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(2)事例に見る保全活動の現状
ア. 領域主権侵犯事態
(ア)工作船等の事例
 海上保安レポート2003によると、過去の不審船・工作船の確認事例は1963年以降21隻が挙げられている。平成11年3月23日の能登半島沖工作船事案に対しては、海上保安庁の対応事能を超えるものとして、海上自衛隊に海上警備行動が発令され、護衛艦による停船命令、警告射撃、哨戒機による警告としての爆弾投下が行われたが、不審船を捕獲するには至らなかった。
 この時の教訓に基づき、法令の改正及び防衛庁と海上保安庁との間に「共同対処マニュアル」が作成され、不審船が発見された場合の初動対処、海上警備行動の発令前後における役割分担などが規定された。
 不審船・工作船対処に第一義的にあたる海保では、巡視船の高速化・大型化の整備・武装の改良が進められた。海上自衛隊も高速ミサイル艇の速力向上、特別警備隊の新編・強制停船装置用装備品、自衛隊法の改正による武器使用の権限を新設した。(5)
 平成13年12月22日の奄美大島西方における工作船については、防衛庁からの情報に基づき海上保安庁が対応、漁業法に基づく立ち入り検査を巡視船により求めたが応じないため、逃亡阻止の威嚇射撃を実施、不審船からの反撃射撃を受けるに及び、正当防衛の武器使用へ変更、銃撃戦後、不審船は沈没、翌14年9月11日に引き上げが行われ、不審船(工作船)の実態が明かとなった。
(イ)外国海洋調査船の活動
 わが国の排他的経済水域における外国海洋調査船の調査活動は、確認件数だけで平成9年から平成14年の間に134隻(内中国船102隻)である。(6)
 日中間には、平成13年2月以降、相互事前通報制度があり、日中両国が東シナ海において相手国の近海で科学的調査を行う場合、相互に事前通報を行うこととされているが、平成15年11月8日の沖縄県・波照間島の南約96kmの日本の排他的経済水域における中国海洋調査船の活動は事前通告が無く、海保・巡視船の警告を無視し調査活動を続けた。(7) 相互事前通報制度は、従前同様完全に行われていない。また、これらの調査船は科学調査とは言うものの、中国海軍の統制下にあり所要の作戦データの収集と見られている。
(ウ)領空侵犯
 外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令に違反してわが国の領域に進入した場合は、領空侵犯に対する処置として、領空侵犯機を着陸させ、またはわが国の領域の上空から退去させるため必要な処置が自衛隊法84条を根拠に行われる。この際、正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合、武器の使用が可能となる。
 航空機の識別、領空侵犯に対する対処を容易にするための「防空識別圏における飛行要領に関する訓令」は、昭和44年8月に防衛庁長官より令せられている。なお、識別の対象は自衛隊機とされ、民間機は国土交通省からの通報により状況を把握することとなる。(8) 現在の防空識別圏は、わが国主権の及ぶ領域総てを覆っているわけではなく、小笠原諸島領域は含まれていない。
(エ)尖閣諸島への領有主張活動
 尖閣諸島(注1-7)に対する「保釣活動」の最近の状況としては、2003年6月香港の「保釣行動委員会」が抗議船6隻を派遣、中国外務省も尖閣諸島を中国領土とする立場から活動を支持、抗議船はわが国の排他的経済水域内に入った。同年10月9日には、抗議船が尖閣諸島西の領海内に入ったが、巡視船により阻止され中国方向へ戻った。
 海上保安庁は、尖閣諸島周辺海域に常時巡視船を配置するとともに、定期的に航空機による監視活動を行い領海侵犯、不法上陸等に対し警備を行なっている。領域の主要正面においては、防衛庁も海上自衛隊の哨戒機等により定期的に周辺海域の監視を行っている。(9)
イ. 自然災害・人為災害
(ア)離島災害(三宅島の場合)
 災害の状況並びに災害救助活動等は前述のとおりであるが、災害対策の一次的責任は現地三宅島町長に在り、町長は災害対策本部を設置し、避難・警告等を行なった。東京都も災害対策本部を設置、災害救助法を発令、自衛隊に災害派遣を要請、島民の避難所開設・食料の給与・医療・救出等災害救助法に定める活動を実施した。
(イ)海洋汚染
 国際法においては、国家が一般に「海洋環境を保護し保全する義務」があるとされ、汚染源ごとに条約が作られている。わが国は、1983年「海洋汚染防止条約」加入時に、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」を改正、船舶からの油・有害液体物・廃棄物等の排出を規制している。
 1997年1月に日本海で起きたナホトカ号の事例は既述したが、これを教訓として、タンカー等の油流出事故防止策、ポートステートコントロール実施体制の強化、油防除資材の整備等が図られるとともに、事故時の巡視船・航空機による出動体制の確保、機動防除隊の業務執行体制の強化等が行われている。(10)
ウ. 今後の予測事態
(ア)大量避難民(難民)問題
 わが国においては、未だ該当事案に遭遇していないが、世界の各地ではさまざまな理由から本国を離脱し、他国に保護を求める者が発生している。
 わが国は1976年に難民条約、翌年1月1日に難民議定書に加入した。したがって、国際条約に基づく「難民」にあっては、避難民を認定後「難民」として保護することなる。離島の保全に関わる事態としては、朝鮮半島有事、中台紛争生起時にわが国に保護を求めて海峡を超えてくる大量避難民の問題がある。
 避難民は、人道主義の立場から保護されるべきであるが、これらの避難民の中には、武装避難民・テロ活動を任務とする者の潜入がある。保護すべきものは保護し、排除すべきものは排除するという、審査に当たっての峻別が重要となる。
 先に、沖縄県警で実施されたシミュレーションについて触れたが、収容・移送・給食等の保護の外、武装避難民の排除を行うため、「大量避難民対処要綱」等を関係機関連携により策定すること及び対応訓練の必要性が明かとなった。
(イ)周辺事態
 1995年11月に制定された新防衛計画の大綱に基づき、97年9月に新しい日米防衛計画のための指針(新ガイドライン)が日米安全保障協議会で了承され、これを具現するため周辺事態安全確保法が99年5月に成立した。
 周辺事態発生において、わが国が行う後方地域支援活動の予想地域としては、離島が重要な役割を果たすと考えられており、実施にあたっては中央政府、地方公共団体の事前の調整が求められることになる。







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