51. 鋭い反応に緊張
南京大学 974 新崎晴子
南京大学は本年度の中国第3位の国立総合大学であり、中国各地から優秀な学生が集まっており、なかなか学習意欲が旺盛である。
日本語学科の学生は3年生は38名、それ以外の学年はそれぞれ約25名ほどである。すでに日本語が聞けて話せるので、授業も日本語で行えば良いので楽なはずだが、なかなか鋭い反応をしめすことがあり、こちらは毎時間緊張している。私の担当は2年生の日語会話、写作、3・4年生の日語精読、4年生の古典語法である。2年生の会話は前任の先生のアドバイスにより、「標準日語会話(高等教育出版)」を用いている。それに主題を決めた発表を入れたり、テーマを決めて2名で話させ発表させたりしている。
写作は毎週600〜800字の作文を書かせてまちがいやすい表現の指導を次の授業でしている。精読は現代文の教科書数冊のなかから教材を選んでいる。
前期は読解だけを行ったが、後期にはビデオなども教材にとりいれたいと思っている。古語語法は教科の古典文法の書を用い教材を作った。後期には大学院の古典の授業も受け持つ。
52. 不可欠な若者文化の知識や情報収集
東北育才学校 995 太田美紀子
遼寧省重点実験中・高校は、熾烈な受験戦争を突破した優秀な生徒と、金を積んで入った生徒の学力差が著しい。10科目に日本語授業が週8時間加わるので生徒の負担は重く、睡眠不足と蓄積疲労が気の毒。
私の担当は中学1年49人、高校1年37人、国際部小中4人(両親の片方が日本人)の複式学級である。
テキストは中学2年までは「みんなの日本語」で、中3と高校生の指導は自主教材となる。
高1の前期は日本語能力検定1級の受験指導だったが、学校からの招聘が遅れ、受験日まで1ヶ月半しかなかったので夜も補講した。
中学1年は50音からテキストで進めるが日本語教師養成学校で学んだ方法も取り入れている。日記も課題とした。49名の添削は楽ではないが、私からのコメントや返事が励みになっているようで、私自身もこの交換日記を楽しんでいる。授業以外の接触は出来ないので、会話力を高めたいと考え、生徒の午睡時間に「日本語コーナー」を設け、学年の枠も外して自由参加とした。高校卒業後日本の大学へ留学する彼等の質問は多岐にわたり、時には進路相談に乗ることもある。マンガやアニメ、流行歌などの若者文化の知識や情報収集も不可欠である。
53. 日本人教師は私一人 孤軍奮闘
長春税務学院 659 光永勝郎
本学院は名前にある通り税務、会計、金融など経済系の8学科に、発足して未だ2年目という外国語学部を加えた9学科からなる大学である。日本語学科も、3、4年生は経貿日語科という名称で、ビジネス日本語を中心とした日本語教育に特色がある。従って、カリキュラムも、西方経済(近代経済)、貿易実務、日本経済概況、数学など日本語以外の科目に相当の時間を割いている。他大学の日本語学科に比べると日本語のコマ数は2/3ぐらいにしかならない。しかし、学生たちの学習意欲は旺盛で、このハンデイにも拘わらず、日本語のレベルは他大学に決してひけをとることはない。
1、2年生は名称こそ日本語科に変わったものの、カリキュラム構成は今まで通りとし、この特色は守る方針と聞いている。
私の担当は学期によってかわるものの、今までやったものを列挙すれば、1〜3年大学院生の会話、基礎作文、応用作文、日本概況、日本経済概況、卒論指導となる。持ち時間も徐々に増えて、先学期はついに18時間となり、なんとか減らしてくれるように頼み込んだが、今学期は17時間で、それでも1時間は減らしてくれた。日本人教師が私一人なので仕方がないとも思うが、学校側も時間講師等の対応を考えると言っている。
54. 私立学校経営上の理由は分かるが・・・
青島濱海学院 927 山出明紀
当校への赴任2年目で、2年生の会話3クラスと2年生の「日本世情」1クラスを担当しています。今年度から応用外語系は東語系(日、韓)と西語系(英、独)に分割・再編され、授業も選択制を採り入れています。新年度入学生が増えたため、全学生12,000人にふくれ上がりました。
