日本財団 図書館


43. 「ゆっくり」は夢のまた夢
曲阜師範大学 976 野本茂雄
 外国語学部日本語学科には現在1年生90名、2年生50名、3年生60名いる。他に自考生他学科の学生もたくさんいる。今年は3年の本科生が最上級で、再来年やっと本科の卒業生を出す。
 教員は私を含め日本人3人、中国人10名であるが、若いスタッフばかりで力のある先生はいない。主任は日本人で、この田舎の大学に力のある先生を招こうとしているがなかなか来てくれないようだ。現在、研究室もなく、図書館は閉舘、日本語の本は死蔵されている状況である。NHKの衛星放送もなく、留学生を含めて日本人もおらず、教育環境はよくない。
 2年生の泛読(4時間)と3年生の作文(4時間)精読(6時間)文学(2時間)を担当している。責任の重さを感じているが、科目数が多く、生徒数も多く(大教室で授業)、時間数も多いので、後期には減らすよう依頼している。特に作文、文学は添削に時間がかかり、宿舎に帰って何時間もかかりっきりで苦労している。学生の訪問もしばしば断る始末である。あれこれ工夫して教えたいと思いつつも、資料もなく、時間もなく、考える余裕もなく、「中国ではゆっくり中国を学ぼう」と思っていたが、今は夢のまた夢。それでも授業は拍手もあり、笑いもあり、きらきらとした目と、評判に勇気づけられて、老骨に鞭うちの毎日である。
 
44. 中・高一貫の外国語学校
長春外国語学校 980 太田玲子
 中等教育の場である。外国語専科に期待されているのは、日本の学校に配属されているALTと同様で、生の、正しい日本語を話して聞かせることが第一と思われる。同時に記述力を高めることも重視されており、高校生には聴解と作文を書く時間日本人が、読解・文法は中国人の先生が担当している。中学生は日本人も専用のテキスト「にほんごのれんしゅう」を使って、読解・文型・会話等の練習を行っている。中高一貫の外国語学校なので、中3になれば日本語だけでの授業が充分成立する。現在、日本語教師はJICA派遣の女性教師と2名いるが、来年度からはJICAの派遣は無いと聞いている。
 能力の高い学生が相当数いて、高2で日本語能力試験1級に合格する学生もいる。例年、本校で、北京大学、北京外国語大学、清華大学、中山大学等の推薦入試が出張しておこなわれる。意欲や能力に劣る学生も当然いるが、一応100%進学するらしい。
 
45. 英語指導法が役に立つ
延辺大学成人教育学院農学院部 925 神田充也
●授業:1年上級 17名、1年初級 30名、2年生 40名、3年生 27名
以上4クラスの会話 2コマずつ×2時間 合計 16時間
●教科書:1年「今日は日本」、2年「今日は日本中級」、3年「日語生活交流会話」
全学生の会話を担当。当初は1、2年生教科書の教材録音テープのみを使用していたが、教科書教材用のVTRもあったので、大形TVとVTRを購入してもらい効果的に授業を進められるようになった。時には日本から持参したVTRも放映、日本の現在の様子も学習でき生徒には良い刺激となっているようだ。現役時代習得した手法、「オーラル・アプローチ」を主体として授業を進め、「理解」→「暗誦」→「応用」の手順で行い、毎回の小テストも効果がある。上級の生徒には前半を教科書、後半はVTRを使い授業を進めている。教科書の方は「コントロール・カンバセイション」方式で、後半のVTRでは「北の国から」等のシナリオも配布したりしている。中間・期末考査は全員面接を行い、英検二次試験方式で行っている。多様な生徒なので90分の会話の授業を飽きさせない疲れを感じさせない工夫に苦慮しながらも、楽しい授業づくりに努めている。
 
46. せめてNHKテレビが見られたら
湖北大学 960 山本光子
 四年生の「鑑賞」は、日本の名作や詩、短歌の鑑賞であるが、日語能力試験一級者が多いので理解力がある。三年生の「日本概説」は、教科書が日語研究者用のものであるが、学生がまじめにがんばるので授業ができる。三年生の「聴力」は、日本のテレビニュースの録音を聞く教材なので、話す早さに慣れる訓練をしている。三年生の「影視」は日本の映画やドラマの鑑賞である。日本の名作映画や評判だったドラマを見せると大変歓迎される。二年生はほとんどが大学に入ってからの日語学習者なので、「日本の歴史」の教科書は読むだけでも大変であり、内容をわかりやすい言葉で説明してやっている。二年生の「会話」も基礎を補いながら同時に会話力もつけるという内容になる。
 以上、6種類、12時間を、高校国語教師の経験と、2003年8月までに身につけた日本の知識・情報にもとづいて、授業を行っている。
 せめて、自室のテレビにNHKが写って、少し遅れの「日経新聞」が読める環境ならば、もっと授業がやりやすいと思う。
 今後の重要課題は「日語学習者に対する適切な教科書」の選定である。
 
