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国際海事情報シリーズ79 欧州における航海機器のシステム化の現状と動向に関する調査

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


3.3.6 電子海図(ENC)
 ECDISを使用するために不可欠な要素である電子海図(ENC: Electronic Navigation Chart)には、Lights ListやSailing Directions等、紙海図や紙海図をスキャンしたラスター・チャートよりも多くのデータを含んでいる。また、電子海図はアップデートを自動的または半自動的に迅速に行うことができるという利点がある。
 
 IHO(International Hydrographic Office: 国際水路機関)のガイドラインS-52では、ECDISは、ENCの自動的アップデートが可能なInmarsat衛星通信またはEGC SafetyNetレシーバーとのインターフェイス機能を持つように指示している。半自動的アップデートは、電話回線または3.5インチ・ディスケット経由で行われる。IHOはインターネットの利用には言及していないが、最近普及率が高まっているアップデート方法である。
 
 IHOは、ベクトル・チャートのアップデート方法に関して、衛星通信費用削減のために、チャートやセルの完全なリプレースではなく、改定部分のみを含む比較的容量の小さいファイルの使用を認めている。改定部分は「デジタル・パッチ」としてオリジナル・データ・ファイルに貼り付けられ、航海士は改定部分を容易に知ることができる。
 
3.3.6.1 Admiralty ECDISサービス
 英国水路部(UKHO: United Kingdom Hydrographic Office)の公式海図出版部門Admiraltyは、契約顧客に対し、希望する海域のENCとENCがない海域ではラスター・チャートを組み合わせて販売し、ENCが発行された時点で自動的にリプレースするという新ECDISサービスを2003年秋に開始した。契約すればリプレースに追加費用はかからない。加えて、ENCとラスター・チャートのアップデート、関連情報は毎週CD-ROMベースで通達されるが、Eメールによる通達、及びオンラインでのダウンロードも可能になる予定である。
 
 UKHOは、一般ユーザー向けENCとは別に、NATO(北大西洋条約機構)と協力して、詳細な水路情報、海洋学情報を付加した軍事用電子海図Additional Military Layers(AML)も開発中である。
 
3.3.6.2 ENCカバレージ
 ENCは現時点では全世界をカバーしていないため、ENCがない海域では、紙海図と紙海図をデジタル化したラスター・チャートを使用せざるを得ない。
 
 英国ChartCo社は、2002年11月にECDISを使いロッテルダムからスエズ運河を経由し東京に向かうという仮想航海実験を行った。この航海には約150枚の紙海図が必要であり、そのうちENCが利用可能だった地域は、オランダ、スペイン、ポルトガル沿岸、スエズ運河、マラッカ海峡、日本沿岸のみである。このように欧州、シンガポール、韓国、日本、北米以外では未だにENCがない海域が多い。
 
 日本の場合、紙海図、電子海図ともに海上保安庁海洋情報部(旧水路部)が作成しており、日本沿岸の紙海図約600枚のうち、2003年5月時点で300枚が電子化されている。海洋情報部は、需要の多い紙海図から順次電子海図化をしており、数年内に電子化を完了する予定である。(「Compass 2003年5月号」)
 
 海図電子化の問題点のひとつは、各国水路部の国際協調の欠如である。国際協定でユニバーサルな利用が認められている紙海図と違い、各国の水路部が自国領海のデータの法的権利を有しており、他国がそのデータを利用する場合には、それぞれ別の取り決めを行わなければならい。例えば、英国水路部は、国際協定によりスエズ運河と紅海地域のデータを提供している。
 
 また、ENC発行状況に関する総合的な情報源が少なく、個人ではENCの発行及びアップデートの状況や予定を知ることは、面倒な作業であるという問題点も指摘されている。
 
 このような問題を解決するため、IHOは地域ENCコーディネーション・センター(RENC)及び国際ENCセンター(IC-ENCまたはICE)の設立を促している。
 
 ノルウェーのPrimar Stavangarは、RENCとして、欧州全海域を含めた1,200枚のENCデータベースを持っている。Primar Stavangarのメンバーは、スカンジナビア諸国及びフランスである。
 
 一方、IC-ENCは、英国UKHOが代表者となり、現在のメンバーはベルギー、ドイツ、オランダ、ポルトガル、スペインである。IC-ENCは、メンバー国から収集したS-57標準に準拠したデータを、ひとつのENCデータベースにまとめ、再販業者に供給している。IHOの目的は、全世界的なENCデータベースを構築することである。
 
