○海難審判庁では裁決の部分についメリハリをつけようとしている。今の議論は、裁決の外側の話についてもやろうということだと理解する。方向としてはそういう方向だと思う。ただ、それがいつ、どうするかというと、裁決の中でもまだ十分ではない。もっとできるのではないか。重大な事件をもっと深く突っ込んで勧告に結びつけていくとか、もう少し役に立つものを出せる方向で考えてはいる。
◎考えなければいけないのは、IMOの決議、コードに今後どのように対応していくかという問題である。そのところをはっきりしないまま、海難審判庁でも理事官のところでも、IMOコードのチェックリストをつくって翻訳してやろうとしている。
 IMOが言っているのは、やはりインシデントのほうになる。インシデントでとにかく再発を防止しなければいけない、海難を防止しなければいけないというところに重点を移し、そこからつかまえていかないと駄目という方向の議論をしてきた。
 審判官と理事官のところで、そこがまだ整理されていない。ここをはっきりさせないと、非常に混乱を起こすと思う。110ページの「官民連携のあり方として」は、提言として行政機関というのは海難審判庁で、そういう点では踏み切ったと理解できるが。
○考え方として、そこに入ると思う。
◎「官民連携のあり方として」、海難審判庁は第三者機関に対する関わりはどうか。
○事故の防止には、海難審判庁の懲戒制度だけでは不十分であり、インシデントに付言する必要がある。これが海難防止のための理念からいった1つの終着点であるということをはっきり説明して、インシデントについて海難審判庁が付言するということにしないと、なぜ今さらインシデントを海難審判庁がやるのだろうということでは、やった意味がない。理想は理想としてはっきり掲げる。そしてそれに近づけるための提案としてインシデントを取り扱うことが必要であるということにして、ただ、現行は必ずしもそれに合致した制度体制にはなっていないという問題提起をするということでどうか。
○委員会としてどのような方向で提言するかは大事だが、ちょっと無理だと思う。少なくとも今までの議論で明らかになった、IMOの海上インシデントの調査分析、IMOのコード、決議について、海難審判庁は行政当局としてどういうスタンスを取るのかということだけは少なくとも明らかにしておかないと困る。
◎海難を少なくしようというのは、命と安全を守るということで、官庁の責任である。安全を守ろうとすると、IMOのやっている方式は悪くない、あの方法が必要であろうということは、全体の意見にある。けれども、それを実行するために今のシステムではどうしてもぶつかるところが出てきてしまう。例えばハインリッヒの300のところに手に入れる方法を、どこかにつくらなければいけない。それをも利用しながら海難の防止をやっていかなくてはいけない。そういう責任がある。
 この委員会は日本国民の代表である。いろいろ難しいことはあるがどうやって乗り越えていったらいいのかということを、報告書の中に盛り込むべき。実際にそういうものがほしいし、やるためにどんな問題があるのかは研究をした。なかなか難しいことがあり、免責性、匿名性ということがないと、これはできない。それはしかし、海難審判庁としてはできないことではない、ではそのためにはどうしたらいいのかということを、報告書の中に国民の代表として書いてほしい。
 例えば第三者機関がいっぱい出てきていて、どんな第三者機関がいいのですかというのはl10ページに書いてあるが、第三者機関を動かしていくためにどうするかというのは、あまり書いてない。
◎免責のことが問題になっているが、例えばニアミスについては、あらかじめ免責とはっきりさせた上で審判を開始するかどうかは別として、免責ができると思う。あるいは審判をやった結果、ニアミスというのは損害も何も発生していないわけであり、事案の内容から考えて懲戒するまでもないというような裁決の仕方で、免責のところはクリアできていくと考える。
 問題は、どうやってその事件を拾っていくかであり、それは今の海難審判庁の規模、体制では、とてもそこまでできないだろうと思う。確かにニアミスをつぶしていけば海難事故は非常に減っていくことは分かるが、どうやってニアミスのヒヤリハット事件を拾ってくるかというところを、何とか考えてもらいたい。
○航空界はこの領域で先輩である。旧運輸省の航空局でも、実際にパイロットが1日の業務を通して一定の基準が設けられていて報告をすることになっているが、クリアランスが何百メーター以内になったときには必ずとか、あるいは事故にはあっていないけれど報告するということが義務づけられているかどうか。実際に運航している民間航空会社の現場のパイロットと行政機関である航空局がいい意味で連携していて、マスコミにも必要があれば報道されている。それは十分参考になると思う。
 医療事故は実は後発組なのですが、インシデントレポートはさかんに研究されて実効されている。まだ部分的かもしれないが、それなりに成果は上げつつある。
 自動車交通局ではプロドライバーのヒヤリハット調査をして、1年間かけて、全部で3種類ぐらいのマニュアルをつくり、簡便法から結構込み入ったものまで、事業所の管理水準や組織の規模の大小に応じて選べるようにしてある。現在実施しているが、非常に有効である。ただし、良心的に報告したら、「お前のところの管理状態は悪いじゃないか」と責められることをみんな恐れているので、下手に運用すると、みんな口をつぐんでしまって出さない。そこのバランスをいかに取るかということで、実際の現場では非常に苦慮している。
○飛行機では、危険性の可能性も報告することになっています。報告書にある運航阻害も報告するように決められている。
 問題は、懲戒権云々について、行政処分の場合においては損害が起こったというよりも、行政の中においてマニュアルや方法論を規定している。結果として損害が起きなくても、その勤務体系の違反が懲戒の対象になってしまう。つまり、マニュアル違反になる。そのへんの区別が大変難しい。特に行政権として懲戒権を持っているので、マニュアル違反が、行政上の懲戒の対象になる。
○その部分がIMO決議A.884と日本の海難審判法とのギャップであろう。しかし考え方からいくとIMOのほうが進歩的な考え方ではないかと思う。
○航空におけるインシデント報告は、基本的に、誰が悪いかとか、けしからんという形の報告ではない。報告は、航空システムのここに問題がある、ここを検討してください、ここを改善してくださいという気持ちで出す。したがって報告を出すことによって、誰かが処罰されるとか本人が咎められるといった不安は全くない。そういう形でないと、正直な報告は出せないし、場合によっては、相手に落ち度があった場合の報告だけが出てくるとか、自分に非がないと自信のある事象だけ提出することになってしまって、事実は出てこない。
 第三者機関に官が費用を払って委託するわけですが、ただ預けっぱなしではない。そこから得たものを、必ずフィードバックしてもらうという見返りがある。それに加えて、追加的に課題を示して諮問することもある。航空の場合はそういう形になっている。
 米国の航空の例では、第三者研究機関に委託をしたが、預けっぱなしではない。
 報告制度のチーフは責任追及や懲戒には関与しないが、受け付けた段階でその報告がこの制度の範囲内であるかどうかを審査する。そして、分析作業を行い、航空システムの不具合点を中心に、ヒューマンファクターの視点から問題を抽出して定めた方法でフィードバックする。
 そういう意味では、ここでいっている「越えるべきハードル」というよりも、むしろこれを確立していくための「要件」というとらえ方がよいと思う。ハードルほどの大きな障害はなく、工夫すべき課題とか円滑に運用するための要件を見定める必要があるといったレベルの問題であると考えられるわけです。
◎今日の議論をもう一度、事務局で「インシデント」「まとめ」の試案をつくって、最終回の前に委員に送り、それについて意見をいただくことにしたい。
◎A3版のまとめ図は、この1枚に、この2年間の委員会の成果が集約されているといえる。その意味でもよりよいものとするため、真ん中に走っているオレンジの線を左のほうに寄せて、面積そのものが海難審判庁が扱う業務の範囲というように、視覚的に訴えたらどうか。業務の大半は起こった事故の原因究明と再発防止が目的で、併せて有機的に右側のインシデントも扱うとする本文と整合させる形がよい。
 この1枚の絵が、いい意味で一人歩きしても構わないようになり、むしろ一人歩きして情報発信するのだというぐらいがよい。そしてできれば併せて英語版も同時につくってもらいたい。
○意見を整理して、再度資料を送付する。







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