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日本とアメリカが世界の両横綱
 ですから私は「実は、日本の底力は凄い」と一生懸命話しているのです。それを列挙すると、まずは経済力が凄い、それから社会全体の力。さらには道義力を忘れてはいませんか?衛生力というのもある。世界はどんどん不衛生になりますから、今後これが光ってくるわけです。文化・娯楽力も凄いですね。
 日本の真似をした国は良くなるのです。だから自然とそのような国が増えるでしょう。
 そんなことを五、六年前から盛んに言うようにしています。図表をつくったのは、人事院からの依頼で国家公務員の局長級を集めて、経団連の御殿場セミナーハウスで泊まり込み研修をする。ついては日本経済について話をしてくださいと言われたときでした。
 10点満点で点をつけていくと、世界の中で日本とアメリカが断トツのパワーなのです。日本は経済力9点、アメリカは10点。道義力では日本は10点、アメリカは5点とつけたので皆から驚かれましたが、今回お見せするにあたって改めて見直し、4に下げました。しかしそう思いませんか?それから、文化的創造力も1点下げて6としました。中国の軍事力は1点アップで3にしました。
 
  アメリカ 日本 ドイツ ヨーロッパ 中国 ロシア
1 軍事力
(核、有事即応力、意志)
10 2 2 4 3 5
2 経済力
(金融力、援助力、市場力)
10 9 5 8 2 -
3 知的創造力
(国際秩序の提案、ハイテクの開発)
10 6 5 7 - 3
4 文化的創造力
(伝統・現代・先端)
6 10 3 5 1 -
5 道義力
(国内の統一と住み心地、条件の履行、道義の提案)
4 10 3 4 - -
6 その他            
 
 そんなふうに点をつけて合計を出すと、日本とアメリカが世界の両横綱です。あとは意外とたいしたことはないのです。
 試しに自分でも採点してみてください。おそらくそんなに変わらないはずです。そして自分で採点してみれば、日本の底力が実感できることでしょう。
 ただし、もう一つ大事なことがあります。それは合計点もさることながら、対立したときは一番弱いところを相手につかれるということです。日本は軍事力がないので、そこをつかれる。アメリカは道義がないので、そこから破綻する。どの国も自分の長所を自慢するが、それは主として短所をカバーするのに使われます。アメリカの軍事力と日本の経済力が好例です。
 
ピカチュウのカードは漢字が「クール」
 「文化的創造力」という欄で、日本を10点にしました。これは文化力に加え、娯楽力も含めた広い意味です。あの当時はそんなことを言ってもなかなか理解されませんでしたが、五、六年たって、だんだん世間の人も認めるようになってきたので喜んでいます。配付した資料は『日本経済新聞』の記事ですが、「ニッポンの文化力」というタイトルがついています。アメリカのジャーナリストが「GNPではなくGNC、すなわち『グロス・ナショナル・クール』を提唱した」と書かれています。
 クールというのは、若者の言葉で「格好いい」という意味です。もともとはクールとは涼しいという意味ですが、黒人が「賢い、さえている、切れている、格好いい」といった意味で使い始め、普及したものです。
 ポケモンの対戦カードはご存知ですか? それがアメリカの小中学校で人気を集めました。小学館では、それを英語、フランス語、ドイツ語でつくって輸出しています。イタリア語もあるそうです。
 さて、文化というのは面白いもので、「日本で売っている日本語のピカチュウ・カードを持っているほうが、クールである、学校で幅がきく」というわけで、日本からアメリカへ出張に行くとき、駐在員へのお土産には日本語のカタカナで書かれた対戦カードが喜ばれるという現象が五、六年前から起きました。さらにはカタカナより「漢字のほうがもっとクールである」となり、たとえばテレビコマーシャルでしょっちゅうローマ字の「NINTENDO」が出ますが、それが「任天堂」と漢字で書いてあるほうが格好いい。クールである。子供の世界ではそれを読めるといっそう格好いいことになっています。文科省その他は、日本人はもっと英語を勉強せよ!と言っていますが、アメリカ人が日本語を覚える方が早いかもしれません。それはマンガ、アニメの力です。
 
