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東京財団研究報告書2004-4 我が国の外周離島(外周領域)保全のあり方

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


(3)問題点の要約
ア. 離島保全への視点の欠如
 わが国の離島振興法は昭和28年制定され、5次の改定を経て今日に至っている。制定当時、日本国の施政下に無かった奄美、小笠原、沖縄の各諸島は、復帰とともに特別措置法により振興策が制定された。したがって、振興対象としての法対象有人離島数は、離島振興法(262)、小笠原特別措置法(2)、奄美特別措置法(8)、沖縄特別措置法(39)の合計311(平成13年4月1日現在)となっている。(11)
 重要事項を審議する国土審議会及び沖縄開発審議会は総理大臣に、小笠原諸島及び奄美の審議会は国土交通大臣に、それぞれ意見を提出することになっている。近年、わが国の外周にある離島の国益上の価値が認識されているが、前述の様に離島振興への取り組みは区分的であり、審議会の委員には安全保障に係わる専門家は見られず、わが国の安全保障上から離島の地位・役割に基づく振興のあり方を総合的に検討する視点に欠けている。
イ. 関係官庁間協力(Interagency)の不足(縦割り行政の弊害)
 わが国では、議員立法が少なぐ、政策立案と法制化が行政機関に任されることが多いため、権限が関係官庁に集約され、行政機能が縦割りとなる傾向が強い。
 こうしたことから最近、危機事態対処における省庁間協力の必要性の認識が高まってきはじめ、防衛庁と国家公安委員会が2000.12にテロ・破壊活動に対応するため「治安に維持に関する協定」を46年振りに改定し、自衛隊と警察との役割分担を規定した。また、政府は、国民保護法制の整備に合わせて、2004年度から警察や消防、自衛隊などの間で用語の統一を開始する。関係機関が使う「共通用語」を事前に決めておくことで、相互の意思伝達を円滑にするのが狙いであり、統一すべき用語の選定や、必要なマニュアルの作成に着手するという。(12)
 しかし、未だ緒についた段階であり、危機事態における情報共有あるいは役割分担など多くの解決すべき問題が放置されたままである。法的未整備もその一つであり、たとえば防衛庁長官が行う海上保安庁の統制は、自衛隊法第80条では防衛出動時おける海上保安庁の統制が定められているが、海軍的行動を禁止した海上保安庁法第25条と整合しない、などが指摘されている。
ウ. 通信情報システムの不備
 情報の空白を生起させず、迅速に収集処理し、連続的に使用できる体制を確立することは、重要である。2001年の奄美沖工作船対処時、海自の不審船発見後海保への通知が9時間後となり、海上保安庁の重装備巡視船の対応が大幅に遅れた。防衛白書14年版では、海自の哨戒機は不審船の写真撮影後、鹿屋基地に帰投、画像の識別を行い、さらに海上幕僚監部へ解析を依頼、その結果不審船判断され、海保へ通知という一連の手続きに要した時間が前述の9時間になったと述べている。(13)
 画像伝送システムはその後改善されたが、広大なわが国の領域にあっては、如何なる通信情報システムを構成するか、その技術的可能性とともに解決すべき問題が山積している状況である。
エ. 国家としての権限行使の曖昧性と極端な抑制
 わが国の領域主権への侵犯行為に対する権限行使は、犯人を拿捕または逮捕する警察行為に準拠し、その使用の判断も個人に委ねられ、国家として敵性武装集団へ対抗するという法的体制は存在しない。
 工作船に対する武器使用についても同断であり、1999年の北朝鮮不審船取り逃がしの教訓から海上保安庁法及び自衛隊法を改正し、領海内なら不審船の乗組員を傷つけても刑事事犯を問わない「危害射撃」を認めることになったが、2001年の奄美沖工作船対処の武器使用では、巡視船が工作船を発見したのは領域外、このため漁業法違反による威嚇射撃のみを行い、事後工作船から射撃を受けたため「正当防衛」の武器使用に移行した。この様に、現行法制による武器の使用は、未だに極めて抑制されているのである。(14)
 また、99年の不審船の追跡は、防空識別圏で断念し、国際法上認められている継続追跡権を行使してない。
 
参考1: 1983.9.1のソ連軍による樺太上空での大韓航空機の撃墜。
1999.6及び2002.6における北朝鮮警備艇の黄海側の北方限界線越境に対する韓国警備艇の反撃。
参考2: ロシア国境警備隊の場合、ロシアの領海、排他的経済水域で不審船が停止しないと警告後威嚇射撃し、それにも応じない場合は船体を射撃する。船体射撃の場合は、国境警備隊地方本部の許可が必要だが、非常事態では船長の判断で実施できる。追跡は、不審船が他国の領海に入るまで継続する。(15)
 
