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1-6 地域開発に関する公式規制
地域投資援助に関する枠組み
 EC条約の第87(3)(a)条によると、低開発地域は、経済開発の促進を目的として、特別な国家援助を受けることができる。さらに、EC条約の第87(3)(b)条によると、幾つかの地域は、単一市場の正常な機能を大幅に妨げない限りで、ある特定の経済部門の開発のための援助を受けることができる。そのような場合を判断するため、欧州委員会は、EU内のどの地域が、ある一定の期間の間に援助の対象となりうるかを特定した。現時点で、欧州委員会は、2000年〜2006年の期間を対象として作成した地図を用いて評価している。
 
 欧州委員会はまた、1998年69に、この種の援助が満たすべき基準について、加盟国にさらなる指針を与えるため、地域への国家援助に関する一連のガイドラインを発表した。一般的にいって、第87(3)(a)条の下で規定されている国家援助は、生活水準が非常に低い地域か、失業が深刻な地域を対象としている。欧州委員会は、これらの低開発地域を、住民一人当たりのGDPが欧州平均の75%以下の地域と定義している。
 
 一方、第87(3)(c)条は、地域の経済開発のための国家援助を与えるに際し、なおいっそうの柔軟性を規定している。「ある地域の経済的困難」という定義は、「低開発地域」向けの援助というよりも、その対象がいっそう広い。しかしながら、いずれにせよ、国家援助は、単一市場における貿易条件にマイナスの影響を与えてはならない。ある個別のケースに関係して第87(3)(c)条を検討した欧州司法裁判所によると、同条は、「欧州委員会に対し、ある加盟国の平均よりも発展が遅れている地域について、そのさらなる経済開発を目的に援助を認める権限を与えるものである70」。
 
 地域に対する援助に関する1998年のガイドラインはまた、援助の目的、形式、及びレベルに関して、どのようなタイプの地域向け援助が許可されるのかについて、さらなる指針を提供している。例えば、援助を受ける者は、プロジェクトが実現可能かつ信頼性があることを確保するため、投資計画の少なくとも25%を出資せねばならない。ガイドラインは包括的なものだが、造船向けの国家援助に関する規則1540/98に適合している限り、造船にも適用される。
 
 造船所向けの地域投資援助に関しては、加盟国は、ある条件の下で、これらの施設の生産性を改善するために、既存の施設の改善と近代化のための援助を行うことが許される。
 
 造船向け援助に関する規則1540/98の第7条は、地域に対する国家援助に関する1998年のガイドラインの規定を主に基にして、以下の条件を定めている。
 
−EC条約の第87(3)(a)条に含まれた基準に適合しており、それぞれの加盟国に関して欧州委員会が承認した地図に適合している地域では、援助が全体額に占める割合が、22.5%を超えてはならない。
 
−EC条約の第87(3)(c)条に含まれた基準に適合しており、それぞれの加盟国に関して欧州委員会が承認した地図に適合している地域では、援助が全体額に占める割合は、12.5%、ないしはその地域に適用される上限のいずれかの低い方を超えてはならない。
 
−援助は、地域援助に関するガイドラインに規定された対象となる支出に限られる。
 
各国の事例
 地域投資援助は非常に頻繁に加盟国に利用されてきた。その枠組みの下で幅広い地域援助が、特にスペイン、ポルトガル、旧東独地域等の開発の遅れた地域で与えられた。しかし、1998年以来、地域開発を目的とした造船援助には、より個別的で制約の強いルールが適用されている。
 
 規則1540/98の発効(1999年)以来、欧州委員会は、2002年にノルウェーの造船所71の生産性の向上のため、19万4,000ユーロの地域投資援助を承認した。また、ドイツの造船所72向けの地域援助67万5,000ユーロも承認した。欧州委員会はまた、第87(3)(a)条及び同(c)条、並びに、欧州委員会により以前に承認を受けているイタリア地域援助地図に照らして、援助対象となりうる地域に位置する幾つかのイタリア造船所に対して、投資援助を認めた。しかし、欧州委員会は、事前に承認されたイタリアの地域援助地図において対象外となっている地域にあるイタリア造船所に与えられた一部の援助の合法性には疑問を挟んだ。それゆえ、イタリアは、これらの個別援助を取り下げた73
 
 投資援助は、生産性向上を果たすために既存の施設を改善及び近代化する場合のみに厳しく限定されている。生産能力が増加する場合には、いかなる事情でも、そのような援助は認められない。70年代の造船援助に関する最初の欧州指令以来、造船援助は、生産能力の増強を伴わないという原則の下に置かれている。
 
 ボーダーライン上にある例としては、ドイツが2000年に、欧州委員会に対し、第87(3)(c)条の意味での援助対象地域に位置する、ある船体修理・造船用施設に地域援助を与える計画を通知したケースが挙げられる。この援助の目的は、古い浮きドックを、造船所自身が製造したより大きな浮きドックにより置き換える費用を援助することだった。欧州委員会は、計画が船体修理施設だけを近代化することを目的としているにもかかわらず、それによる生産性の向上が、この造船所の競争力全体に影響を与えるとみなした。また、欧州委員会は、計画が造船能力の増強につながることは不可避だとみなした。しかし、欧州委員会は、その調査において、世界に現存する浮きドックの95%が、船体修理または改修に使用されており、造船には使用されていないことを認めた。結局、欧州委員会は、浮きドックが船体修理にだけ使用されることを条件に、造船にこれを転用する意向を持った他の欧州造船グループに対する売却を禁じた上で、この援助(86万9,000ユーロに上る)を許可した74
 
