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3.4.3 規制、性能標準
3.4.3.1 INS性能標準
 1998年12月のIMO決議MSC.86(70)Annex3「Recommendation on Performance Standards for an Integrated Navigation System(INS)」で採択されたINSの性能標準の主な概要は以下の通り。
 
●INSの目的は、当直航海士(OOW)が船舶航行の計画、モニター、コントロールに必要な機能及び情報に「付加価値」を与えることである。
●INSは複数の独立した異なるセンサーからのインプットを評価し統合することにより、危険の可能性と情報の健全性が欠如した場合に適切な警告を与え、航行安全に寄与する。情報の健全性(integrity)のモニタリングはINSの本質的機能である。
●重要情報は、その健全性が2つ以上の独立した情報源からのデータを比較することにより実証された後に表示、使用されなければならない。
●情報の健全性が不確かな場合には、INSがその旨を明確に表示し、その情報を自動制御システムに使用してはならない。
●INSは、人的要素(human factors)を考慮し、安全で能率的な航海を可能にし、当直航海士(OOW)の能力とその限界を補助するために、航海士の労働を能力の範囲内に抑えることを目的とする。
●INSは、IMOの規定に従い、IBSの航海機能の一部となる。
●これらの性能基準は、IMOが定める個々の機器の性能基準を超えた機能を持つ航海機器のあらゆるコンビネーションに適用される。
 
 INSは以下の3つのカテゴリーに分類されている。
(1)INS(A):一貫した共通参照情報の提供を含むINSの最低限の要求機能を持つシステム。針路、速度、位置、時刻に関する情報を提供。(注:「一貫した共通情報参照システム」とは、複数のセンサーから得られたデータの内、INSで使用するデータを一元化し、INSを構成する全ての機能にデータを供給するシステム。)
(2)INS(B):INS(A)の機能要求に加え、危険回避のための判断支援に必要な情報を提供するシステム。位置、速度、針路情報に加え、航路の深度、検出された危険に関する情報を、自動的、継続的にグラフィック表示する。
(3)INS(C):INS(B)の機能要求に加え、針路、航路保持または速度に関する自動制御機能を提供するシステム。同時にこれらの自動制御の性能とステータスを監視する。
 
 上記のIMOが規定した性能基準に従い、国際規格IECの作成作業が開始されたが、その間にINSに関連するAIS規格が制定される等、システムが常に進化しているため、その作業は現在も継続中である。
 
3.4.3.2 IBS性能標準
 IBSの性能標準は、INS性能標準に先行する1996年のIMO決議MSC.64(67)Annex1「Recommendation on Performance Standards for an Integrated Bridge Systems(IBS)」で規定されている。その後、IECがIBSの国際規格IEC61209を採択し、既に発効している。
 
 IMOの定義では、IBSは、「適切な資格をもった人員による船舶管理の安全性向上と効率化を目的として、複数のワークステーションからのセンサー情報または指令、管理に集中アクセスを可能にするために相互結合された複数のシステムを組み合わせたシステム」である。
 
 また、IBSは以下の機能のうち、少なくとも2つの機能をサポートするシステムの組み合わせと定義されている。
(1)航行(passage execution)
(2)コミュニケーション(communication)
(3)機関制御(machinery control)
(4)荷役・積み付け(loading, discharging and cargo control)
(5)安全・保安(safety and security)
 
 「少なくとも2つの機能をサポートするシステム」という規定は非常に曖昧で様々な解釈が可能であるが、一般的解釈としては、IBSは、航海関連機器に加え、上記の通信システム、機関制御システム、荷役・積み付け制御システム、船内事務管理システムを含む総合的システムを指す。
 
 IBSの各「部分」は、それぞれの性能標準と技術検査標準に準拠しなければならない。IMOは「部分」を個々のモジュール、機器、またはサブシステムと定義しており、ひとつの「部分」の故障が他の「部分」に影響を及ぼさない設計を求めている。
 
 また、インターフェイス、センサーの互換性は、国際インターフェイス標準IEC1162に準拠しなければならない。
 
 IBSのシステム統合に関する要求基準は以下の通り。
●IBSの機能は、少なくとも単独機器以上に高い効率性を持つこと。
●安全航行のために、連続した情報表示は最低限に抑えると同時に、追加情報には容易にアクセス可能であること。
●安全航行のために必要な多機能表示及び制御は、冗長性を持ち、切替可能であること。
●完全なシステム・コンフィギュレーション、可能なコンフィギュレーション、使用中のコンフィギュレーションが表示可能であること。
●統合された各部分は、その操作ステータス、潜在的情報、情報の有効性の詳細を表示すること。
●重要機能に関しては、代替操作方法があること。
●重要情報の代替情報源があること。IBSは情報の損失を表示すること。
●センサー情報、計算された情報、手動入力による情報が継続的に表示、またはリクエストにより表示されること。
 
 ある英国人規制担当者の談によると、IMOのIBS性能基準は完全ではなく、そのためIECの性能標準にも問題がある。IBSは、1980年代後半にSperryが航海機器を集めてIBSとして展示したところ、この統合コンセプトには大きな反響があり、他社も追随したという経緯がある。しかし、その時点では単なる機器の集合体で本当の意味で統合されたシステムではなかった。次々に発表される「IBS」に対応して1996年にIMOの基準が作成されたが、完全な性能基準を制定するには時期尚早であったといえる。
 