3.3.6.3 ENC規制・性能標準
 電子海図に関する性能基準は1995年のIMO決議A.817(19)により定められ、1996年の決議MSC.64(67)Annex5によりECDISが故障した場合のバックアップ体制、即ち別電源を使用するもう一台のECDISの搭載、または最新の紙海図の適切なフォリオの携帯(an appropriate folio of up to date paper charts)、が決められた。この「an appropriate folio」の解釈は国によって異なる。
 
 さらに、1998年の決議MSC.86(70)Annex4により、電子海図ENC(Electronic Navigational Chart)がない場合は、最新の紙海図とともに使用するという条件で、紙海図を電子化したRCDS(Raster Chart Display System)モードでのECDIS使用が認められた。
 
 ENCとは、国際水路部の定める性能基準、IHO Standard for Digital Hydrographic Data Special Publication No.57(S-57)に準拠する公式ベクトル・チャートである。
 
 2000年に採択された改正SOLAS条約第V章19.2.2.1.3規定では、ECDISを全面的または部分的に使用する船舶に対し、バックアップ用の紙海図を携帯することを義務づけている。
 
 しかし、バックアップ用紙海図の携帯に関しては、各国によって解釈が違い、事態をさらに複雑にしている。例えば、オランダでは公式ラスター・チャートを使用する場合は、紙海図を携帯する必要がないが、ノルウェーでは公式または非公式のラスター・チャートを使用する場合は、紙海図の携帯を義務付けている。
 
 オランダ当局の意向は、バックアップを必要最低限に止めることで、安全航行に寄与するECDISの利用を促進することである。バックアップ体制に関しては、紙海図のみが使用される場合、火事や事故による焼失や紛失の可能性があるにもかかわらず、バックアップ用紙海図の携帯が義務付けられたことは一度もないとの指摘もある。
 
 公式ENC S-57以外に、Transas(ロシア)、SevenCs(ドイツ)、C-Map(米国)等数社が独自の非公式ベクトル・チャートを発行している。非公式ベクトル・チャートは、ラスター・チャートや公式ENCよりも機能性が優れていることがあるが、品質にばらつきがあり、IMOはENCのバックアップとしての使用を認めていない。
 
3.3.7 AISとECDISのシステム統合
 AISと異なり、ECDISはIMO規制で搭載が義務付けられていない。AISと比較してもECDISは高価であるため、搭載義務のないECDISへの追加投資をためらう船社が多いが、AIS情報はECDIS上でのディスプレイが可能であり、両機器の機能を統合することは、船舶の安全航行上に大きな利点がある。
 
 まず、最低基準として規制で定められているAISのディスプレイは「ミニマム・キーボード・ディスプレイ(MKD)」で、目標物の方位、距離、名前のみの表示で、グラフィック・インターフェイスは完全にオプションである。グラフィック・ディスプレイ機能を持つAISの場合でも、モノクロ表示が多く、ECDISやARPA(Automatic Radar Plotting Aid)に比べると見易さや機能性が劣る。一方、ECDISのディスプレイはMKDよりもサイズの大きい明確なカラー・グラフィックで、接近した複数のターゲットの認識を電子海図上でクリアに行うことができる。
 
 また、ECDISは常にAISターゲットをCOG(対地針路)とジャイロコンパスの2つのベクトルで表示するため、正確度の高い位置確認が可能である。
 
 さらに、ECDISではユーザーがNorth-Up、Head-Up、Course-Upの中から好みのディスプレイ方法を選択でき、利便性が高い。ECDISではAISに加え、ARPA及びレーダーからの情報の同時表示も可能で、総合的航海ツールとなり得る。
 
 このように、統合されたAISとECDISシステムは、航海士にとってより効率的で操作のしやすいツールであり、今後のシステムの主流となってゆくことが予想される。
 
 同時に、AIS-ECDISシステムは、VTS(Vessel Traffic Services)にも利用されている。このシステムを効果的に利用しているVTSの実例としては、米国とカナダの五大湖の水路管理局がある。同局では船舶の運河通過スケジュール、気象情報、水位情報等を、AISを用いて航行中の船舶のECDISに向けて送信している。同時に船舶の航行情報を水路管理局のECDISに表示する。AISにDGPS機能が搭載されている場合は、船位の誤差は10メートル以内である。
 
3.3.8 今後の動向:ECDIS搭載の義務化
 ECDISは航海安全性の向上に寄与すると一般的に考えられているが、搭載義務化の動きは遅れている。その大きな理由としては、電子海図が全世界をカバーしていないことが挙げられよう。
 
 しかし、地域的、及び船種を限ったECDIS搭載への動きはある。例えば、ノルウェー政府は、1999年11月、ECDISを搭載していない高速船「Sleipner」が暗礁に衝突し、沈没した事故の原因調査の結果、ノルウェー海域の電子海図化を加速した。同時に、調査委員会は、海図の電子化が完了した時点での高速船へのECDIS搭載義務化を提案している。
 
