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7.8 インシデント等の危険情報の提供・一般公開を促進するために求められる官民の役割、連携のあり方
(1)官側の役割
 
官側は、インシデントの報告、収集、分析、公開に対して関与しないという中立の立場でいなければならない
 
 行政機関がインシデント報告制度のシステム運用に携わることは、責任問題に関する調査も行っていることから、問題があると言わざるを得ない。
 しかしながら、海難の再発防止という行政目的をもつ官側として、インシデント報告制度構築の寄与に努めることは重要な立場であり、次のことを認識しなければならない。
(1)海運界、漁業界、プレジャーボート関係者等に対し、海難の未然防止のためには、船員の自主的なインシデント報告制度が必要であることの意識改革に対する積極的なアプローチが必要である。
(2)官側は、運用する第三者機関とは別個のものであり、その組織・運用に一切関与していないこと及び第三者機関が取り扱うインシデント情報は使用しないということを情報提供者に理解させることが必要である。
(3)インシデント報告制度が運用された際には、第三者機関からの提言等について真摯に受け止め検討する姿勢を持つことが必要である。
 
官側の役割
 
 
民側は匿名性・機動性を確保し、報告できる環境の整備及びその確保が必要
 
 船舶運航に携わる乗組員である情報提供者は、インシデント報告を匿名で第三者機関に対して直接送付することが理想であるが、すべての運航グループにまたがり、インシデント情報を共有し、分析するための要件を具備した第三者機関がまだ存在しないことと、外航・内航・漁業・プレジャーボート関係者等の各運航グループの現状から鑑みると、第三者機関に対して直接の報告は難しいと考えられる。
 そのため、匿名性を保証した上で当分の間は、船社、漁業協同組合、プレジャーボート関係団体等の機動的な協力活動を期待したインシデント報告にならざるを得ないものと思料する。
 なお、漁業界では、当分の間、漁業協同組合が中核となり、多忙な漁船員に対する、安全講習会等の開催時や、あるいは漁協内に投書箱等を設置するなどしてアンケート方式によるインシデント調査を行うことが具体的な方策として考えられる。
 また、プレジャーボート関係者についても、レジャー関係団体が中核となり安全講習会等の開催時にアンケート方式によるインシデント調査を行うことが具体的な方策として考えられる。
 更に、ISMコード適用船を管理する船社にあっては、安全関連の情報としての受理のほか匿名を保証したインシデント情報として、どの程度協力できるか検討する必要がある。
 一方、インシデント報告が船社や管理者等を経由することで「事故にならなくて良かったが、いつも危険な事をしているのではないか」と見られることの警戒感・心理的抵抗が影響を及ぼすことのないよう、積極的な啓発活動をすることが望まれる。
 また、情報提供者にインシデント報告が安全推進の一翼を担っているという達成感を持たせることが必要である。
 すなわち、インシデント報告が事故防止につながり、その結果、例えば社内の事故処理費用の減少、船舶保険料等の減額、荷主に対する社会的信頼の増幅等の経済的な貢献を具体的な数値で示すことも達成感を持たせるために有効と考える。
 
民側の役割
 
 
官民が協力し、情報提供者に対して体験した情報が事故予防策につながっていることの充実感を持たせることが必要
 
 インシデント報告が海上交通の安全施策に貢献していると認識してもらうことが必要である。
 海上交通以外の分野において、例えば、「自宅付近の街灯のない暗がりで不審者がうろうろしている」、「車で帰宅途中、見えづらい通路から、いつも車が飛び出してくることが多い」、「あそこの公園では、いつも犬を放して散歩しているものが多い。」等の身近な問題となる情報を家族、近隣の者、地域社会あるいは関係自治体等に報告することによって事故を未然に防止できる。
 海上交通分野においても、こうしたボランタリー的な考えを持ってもらうことが重要である。
 そのためには、自主的な報告であるインシデント報告が如何に重要な情報源であるかを理解してもらうなどの啓発活動が必要であり、更に、運用面等について第三者機関を中心とした官側、民側との定期的な連絡協議会等を開催して検討する必要がある。
 
官民連携のあり方







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