日本財団 図書館


3.1.5.5 Step5; 勧告
3.1.5.5.1 バルクキャリアのリスクレベルに対するFindings、考察及び結論
 日本はBCのFSA検討を行った結果、以下のバルクキャリアのリスクレベルに対するFindings、考察及び結論を見出した。
 
3.1.5.5.1.1 SOLAS XII章適用船について
 1978年から2000年8月迄の海難データの分析結果に基づけば、NorwayがMSC72/16で提案したリスク評価基準に照らして、バルクキャリアのリスクは各種対策実施前後共にALARP領域にあると判断できる。ESP及びSOLAS XII章適用後の推定されたF-N Curveを(BC全体及びサイズ毎に)作成した結果、船長が150m以上のBCのリスクレベルはESP及びSOLAS XII章他の対策後は他の船種に比べて著しく大きいと迄は言えないが、依然高いレベルにある。従って、ALARPを目指して費用対効果の高いRCOを見つける努力をすべきである。
 
3.1.5.5.1.2 150m未満のBCについて
 近年導入されたESPやSOLAS XII章によるリスク低減を考慮すると、SOLAS XII章の適用外となっている150m未満(本解析の分類ではSmall-handyに該当)のバルクキャリアのリスクは、相対的に高いと言える。従って、150m未満のバルクキャリアのリスクを低減させる対策を検討するべきである。但し、150m未満のバルクキャリアでは1ホールドの浸水が致命傷となる可能性が高いことを考慮すると、SOLAS XII章のような事故拡大を抑止する対策(Mitigating RCO)は推奨されない。従って、浸水事故防止を目的とした有効なRCOの検討が望まれる。
 
3.1.5.5.1.3 二重船側船について
 3.1.5.3.3.2におけるリスク低減効果推定の結果より、二重船側船の現在のリスクレベルは、3.1.5.5.1.1で述べたXII章適用船に比べればいくらか低いところにあることが予想されるが、きわめて費用対効果の高いRCOを検討することが出来るならば、さらにリスクを低くする努力が望まれる。その際には、新造時にかなりのコスト増加が必要である点は十分に考慮されなければならない。
 
3.1.5.5.1.4 リスクレベルの推移についての考察
 過去の事故データには、SOLAS XII章やIACS UR S21等のような最近発効した要件の効果は表れていない。これらの効果が事故データに反映されるまでには、まだ何年か必要と思われる。新しい要件が新船のみに適用された場合、短期間で見ると、現存船すなわちフリートのほとんどにはこのような新要件の効果は表れず、フリート中ごくわずかの新船だけに効果が表れることとなる。この場合、フリート全体の安全レベルは、年々ゆっくりと向上していくこととなる。
 
3.1.5.5.2 FSA Studyからの導入済みRCOに関するFindings、考察及び結論
3.1.5.5.2.1 ESP他について
 海難データの分析により、Enhanced Survey Programme(ESP)が効果のあったことが確認された。
 
3.1.5.5.2.2 SOLAS XII章の新船適用について
 既に導入されたRCOであるSOLAS XII章(150m以上に適用、本解析の分類ではCapesize、Panamax、Handyの3つのサイズ分類に該当)は費用対効果が高いという結果になった。また、IACS UR S21(RCO10B)のGrossCAFも十分低いと考えられる。更に、SOLAS XII章との組み合わせ(RCO10)においても、互いに補完するような関係にあるため、GrossCAFは低くなっている。
 
3.1.5.5.2.3 SOLAS XII章の遡及適用について
(1)SOLAS XII章によって既に発効している、現存船に対するRCO(RCO20)のGrossCAFは、ノルウェー(MSC72/16)によって提案された評価基準US$ 3 Millionとほぼ同程度の値を示している。しかしながら、本研究で対象外とした衝突等の事故で沈没に至ったもののいくつかはNo.1貨物倉の浸水が引き金になっていると思われ、SOLAS XII章の遡及適用(RCO20)によって事故の進展を防ぐことができた可能性があり、費用対効果はもう少し高くなると思われる。
(2)船齢15年以上のばら積み貨物船に対するハッチカバー規則(IACS UR S21)の遡及適用(RCO23)については、GrossCAFの値は高く、遡及適用しなかったことが妥当であったと考えられる。ただしこの評価結果は、事故分析における仮定と専門家判断に左右される部分が大きいため、十分に詳細が報告されていない事故についての原因推定により見解が異なることが予想される。
 
3.1.5.5.2.4 二重船側船に対するSOLAS XII章非適用の是非(RCO15)
 新船に対する二重船側化関連のRCOについては、全サイズ平均での比較においてGrossCAFが低いとは言えない。一方、3.1.5.5.1.3の通り、二重船側ばら積み貨物船のリスクレベルはSOLAS XII章適用の新造ばら積み貨物船のリスクレベルと同程度である。これは、二重船側化を強制することは推奨できないものの、SOLAS XII章の適用において、二重船側ばら積み貨物船が適用から除外されたことが正当化されることを意味している。
 
3.1.5.5.3 新規RCOに関するFindings、考察及び結論
3.1.5.5.3.1 SOLAS XII章適用除外船に対する新規RCOについて
(1)150m未満のばら積み貨物船への対策
a. STEP2に示されているように、スモールハンディのリスクレベルは、他との比較において低くはない。SOLAS XII章の新要件が他のサイズのばら積み貨物船に適用されていることを考慮すると、スモールハンディに対するRCOは議論・調査されるべきであろう。
b. 3.6.4.3.3.2において調査を行ったスモールハンディに対するRCOの比較では、SOLAS XII章の適用拡大(RCO11)のGrossCAFは十分に低いと言える。しかしながら、スモールハンディに対するRCO11のGrossCAFは、本研究において採用した手法が過去の事故データに依存したものであること及び最近のスモールハンディに比べて昔のスモールハンディの貨物倉数が多い傾向にあったと考えられることから、なお検討の余地がある。またここで使用したコストに、損傷時の復原性を担保する要素が考慮されていないことについては留意しなければならない。
 スモールハンディの場合、使用上の問題から貨物倉自体をある程度以上に小さくすることは非常に困難である。このため一般的に貨物倉の数が船長に比べて少なくなり、実際のところ1ホールド浸水後に荒天中から生還することは難しい。これは、1ホールド浸水後の事故拡大の軽減をねらいとしたRCOは効果的でないことを意味する。この点から、スモールハンディに対しては、予防的なRCOを最優先に考えるべきであると言える。
c. 新造船に対する二重船側化(RCO15)のGroosCAFは、他のサイズに対するGrossCAFとの比較及びUS$ 3 millionという評価基準を考慮しても、十分に小さい値を示している。また、現存船に対する二重船側化関連のRCO(RCO25)は、US$ 3 Millionの評価基準の境界線付近であることを示している。これらのRCOは、今回検討対象から外した衝突等に対してもある程度は有効である一方、貨物倉容積の減少やメインテナンスがしにくい等の問題も併せ持ち、スモールハンディにおいては、貨物倉容積減少の影響は顕著であることを認識しておかなければならない。
d. 本研究中の新造船に対するRCOのうち、建造時の腐食代の増加(RCO16)のGrossCAFは最も小さい値を示している。また、就航後の腐食進行の抑制(RCO51及びRCO52)のGrossCAFについても、新船に対する他のRCOに比べて相対的に低い値を示している。従ってより効果的な倉内肋骨の再塗装や切替の方法を調査・提案できれば、これらのRCOは更に費用対効果が高くなるはずである。以上のことを踏まえた上で、これらのRCOは、ばら積み貨物船の更なる安全性向上の議論において、実用可能なRCOの一つとして推奨されるものである。
(2)二重船側BC
 新造時にSOLAS XII章を追加適用(RCO10)することについては、GrossCAFがUS$ 3 Millionの評価基準の境界線付近であることを示している。しかしながら、3.1.5.4.3.3(2)b.に示す通り、二重船側船として建造していること自体によるコスト増を考慮すれば、実際のGrossCAFはもっと大きな値になっていると捉えるべきで、適当な処置であるとは考えられない。(XII章の追加適用については、3.1.5.5.3.2と同様に考えられる。)なお、現存船への遡及適用される対策はいずれも費用対効果の点で許容され得るものではない。
 
3.1.5.5.3.2 SOLAS XII章適用船に対する追加措置(新規RCO)
(1)新造船としてSOLAS XII章が適用される/適用された船舶については、かなりの割合でリスクが低減されていると考えられるが、3.1.5.5.1.1に述べた通り、費用対効果のよいRCOを検討すべきである。GrossCAFの評価指標から考えて採用しうるRCOは、新造時の腐食代増加(RCO16)のみである。就航後の腐食進行の抑制(RCO51及びRCO52)については、GrossCAFは低いと言えないものの、より効果的な倉内肋骨の再塗装や切替の方法を調査・提案できれば、適用可能なRCOの一つとして検討されるべきものである。二重船側化(RCO15)等の追加対策の適用は、費用対効果の点において適当な処置とは考えられない。
(2)現存船としてSOLAS XII章が適用される船舶については、ある程度リスクは低減されているものの、新造船と比較すればリスクが高い状態にあると言える。従って、追加対策を検討する余地は残されており、就航後の腐食進行の抑制(RCO51及びRCO52)は適用可能なRCOの一つとして検討されるうるものと考えられる。また、現存船についてはUR S21が適用されていないが、これを遡及適用(RCO23)することについてはGrossCAFが大きな値を示しており、妥当な判断であるとは考えられない。二重船側化(RCO25)については、新造船と同様に適当な処置とは考えられない。
 
