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第6回ヒューマンファクター調査研究委員会
(議事概要)
1. 日時 平成16年2月10日(火) 午後2時から4時15分
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 小林委員、厚味委員、久保田委員、今村委員を除く各委員
4. 議題
(1)ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究 最終報告書(案)について
(2)その他
5. 配布資料
(1)座席表
(2)ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究 最終報告書(案)
6. 議事概要
(1)ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究 最終報告書(案)について
 事務局から資料「最終報告書(案)」に基づき説明した。
 これに対して次の質疑応答、意見があった。
◎81ページ(3)で「有効な勧告制度の活用について」という用語があるが、現行の海難審判法の枠内でもできると認識している。「勧告制度」という言葉は何か新しい枠組みが必要であるかのごときに聞こえるが、そういう趣旨か。
○あくまでも現行海難審判法の範囲内である。
◎「あり方を検討する」というのは、現行海難審判法の枠内でできるということの再確認と理解してよいか。
○その通り。
○「早急に検討を開始すべき」という表現はまどろっこしいのではないか。
○「検討を開始する」というのははっきりしない。現行枠でもできるものは「もっと積極的にやったらどうか」といったように、すっきりとしたものにしてはどうか。
○勧告制度についての認識はあって、今やアクションあるのみの感じである。
◎提言をするのは委員会であるが、提言を受けるのは誰か。
○80ページ以降(2)(3)は海難審判庁に対する提言であり、受けるのは海難審判庁である。
◎(3)(1)の海難審判、(2)の裁決書の改善内容とその利用がよく分からない。勧告をもう少し有効にということが(1)で、(2)はさらに裁決書の内容もこういう形で改善する必要ありで、それから改善された裁決書の利用の仕方がア、イとなる。この部分の整理を、もう少し考えたほうがいい。
(2)も裁決書の改善と勧告制度の有効な活用は大きな問題であり、きちんと分かる形にし、IMO決議に基づく国際協力の範囲をきちんとというのはまた別立てとすべきではないか。
○同感である。中に書かれていることはいいが、もう少し分かりやすく整理をして、メリハリを大いに付けるべきである。
○ご指摘の通りである。裁決書と勧告を別の概念としての整理が強すぎた感じがする。国際関係は確かに別で、例えば(2)のイは個別の裁決ではなくて違う裁決の横断的な話なので、再度整理をする。
◎報告書は膨大な資料であるが、中核部分、あるいは論文のアブストラクト的なところだけでも英語で同時に発行して、数年にわたって訪問した欧米の各機関に送ってはどうか。日本も結構やっているじゃないかという意識をいい意味でこちらから情報発信することを提案する。
 A3版のまとめの図1枚だけでも英語にしたらいいと思う。
○検討したい。
◎7.2(1)海難調査手法のところで、四角で囲ってあるところは何を言いたいのか。書いてあることは理解できるが、具体的なイメージが出てこない。委員会でかなりの資料も揃えて議論もしたが、継続的、恒常的な機関として設置することを提言しているのか。
○この2年間、これだけの会議をしていただき、提起された問題について、今後さらに的を絞ってやりたいという意思表明でもあり、これは海難審判庁に限らず、海事という広い意味での提言である。
○例えば、新しい裁決書を出した後に、意見を募れる場があれば、また改善していくといったイメージを持っている。また、勧告制度についても同様である。恒常的にというよりも、成果がある程度出てから、こういう場がまたあればいいのかということであり、そういう意見と理解し、このような表現とした。
○報告書全体の主語がやや曖昧で、今のような議論になっている。どこに向かって何を言うのかということが曖昧である。例えば日本の社会とか海難審判庁という風に相手を特定して表現すれば、今のような議論もかなり整理されるのではないか。
○そうした方向で整理したい。
◎報告書を見て、「7」が今回の委員会のまとめで重要なところであるが、インシデントについても、ある程度の提言としてきちんとまとめられて出てこないと、分かりづらい。
○ヒューマンファクターの部分のまとめが「7」の部分で、「8」はまた新しくインシデントが始まる構成となっており、構成を再整理する。
◎提言で使っている言葉が、「取り組む」「望ましい」「必要がある」「開始すべきである」「提案する」「検討する」と、いろいろある。これはどういうグレーディングで使っているのか。提言をしていくときの強さを整理してほしい。
○言葉の使い方をもう一度整理する。
○基本的には提言であり、「必要である」か「何々をすることを提言する」と書くかどちらかにして、すぐできないものは「望ましい」と書くか、それぐらいの違いではないか。
 例えば有効な勧告制度は直ちにやってもらわなければ困るという意見が相当あり、裁決書の改善についても相当検討した。あとは海難審判庁がどのようにそれを具体化するのかというニュアンスで書く必要がある。
◎報告書は日本財団に対する報告であるが、実質的には海難審判庁の行政に役立てたいということで始まっている。実効あるものとするためにはアクションリストをつくる方法もある。ターゲット別に例えば海難審判庁がやるべきアクション、あるいは船会社がやるべきアクションなど、そういうものを思いきって用意して議論をして、合意できるところは合意するということで最後をまとめるとすっきりするのではないか。
○具体的な提案であり、自ずから言葉が整理される。整理のための作業をしたい。
○審議会というものと枠組みが若干違う。審議会は、諮問をして答申をする準行政行為的なところがあり、施行の明確化が求められている背景があるので、そういう必要がある。今回の調査研究事業の場合は、もう少し幅広い観点でものを申してもらっており、それをやらなければいけないという審議会のような枠組みになっていない。リストを作るというよりは、行間を読んでいただければ分かるものもあると考える。それが逆に足かせになって、結果的に海難防止政策に結びつかなければ意味がなくなってしまう。そういうことをしてはいけないということはないが、そういうことができるかどうかも含めて検討したい。
◎例えば勧告は、制度的に決まっているということは、世間はすでに勧告を期待していて、これをどう実施するかしないかという問題だけが残っている。勧告はすでに法文に入っているわけであり、検討ではなく、「積極的に対応する」というように、実施をどうするかという対象として取り上げたほうがいいのではないか。
 実施する問題、例えば勧告はどのように実施するかという問題と、提案として取り扱う問題、問題提起と、3つぐらいにこれを分類して整理したほうが分かりやすい。
◎海難審判庁が早急にやらなければいけないということが相当議論された。つまりヒューマンファクターという頭で早急に変えなければいけないということをはっきり書くべき。次に、それらをより有効に利用する仕方の関係がある。委員会として、そこを整理すれば、更にはっきりしてくると思う。
 海難を防止する国の機関として海難審判庁があり、海上保安庁との関係をどうするかという問題、責任主体として関係機関をどのように位置づけるかという問題、さらに民間のスタンスをどうするかをはっきりすべきである。
◎難しいと思うのは、インシデントは海難の調査ではなくてまた別の次元の話であること。A3版のまとめのチャートを見ると、国内法の免責の問題など難しい問題がある。IMOの決議が出たら日本はやらなければいけなくなる。「越えるべきハードル」を出しながら、IMO決議を実施していくうえでどういう問題点があるかについて書いてはあるが、可能なのか。
○コードについては、実行にはそれぞれの国の国内事情があり、統一的なものは難しかろうというのが現状である。
○厳密にいうと、決議には「各国の法律の範囲内で」という表現が入っており、各国の方針に任されている面がある。どうしてもやらなければいけないかどうかは微妙なところであり、国内法はまだ整備されておらず、厳密な意味で強制力は十分にあるわけではない決議と思われる。
◎A3版まとめ図のインシデントに「越えるべき云々」と書いてあるが、この報告書を受けて海難審判庁はこれをやろうとしているということなのか、やってほしいという提案なのか。「IMOの決議と云々」と書いてあるのは言葉としてはいいが、実行の可能性は大変難しいと思うが、どうか。
○IMO決議に書かれていることは理想論的な形である。海難の実態に則した調査かどうかということについては疑問を持っている国々も多い。「越えるべきハードル」という表現であるが、意図は越えなければいけないハードルという位置づけではなく、要は検討しなければいけない点、こうした問題があるという方向である。
○これについて、委員会で問題は指摘されたが、必ずしも踏み込んで議論されていない。
○方向性についての意見及びこうした問題があるという指摘があり、このように整理している。
○インシデントを処理する場合に、やはり越えるべきハードルであることは事実である。これをどう取り扱うかということは、現実の問題としてインシデントをどう処理するかという問題であり、まさにハードルだと思う。ハードルという言葉がいいかどうかは別としても、越えなければならない事実である。
◎A3版の図の左側に「背景」とあり、「あらゆる産業界」の中に「航空・宇宙、自動車、鉄道等の各交通モード」「医療、原子力発電、その他」と2つあるが、もう1つ、「プラント事故等、労働災害」つけ加えてもらいたい。これは学術面でも実践面でも歴史的には古いものであり、交通モードや医療、原子力発電よりも先に経験していたもので、ヒューマンファクターが活躍して、ほとんど問題をつぶしていったという成果をあげている。
