11. 外来種問題を考えよう
国際的な意識の高まり そして「先進国」ニュージランドでは
「生物多様性条約」という国際条約をご存じですか? 地球上にすむ生物の多様性を守り、生物の絶滅や生態系の破壊を防ぐことは、わたしたち人類の生存にとって重要な意味をもちます。生物多様性条約は、こうした観点から人類の生存と未来を守る目的でつくられた条約で、日本を含む184カ国が締結しています。
この条約の第8条には、「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」という、締結国の義務が記されています。つまり世界の184もの国が現在、義務として外来種問題に取り組むことを表明しているわけです。このように外来種問題は、生物の絶滅を招き、多様性を低下させる原因として、重点的に取り組むべき問題であると認識されています。
外来種問題に対する国際的な意識の高まりの一方で、日本を含めた各国の外来種問題への対策、特に法律の整備は、まだまだ体系的なものになっていないのが現状です。特に、各国で一般的な、有害な生物を事前にリストアップして防除する「ブラックリスト」方式は、リストに載らない生き物に対しては無防備で、場当たり的な方法であるという批判があります。
これに対して、小樽の姉妹都市ダニーデン市があるニュージーランドでは、世界に先駆け「クリーンリスト」方式と呼ばれるシステムを採用し、生物の厳しい輸入管理を行っています。ニュージーランドでは、「有害物質・新生物法」という法律のもと、環境リスク管理委員会が承認した生物以外はいっさい輸入できません。すなわち、排除すべきものをリストアップするのではなく、問題の無いものをリストアップし、それだけに輸入の許可を与える、というシステムです。このような方法は外来種防除の一つの手本として、世界的に注目を集めています。
ニュージーランドは農業国であり、農業に害を与える外来種の防除に対し、敏感にならざるを得ない事情があります。さらに、海洋島であるニュージーランドは、世界的にも貴重な固有の自然が、外来種の侵入によって失われた歴史をもっています。ニュージーランド国民は、教育などをとおして、そうした苦い経験を共有し、外来種の問題に対する高い意識をもっています。こうした事情がこうした先進性を生んでいるといえるでしょう。
外来種問題を考えよう
外来種問題は、マスコミが積極的に取り上げるようになったり、研究者やNPOなどが地道な活動を続けてきた結果、以前よりもずっと多くの人に認識されるようになりました。しかし個人の問題意識には依然として大きな温度差があります。思慮のない生き物の導入が美談として語られる例も今だに少なくありません。
外来種はたった一人の行動によって生まれ、それにより、経済的な損失も含めた大きな破滅が導かれることすらあります。法律がいくら整備されようとも、誰もがこの問題に真剣に向き会わない限り、外来種の問題は続いていくに違いありません。
かつて、問題のないこと、あるいはよいことだとされていたことに対して、考え方を180度切り替えるのは並大抵のことではありません。しかし、外来種の影響力は私たちの想像を越えるほど大きく、そしてその結果は二度と元には戻らないものばかりです。手遅れになる前に、私たち一人一人が、もう一度、身近な自然とのつきあい方について考えてみる必要がありそうです。
1. 外来生物って何だろう?
村上興正・鷲谷いづみ, 2002.1. 外来種と外来種問題. 「外来種ハンドブック」(日本生態学会編), pp.3-4. 地人書館.
2. 外来生物による問題
鷲谷いづみ・村上興正, 2002.2. 外来種問題はなぜ生じるのか. 「外来種ハンドブック」, pp.4-5.
鷲谷いづみ・村上興正, 2002.4. 日本における外来種問題. 「外来種ハンドブック」, pp.6-9.
Williamson,M., 1996.Biological Invasions. Chapman and Hall.NewYork.
3. 「物流の街」小樽と外来生物
松木光治・伊藤公夫, 1960. 採集と飼育, 22(8): 234-236.
4. 小樽の帰化植物
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原松次編著, 1991. 札幌の植物―目録と分布表―. 北海道大学図書刊行会.
