日本財団 図書館


概要
 「主管庁は、いかなる変更がこの規則に加えられることが望ましいかを決定するに当たって、役立つと判断する場合には、条約の適用を受ける船舶に生じた海難について調査を行うこと及びその調査結果を機関に提供すること。」
○1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約(MARPOL条約)第12条
概要
 「主管庁は、自国の船舶の海難が海洋環境に重大かつ有害な影響を及ぼした場合には、当該海難の調査を行うこと。」
 「各国は、条約に加えるかを決定するに役立つときには調査結果を機関に提供すること。」
 
(総会決議)
 他方、海難調査の重要性の認識については、重大海難が発生するたびに関連する次の決議が採択され、加盟国に勧告されている。
 
○「海難事故の公的調査の参加」に係る決議(A173(ES4)1968.11.28)
契機となった事故
1967.3.18 油送船トニーキャニオン乗揚事件(リベリア国船籍)
○「事故調査の実施」に係る決議(A322(9)1975.11.12)
契機となった事故
1978.3.16 油送船アモコ・カジス乗揚事件(リベリア国船籍)
○「海難事故調査への協力」に係る決議(A637(16)1989.10.19)
契機となった事故
1989.3.24 油送船エクソン・バルデス座礁事件(米国船籍)
○「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」に係る決議(A849(20)10997.11.27)
契機となった事故
1993.1.5 油送船ブレアー号座礁事件(リベリア国船籍)
○「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」に係る決議の改正(A884(21)1999.11.25)
 海難及び海上インシデントにおけるヒューマンファクターの調査のための指針を追加した。
 
 「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」については、1993年1月5日英国シェットランド島南西沖の岩礁に乗り揚げたリベリア国船籍のブレアー号事件の影響もあり、1995年に開催された第3回旗国小委員会において、豪州から提案され、その後、2回にわたる同小委員会で検討、海上安全委員会(MSC)の審議を経て、1997年の総会で決議された。
 同コードは、海難及び海上インシデントの安全調査のための共通の手法と海難に導いた寄与要因を明らかにするために各国の国内法の範囲内での協力を促進することを提案し、将来における同種海難の再発防止を目的としている。
 更に、1999年には、同コードにおけるヒューマンファクターの系統的調査について実際的な手引きを与え、効果的な分析と予防措置の策定を促すため、ヒューマンファクターの調査のための指針が追加され、将来はこの手法による調査を前提とした国際協力体制を構築していこうとしている。
 なお、IMOは、同指針の追加に当たって、次のように述べている。
(参考)
・船員は、労働と生活を同一の場にしているなど、独特な労働生活を形成している。
・歴史的にみると、国際海運界は、主として船舶の設計及び機器要件などの技術的観点から海上安全に取り組み、技術的革新に及んだが、重大海難及び海上インシデントは起こり続けた。
・最近になって、国際海運界は、過去の海難及び海上インシデントを解析し、従来の海上安全の取り組みから海事産業全体の中でヒューマンファクターの役割を認識するようになった。
・そこで、国際海運界は、ヒューマンファクターの関わりに取り組み、その一つの方法として乗組員の適正な訓練と認証に重点を置いた。しかしながら、乗組員の訓練は、ヒューマンファクターの一つにしか過ぎないことが分かった。
・海難及び海上インシデントの調査に取り組むとき、海運業界にかかわる関連要因として、例えば意思疎通、個人の能力、文化の違い、経験、疲労、健康、状況認識、ストレス及び労働条件などの寄与要因があることを理解した。
・ヒューマンファクターを大きく定義すると「あるシステムの適正な機能或いは仕事の適切な遂行に悪影響を与えるような意図した若しくは意図しない行為又は不作為」となる。ヒューマンファクターを理解するためには、機器の設計、操船者と機器の相互作用及び乗組員と管理者が準拠する手順について研究、分析する必要がある。
・本指針は、国内法令の許す限り、海難及び海上インシデントの調査に適用し、特定のヒューマンファクターを明らかにすることや分析のための手法や手順について実際的な情報を提供するものである。
 
 MAIIF(Marine Accident Investigators International Forum)は、海上の安全と海洋汚染の防止に資するため、各国の海難調査官相互の協力・連携を維持発展させ、海難調査における国際協力の促進・向上を目的として、カナダ運輸安全委員会の提唱により、平成4年から毎年開催されている国際会議である。平成11年の第8回会議は我が国の東京で開催した。
 国際的な海難調査の協力については、前述の「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」があるが、各国の海難調査制度は、独自の歴史的背景を有し、それぞれの法体系等の相違から、その実施に当たっては各国の国内法の範囲内で国際協力をすることになっている。
 これらの国際協力を行うに当たり、各国の海難調査官が一堂に会することにより、互いに面識を広め、各国の海難調査の現状や法的規制を把握し、海難調査における種々の実務的な問題点の検討等を行うことにより、国際的な海難の調査における相互協力を円滑に進めようとするものである。
 平成15年の第12回会議は、11月3日から7日までの5日間、我が国を含む27の国と地域から42名が参加して、南米チリ共和国のヴィナデルマーで開催された。
 今回の会議においては、「海難及び海上インシデントの調査のためのコード」への対応については、国際法と各国の国内法との関係において解決すべき問題があり、各国調査官による意見交換が行われ、今後、強制化に至るまでに一層議論を深めていくことが了承された。
 
 MAIFA(Marine Accident Investigators Forum in Asia)は、海難調査制度の相互理解を深めること、アジア地域における海難調査協力体制の確立に寄与すること、海難調査にかかるアジア地域関係国の意見を集約し国際会議において強く反映させること、開発途上国への海難調査体制強化の支援を行うことを目的として我が国が提案し、韓国、中国が賛同して立ち上がった会議であり、平成10年(東京)から毎年開催されている。
 平成15年の第6回会議は、9月18日から19日までの2日間、我が国を含む8の国と地域から16名が参加して、香港で開催された。
 今回の会議では、我が国から「年間の活動実績の報告」と「裁決事例のプレゼンテーション」を行ったほか、各国の代表が「海難調査制度」、「海難調査事例」、「調査官の訓練」等についてプレゼンテーション等を行い、更に、アジア地域における海難調査協力についての意見交換を行った。
 
 以上のように、国際海事社会において、海難調査に関する調査協力のあり方、及びヒューマンファクター概念を導入した効果的な海難分析と予防措置の策定等、海難調査手法の国際標準化の必要性が高まっている。
 海難審判庁は、海難原因を明らかにする我が国唯一の海難調査機関として、国際海事機関(IMO)、国際海難調査官会議(MAIIF)、アジア海難調査官会議(MAIFA)に積極的に参画し、海運先進国として国際的に責務を果たしている。
 
海難調査における国際協力体制







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION