―子育て支援はわが町づくり その3―
NPOが教えてくれた新しい地域社会のあり方
子育て環境研究所代表 杉山千佳
NPOにはまだまだこれからの部分も
ここ数年、「子育て支援のNPOがあちこちでがんばっている」といったことが言われるようになり、子育て支援NPO向けの研修会やメッセなどのイベントも各地で開催されるようになりました。
突然のNPOの登場に、「保育や育児はそもそも保育園の領分。経験もない素人にいったい何ができるのか・・・」と思っている保育園の関係者も、中にはいらっしゃるのではないでしょうか。無理もありません。「これからはNPOの時代」とばかりに持ち上げた報道や、行政側の期待もあって、確かに実態以上に名前がひとり歩きしていた部分もなきにしもあらずでしたから。それに、NPOというもの自体が日本ではまだなじみがなく、「いったいどんな人たちが何をしているのだろう?」と、けげんに思っている人も少なくないようです。「そもそもNPO(非営利活動団体)とは何か?」を語り始めるときりがありませんし、私自身、NPOの専門家ではありませんから、十分にお伝えすることは無理なのですが、私流の解釈では、自分たちが生きている地域や社会について、「ここがこうなったらもっといいだろうな」といった思いを持った人同士が集まって、そのアイディアをかたちにするための装置が、NPOではないでしょうか。
共通の思いを持った人なら誰でも参加することができ、やりたいことができる。事業として社会的に認められれば、それなりの対価を得ることもできる。企業と違うのは、公的な事業を行うこと、得た利益を分配しないで、新しい事業の資金に充てなければならないことというのですから、大げさに考えずに地域で何かやってみたいと思った人たちにとっては、とても魅力的な装置であるといえるでしょう。
けれども、全国各地の子育て支援のNPOを取材させていただいてわかったのは、介護系のNPOとは比べものにならないぐらい財源は乏しく、リーダーが変わっただけでその団体の存続さえ危ぶまれるような弱体のもののほうが多いのが現状、ということでした。また、活動の内容についても、子どもの成長・発達に応じた関わりや子どもにとって最良の環境づくりについての技術や経験、知識を十分習得しないまま、ただ自分たちの思いだけで活動しているNPOも残念ながらあるようです。
広がりが生まれる
それでも、私をはじめ大勢の人がNPOに魅力を感じ、「がんばってほしい」と思ってしまう理由は何なのでしょうか。
ひとつは、「広がりを持っている」ということだと思います。「広がり」は「無限の可能性」と言い替えてもいいかもしれません。例えば、今まで地域で地道に文庫活動や子連れの観劇活動をしていた子ども関係の団体が「NPO」という新しい器を借りることによって、ただ単に絵本の読み聞かせをしているとか、子ども向けの良質の劇を見ているだけではなく、「自分たちの事業を通して子どもたちの育成と地域の活性化を図る」というように、広く社会的な目的を持つようになります。
もちろん、これはNPOにならなければできないことではなく、保育園で、あっても「働いている家庭のお子さんを預かるところ」という機能を目的にするのではなく、「子どもたちを預かることで、子育ての情報や文化を親に伝え、地域の子育てに対する理解や参加を深める」というように開かれた目的を持つと、活動そのもののありようやスタンスが変わってくると思います。
そのようにして、自ら社会に開かれた団体になっていくと、他の分野のNPOとの連携も図れるようになります。現在NPO法人化をめざしている「岩手子育てネット」は、そもそもは岩手県下の子育てサークルのネットワークづくりや行政や専門家との橋渡しをめざして活動中の団体ですが、昨年十一月、まちづくりを考える市民団体や行政とともに「乳幼児、高齢者に優しい社会環境づくりフォーラム」に参加し、乳幼児を育てる者の立場から望ましいまちのあり方について発言しました。
フォーラムに参加した人たちは子育て中の人や子育てに関心のある人ばかりではありません。そうした、子どものことはあまり知らないけれど、自分たちの住む地域を人に優しいまちにしていきたいと考えている人たちに、乳幼児の置かれている現状を説明することは、とても重要だと思います。と同時に、子育て支援の人たちも同じまちに住む高齢者や障害者の方の現状にも触れることができ、相互理解や交流がそこから始まります。こうした異分野の団体とゆるやかな連携ができることもNPO活動のおもしろさのひとつでしょう。
