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2.4 ヒューマンファクター概念を導入した海難調査手法の実例
 当委員会及び同検討作業部会においては、様々な事故原因等の調査分析手法及び調査の方法が紹介された。(巻末資料11〜14頁参照
 海難調査手法として具体的に示された例は次のとおりである。
 
 
ヒヤリハット例
 狭水路を航行中、対航船に対して、交信するが反応せず。衝突回避のため左転するが、正船首方に引船列が存在し、危険を感じて、減速右転して衝突を回避した。
 
狭水路で複数の船舶接近
状況図
 
 VTA調査手法を活用すると、事象の関連性の中で、どの時点で問題が解決されれば、ヒヤリハットが発生しなかったのか等が解析できる。
 
VTA解析−狭水路で複数の船舶接近
 
 具体的な海難事例に基づき、時系列、事象別、ヒューマンファクター及びその他をフローチャートで表示すると、以下のとおりになる。
 
事件の概要
 霧のため、視程約400メートルとなった視界制限状態の乙港の可航幅約200メートルの甲水路内において、約10ノットの速力で入航中の総トン数8,581トンのロールオン・ロールオフ貨物船A丸と水先人が乗船し引船に先導されて約5ノットの速力で出航中の総トン数24,278トンの自動車運搬船B丸とが衝突した。
 
〔航跡図〕
 
フローチャート表示内容の概略
(A丸側)
・C社長が秘書を通じて直接指示をE船長に出した。E船長は、その結果、精神的負担を感じたため、安全な速度にしなかった。
・D三等航海士は、機器故障の修理をしていたため疲労していた。その疲労とE船長の配置転換の指示がなく、更に、海図の改補をしていなかったので不安になっていたため、集中力が欠如していた。
・D三等航海士が、B丸を起重機船と取り違えているが、E船長がD三等航海士に報告に関する指示をしていない。
・E船長は、岸壁工事が気になっているが、15時38分と39分にレーダーによる動静監視が不十分となっていた。
(B丸側)
・F水先人は、本船乗船前に18時間の連続作業をしており疲労していたことに加え、入航船の情報をとっていなかった。G船長とも打ち合わせをしていなかった。引船船長からも十分な連絡がなかった。
・F水先人が、15時38分パイロットチェアに座ったことは、疲労が原因と思われるが、その結果レーダーによる動静監視が不十分となっている。
・G船長は、岸壁工事が気になっていたため、目視によりその方向のみの見張りをしていた、また、F水先人をかなり信用していた点から、A丸に注意を払っていなかった。
 
 なお、F水先人、E船長は、どちらも霧中信号を行っていない。
 
 このような状況から、両船とも速力を減ずることなく航行し、衝突直前には、衝突回避措置を講じたが間に合わず衝突した。
 
フローチャートの説明
 
(拡大画面:96KB)
 
 海難事例のフローチャートは以上のとおりであるが、その他、理想としては「各事象相互間の重要度」を、例えば順位を付けて記入したいと考えている。







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