◎A3版の図の中で、IMOの決議はどこに入るのか。右上にIMO決議が記載されているが、下との関係はどうなるのか。
○図では、その要素が全部下に及んでいるという表現をしている。
◎海難審判庁が今やっている海難の調査とインシデントのシステムは、全く別のシステムとして全く違うことである。この報告書の中に書かれていることは、海難審判庁の今の調査の状態をどうするかというところにウエイトがあり、インシデントにも触れているが、本来これは大きな別のシステムである。考え方もシステムも、新しいものをつくらなければいけない。
 A3版の図を見ると、右と左に分かれているぐらい大きなことだが、本文の内容は81ページにちょっと書いてあるだけであり、大丈夫かという感じがする。
○もともと事故の起きたものについて審判をするというのが海難審判庁の立場であり、インシデントは、事故に至らなかったけれども周辺の事故に対する蓋然性の範囲内の問題である。海難審判庁でインシデントの問題を取り扱う「必要がある」という理由づけをどこかできちんとする必要がある。本来、海難審判庁は事故の発生した問題について取り扱っているけれども、インシデントの問題についても踏み込むのだという立場をはっきりさせないと、難しいのではないか。
◎再発防止となると、インシデントも非常に有効な素材である。ハインリッヒの法則の非常に大きな貢献は、1と29を足して30は顕在化した事故で、その下にある300は顕在化していないので、潜在事故となる。この30対300では、数は圧倒的にインシデントのほうが多いが、ハインリッヒの最大の学術的貢献は、構造性に連続性があることをいったことである。30件と300件は発生背景が行動的に連続している、断絶していないということがポイントで、顕在事故が起きるのを待っていなくて、被害も犠牲もいっさい出ていない300件のインシデントを分析することによって1足す29が予測できるというのが非常に大きな貢献であり、大いに活用している理由である。
 そこにポイントがあり、海難審判庁の仕事は発生した海難の原因究明であるが、再発防止をどうするのかということまで法律で問われているのであれば、どういう原因でその事故が起こったかということをいった後で、こうすれば類似事故は防げるということを裁決書に書くべきであろうし、世間はそれを期待している。A3版の図でいうなら、左側と右側は有機的な整合性を持っていなければいけない。左側は顕在、右側は潜在なので、ハインリッヒの法則の学術的な特徴をよく認識して再整理するのが得策であろう。
 法律の目的からすると再発防止だから、インシデントは海難審判庁が扱っても構わないという気がする。明らかに起こってしまった事故の処理と、犠牲も被害も出ていない事故の扱いは自ずと違うと思いますが、今説明したような背景で有機性があるから、再発防止を任務とする役所であれば、当然、言及しても構わないのではないかという気がする。
○それについては本文で触れられている。最初のインシデントのところで航空と鉄道が法律改正をしてインシデントを入れ、わが国の海上では民間もずっとやっていることが書いてあって、最後に行政上の問題として、今の議論が触れられている。ただ、それをどういう形で処理していくのか必ずしも明確ではないが、一応スタンスは示されている。102ページ「(海難審判法上の海難調査における今後の方針)」が、海上インシデントに対するまとめであり、そこに触れられていて、その前に審判法上の問題や船員法の問題が触れられている。
○構成上、この部分をまとめに入れてはっきり連続性を持たせるほうが、報告書として一貫性が生まれる。海難審判庁がインシデントの問題をなぜやるのだという疑問に、報告書としてははっきり答えておく必要があろう。
 インシデントについては、線引きされたようなものではなく、連続性のあるものであるという考え方に立てば、潜在的には、これは1つの問題については1つのカテゴリーの中に入ってしまうのだというぐらいの考え方を持たないと、海難審判庁がこれを取り扱うという説明としては不十分になってくる。102ページのところを前文にはっきり謳っておいたほうが、読む方はそういう疑問を持たなくてすむのではないかと思う。
◎103ページの整理の仕方は、2条の第3項、航空、鉄道におけるようなインシデントを対象にしているという整理の仕方と理解してよいか。
○書き方としては102ページから書いてあるように、海難審判庁としてはいわゆる重大インシデントといわれるものは、あくまでも審判法でいう立件した事件としてなら取り扱えるよということです。内容としては重大インシデントに相当する。従って、世でいうインシデントを海難審判庁が扱うのは難しかろうという考え方で成り立っている。
○102ページの書き方は、「2条3項で(中略)と規定しているが、社会通念からは「海上インシデント」の範囲に含まれると解される。」となっている。そこを整理しておかないと、方向性としては非常に混乱しているという指摘を受ける可能性がある。