結論
 EUのいわゆる「地域援助」は、韓国の分類では16(b)に該当すると言うことができるかも知れないが、これらの援助は同時に、非常に厳しい条件の下に置かれており、EUの経済的に不利な地域の開発という、より一般的な政策目標をめざしたものでもある。さらに、これらの援助は、造船所の生産能力を増強する場合には与えられない。それゆえ、地域援助は実際には、非常に稀にしかEUにおける造船援助として利用されていない。
 
1-7 造船業に製品・サービスを供給する業者向けの援助75:船舶設備の場合
船舶設備への国家援助の枠組み
 船舶設備への国家援助は、通常のタイプの国家援助と見なされており、EUの競争ルールの規定への適合が求められる。それゆえ、このような援助は、EC条約(第87条)、並びに、国家援助に関する様々な包括的内容のガイドラインが定める、競争ルール適用除外を受けるための諸条件を満たさなければならない。
 
 既に序文で指摘したように、EUの競争ルールの適用除外が認められるのは、地域開発、閉鎖・リストラ、環境保護、研究開発等の、EUの包括的な目標に沿った場合に限られる。それゆえ、船舶設備メーカーは、これらのルールに従わなければ、国家援助を得ることはできない。
 
 これまでに考察した(造船にも適用される)ガイドラインに加えて、船舶設備業には中小企業向け援助に関するガイドラインも適用される。中小企業向け援助に関するガイドライン76は、第87(3)(c)条を基にしている。中小企業は、従業員数250名以下で、年間売上高が4,000万ユーロ以下であるか、当該年の貸借対照表における総資産額が2,700万ユーロ以下であるかのいずれかを満たす企業と定義されている77。中小企業向け援助に関するこのガイドラインは、造船・船体修理・改修部門や、他の特別な規定によりカバーされている業界(例えば海運業等)には適用されない。他のカテゴリーの援助と同じく、中小企業向け援助は、追求される目標と、乗り越えられるべき商業上のハンディキャップに応じて与えられる。これらの制約の範囲内で、中小企業は、固定資産の形成ないしは技術移転を目的とする投資援助、ないしは、(EUの)包括的な目標(環境保護、研究開発、雇用)に関する他のタイプの援助を受けることができる。援助には上限が定められている。
 
 加えて、船舶設備を製造する企業向けに国が行う援助は、雇用のための国家援助へのEC条約第87条及び第88条の適用に関する2002年12月12日の委員会規則2204/200278によりカバーされている。この規則は、第87(2)(a)条に基づいており、包括的目標としてEUにおける雇用の促進をめざしている。幾つかの条件の下で、加盟国は、雇用に関する国家援助を、欧州委員会に通知する義務を免除される。しかしながら、造船には、この特別な条件は適用されない。
 
各国の事例
 国家援助を判断する際、欧州委員会は、船舶設備業界を特別にカテゴリーとして扱っていない。船舶設備業界は非常に多様であり、他の部門でも利用される設備を生産しており、特定的な国家援助の枠組みではカバーされない。唯一、海洋船舶設備(marine equipment)という概念が定義されているだけである79。それゆえ、これらのケースを検討し、船舶設備産業に与えられた国家援助を鳥瞰するのはほとんど不可能である。
 
 しかしながら、2000年に起きた最近の例としては、鋳鉄業の企業にドイツ政府が与えた国家援助80に関して、欧州委員会が調査を開始した例が挙げられよう。この企業は、船舶及び鉄道車両において使用される大型エンジンのためのボイラー、加熱装置及びシリンダライナーを製造している。欧州委員会は、EC条約第88(3)(c)条及び困難な状況にある企業の救済・リストラのための国家援助に関するガイドライン81に定められたリストラに関する条件、特にリストラ計画の実現可能性、リストラ費用と利益に対する援助額の割合及びリストラ援助の絶対的な必要性等の条件への適合性に関して、懸念を表明した。この例は、あらゆる産業部門に適用される包括的なガイドラインの適用を通じて、欧州委員会がどのようにこの企業を調査の対象としたのかを示すものである。
 
結論
 EUにおいては、船舶設備の生産のためには、いかなる特別な国家援助も与えられない。しかしながら、幾つかのケースは国家援助を一部含んでおり、韓国の分類のNo.10(a)に該当する。ほとんどの場合、その対象は限られたものであり、援助は、EC条約(第87条)のEU競争ルールに定められた厳しい条件を満たさねばならない。
 
