[四]建鼓は「生命樹」。鳥や聖獣が力をあたえる・・・
■さて、建鼓の心柱が象徴するものを見てきました。続いて、その頂点に止まっている、鳥の姿に注目してみましょう。
建鼓と鳥。これまで見てきた建鼓の図像のほとんどに、頂上に止まる鳥の姿が現われていました。鳥は白鷺であり、鶴であり、鳳凰の姿に似ています。この鳥の意味するものを調べてみたいと思います。
■古代・中国の呉越地方に伝えられた民間伝説があります。「・・・城の門上には大太鼓があり、その打音は遠く離れた都市でも聞くことができる。ある戦いでこの太鼓が壊されたとき、二羽の白い鶴が太鼓の中から飛びだした。以後この太鼓は、音を発しない・・・」。中国にはこれに類した話がいくつもあります。いずれもが、白い鶴や白い鷺は、「太鼓の精霊」であるとするものです。
太鼓の精霊である白い鳥。その響きを遙か遠方にとどかせようとする太鼓の打撃音。外に向かって飛びだしてゆく、二つのものの深い結びつきを物語っています。
天地を貫く太鼓の心柱の真下には一匹の虎が潜み、太鼓の上には一対の犬、頂上には鳥が乗る。その上に座すのは、西王母。東漢、二世紀。
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―ネパールの古都・バクタプールで行われるビスケート祭を描く細密画。 |
二台の大きな山車が街中を曳きまわされ、十六メートルの高さをもつ松の柱が街はずれに建てられて、天の力を招きよせる。
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―ミャオ族の村の中心(タウトウ=臍)に立てられる芦笙(ろしょう)柱。
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■鳥と太鼓の結びつきは建鼓ばかりでなく、ほかの太鼓にも見いだされます。中国・古代の墓から出土した「風変わりな鼓(虎座鳥架鼓)」です→( 21)。紀元前五―六世紀のもの。虎と鳥が上下に並ぶ。鳥はりりしく身がまえて、建鼓と共通する意匠を見せています。
中国の雲南地方で鋳造された銅鼓にも、鷺の文様が刻まれています→( 22)( 23)。銅鼓の中心に輝くものは、強い太陽の光。その光を乗せて鳥たちが環を描く。これは太陽の強い輝きを象徴するものです。
銅鼓の出現は中国では紀元前七世紀、春秋時代に遡るといわれています。
■鳥のシンボリズムは、古代には大きなひろがりを見せています。古代の人びとは鳥が太陽を乗せて空を飛ぶと考えて、鳥を太陽のシンボルと見なしている。三本足の烏「 烏(そんう)」はその代表的存在です→( 24)。日本の熊野神社にも渡来して、神の使いとされています。
■さらに、一瞬の稲妻を鳥が飛び立つ力によるものと考えた。天に轟く雷鳴を鳥の翼の羽ばたきの音とすることもありました。中国の雷の神、雷公の姿を見ると、恐ろし気な鬼の顔をしています→( 25)( 26)。人の身体に鷲や鶏の爪と翼を持ち、手に持つ撥で周りの太鼓を打ち鳴らそうと身がまえていたりする。大きな音をたてて天空を翔びまわる恐ろしい鳥、落雷のときに鋭い爪で樹木を切り裂き、建物をこわす巨大な鳥・・・。恐るべき雷の力を、鳥に託して表わそうとしています。
■「鳥は太鼓の精霊である。空に輝く太陽の輝きを象徴し、天の神、つまり雷神の力とも結びつく」。建鼓に飾られた鳥、天地を貫く心柱の上に立つ鳥が示すものは、まず太鼓の精であること。さらに太陽の輝きや天神の力、雷の力を象徴するものでありました。
神がみは鳥の身体と翼をもつ鳥人となり、シャーマンもまた鳥に乗って天空を昇降すると考えられていました。
■さらに眼をひろげて、鳥以外の動物たちと柱、樹木との関係に注目してみましょう。建鼓の心柱とそれを巡る聖獣たちが「生命の樹」を表わすものだ・・・ということを見ておきたいからです。世界各地の神話に数多く登場する「生命の樹」。この樹木は、宇宙の中心、楽園の中心に生い茂る樹木だといわれています。花をいっぱいに咲かせ、実をたわわに実らせる。死から再生に向かう限りない生命力を象徴する生命の樹は、永遠の生、不死に結びつくものと考えられた。その力を支えるものが、樹木をめぐって現われる動物たちの存在です。
■生命の樹を表わす典型的な構図を見てみましょう。これは「インドの生命の樹」です→( 27)。
天と地を貫く「宇宙樹」でもある。樹の上には一対の孔雀が止まっています。拡大してみると、孔雀はそれぞれに蛇を咬えている。樹の下にも一対の孔雀が向かいあい、生命の樹の幹に太陽の力を送りこんでいます。
三角形の山の中腹に眼を移すと、そこにいるものは、一対の虎です。山の中腹で鹿を捕え、喰べようとしています。つまり山の中腹では、生あるもの、死すべきものを巡る厳しい情景が描かれている。弱肉強食の世界です。生命の樹、宇宙樹を巡る天の鳥と、地をはう虎、あるいは牛の存在は、中国や韓国の建鼓のデザインと一致するものです。
■次のものも、インドの生命の樹です→( 28)。樹の根元には向かいあう一対の牛。幹の中ほどには、一対の猿が遊んでいます。よく眼を凝らさないと見えないのですが、枝の上には十四羽の鵞鳥が並んでいます。
注意して見ると、生い茂る枝葉の中心、樹の幹の中心に一匹のコブラがとぐろをまいているのがわかるでしょう。この生命の樹でも、鳥や蛇、樹木を巡る動物が生命の樹の働きを活気づけていることがわかります。
■これは中国の古代神話でよく知られた「扶桑の樹」の大樹です→( 29)。樹の上には、太陽を乗せた烏が飛び交っている。樹の下には馬が繋がれています。樹の枝が編み物のように絡み合っている。私はこの樹相を、雄と雌の蛇が絡み合う姿を象徴するものだ・・・と読みとっています。つまりこの樹木にも蛇と鳥の姿が隠され、現われています。
■生命の樹を巡る鳥や蛇、さらに虎や馬・牛などの動物たち。これらの動物は生命の樹を活気づけ、豊穣や再生の力を加速するために現われている。
生命の樹と動物の関係は、建鼓の心柱とそれを巡る聖獣の結びつきによく似ています。動物の姿は、建鼓を貫く心柱が宇宙樹であるばかりでなく、この世に豊穣をもたらす生命の樹でもある・・・ということを、しっかりと暗示しています。
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