会話クラスは30人、35人、54人で、「日本世情」は80人クラスとなっています。私立学校なので、経営上の理由は分からないでもありませんが、選択制を採用すればそれだけ教室や教師の数も増やさなければなりません。そういう面で、やはり施設・設備・教職員定数の充実が遅れているように思います。
授業に関しては、一般的に日本人教師への信頼度は高く、「お任せ」の感じで日常の授業を行っています。経済日本語科の学生は総じて学習意欲が強く、学習態度もいいのですが日本語専科の学生の中には学習意欲に欠ける学生もいます。
大体、卒業後は日系企業に就職したいという希望を持っていて、そのために「日本語能力試験」を受験する学生は多いと言えます。まだ1級合格者の実績はそれ程ではありませんが(昨年10名くらい)、私たちは2年生で2級、3年生で1級合格を目指して、学生と共にがんばって行きたいと思います。
本校では、各教室にTVが配置されていますが、日本で録画したVHSビデオには対応出来ず、VCDとなっているため、不便を感じています。日本ではDVDの時代となっているのに、DVDに対応できません。「日本世情」を教えていて、視聴覚教材の必要性を痛感しました。
55. 発展途上の大学
燕山大学 983 山本二朗
「標準日本語」を使って1/2年の会話、テキストなしで3年の会話を担当している。1年生は週4コマ、2年生は2コマ、3年生は1コマ、計7コマ(14時間)。3年生は前期のみ。学生達は素直で温和。斉読は大声でついてきてくれる。よく見ると半分寝ているような学生も時にはいるが、全体の唱和は気持ちがいいほどだ。指示にも直ぐ従うし、授業は本当に楽しい。
もともと理科系大学として出発したためか、文系の雰囲気の弱さが気になる。文系で大学院の課程は政治学しかない。
キャンパスはあちこち工事中。学生の数を毎年増やしていて、発展の期待を抱かせるが、逆に重厚さに欠ける。良くも悪くも発展途上。
困るのは、事務連絡が何もないこと。試験日や場所の設定など、大変に厄介だ。印刷・コピーも頼む気になれない。頼み方のガイダンスもない。ラジカセなし。パソコンもないと同じ。あるのは教室だけ。ソフト面の急速な充実と密な連絡関係が望まれる。
56. 会話試験は私の宿舎で
泉州師範外国語学院 994 荒木暢子
9学部、3地区に校舎が分かれている。学生数約9000人。担当時間14時間。日本語教師は中国人三人と日本人一人。外国語学部は英語科のみで、日本語は第二外国語として週2時間4年生を担当。26名ずつ3組。3年課程の高等職業技術学院では今年度の新入生から日本語を第一外国語として週12時間履修。中国人教師2名が基礎と閲読、私が聴解と会話を各2時間。50名ずつ2組。校舎は新築中で、外国語学部はすでに新校舎に移っているが、高職学院は古いし狭い。会話試験は私の宿舎でする。はじめに与えられた「新大学日語」という教科書は初心者向きではないので、自作のプリントだけで授業をしていた。途中から「標準日本語」が配布された。他の教師の教科書は、「新編日語」と「新編日語簡明教程」。コピーはいつも係りの学生が近くの印刷屋でしてくれるので自由。教室にビデオはないし、図書館にも日本語関係の本はない。テープレコーダーは日本から持ってきた自分の小さいのを使っていたが、最近1台購入された。学生は純朴で熱心なので、よい雰囲気で授業ができる。パソコンとプリンターは宿舎にもあったが自分のを使っている。
57. 親のため、国のために夢を綴る学生
河南師範大学 962 島本智恵子
創立80周年という時期に赴任し、9月下旬、盛大な式典に出席した。また12月には「中国大学日本語教育国際シンポジュウム」が本校で開催され、日本の大学教授の講演や参加者の論文発表が行われた。中国全土から100名以上の関係者が参集し、図らずもこの国の日本語教育の実情と方向性を垣間見る機会を得られて幸いであった。
本校の日本語学科は、学生数が増え、一年級の「発音」は10名単位の班編成で3コマ展開している。中に、中高と6年間履修した学生が入り、注目されているので気を遣っている。