オ. 危機管理における指揮統制の鈍重性
 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災における中央の対応の遅れ、特に初動対処の不備が被害の拡大を招いたといわれる。この教訓をもとに内閣危機管理監、内閣情報集約センターの設置、官邸の情報通信ネットワークの整備等がなされ、危機管理機能が強化された。ただし、議院内閣制における内閣総理大臣の指導力は、全員一致の閣議決定を経なければならない。従って、危機事態発生前後における国家としての意思決定と指揮統制は、鈍重になりやすく、即応的対応の機を逸する虞がある。
カ. 平時における自衛隊運用への躊躇
 現代紛争の特色は、平時・有事の境界が不明であり、事態が迅速に推移し、また危険地域(前方)と非危険地域(後方)が曖昧な点にある。このことは、危機事態の拡大に伴い段階的に対応することが困難になってきたことを意味し、平時における即応体制、すなわち警察・海保とともに自衛隊を効果的に運用することにより事態の抑止と速やかな収拾を図らねばならないのであり、自衛隊運用を殊更に躊躇する必要はないのである。
 平時における自衛隊運用の一例としては、情報収集、警戒・監視、領域警備のための即応部隊の指定、あるいは本土から遠く離れ、隣国に近く位置する外周離島への直接配備などである。
キ. 不充分な民間組織の活用
 政府機関による保全対策には限りがある。特に、外部からの不審者の侵入等についての情報収集は、地域住民(島民)の協力が効果的である。最近、有事法制に関わる国民保護法制が課題となっているが、民間防衛を含めての視点が必要となる。
ク. 特定海峡の問題
 わが国は、国連海洋法に基づき「領海法」で12カイリを領海と定めたが、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、同西水道、大隈海峡の5海峡を特別海域として、当分の間3カイリに凍結し、そこに公海部分を残した。この理由としては、12カイリによる領海化は、無害通航権による核搭載外国艦船の通航を認めることとなり、わが国の政策である「非核3原則」の「核を持ちこませず」に触れることにあるとされる。
 公海であるため、外国艦船は核搭載艦を含め自由に航行でき、潜水艦は浮上することなく潜航状態で通航できる。(16) 本来、領海として国の主権を及ぼすべき領域に、かかる部分を残すことは、海峡に隣接する島の保全並びにわが国全体の安全保障上いかなる問題を包含するのか再検討すべきである。
ケ. 被占領島嶼及び係争中の島嶼の存在
 わが国には、被占領島嶼及び係争中の島嶼が存在するが、問題意識が逐次風化の気が見られる。しかし、これらの島嶼は、第1章で述べたように地政学的に極めて重要な位置にあり、危機事態の発火点となる虞がある。
コ. 輸送(空港・港湾を含む)、通信・情報連絡手段の不備
 離島の地理的孤立を克服する主要な手段は、交通体系の整備による本土との距離感の短縮と通信連絡の確保によるコミュニケーションの維持、情報の共有体制の確立である。外周離島のうち地域の中心となる有人離島は、空港を保有しているが(父島を除く)、総てが第3種飛行場であり航空保安施設・貨物検査施設を除き地方公共団体が設置・管理責任を持つに過ぎない。また、緊急事態時に速やかに警察・自衛隊等の実働部隊を緊急展開させる法的措置に欠けている。
 わが国の安全保障上重要な島の空港については、国の直接管理が望ましい。空港の能力も地形的制約から就航する航空機に制限があるが、これを克服する短距離離発着可能な高速航空機の開発が必要である。
サ. 実地における訓練の制約
 事態発生時(おそれのある場合を含む)に速やかに対応するためには、日頃から現地・現物において訓練を行い、事前に問題点を解決すると共に地形・地物に慣熟しておく必要がある。しかし、離島の多くが自然公園に指定され、平時の訓練には制約を受け、空港・港湾等の公共施の利用についても、一部地方公共団体の非協力的な対応が指摘されている。
シ. 離島の気風
 多くの島民は、近年においても本土の人とは異なる苦労を体験している。第二次大戦末期に先島諸島から台湾に疎開した島民は、終戦により疎開先も帰島先も外国となった。小笠原諸島の全島民は、内地へ強制疎開され、本土での不自由な生活を余儀なくされた。その上、23年間帰島できなかった。沖縄戦では、多くの島民が地上の戦いで犠牲となり、終戦後も27年間占領下に置かれた。北方領土の旧島民は、未だに帰島の目途は無い。これらのことから、離島には「離島は本土のため、この次ぎも犠牲にされる」という懸念が存在する。
 また、対馬の最北部に韓国の民間団体が建設した韓国展望所があり、そのパノラマ地図にわが国の政策・主張に反して「日本海」を「東海」と記されている。(17) このことが、島民の無関心、あるいは隣国への妥協・迎合の表れとするならば大いに懸念される問題であり、今後離島保全施策の一環として本土との一体感の醸成が求められるところである。
 
第三章 脚注
(1)小泉内閣メールマガジン第109号 (2003年9月11日)
「資源大国も夢ではない」 国土交通大臣 扇千景 から抜粋
(2)「現代国際法」栗林忠男著 慶応義塾大学出版会 (2002年3月25日)
第九章「海の国際法」 二海洋の法的区分 4国際海峡、通過通行権から抜粋
(3)海上保安庁50年史から抜粋
(4)「主要国における緊急事態への対処」 国立国会図書館調査及び立法考査局 (2003年6月)
「わが国の自然災害への対応と関係法規」から抜粋
(5)「海上保安レポート2002」及び「防衛白書平成14年版」から抜粋
(6)「海上保安レポート2003」から抜粋
(7)朝日新聞(2004.11.09)朝刊から抜粋
(8)「防空圏における飛行要領に関する訓令」昭和44防衛庁訓令36
(9)「防衛白書平成15年版」から抜粋
(10)「環境白書平成15年版」から抜粋
(11)「離島統計年報2002」財団法人日本離島センター から抜粋
(12)読売新聞(2003.10.12)から抜粋
(13)「防衛白書14年版」から抜粋
(14)「主要国における緊急事態への対応」国立国会図書館調査及び立法考査局(2003年6月)
「わが国における不審な船舶への対応」から抜粋
(15)朝日新聞(2001.12.27)朝刊から抜粋
(16)「現代国際法」栗林忠男著 慶応義塾大学出版会 (2002年3月25日)
第九章「海の国際法」 二海洋の法的区分 4国際海峡、日本の対応 から抜粋
(17)上対馬町韓国展望所説明用パノラマ地図の表示 2003.09.17 現地で視認







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