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4. 評価の特徴
ドラッカー財団による協働評価とPSCオリジナル評価
 
岸田 このドラッカーの評価手法をこのように使ったプロセスそのものについての総括はどうでしょうか。
 
高浦 第1次の書類審査でこれを使ってしまうのは少しレベルが高かったかもしれませんね。
 
河井 100%ではなかったにしろ、それなりの基準で行ったことは意義があったと思います。従来、企業とNPOの関係は「チャリティ型」がほとんどだったが、それに新しいものを加えて「インテグレーション」や「トランザクション」という形に注目した点はよかったと思います。
 これを来年以降も同じ形で行うのか、あるいは第一段階でもう少し社会的インパクトを重視していくかは、今回の事業全体を見て、検討すべきでしょう。「事業自体が持っていた社会的インパクト」はどのように評価していくかは難しい課題だと思いますね。今回は、第一段階で「チャリティ」よりも「インテグレーション」を重視し、その上で第2段階のインタビュー調査の際に「成長性があるのか」、「社会的インパクトが与えられたか」という点についても力を入れて見ていったわけです。
 
高浦 応募書類を書いてもらう段階で、「あなたの事業は何型ですか?」と今回の本を見て自己申告してもらってもいいかもしれませんね。少なくとも評価する方が何を重視しているかを知ってもらう必要がありますよね。
 
岸田 それが逆に啓発効果になりますね。書類段階で自己評価してもらい、それをこちらが確かめるという形になると。表現する力を持つという意味では、自分たちで考えてもらうような項目を入れるのも確かに面白いかもしれないですね。
 企業自身も変わる、NPOも自分たちのマネジメントを向上させていく、というゴールを意識的にこのパートナーシップ大賞事業の中に入れるとしたら、まず「これは協働としてどうなのか」と自己評価してもらうことは、意味のあることかもしれません。
 まず自分たちで評価し、さらにそれを第三者の目で評価する。それを応募書類で100%判断できるかどうかは課題として残りますが、自分たちの事業をどれだけ「客観的」に評価できるかどうかはとても重要です。そうして自己申告されてきたものを、どうやってチェックし、確かめていくかという基準、体制を私たちが作っていかなくてはなりませんね。
 
河井 それぞれの判断基準を、「チャリティ」、「インテグレーション」、「トランザクション」という類型に照らし合わせ、明確にポジション化しておくといいでしょうね。そうすれば、協働事業そのものにとっても有意義だと思います。
 
岸田 私たちのパートナーシップ類型そのものも、常にバージョンアップしていく必要があると思います。今回は5つ(「目的共有度」「対社会への働きかけ」「協働の感覚」「戦略度」「関係期待度」)に分けていますが、果たしてこの5つでいいのかという検証も必要です。私たち自身がこのドラッカーのものを改善させながら、私たち用のものにしていかなければ。
 例えば、「協働の感覚」と「関係期待度」は似通っていると思うのですが、これをどのように区別するのかということが少し気になっています。「関係期待度」というよりはむしろ「つながり」であり、「期待度」というよりはまさに「関係性」なんですよね。
 
河井 例えば「目的共有度」にしても寄付金によって支援を行うケースについては「チャリティ」型と判断し、点数が伸びなかったわけですが、企業がそれが大切だという目的を持って、それで支援したいと思ってお金を出す場合はどうなのかというのは、判断が難しいところですね。
 
岸田 相手のNPO側にとっても、ただお金をもらって「よかった」というのではなくて、それをどう企業と話しながら作り上げていくのかというような関わり合いが強ければ、同じお金をもらっても違ってきます。それをどう反映させるかですよね。
 
相互に愉しむことを重視したユニークな調査票
 
岸田 調査そのものはどうだったでしょうか。11事例を選んだ時点で、パートナーシップ評価を基に新たに調査票を作り直しました(P31参照)。その調査票を作る過程と、実際にそれを現場に行って使ってみた、そのプロセスについてはどう思いますか。
 
河井 取材に行って、その場で出して「これはどうですか」というよりも、事前に送っておくことによって、自分たちの評価をもう少し見極めてもらえたんじゃないでしょうか。インタビューの際、十分な時間がなく、うまく自己評価を書き切れないという問題もあると思うんですが。
 
