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新規範発見塾 レクチャー・メモ vol.16

 事業名 先駆的情報の創出・発信事業
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


ぞんざいな人に日本製品はつくれない
 アジア諸国を回ると「日本の工場に来てほしい。我が政府は特別に工場団地をつくりました。許可も便利にいたします。規制もかけません、生活条件は万事アメリカ並みにいたします」といろいろ言う。私は半分ぐらいしか信じませんが、仮に全部信じたとしましょう。
 さて、そこへ来た中小企業の社長は何を見て帰るのか。知っていますか?
 どこを見て、投資するか否かを決めるのかについて学者や官庁の人に聞くと、土地の値段とか、電力事情とか、勤勉で賃金が安いとか、そういう条件だろうと答えます。それはアメリカの本に書いてある項目でしょう。アメリカ人は歴史が浅いから、そういうことでしか産業を見ない。国を見るのにそういう目しかない。それでつくれるようなものしかつくっていない。
 日本は全然違う国だと言いたいのです。
 日本の中小企業の社長は、ホテルに泊まったら、朝食のサービスをじっと見ている。従業員が出てきて、フォークを並べたりお皿を出したり下げたり、そのときの仕草を見ている。仕草がぞんざいなら、こんな国では我が社の製品はつくれない、こんなぞんざいな者につくらせたら不良品続出で教育するのに手間がかかってしようがないと考える。それから夜はその辺の一杯飲み屋に行って、まあマシなのもいるなとか、要するに日常のセンスを見ている。フランス料理はだめですよ(笑)。これは国際的に標準化されて、高い料金を取るかわりにしっかりしつけてありますからね。合格でも、これから建設する工場には関係ないわけです。
 日本の中小企業の社長は、その国の現地の人たちがぞんざいか丁寧かというところを見ている。言い換えれば家庭のしつけ、生い立ちを見ている。それを教えるとき、マニュアル化するのがアメリカ方式。
 「マクドナルド式礼儀作法」を一時漫才で茶化していましたね。従業員の女の子が同じことしか言わないという漫才がありました。つまり、そういうのでは日本人は満足しない。マニュアルどおりのサービスでは、高いお金を出してくれない。出してくれるのは子供ばっかり。だからマクドナルドの藤田田さんは「うちは子供だけが相手なんだ。日下さんみたいな人は来てくれなくていい」と言っていた(笑)。「そうですか。じゃあ、四十歳、五十歳は全部切り捨てですか?」と聞いたら、「『今は』です。二〇年たつと今の子供が四十歳になって来てくれます」と言いました。
 そんなやり取りをしてから二〇年ほど経ちましたが、最近のマクドナルドの苦戦を見ていると、事はそう希望通りには運ばなかったのではないでしょうか。一方、マクドナルド商法が日本化してきたプロセスには興味深いものがありますが、それを解説する人はいません。アメリカ的合理精神の勝利を讃美する話はたくさん出ましたが、その限界を一番よく見ていたのは実は藤田さんだったという気がします。
 それはともかく、ぞんざいな人には日本人向けの製品はつくれない。それを何とかマニュアルでつくらせても、日本のお客は一時的にしか買ってくれない。それが意味することは、日本のマーケットは凄い、文化レベルが高いということなのです。
 数年前IT革命論がブームだったとき、私は『Voice』に「日本では『IM革命』の方を見よ」と書きました。IMとは「インフォメーション・マーケット」のことですが、技術から考えるのは文化の底が浅いアメリカの特徴で、日本はマーケットから考えないと予測は当たらないという主張でした。今はケータイの勝利がこの考えを裏付けています。
 
日本語を使うと日本人になる
 私は小学生のころ、いくつかのイギリス人の家庭とつき合いがありました。
 とても威張っているんです。日本に来ているイギリス人は特に威張っている(笑)。だから、何かミスしたとき「エクスキューズ・ミー」とか「パードン」とか言いますが、素振りはちっとも謝っているようではない。自分の非を認めるという、そこで止まっている。エクスキューズ・ミーというのは「許してください」という意味ですが、そんな顔つきはしていない。「自分の非を認めた。これでいいだろう」という顔つきです。非を認めて、そこから先どうなんだというところが、ブツンと切れている。
 子供心にも「威張ったやつだ、イギリス人は嫌いだ」と思ったのですが、親がつき合っているから仕方なく合わせていた(笑)。
 そのイギリス人の婦人が急に日本語を習い出して、習うと使いたくなる。カタコトですが「大変失礼コトイタシマシテ」と言うのです。なかなか上品な先生に習っているなとわかりますね。
 そのとき子供心ながらに考えたのは、日本語をしゃべるとき彼女は別人になるということです。仕草がつくわけです。「本当に申しわけありません。お許しください。今後気をつけますから、また仲よくしましょうね」という仕草です。「大変失礼コトイタシマシテ」と言いながら、日本人と同じ仕草をする。その瞬間だけ日本人になっています。すると、こっちもまたつき合おうかという気になる。向こうもたいへん暮らしやすくなって、「ああ、日本へ来たら日本語をしゃべればいいのか」と思ったことでしょう。英語をぶつけるなんてやはり失礼だったかと、彼女も、また彼女のご主人もそう思ったことでしょう。ただし、理解はその程度だと私は敢えて言いたいのです。郷に入れば郷に従えという程度の理解です。その方が暮らしやすいという実用的な意味で、彼らが日本精神はイギリス精神より高いとわかるのは、それから一〇年もあとのことでした。
 日本語には日本の仕草がついているが、そこには日本の心がある。お互いの関係はどうあるべきか、どんなものかということが、すべてその仕草に表現されている。そこまで、そのイギリス人はわかっていない、と言いたいのです。私も、子供のときにそこまでわかったわけではありません。しかし子供は、雰囲気としてそういうことがわかるわけで、だから人間の直観力は不思議だと思うんです。そのときは言えなかった。今ならこのように言葉にできる。しかし、感じているという点では、そのときも今も同じことです。
 中嶋嶺雄さんという、東京外国語大学の学長をなさった方がいます。あの人からこんな話を聞きました。外国語大学で日本語を習っていた台湾の女子学生と、台北の町で歩いているときばったり出会った。あら、先生と言って寄ってきた。その人が中国語をしゃべっているときは中国人になり切っている。ところが日本語をしゃべり出すと、突然、仕草から何から日本人になってしまう。
 日本語をしゃべると日本人になってしまうとは、単に日本語がうまいということではありません。先生とはどのようにつき合うか、どう接するのがマナーなのか、そういう文化、伝統、礼儀作法、全部が日本語を使うことで出てくるのです。
 日本語を使うと日本人になる。そのときの「日本人」というものの内容にはどうも千五、六百年の伝統があるらしい、一朝一夕にできるものではないと、中嶋嶺雄さんの話を聞きながら思ったことがあります。







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