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1.1.4 国際標準
 IMOで規定された性能標準勧告は、国際標準化機関IEC、ISOによって標準化され、舶用機器の型式承認の基準となる。また、欧州独自の標準、規格としては、欧州連合(EU)指令「Marine Equipment Directive」(MED)により制定されたEU域内共通型式承認「舵輪マーク」(Wheelmark)がある。以下にIEC、ISO、MEDの概要、及び活動の現状を述べる。
 
1.1.4.1 IEC
 本調査に関連する電子・電気技術関連の性能標準は、IEC(International Electrotechnical Commission: 国際電気標準会議)により、国際標準、規格として制定され、発効する。
 
 IECは、主要国の標準化機関からなり、2003年4月現在のメンバーは63機関である。IECは1875年設立の国際度量衡局を前身として、1906年に各国政府代表者によりIECとして正式に発足したスイス法人で「電気及び電子の技術の分野における標準化に関する国際協力を促進し、国際的意思疎通を図ること」を役割としている。
 
 IECの国際規格策定活動は分野別の技術専門部会(Technical Committee、略称TC)が中心となり、本調査で対象とする航海電子機器の担当は、TC80である。
 
 TC80は、IMOと密接に協力しながら、航海関連電子機器のIMO性能標準勧告の国際標準化及び検査基準策定を行っている。SOLAS条約第IV章、第V章関連の性能標準だけでも45種類に上る。
 
 国際標準化の例としては、INSに関する性能標準勧告はIMO決議MSC.86(70)、Annex3であるが、同決議をもとに、国際標準IEC61924「INSの設計、製造、統合、検査方法及び要求される検査結果に関する最低要求」の規格作成作業が進められている。
 
 TC80内の機器別、項目別作業部会(Working Group、略称WG)は以下の通り。
WG1: レーダー、RP(RADAR Plotter)
WG2: 小型船舶用レーダー
WG4A: GPS、GLONASS、D-GPS、D-GLONASS
WG5: 一般環境試験条件(IEC 60945)
WG6: デジタル・インターフェイス
WG7: ECDIS
WG8: GMDSS構成機器
WG8A: AIS
WG9: IBS
WG10: INS
WG11: VDR
WG1A: TCS(トラック・コントロール・システム)
WG13: 航海電子機器情報の提示及び表示
 
 上記WGの中でも、WG13は2002年に発足した新しい作業部会である。航海機器の機能集約化、システム化が進むにつれ、これまで国際標準が個々に定められてきたレーダー、ARPA、AIS、ECDIS等の航海機器の表示方法、シンボルの不調和が大きな問題となっている。
 
 1997年SOLAS条約の2000年改正に伴い導入されたAISの情報表示方法の問題で、グラフィック表示、特にレーダー情報や海図情報と複合表示すれば、AIS本来の目的を効率よく発揮できることは判りきっていたが、表示器を持つ先行規格(特にレーダー)の領域の変更を伴うため受け入れられず、また、AIS独自で表示器を持つことは、船橋の表示装置をさらに増やすことになるため、AIS基準においては文字・数字表示の規格に止めざるを得なかった。
 
 この結果、問題はAIS施行後まで持ち越され、IMOレベルで解決案が論議され、IMO航海安全小委員会NAV48では、IECに対して、関連機器間の調整を含めた善後策案をNAV49に提案するよう要請された。
 
 IECではTC80内にWG13を設定し、表示方法に関する諸問題を検討し、新国際標準IEC62288(Presentation of navigation related information)の作成に着手した。主な検討事項は、レーダーやECDISで規定しているシンボルの色・形状と、情報入手(伝達)経路・原理の違いによる判断要素である。さらに、用語と略語については、ISOが先行して標準化(ISO19018)の作業を行っており、これらとの調和も新たな問題となっている。
 
 2003年6月のNAV49ではIECの経過報告を受けて、若干の確認を行った後、次回2004年7月のNAV50に向けてCG(Correspondence Group)を結成し、IMO航海安全通達(SN/Circ.)案をまとめる作業を行っている。
 
1.1.4.2 ISO
 ISO(International Organization for Standardization: 国際標準化機構)は、1928年年設立の万国規格統一協会を前身として1947年にISOとして設立されたスイス法人で、「物資及びサービスの国際交換を容易にし、知的、科学的、技術的、及び経済的活動分野における国際間の協力を助長するために標準化の促進を図ること」を役割としている。
 
 ISO扱いの航海機器関連項目には、IBSに関する船橋配置、機器では、ジャイロコンパス、エコーサウンダー、磁気コンパス、高速船の夜間暗視装置、簡易電子海図データベース、THD、レーダーレフレクタ、HCS等があり、IMOやIECとリンクした活動を行っている。
 
 ISOの中で、前述のIEC/TC80に相当する組織がISO/TC8/SC6及びSC9である。
 
 ISO TC8(Ship and marine technology: 船舶及び海洋技術)専門委員会は、議長が米国のCapt. C. Piersallで、幹事国は日本で、JMSA(日本船舶標準協会)の小郷氏が務めている。ちなみに、JMSAの航海・機器部会長はJSMEA(日本舶用工業会)の山下専務理事がこれを務める。
 