3.1.5.5.4 費用対効果評価を実施しなかったRCOに関する考察及び結論等
3.1.5.5.4.1 低比重貨物を積載するばら積貨物船への適用拡大
 海難時に1,780kg/m3以上の高比重貨物を積載している割合は重大海難の70%にのぼることが、海難データベースを使った分析により判明した。従って、SOLAS XII章の既存船の適用範囲が1,780kg/m3以上の貨物を積載するバルクキャリアに限定されることは過去の事故事例の70%がカバーされるという意味で理にかなっていると言える。
 
3.1.5.5.4.2 区画数の少ないばら積貨物船への対策
 浸水警報装置等の十分な数の水密な区画分けをもたないバルクキャリアの浸水事故後の事故拡大抑制対策は実現可能性が極めて低いと判断されるので、検討の優先度が低いと判断した。これらのバルクキャリアについては浸水事故防止対策及び有効な避難方法を検討すべきである。
 
3.1.5.5.4.3 船首部への交通手段の設置
 船首部へのアクセス手段は、乗組員に対する危険の大きさを考慮すると、荒天時に船首部で有効な作業が行えるとは思えないので、役に立つとは考えられない。
3.1.5.5.4.4 ハッチカバーの強化
(1)海難データの分析結果によれば、浸水事故の主要な要因は単船側の構造崩壊である。また、ハッチカバー関連の海難事故の主因は保守管理不良や人的問題等に起因するセキュアリングの不十分さであると考えられる。
(2)詳細が不明な行方不明事故の原因がハッチカバーからの浸水である可能性は否定できない。しかしながら、比較的軽微な海難事故の中にハッチカバー関連のものが少ないことを考慮すれば、一般にはハッチカバーの損傷が直接の原因になっている可能性は小さいと判断出来る。ただし、このような判断は不確実な部分も多く、議論の分かれる部分なので、慎重に検討する必要がある。
 
3.1.5.5.4.5 船首部艤装品の設計基準見直し
 船首部の甲板上の艤装品(Deck fitting)の損傷を原因とする浸水事故のリスクレベルは相対的に小さいと判断し、本事故シナリオについては費用対効果の評価は実施しなかった。
 
3.1.6 最終勧告
3.1.6.1 バルクキャリア全体
 バルクキャリア全体のリスクレベルはSOLAS XII章適用後も他船種と比べてALARP領域の比較的高い位置にあると予測され、費用対効果の観点で現実的な範囲で出来るだけリスクが小さくなるように安全性向上対策を検討するべきである。サイズ毎に見ると、150m未満のバルクキャリアのリスクレベルが高く、対策検討の優先度が高いと言える。
 
3.1.6.2 二重船側船の評価
 単船側BCのSOLAS XII章の適用後の費用対効果の事後評価から、二重船側の強制化の費用対効果を比較するとSOLAS XII章の方が費用対効果が高く、結果とし前者が強制化されたことは正当化される。二重船側の強制化はこれと比べる費用対効果が低く、SOLAS XII章に変えて、二重船側を強制化することは正当化されない。但し、船主がオプションとして採用した場合は、ダブルサイドスキンとSOLAS XII章適用後のシングルサイドスキンのリスクレベルは同程度であると考えられることから、追加的なRCOが強制化されなかったことも正当化される。
 
3.1.6.3 150m未満の単船側バルクキャリア
 150m未満の単船側バルクキャリアは、現在SOLAS XII章の適用外であるが、バルクキャリアの中では相対的にRiskが高く対策の必要性が大きい。しかし、150m未満のバルクキャリアに対しては単一貨物倉の浸水が致命傷となる可能性が高いと考えられ、貨物倉の数を増やす等の抜本的な対策を採らないのであれば、SOLAS XII章で要求されている浸水後の事故拡大防止策は有効と判断されないため、浸水防止を目的とした対策が必要である。従って、以下のRCOの導入の検討が推奨される。
■新造時:船側構造の腐食予備厚の増加
■就航後:船側構造の腐食制御
 
3.1.6.4 150m以上の単船側バルクキャリア
 150m以上の単船側バルクキャリアについては、二次防壁として浸水後の対策がとられているが、更なる安全性対策としては浸水防止対策が有効である。費用対効果の検討結果によれば、単船側のまま腐食予備厚を増加させる等の方法が推奨され、二重船側の強制化はこれと比べて費用対効果が悪いので推奨されない。従って、以下のRCOの導入の検討が推奨される。
■新造時:船側構造の腐食予備厚の増加
■就航後:船側構造の腐食制御







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION