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―保育園を考える親の会から[34]―
第三者評価に求めるもの
保育園を考える親の会
 
 保育園の第三者評価制度がスタートし、自治体ごとに独自の評価基準をつくる動きも見えてきました。
 昨年九月号本誌に、「利用者から見た第三者評価」と題して、現在行われている国や東京都の第三者評価制度についての観察と展望を書きましたが、そこでも述べたように、この制度が有効なものとなるためには、まだまだ解決しなくてはならない課題が数多くあると思われます。
 保育園を考える親の会の二〇〇三年会員アンケートでは、改めて保護者が第三者評価に何を求めるかをたずねてみました。生の声をまじえてご報告しましょう。有効回答数は一五五通で、無回答は三通だけでした。
 
質の低い園の指導
 「『保育園の第三者評価』には、どんなことを一番求めますか?」という質問に対して、こちらで用意した選択肢を選んでもらった結果が、次頁のグラフです。「あてはまる」と思うものには複数○をつけてもらい、中でも一番重要と思うものには◎をつけてもらいました。
 最も多くの支持を受けたのは「親の力では変えられない質の低い施設が評価によって指導されること」でした。(有効回答中七七%が○もしくは◎)。全体数でも一位ですが、「最も重要」とした人の数が群を抜いて多くなっています。保護者は保育園に対して立場が弱いと感じており、第三者評価がもつさまざまな機能の中でも、特に園に対するチェックや指導といった「利用者の権利擁護」の部分を強く求めているといえます。
 次いで、「評価されることで、施設自身や保育士が質の向上のために明確な目標をもてること」が支持されました。(有効回答中六三%)。これは第三者評価が質の向上の動機づけとなること、その結果ある程度の質の標準化が進むことが期待されていると思います。
 一票差で「保育園を選ぶときの判断材料を提供してくれること」がきました(有効回答中六三%)。ただし、「最も重要」と考えている人の比率は上の二項目に比べるとやや低くなりました。
 以下、「評価基準が明らかになることで、利用者が施設に対して質の向上を求める場合の手がかりができること」(有効回答中五五%)、「親ではわかりにくい専門的視点から保育の質が評価されること」(有効回答中四七%)が続き、評価されることによる競争や、★の数などで一目瞭然の総合評価を出されることには、保護者はあまり期待していないことがわかります。
 なお、「その他」の自由記述としては、「第三者評価は判断材料になると思うが、住んでいる地域によっては他に園がない場合など、正常に機能するか?また園側もあまり意識していないように思う」「実際に入園しないとやはり園の良し悪しはわからないと思います。保育士によるところが大きいと思うのでは」などの意見がありました。
 
保護者の声
 「保育園を考える親の会」の機関誌に載せた第三者評価の記事(本誌掲載記事と同様の内容)についても、感想を聞いてみました。主だった意見に次のようなものがありました。
〈ちゃんと評価できるの?〉
・ひとつのものさしでははかれないものなので、問題点が多いと思う。
・教育内容に関することは一律の評価基準では判定できないことが多いので少し危険な感じがします。従来のように施設面・保育士一人当たりの子ども数などのハード面の査定をしっかりさせていく方向でなぜいけないのか。オプションが前面に出ることで基本がおろそかにされると困るという印象を受けました。
・「第三者」というのは今の仕組み上難しいのだなとわかりました。恐らく今の考えられているやり方では役所の自己満足にしかならないものになる恐れがあると思います。
・保育士と子どもの心が通い合うようなソフトについても評価できるのか? 設備や人材についてサービスの内容について、というハード面に限定すればわかりやすいと思う。子どもにとって大切なソフト面についてどう見極めるか、個人差もあるので難しい。
・実際はひとりひとりの保育士の人柄が気になりますが、こういった評価も役に立つとは思います。
 
保育園を選ぶときの判断材料を提供してくれること。 22 75
親の力では変えられない質の低い施設が評価によって指導されること。 60 59
親にはわかりにくい専門的視点から保育の質が評価されること。 19 54
「★いくつ」というように一目瞭然の総合評価で施設の優劣がはっきりすること。 0 8
評価されることで、施設自身や保育士が質の向上のために明確な目標をもてること。 33 65
評価されることで、施設間の競争が促されること。 3 24
評価基準が明らかになることで、利用者が施設に対して質の向上を求める場合の手がかりができること。 13 72
その他 3 0
 
第三者評価に求めること(保育園を考える親の会会員アンケート)
 
