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国際海事情報シリーズ79 欧州における航海機器のシステム化の現状と動向に関する調査

 事業名 造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業
 団体名 シップ・アンド・オーシャン財団  


3. 航海用電子機器
 本章では、航海機器の中から、1990年代後半以降に本格的に実用化され、普及が始まった新航海用電子機器、及びシステムを取り上げ、その技術概要、規制、性能標準等の概要を述べる。
 
 該当する機器、システムは、SOLAS条約で搭載が義務付けられたAISとVDR、ECDIS、及びそれらを統合した統合航海システムINS、INSに加えて制御、管理機能を加えた統合船橋システムIBS、さらに、陸上支援システムであるVTSである。
 
3.1 AIS
3.1.1 AISの概要
 AIS(Automatic Identification System: 船舶自動識別装置)は、航海中または停止中の各船舶が、船名やコールサイン、IMO番号、MMSI番号、船の長さ、幅、船種、固定アンテナの位置等の固有(静的)情報、及び位置情報、針路、対地速度・針路、船首方位、回頭率(ROT)等の動的情報、目的地、到着予定時刻(ETA)、航海計画等の航海関連情報を、他のAIS搭載船及び陸上局に向けて自動的、周期的に送信し、また他船から送信されたこれらの航海情報を表示するVHS通信システム。さらに、積載貨物の種類、乗客数、喫水、テキスト・メッセージ等の追加情報の通信も可能。
 
 AISのデータは、独自のSTDMA(Self-organising Time-Division Multiple Access)データ通信システムにより数秒毎に更新され、送信される。AIS交信用には161.975MHz及び162.025MHz(VHF88B及び88B)の2チャンネルが国際共通周波数として割り当てられている。STDMAシステムは、GPSからの船舶の位置情報及び世界標準時を用いて複数のAISユーザーからのデータを同期化し、AISトランスポンダーに供給する。
 
3.1.2 AISの型式
 ITU-R(The International Telecommunications Union Sector for Radiocommunications)は、勧告「Recommendation M.1371-1」でAISを以下の2型式に分類している。
(1)クラスA
 IMO性能標準を満たし、IMO規制(後述)によりAIS搭載が義務付けられている船舶向けの船舶搭載モバイルAIS。
(2)クラスB
 IMO性能標準を完全には満たさない船舶搭載モバイルAIS。クラスAとほぼ同様の機能を持つが、以下の点で異なる。
●クラスA機種よりも情報送信頻度が少ない。
●IMO番号、ETA、航海ステータス、回頭率、喫水等の情報を送信しない。
●テキスト・メッセージは受信のみ可能。
 
3.1.3 AISの構成要素
●VHF受信機1器と送信機2器を持つSTDMAトランスポンダー。
●船舶の航海用センサーからのデータ受信用、及びECDIS、ARPA、VDR、インマルサット・ターミナル等外部機器へのデータ送信用のプロセッサーとインターフェイスを持つ制御・表示ユニット。
●STDMAデータの同期化に必要な位置情報、世界標準時を供給する1器または複数のGPS/DGPS。
 
3.1.4 AIS通信モード
(1)船舶間
 AISの基本オペレーティング・モードはAIS搭載船舶同士の情報交換で、VHF域内の船舶間で自動的に行われる。受信された情報はデコードされ、グラフィック及びテキスト・フォーマットで表示される。
 AISデータは、船舶のINSやレーダーへの統合が可能で、またVDRに記録し、必要な場合に再生、分析することができる。
 
(2)陸上局でのモニタリング
 船舶間だけではなく、AISは陸上局からも使用可能である。陸上局は、管理するエリアの船舶の動きをモニターし、特定の船舶を呼出して必要な情報をリクエストすることができる。また、船舶に向けて潮流、天候その他の関連情報を発信することができる。AIS設備を持つ複数の陸上局をWAN(Wide Area Network)で結べば、さらに広域をカバーすることができる。
 
3.1.5 AISの利点
●船舶間及び陸上局との情報交換の迅速化及び効率化。
●レーダーとの併用による船舶トラッキングの正確化。
●AISを搭載した船舶は、その大きさにかかわらず、情報を正確に把握することが可能。
●島影、蛇行した河川、悪天候でも情報を把握することが可能。
●船舶の方向、速度情報がレーダーに比べて正確。
●AIS基地局はレーダー局よりも広範囲をカバーできるため、経済的。
 
3.1.6 規制
3.1.6.1 搭載時期
 2000年の航海の安全性に関するSOLAS条約第V章の改正に伴い、2002年7月1日から船種、総トン数に応じて段階的にVDRとAISの搭載が義務付けられた。さらに、2002年12月には、条約の一部が改正され、船舶の種類によっては搭載期限が3年間繰り上げられた。
 
 改正SOLAS条約第V章第19規定によってAIS搭載が要求される船種及び時期は以下の通り。
●2002年7月1日以降に建造された国際航海に従事する300総トン以上の全船舶。
●2002年7月1日以降に建造された国際航海に従事しない500総トン以上の貨物船。
●2002年7月1日以降に建造された国際航海に従事する全客船。
 
 2002年7月1日より前に建造された国際航海に従事する船舶に関しては以下の搭載時期が定められている。
●全客船:2003年7月1日までに搭載。
●全タンカー:2003年7月1日以降の最初の安全装置検査時までに搭載。
●300総トン以上50,000総トン未満の客船とタンカー以外の船舶:2004年7月1日以降の最初の安全装置検査時以前、または2004年12月31日以前のいずれか早い方の時期までに搭載。
●国際航海に従事しない全船舶:2008年7月1日までに搭載。
 