二年級の「精読」は教科書に追われるような勢いなので、日本事情を何とか織り込む準備をしているが資料が少ない。「作文」は母語で考えて書くので、一体どんないみなのか添削に数日かかるが、親のため、国のためと、ひたすら夢を綴る姿を目のあたりにすると、胸を衝かれる思いがする。一方、本音を率直に表す若者像に触れると、彼等の健気さにほっとする。院生は学究肌なので緊張したが「作文」担当の立場から現代文学の中からテーマを選び、感染症対策や青少年問題、福祉等の日本事情を捕捉しながら進め、関心を寄せられた。短期間にいろいろあったが、大学からまさかの年間指導計画と教案の作成を求められ、教育実習生の頃の気分で書き上げたのが鮮明な印象である。
58. 会話学習は教室よりも外がいい
広東外語外貿大学 961 高里盛国
本校の『「日本語教育」には驚嘆させられた。』が赴任当初の深い印象だ。学生達は入学して初めて日本語の「いろは」から始めたとは思えない早い上達ぶりである。そこまで辿り着いたのは熱心な中国人の日本語教師の教育の成果と、学生等の学習意欲やその努力とがうまくタイアップした結果だと思う。
二年生会話・三年生作文の授業を通じて彼等の日本語力がかなり身に付いていることを痛感する。わずか一年数ヶ月・二年数ヶ月の学習で、こうも話せるのか、書けるのかと全く信じがたいことだった。三、四年生になると会話は勿論、作文の表現力も豊かだ。しかし、二年生の会話は意志の疎通はできても表現がもう少しというところだ。
そこで授業以外に勝手に第二教室と称して、校友亭という東屋のベンチで4名1組30〜40分の2組、約60分から80分にかけて、野外学習を開設した。そこでは日本語による日常の四方山話が中心で楽しい会話を続けている。終了後は学校食堂へ直行。ここでもたべながらの会話学習となり、学生達は自分の番が来る日を楽しみにしている。
また、近くの山にクラス全員登山する機会があった。歩きながらできるだけ多くの学生に呼びかけ、声かけて語り合うようにした。会話学習は教室よりむしろ外がいい。気楽に話せる、誤りがあればその場で直す、彼等も言い換えて復唱する。
会話学習は至る所で可能。学生達もその機会を積極的に作って誘いかけて来る。毎日、楽しい日々の実践中である。
59. 日本の話題に非常な関心を示す
天津理工学院 902 町田幸子
天津理工学院は、天津市立の公立大学である。1981年創立の若い大学であり、今年大学に名称変更するに伴って、校舎の増築と学内の諸施設・設備の拡充がはかられた。特にありがたいのは、視聴覚室の増設である。これまでは、古い機材をだましだまし使っていたが、それがよく壊れた。授業が始まってからも、あちこち教室を探し回っていたが、それがまるで嘘のようだ。
授業対象は3年と4年の各2クラス。3年は、2クラス合同で聴力、4年は、これも2クラス合同で、高級日語と視聴。視聴以外は指定された教科書があり、したがって、前年のように、教材の準備に追われるということは無かった。
聴力は、「日本語聴力」(華東師範大学出版杜)を使うようにといわれたが、学生たちが口を揃えて「とても難しい」というので、教師用教科書に載っている本文のスクリプトを初めに全部印刷して与えた。彼等の負担の減った分、新聞の切り抜きを使って読解や読み聞かせの時間に使った。日本に関する話題には、非常な関心を示し、案外好評であった。
4年は「日語」(上海外語教育出版社)の「第7冊」を終わらせ、中国の日語8級試験対策として、古典を少し加えた。学生たちとの約束で、試験勉強は、授業でやらない事にした。その代わり、持参した問題集や、NHKのニュースやラジオのドラマ、朗読のカセットテープなど、日本から随時送ってもらうものを、貸し出した。各自でコピーして、利用しているようだ。視聴は、日本のテレビドラマを録画して利用した。
学生たちは、概ねよく勉強する。しかし、既に2年生ぐらいから、欠席が目立つ学生がクラスに何名かいる。彼らは沢山の単位を落としている。夜更かしするから、朝起きられない。授業に出ないから、わからない。こうした学生たちの評価に今頭を悩ましている。
|