・「子どもを育てる」ことの本当の意味をわかっている人に評価してもらいたいものです。
・よくガイドブックの中には本当のおいしいお店はなく、きちんとしたお店は隠れている、なんて言いますが、そんなことにならないといいですよね。
・評価機関が多岐にわたって評価機関の評価が必要になりそうですね。
・医療施設の評価機関と同様元々審査を受けようという施設は意識が高い。評価するほうも評価するだけの力量があるか、きちんと評価しなければならないなど、必要ではあるがまだまだ課題は多いと思う。
〈評価される側がお金を払うシステムでよいのか〉
・依頼する園が調査機関に経費を払うことが問題あると思いました。(余裕のある園しかできない、いい面のみの宣伝になってしまう)
・申請に基づいて評価ということは知っていましたが、審査料のことは知りませんでした。誰だってお金を出して悪い評価を得ようとする人(園長)はいないと思います。審査が甘くなることが心配です。
・施設が自分で審査料を払って評価を受けるというのは問題ですね。審査料を払えない施設も多いのでは?第三者評価制度もこのままではあまり期待できないな・・・という気がします。
・本来なら評価機関は評価される施設とは一切営利関係を持たず、また利用者の意見(評価)もより重視すべき(卒園児も含めて)。
・お金を出せばなんでも通る、というのは保育の現場にはそぐわない。高校もそうだが子どもたちが互いに係わり合い育ちあう場所のはずだから。
〈事後が大切〉
・一度の評価ではなく改善や向上をチェックするシステムが必要。
〈客観的な評価をしてほしい〉
・保育の質の評価は追跡調査などによって発達学的観点からも行うべきだと思いました。親にとっての利便性に評価が偏らないことも重要かと。
・第三者評価は必要だと思います。保育園を選ぶとき口コミや実際に訪問しての情報収集も大切ですが、入園前には何をポイントにすべきかわからないので客観的な評価がほしいです。ただ、施設間の競争というのは違うと思います。
・やはり「評価者のレベル維持」という点について問題が大きいと思います。自分も保育士ですが同業者でも全く違うスタイルの保育、違った方針の保育を良しとしている人がたくさんいます。何が子どもに最も必要とされるのか、その点を正しく評価できる人かどうかがはっきりしなければならないと思います。
・難しい問題です。人は自分の観点から物を見てしまうので、どうしても都合よく受け取りがちになります。客観的な視点が必要ですね。そのためには施設が自分で依頼するのは問題だと思います。
〈すべての園が最低レベルをクリアさせるシステムに〉
・本制度は一定のレベルに達しているかというチェックではなく、企業の格付けと同様金を払って自らの評価(=良いところ)をアピールするためのもの、に思える。投資と異なりどんなに遠くにいい園があっても意味はない。身近な園が一定レベルを満たしているかどうか、満たしていなければ勧告されるような制度でないと意味がない。自然チェックする側は営利では無理。まさに第三者、中立的な立場で見ることができ、強制的にそのチェックが執行できる国以外ないのではないか。
・イメージしていたものはどちらかというと「問題あり」の部分の是正のためのものなのですが、実際は違うようです。まず安心して預けられる最低限のレベルはクリアすることが必要だと思うので、果たしてどうなのでしょう。
・この第三者に限らず、いろんな角度や目で保育の監視(?)をする機関が増えることを望みます。
・本当に指導できるのか?
・今回の記事を読むと各保育園の悪い点が親に明らかにされていないようで不安です。公正な評価機関がたくさんできることを望みます。
〈保育園をふやすことが先決では?〉
・保育園を評価していろいろ改善されたりしても希望の園に入れる状況ではないのでは?
・やはりある程度数値による画一的な評価になり、いい保育をしていても個人が経営する保育園や認可外が評価が低くなってしまうと思うので、どれだけ効果があるか疑問です。それよりも親が選択できるくらい保育園を充実させるのが先では?
〈わかりやすい評価を〉
・「専門家の評価」にならなければいいな、と。専門外の人が見てもわかりやすい基準・結果であることを望みます。
〈普及させてほしい〉
・同一地域の保育園がいっせいに評価を受けなければ比較はできない。(行政の補助や罰則がなければ実現はできない)
・気になる点は(機関誌の)記事に同感です。最低基準のチェック+悪いところの指導+良いところの評価を組み合わせた総合評価制度のようなものを全保育施設に義務付け、結果を公表してほしいものです。ちなみに私が勤務する会社の内部監査は年に一回、抜き打ちです。品質管理という観点からするとこの程度は必要と思われます。
・東京都認証保育園もどんどん規制緩和するとのこと、第三者評価がもっと広がってほしい。「第三者評価」という名称が固い、エンゼルプランのようにエンゼルウォッチャーとか、キャッチーな名前だと普通の親にもとっつきやすいのでは?(笑)
・第三者評価により経営者の意識の向上や利用者の視点が養われて、施設・保育士の質が高まっていき、万人に健全な保育がなされることを望みます。
・競争というか周りを知るよい機会になると思います。
〈よい効果ばかりではないと思う〉
・第三者評価は点数や序列の観点でした。保育が語られるにはとても殺伐としたものを感じます。
・本来保育に必要なものと評価を高めるためのものとは同じでないと思うので、ひとつの指針として必要なのかもしれませんが、こういうものにとらわれない保育をしてほしいと思う。今通っている園は地域の子ども・家庭との交流を大切にしていて月に一度交流会をしています。それを楽しみにしている人も多いようで公園で子どもの顔を見て話かけてくれるお母さんもいるんですよ。
〈疑問もあるが、園にも考えてほしい〉
・問題点が非常にわかりやすく整理された記事でした。一番の問題は評価機関が異なったとき評価基準が統一できるのか、ということと、東京都の評価項目が市場経営、サービスの質(評価のポリシーの問題)という点です。保育に対して「サービス」という言葉は私にとってはしっくりきません。こんな(経営とかサービス)という視点で子どもにとってよい保育園かどうか評価できるのでしょうか・・・。ただ一方でわが子が通っている園の先生方は第三者評価を批判するだけで受け入れようという取り組みをしていないように見える。気持ちはわからなくはないが、多くの親の支持を得ている信頼の高い保育園だからこそ、批判だけでなくもう少し前向きに「評価を受けてみよう」と考えてもいいのに、と感じている。
 
まとめ
 このほか、「問題はあるけれど、これからの制度なので期待したい」という声もありました。ただ、多くのコメントからは、この制度が利用者の味方とはならないのではないか、という不安も読み取れます。私も、評価が保育園の間接的な宣伝道具になったり、評価機関の商売(コンサルティング、マニュアルの商品化など)のタネにならない方向性を目指していただきたいと思っています。利用者、とりわけ子どもの利益を真摯に考えた、本当の意味での第三者評価制度に育てなければ、永遠に利用者の信頼を得ることはできません。
(保育園を考える親の会代表 普光院亜紀)
 
*「保育園を考える親の会」は保育園に子どもを預けて働く親のネットワーク。情報交換、支え合い、学び合いの活動をしている。







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