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6.4 プレジャーボート
プレジャーボートによる海難が急増し船種別では第1位
モーターボートによるものでは、衝突、機関故障、乗揚の順
 
 プレジャーボートの海難発生の状況は、海上保安庁の海難統計によると過去10年では急増傾向にあり、平成13年には漁船の海難を抜いて船種別では第1位となった。また、プレジャーボート海難に伴う死亡・行方不明者数は毎年20数名で横ばい傾向となっている。
 プレジャーボート海難を船型別で見ると、圧倒的に多いのがモーターボートで、次いでヨット、手漕ぎボート、水上オートバイの順となっている。
 海難の種類では、衝突海難が最も多く、次いで機関故障、乗揚等となっている。
 
海難原因のほとんどが人為的なもので、操船に必要な知識、技術、経験が不十分なことが発生要因
 
 海難発生の原因を見ると、見張り不十分、機関取扱不良、操船不適切等が多く、プレジャーボート海難の4分の3が人為的原因である。
 その発生要因を見ると、(1)多くの場合、通常海を活動の場としない人々が、マリンレジャーを楽しもうとしている、(2)海上の特殊な環境、海上におけるルール、プレジャーボートの特性等を十分理解・把握できていない状況で海に出ている、(3)操船者等が、マリンレジャーを楽しむために必要な知識、技術、経験が十分でなく、かつ、マナーやシーマンシップを身につけていないことが事故を誘発している。
 このため、プレジャーボートの安全対策のあり方としては、基礎的な教育、訓練が必要であり、理想的には船長として自ら航海に乗り出す前に、指導者の下で経験を積むことや、子どもの頃からの教育、訓練を行うことが望ましい。
 
海上保安庁、民間救助機関(BAN)、民間安全指導員等により安全対策を推進
 
 安全対策の具体的な施策で海上保安庁は、次のようなマリンレジャーの安全対策を推進している。
・安全意識と事故責任意識の啓発
・海の安全情報の提供(沿岸域情報提供システム(MICS)により携帯電話、インターネットを利用し、気象・海象情報、緊急ニュース、海に関するデータ、サービス情報、船舶の動静、船舶航行安全情報を提供)
・海上安全パトロールによる安全指導(海上保安官のほか民間による安全指導)
・事故への対応(海上保安庁による沿岸域における救助体制の強化、民間救助機関(BAN)におけるプレジャーボートの救助事業の充実強化)
 
7.1 船舶分野における海上インシデント等の危険情報制度の導入の意義・必要性
 近年、事故の予兆(インシデント)から得られた教訓を積み上げて事故を予防し、また、事故の発生に際してもこれらインシデント情報を活用して事故の分析を深度化する調査手法が広がりを見せている。
 このため、IMOでは、インシデントの調査、分析手法、体制の確立が重要との認識に立ち、3.1のとおり「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」及び「海難及び海上インシデントにおけるヒューマンファクターの調査のための指針」(IMO決議A.884(21))においては、海上インシデントについても海難と同種の取扱いをするように規定している。
 他方、船舶分野においても海事関係者全体の安全レベルを底上げするため、海難調査により明らかになった海難原因等の情報を一般に分かりやすくかつ利用しやすいように提供することに加え、さらには、航空分野のようにお互いのインシデント情報を開示し合い、安全情報を水平展開し、海事関係機関共通の安全情報として有効活用するシステムを構築していくことが急務となっている。
 これら海上インシデント情報は誰もが「できれば人に知られたくない」情報であり、これらの情報を円滑に収集・蓄積・分析し、海事関係機関のほか研究機関や諸外国の関係機関に至るまで幅広く提供していくためには、関係者が容易に参画できるシステムを構築することが不可欠である。
 
(1)海上インシデントと海難審判法との関係
(1)海難審判法上の「海難の発生」の定義
 
 海難審判法では、海上インシデントを、「海難」の範疇で定義しており、海上インシデント調査は、海難審判庁の任務の一つである。
 
 海難審判法上の「海難の発生」は、次のとおり同法第2条各号に規定されている。
 
海難審判法第2条「海難の発生」
1 船舶に損傷を生じたとき、又は船舶の運用に関連して船舶以外の施設に損傷を生じたとき
2 船舶の構造、設備又は運用に関連して人に死傷を生じたとき
3 船舶の安全又は運航が阻害されたとき
 
 同条1項及び2項に規定するものは、「損傷」あるいは「死傷」を伴うことから「海難」に相当することが明らかである。そして3項は、船舶自体に物的損傷又は人傷がなくても自船又は他船の安全若しくは運航が損なわれたときには「海難」であると定義しているものであり、これは、一般的にいう海上インシデントに相当すると解される。
 ただし、海難審判法には、用語として「海上インシデント」を定義した規定はない。
 
