第4回ヒューマンファクター調査研究委員会
(議事概要)
1. 日時 平成15年11月7日(金) 午後2時から5時
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 堀野委員、増田委員を除く各委員
4. 議題
(1)検討作業部会からの報告
(2)「審判開始申立以外の海難について再発防止に資する調査・分析手法の検討」について
(3)インシデント等の危険情報を共有化し、有効活用するために必要な環境整備の構築の検討
(4)その他
(1)ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活動等に関する調査研究 最終報告書(案)について
(2)海難審判庁における裁決書改善の取り組みについて
5. 資料
(1)座席表
(2)検討作業部会報告書(講演された議事録要旨)
(3)審判開始申立以外の海難について再発防止に資する調査・分析手法の検討
(4)プレジャーボートに関するインシデント情報について(ホームページボート釣り便利帳より)
(5)インシデント等の危険情報を共有化し、有効活用するために必要な環境整備の構築の検討〜インシデント情報の報告項目等について〜
(6)ヒューマンファクター概念に基づく海難・危険情報の調査活用等に関する調査研究 最終報告書(案)について
(7)裁決書の改善について(事例3件を含む。)
6. 議事概要
(1)検討作業部会からの報告
松倉部会長から3回にわたって行われた部会の概要について資料「検討作業部会報告書」に基づき説明した。
(2)事務局から資料「審判開始申立以外の海難について再発防止に資する調査・分析手法の検討」、「インシデント等の危険情報を共有化し、有効活用するために必要な環境整備の構築の検討〜インシデント情報の報告項目等について〜」に基づき説明した。
これに対して、次の質疑応答、意見等があった。
◎軽微とされる4,000件から抽出すべきアイテムは何か。
○再発防止に資する情報ということではあるが、軽微な事件約4,000件については、提供される情報の質の問題もあり、ヒューマンファクターにまで及ぶには難しいと思われる。情報の質の差は大きい。
◎基本的には情報量が少ないものはあまり取り上げないということか。
○結果としてそうならざるを得ない。ただし、申立をしなかった事件のうち、例えば浮遊物の接触事件は、港内の清掃に役立っている例もあり、情報を増やすことによってもう少し役に立てることが可能と考える。
◎実際には軽微な事件であるかどうかについては、理事官の判断か、調査段階か。
○調査段階で、理事官により一定の判断がなさせる。
◎調査の段階で、インシデントのような概念を入れているときに、事件そのものとしては軽微だけれども、事故の予兆からすると重要だというものはあるか。
○あまりないと思う。
◎海難のいろいろな分析をしたり、ヒューマンファクターを検討をしていくというのは、原因の追究である。それを防止にもってこようとするとき、資料で言うところの「(5)ニーズに応じた分析情報のフィードバック」が、今いちばん弱いと思われる。せっかくの報告なり解析をどうやって現場の海技従事者等に渡していくかが問題であるが、これについて何か新しいアイデアはあるか。
○中央で情報を収集して広報するということはいろいろな制度上、決められており、当然実行している。事件は日本全国で起きているし、世界的にも広がりがあるので、東京以外の地域に対して広報を充実させていこうという問題意識は強く持っており、例えば地方にいる方たちにもう少し活動的に情報提供をしてもらおうではないかということもメニューとしては考えている。現実にやっているのが海難審判説明会で、ある程度の回数を目標に設定して、地方の海運関係や漁業関係団体に対して、海難審判の制度や海難の状況を説明している場となっており、今後さらに充実させていきたい。
◎検討の対象範囲を広げるということは理解できたが、問題は分析内容だと思う。どういうことを分析するのかというのが重要な問題で、例えば分析の結果として、この海域は大変事故が多い、この時間帯は事故が多いということが分かったとしても、事故の再発防止とどれほどダイレクトに結びついているかという重要な部分が満たせていないということがあると思う。事故原因を求める分析ということを明確に意識して分析作業はかからなければいけない。
