吟剣詩舞の若人に聞く 第59回
伊藤 明さん
伊藤 武さん
伊藤明さん(二十三歳)●愛知県幡豆郡在住
(平成十五年度全国剣詩舞コンクール決勝大会剣舞青年の部優勝)
伊藤武さん(二十一歳)●愛知県幡豆郡在住
(平成十五年度全国剣詩舞コンクール決勝大会剣舞青年の部準優勝)
母:伊藤眞由美さん
師:清水昭麟さん
宗家:入倉昭山さん(日本壮心流昭武館総本部)
兄は研究熱心、弟は内に秘めるタイプ。
互いが切瑳琢磨して得た栄冠
平成十五年度全国剣詩舞コンクール決勝大会青年の部で見事に優勝と準優勝を果たした伊藤明さん、伊藤武さん兄弟。お二人に加え、ご宗家、師、ご家族を交えて、コンクールのことや剣舞のことなどをお聞きしました。
――剣舞青年の部優勝の伊藤明さん、優勝おめでとうございます。前回が準優勝なので、今回は優勝をというプレッシャーが強かったのではありませんか?
明「優勝しなければというよりも、弟に抜かれるのではないか、というプレッシャーの方が強かったです」(笑)
――弟の武さんの方はいかがですか、お兄さんを抜いてやろうという気持ちはありましたか?
武「すごくありましたね」(大笑)
――ご宗家から見て二人の剣舞はいかがでしたか?
入倉「どっちもどっち(笑)ですが、レベルは高かったですよ。二人とも三位以内には入ると思いました。踊りの振り付けとしては弟の方がいいかなと思いました」
――明さんは「偶成」、武さんは「涼洲詞」でしたね。兄弟それぞれに合った曲を選んだわけですか?
入倉」「明の場合は『偶成』、これしかないです。もう剣舞一本槍。直球勝負ですね」(笑)
――出る順番はどうでした?
明「弟が先で私は一番最後でした」
――弟さんの演技は見ていましたか?
明「いいえ、見ていません」
――武さんはどうでした?
武「しっかり見ていました」(笑)
――お兄さんの演技をどう思いました?
武「なんとも言えませんね」(笑)
――兄弟が出場している場合、お母さんはどうですか?
眞由美「複雑ですね。順位ということは考えずに、お互いが充分、自分の練習の成果を発揮できればいいなと思っていました」
――どちらかが上になって欲しいとは思いませんでしたか?
眞由美「今回は、武もうちに秘めたる闘志がお稽古のときに感じられましたので、順位前に一位二位と優劣がつくのは、どうかなと思いました。明も負けたくないことが分かっていましたので、本当に複雑でした」
――お母さんから見て、ご兄弟それぞれの性格の違いというのはどうですか?
眞由美「お稽古の面で見れば、明の方が研究熱心です。武の方は表に出さないタイプなので、内に秘めたるものはあるのでしょうが、練習スタイルが違いますね」
宗家からご覧になって、この二人の演技の違いというのはあるのですか?
入倉「はっきり言って、武の方が品があります(笑)。兄の明の方は品がない(大笑)。武は品の良さで、ある程度幅広く剣舞をこなせるかなという感じです。今回踊った武の『涼洲詞』は、ほとんど刀を振りません。最初、振付けたときも切るのはやめて、剣舞なんだけど抜くだけにしようかなと考えました。そんな剣舞もあっていいかな、と思いましたが、さすがにそれはやめて、えい、えい、と二度切ることにしたんです。この踊り、できるかと聞くと、僕で出来ますかね、と逆に聞いてきたので、ちょっと無理かもしれないけど、決勝大会までいくと高く評価される振付けだよと言って(笑)やらせたのが、この『涼洲詞』なんです」
――中部の予選のときはどっちが上だったんですか?
明「私です」
――二回とも、一応はお兄さんが面目を保ったわけだ?
明「はい」
――大会に出られるときに、健康面で特に気を使うことがあったのですか?
眞由美「二人とも足を痛めることがあったので、特に明は、三年ぐらい前の舞台で膝を痛めるという、大きな怪我をした経験がありましたから、足の故障には注意しました」
――剣舞というのは、飛び上がって斬ったりするので、その時、足の具合はどうでしたか?