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5. 小樽の外来昆虫
朝比奈正二郎, 1991. 日本産ゴキブリ類. 中山書店.
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柳沼薫, 1977. アスパラガスを加害するジュウシホシクビナガハムシの生態と防除. 植物防疫, 31(4): 23-26.
6. 小樽と近郊の外来魚
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高山肇・菊池基弘・若菜勇, 2002. 北海道の湖沼. 「外来種ハンドブック」, pp.254-256.
谷口義則, 2002. ニジマス. 「外来種ハンドブック」, p.112.
淀太我, 2002. オオクチバス. 「外来種ハンドブック」, p.117.
淀太我, 2002. コクチバス. 「外来種ハンドブック」, p.118.
7. 外来イタチと在来種の盛衰
阿部永, 1994. 北海道の帰化動物. 北海道の自然と生物, 9: 1-9.
細田徹治, 2002. テン. 「外来種ハンドブック」, p.71.
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小樽市, 1991. 長橋なえぼ公園環境調査及び計画業務報告書(概要版). 小樽市.
8. いろいろな外来生物
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川勝正治・村山均・山本清彦・米山昇, 1998. オオミスジコウガイビルの分布記録. しぶきつぼ, 19: 25-32.
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原康裕, 1993. ムラサキイガイの正体. 北水試だより, 21: 14-18.
原康裕, 2001. 北海道におけるキタノムラサキイガイとムラサキイガイ.
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渡辺弘之, 1996. 陸生等脚類(ワラジムシ目). 「日本動物大百科8昆虫l」, pp.34-37.
9. アライグマのやって来る日
安藤志郎・梶浦敬一, 1985. 岐阜県におけるアライグマの生息状況. 岐阜県博物館調査研究報告, 6: 23-30.
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浅川満彦・的場洋平・山田大輔・神山恒夫(2000): 北海道野幌森林公園を中心に生息する移入種アライグマの寄生蠕虫類ほか病原生物とその伝播に関わる食性―その調査の進捗状況と今後の方向性. 酪農学園大学紀要, 自然科学, 25(1): 1-8.
堀 繁久・的場洋平, 2001. 移入種アライグマが捕食していた節足動物. 北海道開拓記念館研究紀要, 29: 67-76.
堀 繁久・水島未記, 2002. 野幌森林公園の両生類について. 北海道開拓記念館研究紀要, 30: 21-26.
池田透, 1999. 北海道における移入アライグマ問題の経過と課題. 北海道大学文学部紀要, 47(4): 149-175.
池田透, 2000. 移入アライグマの管理に向けて. 保全生態学研究, 5(2): 159-170.
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宮下実, 1993. アライグマ蛔虫 Baylisascaris procyonisの幼虫移行症に関する研究. 生活衛生, 37: 137-151.
10. 外来?在来? 小樽のザリガニ
伴浩治, 2002. アメリカザリガニ. 「外来種ハンドブック」, p.169.
川井唯史, 1996. 北海道におけるザリガニCambaroides japonicusの分布と道東での生息地消失状況. 釧路市立博物館紀要, 20: 5-12.
川井唯史・一寸木 肇・JCC・中田和義・小林弥吉・荒井 健, 2003. アメリカザリガニの移入と分布に関する考察. 青森自然誌研究, 8: 1-8.
Kawai, T., Nakata, K. & Hamano, T., 2002. Temporal changes of the density in two crayfish species,the native Cambaroides japonicus (De Haan) and the alien Pacifastacus leniusculus (Dana), in natural habitats of Hokkaido, Japan. Freshwater Crayfish, 13: 198-206.
川井唯史・若菜勇, 1998, ウチダザリガニは在来種を捕食する. 釧路市立博物館館報, 363: 3-5.
町野陽一, 2000. ヨーロッパのザリガニとその保護の問題. 帯広百年記念館紀要, 18: 25-43.
斎藤和範, 1996. 北海道におけるザリガニ類の分布とその現状. 北方林業, 48(4): 77-81.
