事例III. 茨城大学教育実践研究会
発表者:安部宏
団体概要
「茨城大学教育実践研究会」は「教育をイメージで語らない」を合言葉に、教育実践を批判的・分析的に解釈しその実践の意義を再検討するような機関の創設をめざして1997年、活動を開始した。現在は、いくつかの小学校において「ADHDやLDの子どもたちへ対するサポート」「学級に入れない子どもたちとの交流」「総合的な学習・校外学習・習熟度別学習へのサポート」などの活動を行なっている。また、資料の準備などの「事前活動」や反省会・専門の教授を招いた討論会などの事後活動も行なっている。
質疑応答
○「教育に関わりたい」という人間が増えてきている。しかし、現場の知識が浅い者や教育現場に対する理解が表面的になってしまっている者が多く見受けられるので、このような活動には賛成。
ADHD、LDの子供たちを地域で支えていかなくてはならない。小さくてもいいから、家庭・学校・地域の三者でコミュニティを作っていかなくてはならない。
○「教育力」という言葉の意味に対して
※解釈に関して色々と議論があったが、実践研の方は、「教室に入ってしまえば学校の教師と同じだけの責任ある立場になるという意識で、本当の意味で子どもが成長したと言えるような教育をする力」というような説明をされていた。「学生という立場でもどんどん“教育”に関わってゆこう!」ということであると個人的には解釈した。
○じかに子供たちと接することすなわちコミュニケーションが重要
連絡先
安部宏
考察
質疑応答がエキサイトし始めたのが、この「茨城大学教育実践研究会」の発表からである。それは彼らの「熱さ」によるものであろう。その熱さははたしてどこからくるものなのであろうか。
それは「危機感」から来ているのではないだろうか?活動理念を見ても、「理論重視の教育学部」「受験勉強ばかりしている教員志望の学生」「変革を嫌う教育現場」への危機感が感じられる。そこで生まれるのは挫折しやすい、社会常識を知らない、教員である。さらに言えば、そのような教員によって害をこうむるのは子ども達である。実践研の人たちはそのような危機感を持っているのではないかと感じた。
われわれも「熱さ」では負けないつもりである。今後とも良きパートナーとして刺激しあい、より良いスクボラ活動を目指してゆきたい。
発表者:大高皇、山崎一希
団体概要
総合的学習支援ネットワークフラスコ(以下、フラスコ)のメンバーの多くは茨城大学附属中学校(以下、附中)の出身です。彼らが卒業した後、スクールボランティア制度が附中で始まり、彼らは附中のOBとして活躍していました。フラスコは、スクールボランティアを附中以外にも広げたいという思いのもと2003年11月に設立されました。フラスコは理念として地域の中の学校というのを意識していて、そのためのワークショップの運営、コーディネイト、教材づくりの支援、WEBなどのネットワークなどを行います。地域の中の学校というのは、みんなで学校を楽しみましょうということを指しています。子どもたちのこんな授業を受けてみたい、地域の人の得意分野を生かした授業プログラムをつくりたい、先生たちのこんな授業をしてみたい、こういった声を実現するための組織、ネットワーク、それがフラスコです。フラスコがつなげることを想定しているのは、スクボラをしたい学生・地域住民・民間組織から市役所・公民館などの行政・公共施設など実に多様で、現在は運動会支援というのを計画中です。またフラスコはそのための手段としてWEBを使ったシステム(下記に述べるPIPET)を試験中です。
水戸芸術館の飯富小学校へのコーディネイトに向けて
飯富小学校では、元々水戸芸術館とのコネクションがある先生がいる関係で、ギャラリートーカーと共に行う芸術鑑賞授業が行われたことがあります。フラスコのメンバーの一人が水戸芸術館と強いつながりをもっていることから、今後フラスコがコーディネイトの役を担当したいと考えているそうです。実現はまだしていませんが、2学期以降の実現を目指して奮闘しているところです。
スクールボランティア活用支援システム「PIPET」
附中のスクールボランティア制度が抱える問題点として、集めた人材が有効利用できていないという現状が挙げられます(例えば、せっかくボランティア登録してもなかなか声がかからない、など)。こうした問題を打開すべく、WEBを使ったスクールボランティア活用システムPIPETが誕生しました。PIPETは登録したボランティアのキーワード・カテゴリ検索機能を備えています。またPIPETはフラスコ以外の団体でもすぐ導入できる高い汎用性を備え、団体同士がデータを共有するのにも役立ちます。
連絡先
チューター:常盤大学4年次 梶正憲
質疑応答
Q. 運動会を支援するというのが分かりにくいので教えてほしい。当日の肉体労働を手伝うということを指しているのか?
A. 運動会の準備というのは、先生にとって何かと大変な業務。そのお手伝いができれば、もちろん、当日の肉体労働も一緒にやる。学校に話をする中で、先生のメリットを強調しながら交渉をすることが大事。地域の運動会は(地方であればあるほど)地域にとっての一大イベント。どうせなら企画から地域の人と協力をすることで、結果的にも先生の業務を軽減でき、そこからフラスコと学校との関係を密にしていきたい。