岸田 事前に送ったら企業とNPOが相談できてしまう。あえてそれをしなかったのは、企業は企業、NPOはNPOというふうに、それぞれ独自に記入してもらいたかったからです。
 私は取材の際、別々に記入してもらいながら得た担当者の反応や話してくれたことにこそ意味があると思ったんですね。逆に事前にやってしまうと、その反応を私たちは見ることができない。結果だけになってしまいます。その人がどう考えてこの点数を付けたのかという反応を確かめられたことが今回の特徴だと思っています。
 
河井 ただ自分たちで点数を付けたことの意味を認識して、後でもう一度振り返ってもらって、じゃあ「今の協働事業はどうだろう」と思ってもらえたらいいが、単に「点数を付けられた」みたいに思われては困りますよね。
 
岸田 そこは相手と調査員との関係なんですよ。私は二つの事業を調査しに行って、そのうちの一つは、協働事業を進めながらも、企業の存在が少し薄く感じられたんです。だけど、大賞を取った札幌の事業では企業とNPOの仲のよさがよく分かりました。それが分かるのがこの調査の一番のポイントだと思っています。こうして私たちと実際事業をやっている人たちとの関係もでき上がっていく。私たちのコンサルテーション・ノウハウも蓄積されていくと思います。
 
高浦 NPOと企業間で十分なコミュニケーションができていないケースでは、無難な点数の付け方になっていますね。
 
岸田 「上手くいってるんだな」というところは点数の付け一方で非常によく分かるんですよね。私たちがいないところで点数を付けられるとそこが分からないんです。
 
河井 特に担当者が変わっているケースは難しいですよね。
 
岸田 あるケースでは、最初の担当者のままだったら、もしかしたら大賞取っていたかも知れないですよね。
 
河井 逆に言うと、組織と組織との協働だという方で、個人の思いを伝え切れないことがマイナス要因になることがあるようですね。
 
岸田 協働事業自体が変化することもあり得るわけです。大賞を取った札幌の事業もどちらかの担当者が変わることによって全然違う関係ができてしまったら、大賞には全然値しないということだってあり得る。
 
高浦 旬のものですからね。
 
岸田 そういう意味では毎年やることに意義がありますよね。もしかしたら3年後は違うかもしれない。
 
高浦 本当はシステムとしてちゃんとでき上がっているところが評価されたほうがいいのかな、という気もします。
 
岸田 でも、私たちはシステムを評価するわけではなく、そこでどれだけ人が変わり、社会が変わり、そこから伝わるものがどれだけあるかということを大切にしたい。
 
河井 システムだけでは改革はできない。人がどういうところで汗を流し、感動するか、というところで随分変わるものです。人に注目していくっていうのは重要ですね。
 
岸田 特に大賞を取ったところでいうと、札幌はまず労働組合とNPOが始めたという点でポイントが高かったですよね。労働組合が始めて、それが会社全体の取り組みになったというプロセスはすごく大事ですよね。札幌に行って「この事業はすべての人がハッピーだな」というのを感じたんです。そういう事業はなかなかないと思いますが、協働事業はそこが一番ポイントです。今回、最後に残った6事業のいくつかはそういうものを感じましたね。
 
河井 個人の熱意の上に、組織としてどれだけバックアップしているかどうかという点が大賞につながっていきましたね。
 
岸田 自己評価してもらった調査票を、最後に調査員が調整した点はどうでしょう。ここまでやっているものはアメリカにもあまりないかもしれません。
 
河井 もともとのパートナーシップ評価で、相互に愉しめるかどうかを重要視している事例はあまりないですから、調査票の項目自体、かなり革新的だったと思います。
 
岸田 例えば、アメリカの先に述べたアワードでは、1年以上パートナーシップが継続しているか、他事業のモデルになり得るか、自分自身のミッションがどれだけ達成できたか、というのが評価の第1段階の基準になっています。私たちは、その他に、人がどれだけ愉しめたのかというのを協働事業に入れたんですね。
 
河井 人の要素が重要だということに注目している点は大きな特徴です。組織としての成長だけではなく、それぞれの担当者、関係者が成長したかどうかという点を注意深く見ているということも、重要だと思います。
 
岸田 それを言葉だけじゃなく、何がどう変わったかということを直接聞けたことが、評価の際に役に立ったと感じています。
 
高浦 評価プロセスにももう少し時間をかけ、取材力を蓄えていくことも必要かと思います。
 
河井 実際の協働事業を必ずしもみんなが見に行けたわけではありません。そこでやってるんですよ、というのを見せてくれるところもあれば、物理的に無理なケースもありました。ただ、いわゆる地域の第三者がどう見ているかというのは重要ですね。
 