 海難審判法第2条3項の規定による主な海難の種類としては「安全阻害事件」及び「運航阻害事件」があげられ、それらは次のように運用している。
 
安全阻害:船舶には損傷がなかったが、貨物の積み付け不良のため、船体が傾斜して転覆、沈没等の危険な状態が生じた場合のように、切迫した危険が具体的に発生した場合をいう。
(例)
・他船と接近して航行中、航法違反をしたことにより危険な状態を生じさせたとき。
・夜間、規定の灯火を表示しないで航行又は停泊したため、危険な状態を生じさせたとき。
・正規の乗組員を乗船させず、無資格者が操船していたため、衝突又は乗揚などの危険な状態を生じさせたとき。
・航路内に停泊していたため、他船に衝突の危険を生じさせたとき。
・貨物の積み付け不良のため船体が傾斜し、転覆、沈没等の危険な状態が生じたとき。
 
運航阻害:船舶には損傷がなかったが、燃料、清水等の積み込み不足のため運航不能に陥ったなど船舶の通常の運航が維持できなくなり、時間的経過に従って危険性が増大することが予想される場合をいう。
(例)
・運航に必要な乗組員が不足していたため、航海を継続することができなくなったとき。
・砂州等に乗り揚げて船体は無傷であるが、航海を継続することができなくなったとき。
・燃料、清水等の積み込み不足のため、運航不能に陥ったとき。
・保守・点検を怠ったため、機関等の調子が悪く運転に支障を生じて航行不能に陥ったとき。
・正当な理由なくして、船舶を放棄したとき。
 
(2)海難審判法第2条3項にかかる海難の発生の認知上の問題点
 
 海上保安官、管海官庁、警察官、市町村長及び領事官は、海難の事実があったことを認知したときには、理事官への報告義務を課しているが、海上インシデントの事実を把握することが困難である。
 
 海難審判法第28条及び第29条の規定に基づき、海上保安官、管海官庁、警察官、市町村長及び領事官は、同法第2条各号の一つに該当する事実があったことを認知したときには理事官への報告義務を有している。
 理事官の海難の認知は、一般的には地方運輸局等からの船員法第19条による海難報告書及び海上保安部からの海難事件発生通知書によるものが多いが、自ら新聞、テレビ、ラジオによって認知することもある。
 特に、安全阻害又は運航阻害事件について理事官の認知手段を見ると、地方運輸局等に提出する船員法第19条の海難報告書によるものが多くなっており、その内容をみると必ず他船による曳航や他船への積み荷の移動など、実質的な損害を被ったものについて報告されているのがほとんどである。
 その他の安全阻害・運航阻害事件に該当する事件については、船舶が「燃料油の不足となったとき」、「蓄電池の過放電となったとき」、「乗り揚げて船体は無傷であるが、航海を継続することができなくなったとき」等により運航不能となり、比較的長時間の漂流や航海に支障を来したため海上保安部等が救助を行った場合に海上保安部等を通じて海難発生通知書により認知している。
 このように、海上インシデントを認知する手段が限られているため、報告されることは少ないのが現状である。
 従って、船長等の海上インシデント報告について、意識改革のしくみの整備や英国海難調査局(MAIB)のように報告を奨励する方策等、更に法的根拠の明確化を図ることを検討する必要がある。
 
(3)安全阻害事件及び運航阻害事件の処理状況
 平成14年に発生した海難のうち、理事官が認知した海難審判法第2条3項に係る海難は、安全阻害事件が5件、運航阻害事件が39件、合計44件となっている。
 これらを認知した理事官は、調査を行い、事件を審判に付すべきものと認めたときには審判開始の申立を行っているが、その申立の適否については、安全阻害の程度が重いもの又は運航阻害の時間が長時間のもの等、いわゆる重大な事態についてのみを申立の基準として運用している。
 なぜなら、一般的なインシデントの原因究明は、理事官の認知の困難性に加え、調査、海難審判維持の困難性から、実質的に対応できないことが多いと考えられるためである。したがって、当面は海難審判庁が行う原因究明は、従来どおりの重大な海上インシデントの範囲で行うものとするが、その他の一般的な海上インシデントについても、今後極力取り込むように努めることが望ましい。
 
 海難審判法第2条3項による海難の平成14年の裁決件数は、18件で裁決全体の約2パーセントである。
 
 平成14年の海上インシデント関連裁決件数は、安全阻害事件が1件、運航阻害事件(燃料油不足、蓄電池の過放電、機関故障による長時間漂流)が17件、合計18件となっている。ちなみに裁決全体(834件)の2.2%となっている。
 
 海難審判法第2条3項の規定は、IMOコードで定義している「海上インシデント」と共通する事態が多く存在することから、これら事態についてもヒューマンファクター概念に基づく調査を行うことが望ましい。
 IMOコードでは「海難調査は、民事、刑事、行政又はその他の訴訟形態から分離独立したものであるべきである。」、「調査に協力しようとしている個人が、自己負罪及びすべての結果として生じるリスクを免除されることが必要である。」と規定している。
 我が国の海難審判制度とIMOコードとの最も大きな相違点は、原因究明機関が行政上の懲戒権を有していることである。
 行政責任については、諸外国においても、その処分範囲の差異はあるとしても、原因究明機関と懲戒にかかわる機関が分離している国、同一機関で行われている国等があったり、証拠の取扱いについても同じ証拠を利用しているなど、その実体は様々であり、未だ明確な組織論についての結論が出ていない。
 従って、原因究明機関と行政処分機関が同一機関で行われることのデメリット、メリットや海上インシデントの免責の可否について、整理、検討する必要がある。







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