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波止場の虫 ツマグロカミキリモドキ
 6月の中頃になると博物館や周辺でよく見かける昆虫です。小樽運河周辺には多いのですが、生息域はまったく局地的で、小樽の他の地域では見つけられません。
 ツマグロカミキリモドキはヨーロッパ、アフリカ南部、南北アメリカ、極東ロシア、ニュージーランド、そして東アジアといった世界中の温帯に生息する昆虫です。海岸の近くに生息しますが、もっぱら港湾周辺で見られます。人間の移動とともに世界中に広がった典型的な生き物で、このような生き物は「コスモポリタン(汎世界種)」と呼ばれます。もはや、本来の生息地はわかりません。
 幼虫は材木や古い建物の基礎杭、枕木など、古くて腐りかけた木材に入り、それを食い荒らすため、世界中で問題になっています。しかし、シロアリのように一般の家屋に被害を及ぼす例は知られていません。最近の研究では、この虫が塩分やミネラル分の強い木材を好む傾向が指摘されていて、海の周辺や一部の特殊な環境に依存している生き物だということがわかってきています。
 また、この虫は体液にカンタリジンという毒をもっていて、人体につくと水ぶくれができます。カンタリジンは薬用としても古くから利用されてきた物質でもあり、ヨーロッパでは病気の治療にも用いられていました。また、大阪では「兵隊虫勝負」と呼ばれる種の度胸試しが、こどもの間で流行ったこともあるそうです(詳しくは初宿, 2000を参照)。
 最近は小樽港周辺でも木造の構造物が少なくなり、また、古い材木などもきれいに整理されつつあります。この虫の生息地もどんどん減っていると考えられます。
 この虫はおそらく、港の倉庫群ができたような時代に小樽にやってきたと思われます。そのような生き物が消えていくのは、少しだけ寂しい気がしてしまいます。
 
博物館内に現れたツマグロカミキリモドキ成虫
2000年7月
 
 ゴキブリは北海道に住む私たちには馴染みの薄い生き物ですが、住宅環境がよくなり、また、人や物の往き来が活発になった現在は、いくつかの種類がふつうに見られるようになりました。しかし、北海道ではゴキブリを見つけても、ゴキブリだとは気づかない人も多いようです。
 北海道では5種類のゴキブリが見つかっていますが、一般的に見られるのはチャバネゴキブリ、ヤマトゴキブリ、クロゴキブリの3種類です。博物館の標本庫にも小樽で採集されたこれら3種類の標本が収蔵されています。
 下のヤマトゴキブリの標本は、実は、博物館の館内で採集されたものです。最近は薫蒸を徹底しているのでいなくなりましたが、以前はかなりの数がすみついていました。どのような経緯で博物館にすみつくようになったのかはよくわかりませんが、この建物は倉庫として利用されていたものなので、博物館として改装されるずっと前からすんでいたのかもしれません。
 ヤマトゴキブリは日本本土にもとから生息していた唯一のゴキブリだと考えられています。冬に休眠する性質があるので、ゴキブリの仲間では例外的に、東北など比較的寒い地方を中心に生息していました。札幌市の円山公園などでは、野外の林のなかでもこのゴキブリが見られるという情報があり(聞き取り)、北海道への定着度の高さがうかがえます。
 一方、チャバネゴキブリとクロゴキブリは海外から日本に入ってきた外来種で、基本的に建物の中だけで生活するゴキブリです。チャバネゴキブリは北アフリカが原産地だと考えられており、世界中に分布を拡大しています。クロゴキブリは中国南部から、江戸時代あたりに日本に入ってきたと考えられています。
 これらのゴキブリは北日本にはいませんでしたが、住宅環境がよくなったことで分布を広げ、今では北海道でも見られるようになりました。とくにチャバネゴキブリは飲食店などを中心に小樽でもふつうに見られます。しかし、一般の家屋などではまだ寒いのか、見かけることは少ないようです。
 
ヤマトゴキブリ♂
小樽市内産
[小樽市博物館所蔵]
 
チャバネゴキブリ♂
小樽市内産
[小樽市博物館所蔵]







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