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(2)海難審判庁からの安全工学シンポジウムでの報告
 海難審判庁では、平成15年7月10、11日日本学術会議で開催された第33回安全工学シンポジウムのオーガナイズドセッション「事故調査体制」で、「海難審判制度の現状と時代に対応した海難調査の取り組み」と題して報告した。
 報告では、海難審判庁の海難調査、審判においては「事故発生メカニズムに関する知識」を含んでおり、更に「海難分析集」等において、解析・分析を行い、事故に伴う被害を減少させるサバイバルアスペクツに寄与するのみならず、再発防止の対策や安全教育にも寄与するものとしている。
 今後においても、更に踏み込んだヒューマンファクターや背景要因の究明に努めるとしている。
 
「海難審判制度の現状と時代に対応した海難調査の取り組み」の抜粋
 
(1〜6省略)
7. 審判行政の課題と推進
7.1. 審判行政の課題
 社会的影響の大きい海難は依然として後を絶たないが、その処理のための海難調査及び審判の期間は長期化することがあり、必ずしも国民の期待に沿った処理がなされていない。
 社会のニーズに応える質の高い海難防止施策に資するデータの提供が求められている。
 世界的には、国際海事機関(IMO)において、海難調査のための共通手法や各国間の協力を推進するために「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」(1997年)が採択されるなど、国際的な動向を踏まえた海難調査の行政展開が必要となっている。
 
7.2. 「21世紀初頭」における海難審判行政の目標
 現在、海難審判行政の目標としては、「三つの重点改革事項」を掲げ、その達成に向けて推進している。
(1)調査・審判の迅速処理による海難の早期原因究明(海難認知から裁決言渡までの平均期間を12.0月とすることを目標としている。)
(2)海難調査の分析及び海難に関する情報の利用促進
(3)IT(情報技術)活用による事務の効率化
 
7.3. 海難調査の国際協力
 国際海事機関(IMO)で採択された「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」による国際協力に基づき、日本周辺海域において多発している外国籍船の海難に対して、初期情報を通知するなど外国の海難調査機関とも互いに綿密な連絡をとって対処している。
 このような状況の中、特に韓国との二国間における連携、協力の強化を図るため、平成14年11月に韓国中央海洋安全審判院と調査協力文書を締結した。※平成15年には、シンガポール及び香港と調査協力文書を締結
 なお、各国における当該コードの運用については、長い歴史を持つ海上交通分野ということも関係し、必ずしも効果的に実施されていないのが現状である。
 
8. 「事故調査体制」における「海難審判」の「位置付け」と「はたらき」
 過去の安全工学シンポジウムでの議論における事故調査体制の様々な要因をまとめた「事故調査体制関連事項」(2002年7月第32回安全工学シンポジウム海上技術安全研究所 松岡猛)において、「海難審判」は「法的責任の追及の制度」として位置付けられている。
 海難審判の「位置付け」と「はたらき」について、海難審判庁は以下の認識の下、海難の再発防止に寄与するべく努力している。
 
(1)海難審判庁の海難調査、審判においては「事故発生メカニズムの解析」を行っている。
(2)事故調査の最終報告書として位置付けられている「裁決書」には「事故発生メカニズムに関する知識」が盛り込まれている。また、海難審判庁が発行している「海難分析集」等においては「事故発生メカニズムの解析、事故の解析・分析」を行っている。
(3)これらによって明らかにされた「事故発生メカニズムに関する知識」は、直接に、あるいは対策、安全教育等を通して海難防止に資するものであり、また、事故に伴う被害を減少させるサバイバルアスペクツに寄与するものである。
(4)行政処分としての懲戒や、勧告は、審判で明らかになった海難原因から副次的に導くものであり、行政機関としての海難審判庁に課せられた任務である。
 
9. まとめ
 海難審判庁が行うあるべき海難調査の基本は、事件発生に至った直接原因にとどまらず、間接原因や背景要因等の原因の究明とその迅速な処理にある。
 今後、海難審判庁としては、更に踏み込んだヒューマンファクターや背景要因の究明に努め、海難調査手法や裁決書の改善を図り、海難の再発防止に有効な情報を提供することとしている。
 
図 「事故調査体制関連事項」に追加した説明図
 
第32回安全工学シンポジウム(2002年7月)
OS1-1 事故責任・被害補償について
松岡猛(海上技術安全研究所)
2003.7.11 OS14-3
原図に追加した説明図
 
6.1 外航邦船
外航邦船隻数及び外航船員は減少の一途
 
 邦船外航船舶隻数は、昭和49年1,360隻から減少が続き、平成14年には、1割を切り110隻となった。
 外航船員数は、昭和49年5万7千人から減少が続き、平成14年には、3,880人となった。
 
外航船員数、船舶隻数の維移(船員統計)
 
  S49 S55 S60 H2 H9 H10 H11 H12 H13 H14
外航船員数 56,833 38,425 30,013 10,084 6,862 6,219 5,573 5,030 4,233 3,880
外航船舶数 1,360 876 682 298 182 168 154 134 117 110
 
○裁決状況(海難審判庁)
 邦船外航船舶による海難は、平成12年から同14年までの裁決件数を見ると、6件で、その内訳は、機関損傷3件、衝突が2件、乗組員死傷1件となっている。
 
○安全対策
 
大手船社はいずれも国際的な安全管理基準により管理されている
 
 我が国の商船隊は、単純外国用船、仕組船等が増加しており、残った邦船外航船舶は、大手船社にしぼられ、国際的な安全管理水準(ISMコード)により管理されている。
 
ISMコード(国際安全管理規則)
 ISMコードは、人的要因に係るソフト面での安全対策を充実・強化することにより、船舶の安全運航を実現しようとするものである。
 具体的には、船舶管理会社に対し、安全管理システム(SMS)の策定・実施、陸上担当者の選任、安全運航マニュアルの作成・船舶への備え付け、緊急事態への準備・対応手続きの確率、船舶・設備の保守手続きの確立等を行わせる一方、船長に対しては、船内における安全管理制度の実施、海運企業への報告等の義務付け等を行ったうえ、旗国(船の登録されている国)政府による安全管理システムの審査や寄港国政府による検査(PSC)等により、その実効性を担保しようとするものである。
 同コードは、船上の安全管理のみならずそれを支援する陸上部門の管理体制を含めた包括的な安全管理体制の確立を図ったものであり、事故防止対策として極めて有効なものであると考えられる。
([平成10年版 日本海運の現況]より)
 
ISMコード対象船舶
(1998年7月1日)
 国際航海に従事する船舶で、500トン以上の油タンカー、ケミカルタンカー、ガス運搬船、高速貨物船、ばら積み貨物船等並びに旅客船
(2002年7月1日)
 国際航海に従事する船舶で、500トン以上の他の貨物船、移動式海底資源発掘船
 
ハード面からヒューマンエラーを防止する対策もこれから本格化
 
 技術的な側面からヒューマンエラーの防止を図るとともに、事故原因の究明に必要な情報を確保するため、2000年12月にIMOにおいて「SOLAS条約」付属書第V章(航海計器等)が全面改正され、2002年7月に発効した。
 改正の内容は、
(a)自動船舶識別装置(AIS: 航行船舶の船名、針路、速力等の情報を陸上局や船舶との間で自動的に送受信する。)などの事故防止のための航海用計器を一定規模以上の船舶への搭載を義務付ける。
(b)事故データ確保のための航海データ記録装置(VDR: 海上版フライトレコーダ)の搭載を国際航海に従事する一部の大型船舶に義務付ける。







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