 ただし、船舶の管理国は、その船舶がAIS搭載期限から2年以内に廃船になる場合には、規制適用除外を認めることができる。
 
3.1.6.2 技術・性能標準
 1998年のIMO決議MSC.74(69)Annex 3に規定されたAIS(Universal Sbipborne Automatic Identification Systems)に要求される性能標準は以下の通り。
●船舶のコールサイン、船名、型式、位置、対地針路、対地速度、航海状況、他の航行安全に関する情報を、AIS設備を持つ陸上局、他の船舶、航空機に対して自動的に送信する。
●上記の情報を他のAIS搭載船舶から受信する。
●船舶の行動のモニターとトラッキング。
●陸上局とのデータ交換。
 
 SOLAS規定で搭載を義務付けられているAISの表示装置は、GPSと同様の小型の「ミニマム・キーボード・ディスプレイ」(MKD: Minimum Keyboard Display)で、グラフィック表示等の付加機能を持つAISの搭載は各自の自由裁量となっている。
 
 上記のIMO性能標準を基準に、ITUとIECの技術標準が定められている。
 
 2001年8月に、ITU-R(The International Telecommunications Union Sector for Radiocommunications)は、AIS基礎技術に関する勧告「Recommendation M.1371-1」(Technical Characteristics for a Universal Shipborne Automatic Identification System Using Time Division Multiple Access in the Maritime Mobile Band)を採択した。また、ITUは、IALA(International Association of Aids to Navigation and Lighthouse Authorities)にAISのデザインに関する技術ガイダンス設定への責任を委譲し、IALAは、AISガイドライン「IALA Technical Clarifications on Recommendation ITU-RM.1371-1」を採択した。
 
 2001年11月、IEC(International Electrotechnical Commission)は、クラスAのAISの検査及び承認基準「IEC 61993-2 Ed.1, Maritime navigation and radiocommunication requirements-Automatic identification systems (AIS) - Part 2: Class A shipborne equipment of the universal automatic identification system (AIS) - Operational and performance requirements, methods of test and required test results」を採択した。クラスBのAISの技術標準に関しては、現在検討中。
 
 陸上局のAIS利用に関するガイドラインは、2002年9月5日のIALA勧告「IALA Recommendation on AIS Shore Stations and Networking Aspects Relating to the AIS Service, Edition 1.0」に定められている。
 
3.1.7 AIS搭載、規制の問題点
(1)旧造船へのAIS設置
 新造船に比べ、旧造船へのAIS設置は複雑である。例えば、AISは船位、COG、SOG等の情報を航行に使用されているGPSから受信することが性能基準で定められているが、1995年以前に製造されたGPSは異なったプロトコルを使用しているため、AISとの通信が不可能である。
 
 さらに、SOLAS対象船は型式承認済みのGDPSの搭載を義務付けられる予定であるが、型式承認基準は最近定められたばかりであり、旧型GPSのリプレースとなり得るGDPS製品は現在のところ数機種しかない。
 
 進行方向や回頭率のセンサーとの互換性にも同様の問題があり、旧造船へのAIS搭載には問題が多い。
 
(2)クラスBのAIS搭載義務化への動き
 米国、カナダ等の規制当局は、SOLAS対象船以外の小型船舶にも安全性向上の観点からAISの搭載義務化を検討中である。事故の多くは、大型船舶が小型船舶を避けようとして発生する場合が多く、小型船舶にAISを搭載することにより、事前認識が容易になるとの利点がある。
 
 小型船舶に搭載を義務付けるAISは、クラスAよりも機能が少なく、価格も低いクラスBのAISとすることが検討されているが、クラスBのトランスポンダーの性能標準はまだ正式に制定されていない。
 
 また、クラスBのAISがクラスAと同様の周波数とプロトコルを採用した場合には、低価格化は難しいという問題点も指摘されている。
 
 一方、IECのAIS性能標準に関するWGに参加しているメーカーNautiCast(オーストリア)等は、標準作成と並行して既にクラスBトランスポンダーの開発を進めているとされ、性能標準が制定された時点で、AIS、VDRと同様に欧州メーカーが先行する可能性もあり得る。
 
3.1.8 主要メーカー・製品
●SAAB TransponderTech(スウェーデン):R4 AIS。OEM供給多数。
●Jotron(ノルウェー):Tron AIS
●MX Marine/Leica Geosystems(米国/スイス):MX-521(以下のSAM Electronics、Skanti/SailorのAISと同一機種。)
●SAM Electronics(ドイツ):UAIS DEBEG 3400
●Skanti/Sailor(デンマーク):UAIS2100/1900、KDU2100/1905
●McMurdo(英国):MT-1 UAIS。TransasにOEM供給。
 
3.2 VDR
3.2.1 VDRの概要
 VDR(Voyage Data Recorder: 航海データ記録装置)は、船舶の航海データの記録、圧縮、保存、再生を可能にする記録装置である。航空機のブラックボックスと同様に、VDRの主要目的は事故発生後の原因の究明で、厳密な意味での航海機器ではない。しかし、SOLAS条約で搭載が義務付けられており、船橋の不可欠な要素となっている。
 
3.2.2 VDRの構成要素
 VDRの基本的な構成ユニットは以下の通り。
●データ集積ユニット:必要データの収集、処理、保存。
●データ保存ユニット:データ集積ユニットから受信したデータを保存する、強度の高い目立つ色のカプセル。事故発生時、沈没時に発見が容易なようにEPIRBまたは同様の機能を装備。
●アラーム・ユニット:エラーまたは電源状態の異常を知らせる音声及び可視のアラーム。
●オーディオ装置:船橋内の会話、その他のコミュニケーションを録音するマイク、及び最適な録音、再生状態を可能にするミキサー、アンプ等。
●コントロール及びディスプレイ装置:録音されたデータの再生用設備。







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