自分からやれば明るくなる
 さらには日本語の「かわいい」という言葉が、「クール」を超えてアメリカに広がっています。クールは「かわいい」という意味も持つようになりましたが、それは第一歩で、第二段階では「かわいい」がそのまま用いられます。「かわいい」はビューティフルやキュートやプリティやクールを総合した新しい概念として、新鮮な誉め言葉になりつつあります。マンガはその深くて総合的な意味合いをアメリカの子供に伝えることに成功したのです。字引きではできないことを成し遂げていますが、これは日本的人間観の浸透です。
 アメリカの女性には、ビューティフルとかキュートと言えば喜ぶのですが、最近は「かわいい」と言ったほうが喜ぶと聞きました。まだテストしていませんので、どなたか試して効き目があるかどうか結果を教えてください(笑)。
 この現象はさらにアメリカからロンドンへも広がったと聞きました。「かわいい」はすでに世界の言葉です。中国でも当てはめる漢字があります。上海へ行ってテレビをつけると、いきなり「かわいい」と出てきました。最初はカラオケ(拉OK)と書いてあるのかと思ったら違うんです。「哇伊」です。「か」はカラオケの「」ですね。上と下という字がくっついている字です。かわいいの「わい」は布哇(ハワイ)の哇です。「い」は伊太利亜(イタリア)の伊です。「これを使えばあなたはかわいくなります」という化粧品かなにかの広告なので、意味がわかりました。もう中国語になっています。
 くだいて言えばそのようなことですが、グロス・ナショナル・クールなんて言われると、日本の文化力が何か市民権を得たような感じがするらしくて、そんな話を日経新聞が書いていました。
 日本の底力はあるのですが、しかし日本人はそれを積極的に使う気がない。
 主体的に動く気がないというのは大きな問題です。主体的に動けば損をする、風当たりが強い、自分はやめておこう。誰かが成功すれば二番目にやろう。この根性がいけないわけです。この根性が、せっかくの日本のパワーを殺している。アメリカを見習うべきです。パワーが三ぐらいしかなくとも、まるで一〇ぐらいあるように言っています(笑)。
 日本のパワーを使う気になって探せばたくさんあります。それはたいがい、まだ統計にはないものです。大学では教えてないものです。新聞にも載っていません。載ったころには、もう次が登場しています。それも日本の底力です。パリで日本文化祭をしたとき、フランスの女性がこんな発言をしたそうです。日本はフリーターの給料が高い→フリーターには精神の自由がある→フリーターはマンガを買う→そこで自由の精神に満ちたマンガがつくられる→フランスは敵わない―と。
 東京財団ではマンガ・アニメに関する連続研究会をもう二年ぐらいやっています。招待した新聞記者がだんだん書くようになりました。そして、デスクも載せるようになってきました。ちょうどその矢先に『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞を取りました。そうすると、礼賛論がわっと出てまいります。
 「アメリカからほめられたから素晴らしい」というところが情けない。日本の文化力に、みずから自信を持たねばなりません。
 何でも自分が先頭に立ってやるという精神がなくてはいけません。その精神がないから、日本の社会評論は暗くなっていくのです。
 今の日本病の原因は、他人の解説ばかり集めて、自分というものを横へ除けることが一番根本ではないかと思います。
 科学は客観性を尊ぶものですが、先端現象を論ずるのに主観性を消して客観性を探すとは不思議な現象です。これはインテリ気どりの人がかかる病気です。チェーホフかゴーリキーか、その二人の会話でどちらが言ったか忘れましたが、こんな言葉があります。“文芸評論家はいろいろ言うが、実にくだらない。あたかも汗を流しながら畑の土を掘りおこして前進する馬の鼻づらにたかって、その進路や速度を論じている虻のようなものだ”と。
 日本の文化力とその底力について、私はいま虻の役割をしています。近頃、虻が増えてきたことを少しは喜んでいますが、しかし馬が進む邪魔になるようなことはしないようにと心がけています。







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