(1〜6省略)
7. 審判行政の課題と推進
7.1. 審判行政の課題
社会的影響の大きい海難は依然として後を絶たないが、その処理のための海難調査及び審判の期間は長期化することがあり、必ずしも国民の期待に沿った処理がなされていない。
社会のニーズに応える質の高い海難防止施策に資するデータの提供が求められている。
世界的には、国際海事機関(IMO)において、海難調査のための共通手法や各国間の協力を推進するために「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」(1997年)が採択されるなど、国際的な動向を踏まえた海難調査の行政展開が必要となっている。
7.2. 「21世紀初頭」における海難審判行政の目標
現在、海難審判行政の目標としては、「三つの重点改革事項」を掲げ、その達成に向けて推進している。
(1)調査・審判の迅速処理による海難の早期原因究明(海難認知から裁決言渡までの平均期間を12.0月とすることを目標としている。)
(2)海難調査の分析及び海難に関する情報の利用促進
(3)IT(情報技術)活用による事務の効率化
7.3. 海難調査の国際協力
国際海事機関(IMO)で採択された「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」による国際協力に基づき、日本周辺海域において多発している外国籍船の海難に対して、初期情報を通知するなど外国の海難調査機関とも互いに綿密な連絡をとって対処している。
このような状況の中、特に韓国との二国間における連携、協力の強化を図るため、平成14年11月に韓国中央海洋安全審判院と調査協力文書を締結した。※平成15年には、シンガポール及び香港と調査協力文書を締結
なお、各国における当該コードの運用については、長い歴史を持つ海上交通分野ということも関係し、必ずしも効果的に実施されていないのが現状である。
8. 「事故調査体制」における「海難審判」の「位置付け」と「はたらき」
過去の安全工学シンポジウムでの議論における事故調査体制の様々な要因をまとめた「事故調査体制関連事項」(2002年7月第32回安全工学シンポジウム海上技術安全研究所 松岡猛)において、「海難審判」は「法的責任の追及の制度」として位置付けられている。
海難審判の「位置付け」と「はたらき」について、海難審判庁は以下の認識の下、海難の再発防止に寄与するべく努力している。
(1)海難審判庁の海難調査、審判においては「事故発生メカニズムの解析」を行っている。
(2)事故調査の最終報告書として位置付けられている「裁決書」には「事故発生メカニズムに関する知識」が盛り込まれている。また、海難審判庁が発行している「海難分析集」等においては「事故発生メカニズムの解析、事故の解析・分析」を行っている。
(3)これらによって明らかにされた「事故発生メカニズムに関する知識」は、直接に、あるいは対策、安全教育等を通して海難防止に資するものであり、また、事故に伴う被害を減少させるサバイバルアスペクツに寄与するものである。
(4)行政処分としての懲戒や、勧告は、審判で明らかになった海難原因から副次的に導くものであり、行政機関としての海難審判庁に課せられた任務である。
9. まとめ
海難審判庁が行うあるべき海難調査の基本は、事件発生に至った直接原因にとどまらず、間接原因や背景要因等の原因の究明とその迅速な処理にある。
今後、海難審判庁としては、更に踏み込んだヒューマンファクターや背景要因の究明に努め、海難調査手法や裁決書の改善を図り、海難の再発防止に有効な情報を提供することとしている。
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