 所掌範囲は、「“海上航行船舶、内陸航行船舶、沖合構造物、船舶陸上間インターフェイス、その他IMOの要求に適合すべき全ての海洋構造物を含む船舶”の建造及び運航で使用される“設計、建造、建造要素、艤装品、装備品、手法と技術、及び海洋環境関係事項の規格化”」となっている。
 
 航海に最も関係のある項目は、SC6(Navigation: 航海)分科委員会が扱っており、議長は日本の林教授(東京海洋大学)、事務局はJMSAの竹内氏が務めている。作業部会(WG)別の扱い機器項目は以下の通りである。
WG1: ジャイロコンパス
WG2: 船舶用音響測深装置
WG3: 磁気コンパスとビナクル
WG4: 磁気モーメント
WG5: 高速船用夜間暗視装置
WG6: 高速船用探照灯
WG7: ECS(電子海図システム)データベース
WG8: THD(船首方位伝達装置)
 
 また、SC5(Bridge layout: 船橋配置)分科委員会は、議長及び事務局がデンマークから米国に代わり、ISO 14612がFDISとなりその審議はほぼ終了した。但し、ISO 14612は従来の船橋配置の規格であるISO 8468 Ed.2を参照する部分が多いので、SC5では新しい技術を考慮して、ISO 14612を取り込んだISO 8468 Ed.3を作成すべく検討を始めることとなった。さらに、今後出てくると思われるヘッドアップディスプレーの標準化の検討も俎上に載っている。
 
 この他、SC9(General: 一般要件)分科委員会は、議長が日本の有川氏、事務局は竹内氏、(ともにJMSA)が務め、海事規格の見直しや、海上試運転等が含まれ、最近の話題では、IMOで検討中の“航海関連情報の提示及び表示”の基準の中で、用語及び略語の規格ISO 19018と2004年7月のIMO航海安全小委員会NAV50に提案されるCirc.のAnnexとして、IEC/TC80のWG13とも協力して検討している。
 
 さらに、SC10(Computer application: コンピューターの利用)分科委員会は、議長及び事務局がノルウェーで、最近の海上輸送の保安のための情報交換・伝達に寄与する関連規格を審議している。
 
 作業部会(WG)と所掌は以下の通りで、海事保安のための情報システム国際規格として発行あるいはルール化の作業を行っている。
WG1: 船隊管理ネットワーク(FMSN)の実施のためのガイドライン(ISO 15849)
WG3: プログラマブル電子システムの開発及び利用のための一般原則(ISO 17894)
WG5: 海事、インターモーダル輸送、及び保安のためのデータ伝送標準(ISO 16819)
 
1.1.4.3 EU舶用機器指令(MED)と舵輪マーク
 欧州連合(EU)は、欧州統合政策の一環として、安全性向上及び環境保護を目的に、EU域内に流通する製品・技術の品質、及び検査基準の統一化を図り、その最低基準を定める数々の指令を発令してきた。EU指令は、EU加盟各国で批准された後、国内法として発効する。
 
 EUは、機器の安全性や電磁気両立性(EMC: 電磁適合性とも言う)の共通基準として「CEマーク」を制定、導入しており、舶用製品の型式承認にも、このEMC関連は、船橋に装備する機器の一般環境試験基準(IEC60945)に含まれ重複している。
 
 舶用製品に関しては、1996年の舶用機器指令(Council Directive 96/98/EC on Marine Equipment: MED)により、EU各国主管庁の権限と責任の範囲で独自に型式承認していた制度を、EU各国が指定し、欧州委員会に登録されたEU共通の認証機関(Notified Body: NB)に移管した。NBは、EEA(European Economic Area: 欧州経済地域)内に設立された検査機関及び船級協会等である。
 
 1999年1月1日に発効したMED(最新版は2002年9月にCouncil Directive 2002/75/ECにより改正)では、
●EU加盟国15カ国(2003年現在)にノルウェー、アイスランドを加えたEEA(欧州経済地域)を構成する17カ国の内、いずれかの船籍を有する船舶に搭載される舶用機器についてMEDに適合することが要求される。(EU域外で製造された材料・機器も対象となる。)
●救命設備、消防設備、防火構造、航海設備、無線設備及び海洋環境汚染防止設備を構成するMEDで指定された材料・機器が適用の対象となる。
●MEDによる適合評価が上記17カ国の任命する機関(Notified Body)のいずれか一つにより実施されることが要求される。
●MEDの定める技術用件への適合性が確認された製品には、その象徴として適合マークである舵輪マーク(Wheelmark)が貼付される。
 
 MEDの試験基準は、各国の国内法とは別に、IMO、IEC、ISO、ITU等の最新の国際標準に準拠しているため、欧州NBの承認、即ち舵輪マーク取得を認めようとする欧州外の国も出てきている。







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