行政と新しい関係を築く
そして、二つ目の魅力は「行政と新しい関係を築くことができる」ということです。かつては、国や自治体の補助金をいただいて、その方針に従って運営するというのが、公的サービスの姿でした。けれども、NPOの出現によって「自助」「共助」「公助」といった考え方が広がり、企業が行うような私的なサービスとも、行政丸抱えの措置制度とも違う、市民と行政が協働で地域のために働くという概念が生まれました。
山形県の子育て支援NPO「やまがた育児サークルランド」では、行政との協働で子育て支援を行うにあたって、子育て支援のめざす姿(目的)を明確化するとともに、その目的を達成するために、自分たちができること、行政にやってほしいこと、自分たちと行政が協働でやっていくことを分けて提言しました。
「あれをやってほしい」「これをしてほしい」といった陳情型の要求はもう古いようです。行政側に自分たちから提案を出し、「ぜひ一緒にやりましょう」と呼びかけていく。NPOはそんな行政との新しい関係を築くことができるのです。
従来の保育の世界では見逃されていた専業主婦の家庭への子育て支援は、いわばすき間の支援だったと思います。つどいの広場を立ち上げたり、子育てネットワークを組織するようなNPOが現れなかったら、「在宅家庭も含めたすべての家庭への子育て支援」の必要性は日の目を見ることはなかっただろうし、具体的にどのような支援が必要なのかを提示することもできなかったでしょう。
まさしく、「ここがこうなったらもっといいだろうな」と思った人たちが、最初は手探りで、こつこつと活動の輪を広げ、それまで確かにあったけれどかたちになって現れてこなかったニーズを、「ほらここにありますよ」と、鮮やかに見せてくれたのです。それは、NPOの人たち自身のオリジナルであり、誰かに指示されてつくったものではありません。行政も社会もかたちになったのを見て、ようやく気づいたのです。こうしたことをやってのける底力がNPOにはあるのです。
今までと違う価値観がもてる
三つ目の魅力は、活動を通して「新しい価値をみつけることができる」ことだと思います。誰にでも大なり小なり、社会に向けて「やってみたいな」と思うことはあるのではないでしょうか。
私の知人に平日は保育士の仕事をしているけれど、それだけでは飽き足らず、仕事以外の時間に子どもたちへの読み聞かせや、お父さん、お母さん相手に育児相談をボランティアで行っている人がいます。それは誰に言われたのでもなく、自発的にやってみたいとその人が思い、周囲の人に呼びかけたり、サイトを立ち上げて始めたものです。なかには「仕事で疲れているだろうに、何も仕事以外のときまでそんなことをしなくてもいいのに。物好きだな」と見る人もいるのかもしれませんが、思いをかたちにしていくプロセスの楽しさは、一度味わうとやみつきになるものです。また、こうした地域活動が、保育園の中だけではつながらなかった新しい人間関係を生み、それがまた仕事にも生かされるといったプラスの面もたくさんあるようです。
不況が長引き、日本全体を覆う閉塞感はなかなかぬぐうことができません。「能力主義」、「成果主義」、「勝ち組」「負け組」といったことが言われ、同僚や仲間を抑えて、少しでも自分が「勝つ(いったい何に勝つのか・・・)ためにはどうしたらいいか書かれている雑誌が売られたりしています(全員が読んだら負け組がいなくなってしまいます)。
そんな価値観だけの社会の中では、高齢者や子ども、障害者はあっという間に弾き飛ばされてしまうでしょう。実は、こうした風潮に正直うんざりしている人も少なくないのではないでしょうか。「競争」じゃなく「共存」したい。それぞれが自分の力を発揮し、足りないところはみんなで補い合いたい。NPOはそんな価値観を教えてくれる装置でもあると思います。
―米国でのBSE発生・・・―
道野英司
昨年十二月二四日、米国からクリスマスのビッグプレゼントが届いた。米国内でのBSE、いわゆる「狂牛病」の発生である。米国内ではじめて発見されたBSEにかかった牛は西海岸のワシントン州南部にあるマブトンという小さな町で飼われていた乳牛で、当初四歳半とされていたが、その後の調査により四歳の時にカナダから導入され、十二月九日にとさつされたときは六歳半になっていたことが判明した。