Q. フラスコには「Future〜」のような正式名称があるが、「PIPET」にはないのか?
A. People Information Pool Engineering by Takanori Fukuda(PIPETをつくったのが、フラスコの福田嵩徳さん)。また、「理科の実験用具」ということにもかけてみた。
Q. 「フラスコ」についてきちんと把握できていない。フラスコとは学校と地域をつなげるネットワークなのでしょうか?それともフラスコ自身がスクボラをする団体ということでしょうか?
A. その両方です。大きく捉えれば、「フラスコ」そのものも、あるいは「フラスコ」が活動するそのコミュニティ全体を、私たちは「ネットワーク」と捉えている。学校〜地域〜教師〜学生・・・あるいは地域のパン屋までも「ネットワーク」と捉えることで、私たちがもっと積極的に多角的に「学校」に参加することを期待している。ガチガチな組織ではなく、誰もが自分の好きなときに、好きなエリアで参加できる。ひとつの学校だけでなく、いろんな多くの学校が繋がっていくことが大事。PIPETについても、将来的には、例えば附中スクールボランティアとして登録している方が、他の中学校でも「ボランティア」として活動できる・・・というような、<ボランティア情報の共有>を目指している。そうした要素も「ネットワーク」といえる
発表者:小笠原真紀子
プロフィール
1年次から海外ワークキャンプ、JICA筑波国際センター(TBIC)の講座などに参加して、参加型の学びを提供する開発教育の分野に興味を持つ。開発教育の担い手、ファシリテーターとしての研修を重ねてそのスキルをかわれ、その成果を発表する機会にも恵まれてきた。ボランティアセミナーの講師、メディアリテラシーに関するワークショップのファシリテーター、ヤングボランティア指導者研修会やぐっぴぃ設立総会のパネラーなど、活躍は多岐にわたる。現在は、G4sという国際交流・国際協力活動を目的とした団体(NPO法人格申請中)の立ち上げに加わりその運営をするほか、子どもNPOフォーラム第2部会実行委員会事務局の一員として準備に関わる。卒論も同時並行で進めており、現在筑波大学で最も忙しい学生の1人と言えるだろう。
今回は、学生のスクールボランティアの一例として、個人としての活動体験を話してもらった。個人というだけでなく、失敗例をとりあげたところに彼女の特徴がある。当日は、終始笑顔で、聞きやすくわかりやすい発表をしてくれた。
T高校(公立)での総合的な学習の時間におけるスクボラ
TBICにおける国際理解教育講座で知りあった高校の先生に、総合的な学習の時間で講師をやってみないかと頼まれたことがきっかけで、このスクールボランティアは実現しました。5クラスの学年単位で引き受けたため、合計6人の学生を個人的なツテで集め、クラスごとに時間と場所を分けて、2時間ずつ授業を行なうという流れになりました。国際理解教育の導入として、というカリキュラム上の位置付けをいただき、授業内容は学生が考えることになりました。
1ヶ月前から、学生どうしのミーティングは合計5回ほどして、あとは小笠原さんが担当の先生とメールでやりとりをして授業当日を迎えました。
しかし、実際の授業では、あまり話を聞いてくれなかったり作業に乗り気でなかったりと、高校生の反応は予想通りのものではありませんでした。学生の間では主に、高校生の現状を把握していなかったことが敗因ととらえられました。小笠原さんはこの経験から、「目的をしっかり定めること」「学校側との打ち合わせをきちんとすること」が重要だということを主張していました。
連絡先
筑波大学国際総合学類4年次 小笠原真紀子
質疑応答
Q. 具体的にはどのような内容の授業を行なったのですか。
A. 「ひょうたん島問題」という、開発教育教材を使ってやりました。ひょうたん島という島にカチコチ人とパラダイス人が移住してきて、もともといたひょうたん人とともに突然3つの文化が混在することとなります。たくさんの問題が予想される中でも、授業では教育問題の対立について考えるシュミレーションゲームをしました。生徒には、教育長、カチコチ人、パラダイス人、ひょうたん人、学校の教員などの立場になってもらい、それぞれの主張を確認して、教育制度のあり方について論議できるようにしました。民族ごとの学校を作る、とか同じ学校でカリキュラムを変える、とか、様々な方策を考えてもらうワークショップでしたが、内容が難しかったかもしれません。
1番テーブル〜現場の意見を中心に〜
☆ファシリテーター:松井由佳
☆メンバー:柳下浩一郎先生(吉沼小)、山崎一希(フラスコ)、高塚俊太郎(彩の国ボランティアネットワーク)、高村祥(実践研)、坂田澄恵(Party)、藤野徳子(エコレン)、切田元(E-cube)
「学生が「スクボラを」することの意義
<社会の中の「学生」という立場が持つ意味>
・良い意味でも悪い意味でも社会において「モラトリアム」と認識されている。
→子どもでもなく社会人でもない。立場的に中立。ポジティブに捉えてみては?
→学校の先生方と地域の人たちの仲介ができる(「学校」と「ボランティア」を結ぶ)
<「学」生>
・素直に「自分も教わる」立場でいられる。
→ボランティアの本質。学校の生徒と「ともに」学ぶ意義を見つける。子どもの思いや行動を予測して計画からやっていくことが、すごくよい経験になる。
・年齢が近いので、子どもたちに親近感がわき、話が合う可能性が高い。
・いろいろな専門の勉強をしている。
・知識・経験の面では社会に近い。
・体力と時間だけはある。
・自由で批判的な精神を持つ。
→教育を変えていく力となる。
・学生の新鮮な感覚を共有することで、教師も励みになる。
<なぜ「スクボラ」なのか。>
・スクボラは、人(次世代)に「伝える」ボランティアである。人に伝えるということは、自分自身を見つめなおすことにつながる。
・学校における人員の不足を軽減。
・新たな教育実践への挑戦のきっかけ。
・学校が社会に開かれていくことにつながる。
<学生の成長>
・教育現場にでることで、よりよい教育を考える場を持つことができる。
・良い体験の中から、自分なりの判断基準が生まれる。
・いろいろな立場の意見を知ることができ、視野が広がる。
・理論・推察だけでは実際の教育現場では無力。
・学生のうちから教師としての一役を担うことで、学生時代により深い理論を得ることができる。
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