それとともに、フィードバックは何のためにするのかである。事故原因が明確になって、その事故原因に対して何らかの対策と結びつくという必然性があるからフィードバックするというならば、具体的なプロポーザルをすることができて、事故原因とダイレクトに結びついた対策が進められると思う。
各地方の審判官、理事官には活発にアクションしてもらうとしても、どういう位置づけでアクションしてもらうのか。それが具体的に事故の再発防止という、原因との結びつきで明確な提言ができる必要があると思う。そのためには、分析プロセスは事故原因を明確に押さえる対策が必要である。単なる集計作業的な話になってくると、この海域は事故が多いから走るときに気をつけなさいというような、教育的なものばかりが出てくる可能性があるのではないかと思う。
◎平成10年から14年の海難で立件したのが年平均6,522件で、そのよりどころの大半は海難報告書からと思われる。その他の情報源も列記してあるが、内訳は分かるか。
○正確な統計を取っていないが、内訳は、海難報告書が7割弱ぐらい、あとは海上保安庁からの通知が2、3割というところである。
◎過去の調査報告においていちばん欠けているのはフィードバックであり、情報を収集し、その分析を行い、それをまとめてそれぞれの団体に送付すればそれで完結というのがほとんどだったのではないかと思う。それで果たして安全のための情報の調査として十分かどうかという点は、大いに問題がある。安全のために実効あるフィードバックはどのような方法がいいかという点に力点を置いてフィードバックを検討することが重要ではないかと思う。つまり末端まで安全対策として十分利用できるような考え方を浸透させるべきではないか。途中下車みたいなものが今までの報告書だったのではないかと思う。
○最終的に徹底するために、例えば勧告制度を含めて制度にもやはり欠陥があるのではないかという観点が必要ではないかと考える。そのへんが最終報告書の案にあまりないようなので、今後そういう方向へ手をつけていくという考え方は是非必要ではないかと思う。ただ単に分析の方法を提示して委員会が終わりというだけでは物足りないものがあることを、事務局は是非考えてもらいたい。
○フィードバックという言葉があまり適切ではない気がする。フィードバックというのは、分析して「現状はこうです」というのを発信元に戻すのがフィードバックである。ところがこの段階は、分析して何らかのものを出そうとしていることなので、フィードバックというよりもプロポーザル(提言)だと思う。
○確かに今までのやり方では駄目だと考えて、ヒューマンファクターをベースとして海難事故の分析をして海難原因について、より本質的なものを探求しようとしているが、それをフィードバックすることまで考えると、とても現在の事務局の力だけでは及ばないと思う。むしろ現在、航空機の事故調査委員会がどのように調査の結果をフィードバックしているかとか、鉄道事故の事故調査委員会がやっている調査の結果をどのような形でフィードバックしているかということを、それぞれの専門分野に携わっている委員から、いろいろアドバイスすることが重要であろう。
○何か社会的にもう少し効果のある体制を、今の法律でできるかどうか分からないが、そういうものをつくる必要があると思う。
◎この委員会で議論していって、あまり全般的な話ではなくて、例えば操船なら操船の部分についてもう少し詰めていって、具体的にこう変えていこうという議論になるのかと思っていたが、最終の案を見てみると、かなり全般的な話になっており、可能ならば先につなげてもらいたいと思う。一言言ったからといって答えが出るものではないので、そのへんのところはやはり必要ならさらに提案なり何なりという形で詰めていかないと、そう簡単な問題ではないと思う。いずれにしても、もう少し突っ込んだ議論ができるのかなと最初から思っていたが、どうもそこのところはやや消化不良なのかなという気持ちは否めない。
◎細かい話になるが、年間6,000件以上という膨大なデータで、海難事故全部を網羅している貴重なものなので、これを是非活用してもらいたい。フィードバックの話で、分析とか何とかと細かいことをいう前に、統計データとして提示するということで、例えばハザードマップとか、それを見ると非常に参考になる。例えば海域ごとにどれだけどういう事故があってどのように分布しているのかと、そういった単純なデータでも大きな地図でバッと渡されれば、非常に参考になると思う。