厚生労働省では、リスク軽減の観点から従来からBSEが発生した国からの牛肉や牛由来の原材料を使用した加工食品の輸入を認めないこととしており、十二月二四日から米国からの輸入を認めないこととした。米国産牛肉はわが国の牛肉消費の三分の一近くを占めており、この輸入禁止措置が長引くと国民の食生活や食品産業界への影響が極めて大きくなると考えられる。しかし、食品の安全確保という観点からは、BSE発生国にもかかわらず、BSE対策が行われていない米国からの牛肉等の関係食品の輸入を認めることはできないと判断した。
十二月二九日に米国政府の担当者が来日し、厚生労働省のほか農林水産省や外務省などの関係省庁にBSE牛の発見経緯や米国政府の対応状況について説明を行い、ようやく年末となった。
私自身はこの第一回の日米会合のほか、輸入禁止措置に伴う輸入業界への対応などで結局十二月三〇日まで出勤したが、三一日まで出勤した者もいた。米国は一月一日が休日だが、日本のように正月をまとめて休む習慣がないので、私の自宅では正月休み中にも在東京の米国大使館とのやり取りは継続した。
一月中旬現在における米国のBSE関連の大きな課題は、三つになると思う。第一は輸入禁止措置の前日までに輸入され、国内に流通する米国産食品のうち、脳、せき髄などBSEの原因となる異常プリオンたんぱく質が蓄積する部分(危険部位)が含まれる食品の回収問題、第二は十二月二四日の輸入禁止措置を講じた時点で、日本での輸入手続や太平洋上を輸送していた牛肉の米国への返送問題、第三は今後の米国政府から提案される輸入解禁要請への対応である。
第一は危険部位が含まれる食品の回収措置については、昨年一年間に検疫所に提出された輸入食品のデータをすべてチェックし、さらに情報が必要な場合には輸入業者に調査を行わせている。実際に危険部位が含まれているとしてこれまでに回収等の措置対象となったのは、食肉などの未加工品では〇・一%、スープやビーフエキスなど牛肉の一次加工品では四・二%、カプセル入り食品などの一次加工品を更に加工した二次加工品では一・五%となっている。一次加工品まではほぼ調査が終わっているが、二次加工品についてはまだ半分程度しか終わっておらず、調査が継続されている。
第二は十二月二四日時点で米国からすでに日本へ輸出されていたものの、わが国の食品流通には乗っていなかった牛肉などについて、米国政府ではこれらの貨物が返送された場合の経済的影響が大きいため、日本側に輸入を認めるよう要請してきた。しかし、日本政府としては、米国がBSE発生国となった以上、リスク軽減の観点からBSE対策がとられていない牛肉の輸入は認められないと回答した。
第三は今後の輸入解除交渉の進め方は、現時点では米国政府の提案を待っているというのが正直なところである。年末に米国の農務長官が公表した今回のBSE発生に伴う対策の強化の主な内容は、生後三〇か月以上の牛に限定して、頭部、せき柱、腸(腸のみ全月齢)を特定危険部位として、健康状態にかかわらず除去して、食品や飼料の原材料としての流通を禁止することとした。また、BSE検査は当面、歩行が困難な牛を対象としている。わが国では全ての牛に対して特定危険部位の除去、BSE検査を実施しており、米国とわが国の対策を比較すると、米国ではBSE感染リスクの高い高齢牛には対応できているが、若齢牛への対策が不十分であり、米国側が今後どのような対策を上乗せするかによって輸入禁止の解除が可能かどうか判断することとなる。勿論、日本側でも輸入禁止解除に当たっては、動物検疫を担当している農林水産省や食品安全委員会などの専門家の意見も聞いて判断していくこととなる。来週(一月第四週末)にも第一回の日米の解除交渉が東京で行われる予定である。
(十二月中旬に一月号の原稿を提出したあと、非常に大きい事件が立て続けに発生したので、今月号で報告した)
(厚生労働省食品安全部監視安全課課長補佐)
人材開発コンサルタント
塩川正人
自分を客観的につかむ手法として、やさしい自己分析の手法を考えてみました。下表の真ん中にあるキーワードをヒントに、自分の保育スタイル、性格、個性、人間関係特性、長所、短所をつかんでみませんか。真ん中の用語はあくまでヒントですから、他にふさわしい言葉があればそれを使ってください。
この表を完成する前と後では、自分への見方に変化が起こると思います。自己分析の目的は本当の自分を知ることです。さあどんな自分が現れてくるでしょうか!
自己分析表
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