入倉「飛び上がるときよりも、足を開いてぐっと踏ん張ったりする時に、膝をかばうと、腰が高くなるのです。どうしても腰が落ちないのですよ。そういう踊りが二、三年ありました」
――一今回はどうだったのですか?
明「今回はお医者さんに色々相談をして、どうやったら膝を痛めないように踊りができるか、今回の曲は今まで以上にハードでしたので、筋力トレーニング、膝をかばう筋肉をつけるトレーニングの方法を教わったり、その筋肉トレーニングを実践したりしました。やっと去年のコンクールの頃から、普通の人と同じように歩けるようになりました。少しびっこをひいていました。長時間歩くと、歩けなくなりました」
――途中で剣舞を止めようか、という気にはなりませんでしたか?
明「それは全然なかったです。それより、弟に抜かれていくのがいやだったです」
――武さんは、肉体的にきついことはなかったのですか。
武「今回はきついことはなかったです」
――「涼洲詞」をやらないかと、宗家に言われたとき何がいちばん気になりましたか?
武「刀の振りが少ないことです」
――本当は刀を振り回すタイプなの?
武「五分五分ぐらいがちょうどいいかな、と思います」
――わりあいと、えいと飛び上がって刀を振り下ろすことが好きなの?
武「はい、大好きです」(笑)
――明さんにお聞きしますが、出番が最後というのはどうですか?
明「なぜか、今まで出場したコンクールの四回のうち三回が最後の出番なのです。一年目の最後だったときは、もう待ち時間に負けました。何も考えずにわけの分からない踊りをして、わけの分からない順位でした(笑)。去年のコンクールのときも最後で、今年も最後だったので、最後の出番のときは、皆がピリピリしている中を寸前までのんびりすごす、ということを自分の中で会得していたので、リラックスしていました」
写真(左)より、師の清水昭麟さん、伊藤明さん、 入倉昭山宗家、伊藤武さん、母の伊藤眞由美さん |
――武さんは何番目だったのですか?
武「たしか四番目です」
――四番目ぐらいの出番は、どうですか?
武「そうですね、ポツポツと青年の部の人たちが終わっていく微妙な気分です」
――今年はわりあいと落ち着いていたほうですか?
明「自分の性格からして、舞台の前ですと気持ちが舞い上がってしまって下品な踊りをしてしまいますので(大笑)。足も回復していましたので、動けてしまい、本番前に体を疲れさせていました。舞台に出るとどうしてもテンションがあがってしまいますので、気合を落としておけば本番にはちょうどいいくらいになると考えました」(笑)
――今年は、自分としては満足のいく踊りができたわけですか?
明「はい」
――そうですよね、優勝ですもの。清水先生、以前にもお聞きしたのですが、どのような点を注意してお二人を指導してこられたのですか?
清水「明は明なりの特長があり、武には武の特徴があります。二人の年齢に合わせて特長を活かす方向で指導してきました」
――兄弟を教えられてて、特に気がつくという点はありますか?
清水「難しいですね。兄弟それぞれに持って生まれた性質というものがありますから、初めから、その性質を計算していて教えないといけないな、という気がします」
――二人とも幼年とか少年の部には出場したのですか?
明「出てました。中部大会どまりでしたが」(笑)
――全国大会は青年の部が初めてですか?
明「はい、そうです」
――武さんは、どうですか?
武「僕は少年のときに二回出て、二回目のときに優勝しました」
――少年の部のときに全国大会で優勝、明さん、兄としてそれは気になったでしょう?
明「気になりました。目茶苦茶気になりました」(笑)
――さて、最後の質問となりますが、お二人の今後の抱負をお聞きします。
明「僕の勝手な持論なのですが、剣詩舞は剣詩舞道という道の字がついています。剣詩舞だけをやっているのなら賞を追い求めてればいいと思いますが、これは父の受け売りなんですが、道というのは入り口があって出口がない、というようにこれからも自分の踊りも含めて精神修養していきたいと思っています」
武「二位ですから、まだコンクールに挑めるということで、これからも自分を上達させるチャンスがありますから、もっと変化球も覚え、なおかつ直球も覚え、また周囲に剣詩舞を広めていけたらいいな、と思っています」
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。今後のご兄弟のさらなるご活躍を期待しております。
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