◎事故の多発している海域、事故防止の措置、あるいは対応を取りなさいという勧告を出していく。例えば、海難審判庁から海上保安庁に当該海域に対して航路の設定の対応を取るようになる。審判庁ができないのであれば、そういう権限を持っているところに勧告しておくという方法でやってもらいたい。そうすれば、ハード的に事故を軽減することができると思う。せっかく持っている勧告の権限を使わない限りにおいては、海難審判法第1条で「もって事故の再発を防止する」というところにはつながらないのではないか。
◎どこをどのように減らしていくのか。そのために方法論としてヒューマンファクターの話をやってみたりCREAMで分析をしてみたりいろいろなことをやっているのは、結局はどれを見たら設置法の目的を達成していると読めるのかということである。海難審判庁と航空・鉄道事故調査委員会との大きな差は、海難審判の成り立ちは海員の懲戒であるという点であろう。航空・鉄道事故調査委員会は、建議もあれば勧告もあり、それに対して大臣はそれに答えなければならないという規定がある。海難審判では、船員の懲戒に偏重しているから、海難防止につながらない。しょうがないから、いろいろなものを集めてそれを現場に戻すような方法を考えたらどうかということで、審判の対象にならないものを含めて情報を取りましょうという話が出てきた。その状態が海難を防止するために大変役に立つと思うが、問題はそれを現場にどうやって流すかということがすごく弱い。現場にどうやってフィードバックしていくか、カウンターメジャーとして流していくかということの意欲を、この委員会で報告書の中に盛り込んでいくのかということを聞きたかった。
◎申立以外のものをどういう形で処理するかということだが、やはり1,728件のうちでエッセンスとすれば裁決書の753件があるわけで、この753件の中で出てくるもので一定のものがどこまで使えるかという話である。そういう点では、分析をしていて、それをどういう形でカウンターメジャーを取れるか。ある意味では勧告ということを頭においてどこまで分析ができるかということである。防止をするためにはデータそのものを流すということと、より有効的には勧告を行うほうがいいわけだから、勧告をする場合にどれだけこのデータが使えるかということを考えてやってもらいたい。そのためには、それぞれのアイテムをもう少しきちんと押さえておかないと、たくさん弾を撃てばいいという話ではないので、それはこれからの大きな課題ではないかと思う。
◎海員の懲戒に焦点を絞ると、日本人船員の減少の問題がある。漁船の方も含めて昔は15万人ぐらいいたのが、今は3万人以下になっている。その代わりに日本の海域には混乗船がたくさん増えている。そういうこともあって、日本の船員だけを対象としたのでは解決はできない。それが証拠に、1,700から1,800件の調査を必要とするような海難がずっと続いており、日本の海域にたくさん進出してきている人たちに対しても、ソフト的な指導をしていかなければならないと思う。
いろいろな団体ができているので、そういうところを有機的に指導する形がいいと思う。あるいは、ハード的にやる必要もある。例えば、海難の多い海域に巡視船が必要であるとか、ブイを設置するとか、航路をつくるとかである。それから港においても、来島海峡等の狭水道においても事故が多発しているところがあるので、そこについては、今度は漁業の方々と話をしながら地方整備局と話をしてもらい、勧告という形を出してもいいと思うし、勧告に至らなくてもいいが、もっと安全に航海できるような形で航路を広げるとか、ブイを設置するとか、リーティングライトを灯すといった形での対策が必要ではないかと思う。このあたりはソフトならびにハードについて、海難審判庁としていろいろな勧告を出していったほうがいいと考える。
◎先日、横浜の海難審判庁で、北朝鮮のチルソン号の船長に対する勧告を出した。だからもう一歩踏み込めば、本人だけではなく海技免許の発給機関に対して、少なくともこの程度のことをやれば船長免状に対して何らかの措置を取るべしということまでは、勧告とすればいえると思う。そこまでを踏み込んでいく。そういうものが、審判をやった事件の中に加えて、審判申立をしなかった事件、軽微な事件の中にどこまでピックアップしてくるか。軽微だと思ったけれども、本当はいろいろな事件があるのではないかという頭でもう1回とらえていく必要があろう。