斎藤和範, 2002. ウチダザリガニ. 「外来種ハンドブック」, p.168.
斎藤和範・蛭田眞一, 1995. 北海道に生息していたアメリカザリガニProcambarus clarkii. 旭川市博物館研究報告, 1.
11. 外来種問題を考えよう
村上興正・鷲谷いづみ, 2002.3. 外来種問題に対する国際的認識の高まり. 「外来種ハンドブック」, p.5.
高橋満彦ほか, 2002.5.日本における外来種対策の現状と課題. 「外来種ハンドブック」, pp.9-35.
小樽市博物館調べ。標本などの調査に基づく。「史前帰化」とは記録に残らないくらい昔に定着したと考えられる外来種のこと。
哺乳類
リス科
シマリス Tamias sibiricus? 中国・朝鮮
飼育個体が逃げ出している?
ネズミ科
ドブネズミ Rattus exulans
クマネズミ Rattus rattus 東南アジア
ハツカネズミ Mus musculus
アライグマ科
アライグマ Procyon lotor? 北アメリカ
イタチ科
ミンク Mustela vison 北アメリカ
ニホンイタチ Mustela itatsi 国内移動
テン Martes melampus melampus 国内移動
鳥類
キジ科
コウライキジ Phasianus colchicus karpowi 朝鮮半島
ハト科
ドバト(カワラバト) Columba livia ヨーロッパ等
魚類
コイ科
コイ Cyprinus carpio 国内移動
サケ科
ニジマス Oncorhynchus mykiss 北アメリカ
サケ Oncorhynchus keta 国内移動
サクラマス Oncorhynchus masou masou 国内移動
昆虫類
チョウ目
シロチョウ科
オオモンシロチョウ Pieris brassicae ヨーロッパ 自然分布拡大
モンシロチョウ Pieris rapae 史前帰化
ハチ目
ミツバチ科
セイヨウミツバチ Apis mellifera ヨーロッパ
コウチュウ目
マメゾウムシ科
アズキゾウムシ Callosobruchus chinensis 全世界に分布
ハムシ科
ジュウシホシクビナガハムシ Crioceris quatuordecimpunctata 国内移動
コガネムシ科
カブトムシ Allomyrina dichotoma 国内移動
カミキリモドキ科
ツマグロカミキリモドキ Necerdes melanula 全世界に分布
カツオブシムシ科
トビカツオブシムシ Dermestes ater 全世界に分布
シバンムシ科
タバコシバンムシ Lasioderma serricorne 全世界に分布
ジンサンシバンムシ Stegobium paniceum 全世界に分布
バッタ目
カンタン科
カンタン Oecanthus longicauda 史前帰化
ゴキブリ目
ゴキブリ科
クロゴキブリ Periplaneta fuliginosa 中国
ヤマトゴキブリ Periplaneta japonica 国内移動
チャバネゴキブリ科
チャバネゴキブリ Blattella germanica 全世界に分布
カマキリ目
カマキリ科
オオカマキリ Tenodera aridiforia? 国内移動?
甲殻類
ワラジムシ科
ワラジムシ Porcellio scaber 全世界に分布
オカダンゴムシ科
オカダンゴムシ Armadillidium vulgare 全世界に分布
軟体動物
腹足綱
サカマキガイ科
サカマキガイ Physa perca? ヨーロッパ
二枚貝綱
イガイ科
ムラサキイガイ Mytilus galloprovincialis 地中海
扁形動物
三岐腸目
コウガイビル科
オオミスジコウガイビル Bipalium nobile? 中国
種子植物
裸子植物
マツ科
カラマツ Larix kaempferi 国内移動
離弁花類
ヤナギ科
ウラジロハコヤナギ Populus alba ヨーロッパ
セイヨウハコヤナギ Populus nigra var.italika ヨーロッパ
クワ科
アサ Cannabis sativa 南・中央アジア
タデ科
ソバ Fagopyrum esculentum 中央アジア
ソバカズラ Fallopia convolvulus ヨーロッパ
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