47. 日本語のリズム
焦作工学院(春節あけに河南理工大学と改名) 846 柴野たまの
 3年目です。
 新設の専科「語音」18時間と、それに引き続き「会話」32時間という授業割り当てだけ決まって、7月帰国しました。
 その時点では教科書が決まっていなかったため、念のため、自分でも準備をしました。これが幸いしたと思っています。
 「好きなようにしてください」とのことでしたが、耳慣れない「語音」という授業で何をするべきか、と夏休み中考え、結局リズム感を養成することを主眼においた授業をすることにしました。そして、自分なりに準備をしたものが大変役に立ちました。
 何を担当するかがわかったら、教科書のあるなしにかかわらず、是非、自分の使い易いものを用意するようお勧めします。参考になると思います。
 日本語のリズムの基本である拍の感覚を養うことを第一と考え、その点を工夫しました。手探りで組み立てた授業ですが確かな手応えを感じ、目にみえるように進歩、上達する彼らと共に私も少し成長したように思います。
 その実践方法と結果を、12月12、13日河南師範大学で開催された「第2回中国大学日本語教育国際シンポジュウム」で発表しました。
 その席上でも話題になったことですが、現在、中国では第3次日本語ブームがはじまり、今までの文法中心主義からコミュニケーション重視の風潮が強くなってきて、教科書もさまがわりしているそうです(新編纂のものの紹介がありました)。私も週1回教師対象の授業を持っておりますが、コミュニケーション能力の差が大きく、学生相手より苦労しています。かねてより、教師陣を日本で研修させてやりたいものだと思っていましたが、嬉しいことに、このたび、専科ができたことで国際協力銀行の融資を受けた事業の一環で日本語教師の留学が可能になりました。この4月、早稲田大学へ1人留学します。その橋渡し役をいたしました。以前2年間と全く違ういろいろな体験ができたことに、今、感謝しています。
 
48. バイリンガル・メソッドが効果的
江蘇大学 739 當間 實
 ここ一・二年、キャンパス内の環境面の整備・充実は飛躍的なものがある。
 管理棟、教室棟、学生寮等の建物に加えて、LL教室等のハード面の整備充実が著しい。日常の教育活動では、教材、時間割等大学側はいろいろ配慮してくれており、満足している。昨年創設された日本語科の学生は一期生としての自覚・意欲に燃えており、他の英語科の学生も真面目で、勤勉である。
 5年目を迎えて、やっと「外国語としての日本語教育」の指導にメドらしいものが見えてきたような気がする。「スキルとしての言語の習得は、ピアノや水泳の習得と全く同じで、徹底したドリル以外に習得の方法はない。」という信念の基、日夜学生を指導している。とは言え、実質的には、2〜3年で日本語能力試験の1級合格レベルの実力を養成するのは容易ではない。本来言語は総合的に習得するものであるが、短期的に養成するためには、どうしても「読み」「書き」「聞く」「話す」の4技能を意識して指導するための工夫が必要であると思う。近年英語教育に力を入れている中国では、バイリンガル・メソッド(英語を使って、日本語を教える)が効果的であると実感している。
 
49. 日本語と中国語の違いを痛感
河南師範大学 959 山科生价
 担当しているのは1年の発音、3年の作文と概況、それに大学院生の近代文学である。1年生は軍事訓練のため、10月から授業が始まったので、12月現在では、2ヶ月半ほどである。それでも、挨拶のことばをはじめ、少しずつ日本語がわかるようになり、お互い片言の日本語と中国語で会話もする。テープを使うのでカセットデッキを持っていくのであるが、授業が終わると、だれかがデッキを持ってくれて、宿舎まで送ってくれる。お互い、わいわいなかなか通じない片言で行くので、他の教室から出てきた学生たちが何事かと振り返る。わずか数分の距離ではあるが、私の楽しい時間である。今年から今まで40人だった定員が60人に増えた。聴講生も含めて72人が入学し、2組に分けられている。1クラスは12人ずつの3班に分けられている。つまり、週に3コマ同じ授業を12人相手にするわけである。
 3年生は聴講生を含めて43人である。作文は文型の例や誤用例を使って授業を進めている。学生の作文の中から抜き出した誤用例で説明することが一番多い。添削の作業は最も時間もかかり、頭を悩ますことである。改めて日本語と中国語の違いを痛感させられる。概況は歴史を中心に地理や風俗等をからめて進めているが、専門外のことでもあり苦労している。とくに資料が簡単に手に入らないので困っている。
 院生は2年生の4人であるが、中国文学との比較を論文のテーマにしている者が多く、そのヒントを求めたいふうであるが、中国の文学に暗い私には無理な話で、作品を読んでの作品評、作家紹介程度に終わっている。
 
50. 楽しく充実した日々
河南師範大学 1001 諸岡 伸
 河南師範大学は、四年制総合大学で一万人を超える学生が学ぶマンモス校である。日語科は各学年40〜50人が在籍し、その定員は急激に増加しているようである。
 私は3年の「精読」「会話」、4年の「精読」「作文」、院生の「古典」を担当し週14時間を受け持つ。学生の日本語レベルはとても高く、日本語能力試験1級の合格率は3年次で80%を超え、卒業時にはほぼ100%となる。したがって、3年生ともなると、日本の高校1年の現代文程度の読解、聴解はできるので、授業はすべて日本語で事足りる。しかし、会話、作文能力の方は思うように身に付かず苦労している学生も多い。こちらもできるだけ会話すること、書くことの機会を増やそうと努力しているが、学生数も多く、労力の限界もあるので、どのような教授法が有効か模索しているところである。「精読」は主要教科として必ず教科書を終えることを求められているが、他はすべて、こちらの裁量に任されている。自由だが、かえってプレッシャーもかかる。
 学生の向学心は驚くほど高い。学生の弁によると「貧困からの脱出」がモチベーションだからとのこと。こちらもその意欲に応えるべく頑張ろうという気になってくる。
 院の入試をひかえた4年生からは、中国全国の大学院入試過去問についての質問が絶えない。即答できない難問もあり、一緒になって学習することも多い。宿舎が大学内にあるので、夜には学生の訪問も多く、また学生や院生と一緒に食事したり、旅行したりして、楽しく充実した日々を過ごしている。







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