○関連性があるということは、実態、事実である。事実から逆にさかのぼれば、海難審判の中にインシデントの概念を入れることに矛盾はないと思う。それは説明や過去の歴史の問題であって、インシデント抜きに予防安全ではなくて再発防止ということもできない。
○この報告書では、それに近いことが書いてあり、ほとんどそういうスタンスで書いているとも考えられる。
○これについては、確かにまだ整理がついていないという見方もできるかと思う。インシデント情報を集めるについては官が介入すべきではないことはきちんと言っているわけで、そのへんをどう整理するかという問題が残っている。
○それに対する対応も言っている。例えばブラインドにするためにはどういう批評があるかとか、資料を直接取り扱う機関と海難審判庁をセパレートするとか書いてあり、いいのではないかと思う。
◎海難審判庁は、インシデントにあまり触れたくないという基本的なスタンスなのか。
○触れたくないというよりは、実際問題、インシデントを報告したら、それが理事官のところにいって事件になってしまうということであればまず集まらないだろうといった、現実的な話から始まっている。例えば損害がなくても安全阻害や運航阻害という事故のジャンルがあり、それは社会通念上いうならば、大きなインシデントに相当するという考え方の話であって、一般にいうどんどん情報を集めるということに関して、裏に海難審判庁が控えていては難しいだろうという部分はあると思われる。
○今の議論から、海難審判庁としてはインシデント情報を分析した結果を活用して、事故の再発防止あるいは安全性の向上に努めたいということは疑う余地はないと思う。その際、インシデント情報を集める機関は、105ページに書いてあるが、第三者機関でないと駄目だと思う。海難審判庁は、明らかに第三者機関にはなり得ないと思う。したがって、その立場はどのようにあるべきかを書き、インシデント情報を使いたいけれども、そのためには第三者機関をちゃんとつくってもらいたいということを書いたほうがいいのではないか。
○海難審判庁は懲戒権を持っているので、それとの整合性を考えると非常に難しいところがある。懲戒権がなければできるわけで、航空・鉄道事故調は懲戒権を持っていないから「こういきました」と言っている。海難審判庁は2条3項や報告の問題をこうやっている、実質的にはインシデシトに対するようなことをやっていながら、整理をするとどうしても壁にぶつかったのではないかと斟酌するが、それでいいかどうかの問題であろう。
○「越えるべきハードル」に「報告ルートの明確化」とあるが、ここをどのように明確化するかの問題である。個別の名前などをブラインドにする手法として、どういう方法があり得るかということが言われているのだと思う。そこで懲戒権との接触を切ってしまわなければ、真のインシデントに対する指導はできないことは明らかである。片方は懲戒権があるわけで、それを資料として取り扱うだけで懲戒権のほうには及ばないという形を取らないと、インシデントの議論にはならないと思う。そこで第三者機関ということになる。
◎申立以外の事件5,800件というのはハインリッヒの29の部分である。1対29で表させる上の三角形でも下のほうは使っていないので、これをまずは使ってもう少し何かできないか。それがかなりインシデント的であろうということで、あくまでも海難審判庁が扱うのは海難と称する30の部分だという考え方でまとめている。
○5,800件は、どのようなものが主なのか。例えば乗揚とか衝突とかいろいろあると思うが。
○多くは、流木がぶつかったとか船底に接触したといったいわゆる遭難と称するもので、比較的軽微なものです。大きなものは必ず調査をしている。
○その中には、いわゆるニアミスは入っていない。
○半分ぐらいは海難報告書から認知した海難である。何らかの損害が発生していないと、理事官も調査できないという状況である。
○今の海難審判の制度からいくと、いちばん大切なニアミスがほとんど出てこない。
○部会で各民間船の報告があったが、あれは全然入ってこない。
○だから民間の中で処理するのはいい。あるいはパイロット協会の内部で処理するのはいいということになる。
○各会社は、それなりに努力しているが大変であり、そういうものとの結びつきが問題である。
◎この報告書を読むと、IMOが考えている安全のものの考え方と日本の海難審判庁がやる方式と違う。インシデントは対象に入っていないが、IMOはそれをやらないと駄目だと書いてある。報告書でそこのところをどうクリアしているのかを読むと、非常に曖昧である。けれどもA3版まとめの図を見るとちゃんと書いてある。ただ、図の中に第三者機関のことばが4カ所も書いてあるが、報告書の取り組むべき課題の提言においては第三者機関が表れてこない。
 それをどのような形で提言をしていくかということを決める必要がある。委員会では、そういうものを取り入れないとこれからは駄目であるというディスカッションがあり、報告書では、どのようにそれを取り上げて提言をしていくかを決めてほしい。







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