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VIII 観劇制度の近代化
 最後に観劇制度の改革について少々ふれておきたい。芝居を見る慣習として維新以前から続いてきたものに客席での飲食や出方のサービスがあった。これは近代的な観劇制度とはなじまなかったが、どうしても歌舞伎座や明治座は廃止できなかった。芝居茶屋の勢力が強く、これと縁を切れなかったからである。帝劇はその点経営者が芝居関係者ではなかったので、芝居茶屋を駆逐した。相撲茶屋同様、芝居茶屋と芝居見物の結びつきは古来当然の慣習だった。この関係を断ち切ったことで、帝劇の観劇制度は近代化された。といっても芝居をみることと「食う」ことの関係は温存された。食堂を劇場内部におくことで芝居茶屋廃止の代替とした。今でも歌舞伎座ほかの大劇場や国立劇場には大食堂が付属しているのは、芝居茶屋廃止の名残であろう。新国立劇場でさえ同じビルの内部に食堂、(レストランといっているが)が入っている。
 
ロビィ天井と柱の一部
 
年輪を物語る階段角柱脚部
[いずれも『帝劇の五十年』より]
 
 他にさまざまな観劇制度の改革があったが、もっとも根本的なのは、全席椅子になったことであろう。これによって桟敷に坐って芝居を見る習慣が失われていった。これは「見る」ことにおける身体感覚の変質であり、ひいては意識の変革でもあった。観劇制度の近代化は舞台と観客との関係にも大きな変貌をもたらした。「舞台のモダニズム」は、形式と内実の両面から発生し、広がっていったことになる。
・・・〈演劇評論家〉







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