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(14)
―青銅器に鋳込まれた饕餮文と、その読み解き。向かいあう二体の怪獣が、一つの顔を形づくる。
 死者を賑やかに送りだすためのさまざまな芸能が並んでいる。建鼓は頂上に鳥を止らせ、華蓋の上下に伸びる枝のような棹の先に、四方になびく羽葆(流蘇)を飾る。山東省、沂南出土。二世紀。
 
―羽葆(流蘇)を鳥のようになびかせた建鼓。
 
 (16)では羽人(鳥人)が羽葆の先端に飛び、その動きに活力をあたえている。山東省、縢州出土。東漢、二世紀。
 
[三]建鼓の柱は「天の梯子」、「宇宙樹」・・・
■もう少しこの心柱にこだわって、その意味を調べてゆきたいと思います。
 古代の中国には、「建木」と呼ばれる神話的な樹木がありました。建鼓の「建」という名は、この建木と深く結びつくものです。「建」は建築の建でもある。では建木とはいったい何だろうか。
 「・・・建木は、都の中心に垂直に聳えたつ。太陽が南中すると影も落ちない。神や仙人、呪術師が天に登り、あるいは降りるところだ・・・」(「准南子」)という。古代の人びとは天と地を結ぶ梯子、神がみや呪術師たちが昇り降りする梯子である「天梯」というものがあると信じていました。つまり建鼓の中心を貫く柱は、建木を象徴している。建鼓の心柱は、天の梯子としての建木だ・・・といえるのではないでしょうか。
■別の画像石に描かれた建鼓は、垂直に伸びる長い長い柱をもっています→(17)。八層、あるいは九層の横線で区切られた地下界から天上世界を貫いて伸びてゆく。天の梯子、あるいは宇宙軸としての柱です。最下部には、一匹の虎が潜む。太鼓の上には一対の犬らしきもの。柱の頂上には鳥の姿が見えています。上方に座す神は、西王母という女神です。建鼓の柱は九層の世界を貫いています。
■宇宙軸としての、一本の柱・・・。このような象徴性は中国だけでなく、アジア各地に現存する柱祭り、「天の柱」を祀る祭礼に明瞭に見てとれるものです。
 これは中国南部の広西省・チワン族の年始めの祭礼、柱祭りの情景です→(19)。村の中心点、臍と呼ばれる地点に一本の柱が建てられる。「天地創造の柱」、混沌に秩序をあたえる柱です。柱の上には太陽を象徴する鶏や、鳳凰を想わせる木彫の鳥が羽ばたいている。建鼓によく似たデザインです。水牛の角が枝のように張りだす柱には巨大な龍が巻きつき、天から地へと降りたつ姿が見てとれます。
 このような柱立ての行事は、日本の「御柱祭」にも見いだせます→(20)。
■ヒマラヤを背にしたネパールの首都カトマンズや、古都パタン、バクタプールでも、年ごとに柱建ての祭が行われています。字宙を統べるインドラ神を地上に迎えるための、天の梯子としての柱建てです。二台の大きな山車が曳きまわされる→(18)。
 柱の上部、十文字に結ばれた部分から二本の長い幟が吊り下げられる。龍王・ナーガを象徴するというこの幟は、天から地へと降りそそぐ雨を象どるもの。建鼓から垂れ下がる羽葆を連想させます。
■これらの柱は宇宙の中心に聳えたち、天と地をつなぎ、神がみを地上に迎えるものとして建てられている。地上の生活の平和であること、豊穣の年を迎えることを祈るための神の依り代となる装置です。建鼓の心柱、建鼓の羽葆にも、同じ願いが込められているのではないでしょうか。建鼓の柱は天と地を結ぶ梯子であり、宇宙軸であったのです。







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