申立開始以外の海難について、全部含めてどうするかという議論がなされたので、分析とフィードバックという問題とフィードバックを有効にするための一定程度の措置をしなければいけないし、勧告まではいかなくてもいいものと、勧告を当然して問題提起をすべきものがあるのではないかという指摘であったと理解する。
そうした考えから、分析のための分析では今までとあまり違わないのではないか、単につくったものを関係団体に投げているだけでは再発防止という形で有効な機能をしないのではないかという指摘もあり、この点をもう少し考えるべきである。
○勧告は海難審判法から考えていけば、すべからく海難審判を経て出されるものであって、海難審判を経ていないものをいくら分析しても、勧告としての出し方はできないのではないかと考える。
○実態はどうなのか。今まで申立以外のところで、理事官は「軽微でいいよ」というところが看過された節はないのかどうか。
○6,000件余りを理事官が扱っている中で、申立をしているのが1割ぐらいである。その申立をした事件の中を整理して、必要なものは勧告する。場合によっては不意打ち的な勧告を避けるために、事前の根回し的な措置が必要なのかも分からない。
今まで確かに勧告はほとんどやっていない。現行の審判法からいくと、海難審判をやった場合に勧告するという制度になっている。年間700件も海難審判をやっているわけですから、その中で必要なものを勧告していけば、目的は十分達成されていくと思う。海難審判をやらないものについて、海難防止のためにどういう形で勧告と実質的に同じような効果が上げられるか。そういうことも考えられていくと思うが、当面、裁決をした中で必要なものをもう少し積極的に勧告を利用して海難の再発防止に役立てていけば、おそらく海難審判庁の評価もこれからもっと上がっていくと思う。せっかくこういう機会があるのだから、他の先生方から他の分野でのフィードバックの手法をよく聞いて勉強して役立てていただきたい。
○有効な勧告をするためには、やはりヒューマンファクター的な事故調査・分析をしていかなければいけないと思う。どんな背後要因によって引き起こされたのかという背後要因をしっかり押さえることが必要である。ヒューマンファクターの視点から分析をしていくと、表面化した当事者エラーに加えて、システマティックな問題が必ず出てくる。ヒューマンファクターの分析をしていくと、必ず背後要因がたくさん出てくる。その背後要因は当事者の範疇ではなくてかなりシステマティックな問題で、海運システム全体の問題だろうと思う。従って、そういうところに踏み込んだときにはじめて、出される勧告は有効に機能してくるのではないかと思う。
鉄道と航空の考え方は、誰が罰せられるべきかを決めるのではなくて、航空システムのどこに何の欠陥があったのかということを指摘するために事故調査をやるということが明記されている。そういうことで、世界中の考え方が一致している。最近、ヨーロッパの調査に参加したが、ヨーロッパでも最近はそういう考え方が非常に浸透している。当事者エラーだけではなくて、必ずその背後には組織エラーがあるのだから、その組織エラーに踏み込まなければ再発防止にはほど遠いのだということを、熱っぽく議論しているところがあった。要するに、何か起きたときに表面的な事象だけをとらえてその表面の処置だけをするのではなくて、その背後に横たわっている組織的な問題をどうするのだという方向に進んでいるような気がする。是非そういうことも加味して、もう一歩進んだ提案ができあがるのではないか。
◎最終報告書のまとめ方について、ヒューマンファクター委員会でどこまでやるのか。つまりプロポーザルまで踏み込むか、踏み込まないかということを決めておかないと、報告ができないことになるのではないか。実効を得るためにはプロポーザルまでいかなくては意味がないことは明らかだが、一方、要望、勧告、懲戒は別途、海難審判庁内部で検討することになっているようなので、そちらのほうに回すのかどうかということを決める必要があろう。そこをはっきりさせないと、委員会としては答えを出し切れないのではないか。提言まで踏み込んでやるのであればその方向でやらなければいけないし、難しい問題も相当あるかとは思う。
○提言まで含んでやるということだと思っている。それをプロポーザルの形にする内容になるか、いろいろなニュアンスで違ってくると思うが、基本的にはそこまで踏み込むべきである。
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