 現在IMOではIBSのトレーニング基準を制定する動きがある。目的はトレーニング原理とモデル・コースを作成し、メーカーへのガイドラインとすることである。
 
3.4.3.3 ブリッジ・レイアウト
 IMO NAV47では、一人当直を想定し、人間工学的に船橋機器の配置を標準化するガイドライン「Guidelines on ergonomic criteria for bridge equipment and layout」(MSC Circ.982)が採択された。
 
 船橋配置規格に関しては、従来からISOの船橋配置規格(ISO 8468)があるが、IBSや一人当直を想定していない時代にできたものであり、ISOでは、IMOのガイドラインを受けて、ISO 14612として規格を作成中である。
 
 ISO 8468は造船所やメーカーで広く参考にされているため、これの変更には手をつけず、ISO 14612では、変更点のみ規定することで作業が進められているが、規格として二つを参照することは利用者にとって不都合であるので、規格を使い易くすること、一般船の規格であるISO 8468に新しい技術の内容を付加することを目的として、両者を合体した規格であるISO 8468 Ed.3の作成に着手した。
 
3.4.3.4 メーカー側の意見
●航海機能のみのINSの性能標準は準拠し得るが、IBSに関するIMO規定、IEC性能標準の定義は一般的過ぎる。これまでにIEC61209に準拠して型式承認されたIBSはないのではないか。(Transas)
●規制当局は、IBSの一部分が故障した場合にシステム全体に影響を及ぼすことを恐れ、IBSをスタンドアローンのモジュール機器の集合体と定義しているが、このアプローチは今日の性能要求や技術革新の可能性を反映したものではない。(SAM Electronics)
●IBSの性能基準はハードウェア中心で、システム的アプローチやデータ・アクセスのハーモナイゼーションに欠け、IBSの真価である統合システムに合致しない。(SAM Electronics)
●システム統合に関する唯一の実際的な基準であるINSの性能基準が、操舵や速度制御を含めた機能統合の基準となっている。(SAM Electronics)
●IBSの性能基準は複雑で、問題へのソリューションに関する規定が厳しすぎる。この性能基準が特に技術開発の障害になるとは考えないが、機器のテスト基準とすることは難しい。(Kelvin Hughes)
 
3.4.4 INS/IBSの技術動向
 今後のINS/IBSの動向に関する技術者の意見は以下の通り。
●今後の方向性として、INS/IBSはシステム化を一段と進め、システムを構成するモジュール機器全てが、同一のデータベース、スクリーン、マルチ機能コントロール・パネル、データ通信機能、プロセッサー、モジュール部品、ソフトウェア言語、電源等を共有するものとなろう。
●また、レーダー、ECDIS等の類似機能を持つディスプレイは統合される。そのため、現在IECが作成中の航海機器の表示方法、シンボルの統一基準IEC62288は重要である。
●IBSはECDISを中心としたシステムになってゆく。
●単独のGPSのディスプレイはなくなり、その機能はセンサー、transducerとしてネットワークにリンクされ、アウトプットは統合されたマルチ機能ディスプレイに表示される。
●同様にVDRもセンサーとしてIBSに組み込むことが可能だが、IMOは安全性を考慮してVDRと他のシステムとのインターフェイスを好まず、センサー化することは現在のVDR搭載基準に反することになる。
●さらなるシステム化、統合は技術的には十分可能であるが、規制環境が制約となっている場合も多い。
●モジュールのプロトコルの統一も必要。
 
3.4.5 INS/IBS主要メーカー及び機種
●SAM Electronics(独):NACOS65シリーズ。Norwegian Cruise Line(NCL)の新クルーズ船「Pride of America」、「Norwegian Star」、及び「Carnival Spirit」と姉妹船2隻、「Coral Princess」、「Island Princess」、「Costa Atlantica」に納入。民間船INS需要のシェア35%、クルーズ船の65%。(同社発表)。中央警告管理機能を備えた統合型IBSとしては、Ship Control Centre(SCC)を提供。
●Kelvin Hughes(英国):Ninas 9000、8000(高速船向け)。Manta(フラット・スクリーンのコンパクト型)。AV、BV、DNV、GL、LR各船級協会の要求技術基準に準拠。世界最大クルーズ客船「Queen Mary2」(後述)、韓国で建造中のVLCC4隻にIBSを納入。
●Kongsberg(ノルウェー):BridgeLine、及び高速船向けIBS Sea Cockpit。2002年度に韓国で建造されたLNGタンカー7隻にBridge Lineを納入。総額380万ドル。
●Consilium Selesmar(イタリア):INS970。納入実績データなし。
●Sperry Marine(米Northrop Grummanのビジネス・ユニット):Voyage Master System(VMS)、Pilotシリーズ。同社は米国海軍向けの最大のIBS供給企業。納入予定を含めると、総納入台数は134機に上る。(同社発表)2002年末には、今後建造される米国海軍のAegisクラスのデストロイヤー8艦にIBSを納入する契約を総額790万ドルで締結。
●古野電気(日):Voyager IBS。英国で開発したVoyagerの納入実績は約110機。(同社発表)韓国で建造中のタンカー12隻、及び約20隻のコンテナ船、その他の大型船に納入予定。2002年6月、IBS、ECDIS開発を行うフィンランドの航海機器メーカーのナビントラ社を買収、営業の現地法人と統合し、「フルノ・フィンランド」を設立。ECIDSで設定したコースをオートパイロットで制御するトラック・コントロール・システムを共同開発。2003年6月のノルシッピングでは、IBS販売で英Rolls-Royceとの提携を発表。
●Raytheon Marine: Bridge Control IBS。独Anschütz社、蘭Standard Radio社との共同開発。







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