第1部 結論:韓国のOECD分類案に照らしたEUの援助措置の将来
 造船・船体修理・改修向けの援助に関するEU加盟国の大半と欧州委員会の態度は、過去10〜15年の間に大きな変化を見せた。規則1540/98の発効後、そしてとりわけ、2000年12月31日以降の船価助成の廃止後でも、援助は削減傾向にある。韓国に対する一時的セーフガード(ある限定された期間において、あるタイプの船舶の建造に補助金を与える可能性を規定する)の発動にもかかわらず、欧州造船業界は、もはや、生産にリンクした援助措置82を当てにすることはできない。
 
 そのうえ、いわゆる閉鎖・リストラ援助、地域開発援助、あるいは環境保護援助は、生産能力に関する規定をはじめとして、非常に厳しい条件の下に置かれている。欧州造船業界は、既に過去20年にわたる大規模な変化を被ったが、現在では、国家援助に関する遥かに厳しい枠組みへの対応を迫られている。EU国家補助の枠組みでは、造船・船体修理・改修業は、通常の経済部門となりつつあり、競争ルールの適用除例外措置への制限がさらに強まりつつある。
 
 それゆえ、韓国の分類の下に入る造船部門向け支援措置の類型の中で、EUにおいて増加する可能性があるのは、唯一、技術革新・研究開発援助のみである。世界的な厳しい競争と世界的な造船能力の過剰を受けて、欧州委員会、EU加盟国及び欧州造船業界の大部分は、生き残るための唯一の道は、ハイテクか、ノウハウをベースとしたニッチ市場を主とした市場セグメントに特化することだと理解するに至った。
 
 それゆえ、2002年末には、欧州委員会と産業界のステークホルダーの共同イニシアチブである「リーダーシップ2015」が、欧州造船・船体修理業の将来のための戦略・政策目標を議論するために設置された。2003年1月には、問題をさらに検討し、勧告をまとめるために、ハイレベルの諮問グループが設置された。このイニシアチブは、欧州造船産業を、テクノロジーを原動力とした産業とすることにより、サプライ・サイドの改善をめざしている。他の目標も、作業のネットワーク化や生産の最適化、及びノウハウをベースとした生産への移行の推進による産業構造の改善をめざしている。
 
 諮問グループは2003年10月末に、欧州造船・船体修理業の将来を確保するための一連の勧告を含んだ報告書を発表した。提案された措置の中で国家援助に関するものとしては、研究開発計画に対する資金援助、技術革新援助に関する新たな定義、船舶の納入前あるいは納入後のファイナンスを目的とするEUレベルでの保証基金の設立の可能性、「業界再編」と言う考え方をベースとした現在の閉鎖援助83の見直しがある。欧州委員会は2003年11月末に、欧州指令案を提案する予定だが、欧州委員会はここで、1998年規則の見直しを提案する公算が高い。この文脈において、欧州委員会と諮問グループがそれぞれ、WTOとOECDのルールが守られるべきだという点を明確にしていることに注意を払うべきだろう。また、この新たなEUレベルでの枠組みにおいて与えられる援助措置は、造船援助に関する新たなOECD合意に含まれると見られる条件に適合することをめざすものとなると思われる。
 

69国による地域援助に関するガイドライン(OJ C 74, 10.03.1998, p9-31)、並びにその2000年の修正版(OJ C 258, 09.09.2000, p.5)。
70Case 248/84 Germany versus Commission, 1987。
71OJ C 165, 11.7.2002, p.37。
72判例N 306/02, OJ C 277, 14.11.2002, p.2。
73判例C 18/2002(旧N 809/00)。「各種の造船向け投資援助、EU条約の第88(2)条に基づく意見募集」(OJ C 141, 14.6.2002, p.15-21)並びに「加盟各国及びその他の利害関係者に対する欧州委員会の通知、国家援助措置C 18/2002(旧N 809/2000)、造船向け援助、造船向け投資の促進措置(規則[EC]1540/98の第7条)」(OJ C 311, 14.12.2002, p.11)。
74ドイツ政府がフレンダー・ウェルフトAG社(リューベク市)に供与する計画の国家援助に関する2002年3月12日の委員会決定(OJ L 203, 1.8.2002, p.60-63)。
75韓国案の分類では、支援措置No10(a)。
76中小企業向け援助に関するガイドライン(OJ C 213, 23.7.1996)。
77中小企業の定義に関する1996年4月3日の委員会勧告(OJ L 107, 30.4.1996, p.4)。
78OJ L 337, 13.12.2002, p.3-14。
79海洋船舶設備に関する理事会指令96/98/ECを修正する2002年9月2日の委員会指令2002/75/EC(OJ L 254, 23.09.2002, p.1-46)。
80判例C 31/2002、「ノイエ・ハルツァー・ウェルケGmbH社(ブランケンブルク市)、EC条約第88(2)条に基づいた意見募集」(OJ C 32, 5.02.2002, p.9-16)。
81本調査の第1部第2節を参照。
82韓国案の分類では支援措置No.1に相当する。
83効率性の低い生産能力の廃止に向けたインセンティブを与え、それにより資源を生産的な新規投資に向かわせることにより、欧州のメーカー間の業界再編のプロセスを促進するべきである。







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