岸田 パートナーシップ大賞で6事例選ばれたことによって協働のイメージはかなり明確になってきていると思います。つまり、35事業の中には「私たちは協働している」つもりでも、それが「単なるチャリティ」にとどまっているということをあまり意識していないケースもあるでしょう。「単なるチャリティ」という言い方はまずいかもしれませんが、本当に対等な関係をどのように作り上げていっているのかをはっきりさせないで、「企業と私たちは関係ができた」というだけで応募してきているところもあります。
 
河井 よきパートナーシップとは何なのか、ということはこれからも考えていくことになると思いますが、今回のパートナーシップ大賞では、力関係の強い企業が、力関係の弱いNPOに支援をしているだけというところは、評価されませんでしたからね。
 
岸田 それが社会にかなりインパクトを与えただとか、それによって変わってきたことが見えるところは点数が高かったと思いますが、それが見えにくかったり、かなり一方的なんじゃないかというところは点数が上がりませんでした。
 
気づきのきっかけに
 
岸田 今回、私たちが訪問調査したことによって、自分たちではそれほど意識していないところを、「こんなものを持ってたんだ」っていうことに気が付いてくれたこともありました。それはすごく大切ですよね。
 
河井 今回「評価、評価」と言ってはいますが、私たちはただ点数を付けに行ったのではなく、当事者たちがもう一度自分たらを見直す、というきっかけを作ったんじゃないかと思いますね。これは今後のコンサルティング事業につながっていくと思います。
 
岸田 応募してきた35事業の中で、最終審査に残らなかった団体の人が、最後の発表の時に何団体か来てくれていたんですよね。彼らは実際にその6団体のプレゼンテーションを見て、自分たちの事業そのものにかなり「プラスになった」「ヒントになった」と言ってくれています。
 
河井 「自分たちは自分たちなりに、自分たちでやっていると思っているけれども、違う点や足りない点にも気付かされた」、「賞に入った入らないということよりも、いろいろ事例を見て、自分たちの何が課題なのかなと気づかされた点で重要だ」というコメントもありました。
 
岸田 そういう意見はすごくうれしいですね。次回はそうしたことばを励みにさらにパワーアップしたいですね。本日はどうもありがとうございました。
(進行・構成 岸田眞代)
 
◎座談会参加者プロフィール
 
岸田 眞代 Kishida Masayo
 
特定非営利活動法人パートナーシップ・サポートセンター(PSC)代表理事・事務局長。
フリーの新聞・雑誌記者等を経て(有)ヒューマンネット・あい代表取締役、企業・自治体研修講師。1993年にパートナーシップ・サポートセンター設立。日本NPO学会理事、名古屋市公共事業評価監視委員他各種委員。著書に『企業とNPOのためのパートナーシップガイド』『NPOと企業の社会貢献―企業は地域に何ができるか』『女が働く均等法その現実』『中間管理職−女性社員育成への道』ほか多数。論文に「NPO評価・企業評価・パートナーシップ評価」「パートナーシップ・リーダー−協働事業を推進するものに求められる要件・能力についての考察」ほか多数。
 
河井 孝仁 Kawai Takayoshi
 
パートナーシップ・サポートセンター企画運営委員。
静岡県企画部情報政策室主査。名古屋大学法学部卒、静岡大学人文社会科学研究科修了(「NPO評価にかかる『場』概念の明確化について」)。静岡県では地域情報化が主務、特に静岡県モバイルIT推進会議事務局として携帯電話等モバイル機器を活用した情報化の企画運営を担う。論文に「電子自治体化への志向と課題−静岡県を題材として−」(東京市政調査会『都市問題』)など。
 
高浦康有 Takaura Yasunari
 
パートナーシップ・サポートセンター会員。
名古屋商科大学総合経営学部専任講師。一橋大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学、専攻は企業論理。学内外で、企業の社会的責任、企業とNPOのアライアンス関係、ソーシャル・ベンチャーなどについて幅広く教育および研究活動を行っている。日本NPO学会会員、日本経営論理学会理事。
 
*座談会は、2003年2月11日に、PSC事務局にて行われました。







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