 また、バルト海沿岸諸国は独自にECDIS搭載を促進している。この動きは、国際協調によりバルト海の環境汚染を阻止する目的で設立されたヘルシンキ委員会(Helcom)が主導し、参加国及び組織はデンマーク、スウェーデン、フィンランド、ドイツ、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ロシア、欧州連合(EU)である。
 
 ヘルシンキ委員会は、2001年9月のバルト海の航行安全に関するコペンハーゲン宣言で、特に環境に害を及ぼす恐れのある船舶に対してECDIS搭載を勧告し、各国政府に対しては、2002年末までに主要航路、主要港の、2004年末までにそれ以外の航路と港の電子海図を整備するよう促した。
 
 ヘルシンキ委員会がECDIS搭載義務化を提唱する船舶、船種は、(1)喫水11m以上の全船舶、(2)喫水7m以上の石油タンカー、(3)ケミカル・タンカー及びガス・タンカー、(4)核燃料輸送船、である。
 
3.3.9 ECDIS主要メーカー及び機種
●Transas(ロシア):Navi-sailor 3000
●SAM: EIectronics(ドイツ):Chartpilot
●Kongsberg Maritime(ノルウェー):SeaMap 10
●Kelvin Hughes(英国):Nucleus3 5000/6000、Manta 1700/2000/2300
●Sperry Marine(米Northrop Grummanのビジネス・ユニット):NAVI-ECDIS
 
3.3.10 主なECDIS関連システム及びソフトウェア
●PC Maritime(英):船舶モニタリングとトラッキング、電子海図アップデート・システム
●Admiralty(英):TotalTide潮流情報
●KonMap Maritime Systems(ノルウェー):GIS(Geographical Information System)
●Transas(ロシア):Weather Wizard気象情報
●C-Map A/S(ノルウェー):C-Star気象情報・ルーティング、Ocean View陸上局GIS
●Marintech(ノルウェー):dKart Navigator海底地形情報
●SevenCs(ドイツ):EC2007 WebECDIS。インターネット経由のECDIS情報表示。
 
3.4 INS/IBS
3.4.1 INS/IBSの概要
 IBS(Integrated Bridge System: 統合ブリッジ・システム)は、航海、機関、通信、荷役、保安、船内管理等船橋におけるあらゆる機能を統合したシステムで、INS(Integrated Navigation System: 統合航法システム)は、その中の、航海部分の機能のみを統合したシステムに相当する。
 
 IBSは、従来船橋で使用されている単独機器(システム構成品としてはモジュールまたはユニット機器と呼ぶこともある)の機能を統合し、船橋内の作業を効率化すると同時に、モジュールとしての機能以上に付加価値のある総合的なシステム構築をめざしている。
 
 しかし、一般的にはIBSの中でも航海機能のウエイトが高く、両者の厳密な区別はされず、実際はINSに若干の他機能を付加しただけでもIBSとして販売されている場合が多い。
 
 そのため、ユーザーにとっては、IBSあるいはINSと呼ばれるシステムが、どの機能範囲を含み、どの程度の安全性と効率化が配慮されているかの判断がし難く、また、船級協会によって検査基準が異なる等の理由から、国際的な標準化が望まれ、3.4.3項で説明する基準が作られた。
 
 しかし、現行規則による搭載要件は単独機器の単位であり、これらを活用せざるを得ず、単独機器を集合させただけのビルディングアップ・システムとしての問題点も指摘されている。IMOは、ユーザー・オリエンテッドの要求を配慮すべく、IBSの設計面、運用面でのガイドラインでの見直しを行った。現在、INSの性能基準の見直しも国際的な専門家の間で行っている。(片山海事技研事務所 片山瑞穂 基準研究成果報告会「航海用電子機器の国際基準」より)
 
3.4.2 INS/IBS基本構成機器
 INS/IBS構成機器を機能別にワークステーション単位で見た場合、以下の機器・機能が含まれる。(SAM ElectronicsのIBS「Ship Control Centre」を参考に作成。)
 
(1)航法システム(INS部分)
●レーダー/ARPA
●ECDIS
●オートパイロット
●AIS
●コニング情報表示システム
●ドップラー・スピード・ログ
●エコーサウンダー
●その他:コンパス・システム、ステアリング・コントロール、ポジション・レシーバー、VDR等。
 
(2)通信システム
●GMDSS
●衛星通信システム
●電話通信システム
●その他:火災、ガス警報器、冷蔵コンテナ・モニター、ビデオ・サーベイランス・システム等。
 
(3)オートメーション・システム
●モニタリング、コントロール
●船舶管理
●主機遠隔操作
●電源管理







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